文献情報
文献番号
199700921A
報告書区分
総括
研究課題名
未熟児網膜症、眼先天異常による視覚障害児の社会参加に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
仁科 幸子(国立小児病院眼科)
研究分担者(所属機関)
- 東範行(国立小児病院眼科)
- 守田好江(杏林大学医学部眼科)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 感覚器障害及び免疫・アレルギー等研究事業(感覚器障害研究分野)
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
平成10(1998)年度
研究費
4,100,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
近年増加傾向にある重症未熟児網膜症および眼先天異常児の視覚や全身発達などの実態を調査し、療育や社会参加に関する現状と問題点を検討する。次いで、各疾患、年齢別に必要なLow vision careの方法を検討し、よりよい社会参加へ導くための対策を 立てる。
研究方法
当院に通院中の未熟児網膜症、眼先天異常患児の実態調査を行い、手術を含めた治療経過を再検討し、現時点までの視機能の発達についての詳細な検討と行動観察、全身合併症や重複障害についての検討を加えた。また1997年12月~1998年3月に受診した両眼視力不良(矯正視力0.3未満)の患児49名については、両親の同意を得て、詳細な現状の実態調査とともに、療育状況や社会参加における適応状況、患児側からのニーズに関するアンケート調査を行った。まず個々の患児の抱えている問題点を明らかにし、各疾患や年齢群に必要な対応策を検討している。さらに、現在、多施設(国立特殊教育総合研究所視覚障害教育研究部など)と協力体制をとり療育や社会参加への援助を施行中である。
結果と考察
当院における重症未熟児網膜症の網膜剥離に対する硝子体手術例や先天異常に起因する網膜剥離の手術例は近年増加しており、これら難治性の網膜症に対し種々の技術開発を行ってきた。最近7年間の重症未熟児網膜症 55例 78眼の手術経過の検討の結果、網膜復位率は部分復位も含めると約80% に向上した。しかし視機能の発達はきわめて不良で、評価が困難である。種々の乳幼児視力検査の測定が可能であったのは35%で、最高視力は 0.1であった。行動観察による視覚評価を加えたが、多くの例で視力手動弁以下であった。また中枢神経系、呼吸器系合併症や精神運動発達遅滞が約半数と高率に確認された。
アンケート調査を施行した両眼視力不良の児49例の内訳は、未熟児網膜症 28名、眼先天異常21名であり、性別は男18名、女31名、年齢は0~2歳(A群) 22名、3~5歳(B群) 13名、6歳以上(C群) 14名であった。年齢群別に検討すると、低年齢群ほど未熟児網膜症の占める比率が高く、重症未熟児網膜症の発症、手術例の増加に一致するものと思われた。手術例の占める割合は未熟児網膜症では93%、先天異常においても33%と高率であった。
疾患別に比較検討すると、視機能に関しては、未熟児網膜症(R群) では評価不能例39%を除きすべて手動弁以下ときわめて不良であったのに比べ、眼先天異常(C群)では評価不能例 33%を除き大部分の例(62%)が0.02以上と比較的良好であった。中枢神経系合併症や発達遅滞と診断された例はR群が46%とC群29%に比べ多い傾向にあった。関東圏外からの来院例はR群が43%とC群5%に比べ著明に多く、重症未熟児網膜症では手術目的で遠隔地からも来院する背景が伺われた。また両親の病識に関して調査したところ、病名および病態や経過について正確に認識している例はR群が97%とC群67%に比べて多かった。
年齢別の療育や社会参加の現状については、療育機関施設、盲学校幼稚部、盲学校、弱視学級などの教育機関に相談、在籍している例がB群では86%、C群では100%と高率であったのに対して2歳以下のA群では45%であった。ほとんどの例で現段階にいたるまで、また現時点においても種々の社会参加に関する問題点を抱えており、その内容は多岐にわたっているが、疾患別に検討するとR群では視機能や全身の発育状況に関する悩みが多く、C群では教育に関する悩みが最も多かった。患者側からのニーズとしては、早期からの福祉教育相談や情報提供、病院と福祉教育施設との円滑な連携、親同士の交流の希望などが主であった。現在、院内および他施設と協力して個々の児のニーズに応じた相談、情報提供、Low vision careから開始しており、それぞれ効果を上げている。
視覚障害児に占める重症未熟児網膜症児の比率は低年齢層ほど高く、当院のような小児硝子体手術の専門病院では、近年、未熟児網膜症が重症視覚障害児の主疾患となっていることがわかった。重症未熟児網膜症では手術による治療技術の向上にもかかわらず、依然として他疾患に比べてきわめて重篤な視覚障害をォたしており、重複障害や発達遅延例の比率も高い。未熟児網膜症に対する両親の病識は他疾患と比べ早期から十分得られていたが、障害の重篤度や発達遅延が患児の療育や社会参加に対する大きな問題である。0~2歳代においても、より早期からLow vision careの相談と実践が必要であると思われる。また手術治療目的のため遠隔地から来院する例が増加しており、各地域の医療、行政、福祉教育施設との連携対策が必要である。
眼先天異常児は未熟児網膜症児に比べ視覚障害の程度が軽く、発達遅延も少ないため、乳幼児期に大きな問題をかかえる例が比較的少ない。しかし、両親が早期から病気自体や視覚障害に関して十分理解していない例もみられ、学校教育の開始時期前後に種々の問題を抱える例がみられた。眼先天異常児に対しても、早期から病識を明確にしてLow vision careを開始することが、教育問題を解決するひとつの対策になると考えられる。同時に医療現場と教育機関との連携、特殊教育機関(弱視学級)の充実がこの疾患群にとって重要であると考えられた。
現在、院内および他施設と協力して個々の児のニーズに応じた相談、情報提供を開始しているが、今後さらに、各病院内でのLow vision 部門の充実に加え、包括的に医療と地域行政機関、療育施設、教育機関を連携する対策が必要である。
アンケート調査を施行した両眼視力不良の児49例の内訳は、未熟児網膜症 28名、眼先天異常21名であり、性別は男18名、女31名、年齢は0~2歳(A群) 22名、3~5歳(B群) 13名、6歳以上(C群) 14名であった。年齢群別に検討すると、低年齢群ほど未熟児網膜症の占める比率が高く、重症未熟児網膜症の発症、手術例の増加に一致するものと思われた。手術例の占める割合は未熟児網膜症では93%、先天異常においても33%と高率であった。
疾患別に比較検討すると、視機能に関しては、未熟児網膜症(R群) では評価不能例39%を除きすべて手動弁以下ときわめて不良であったのに比べ、眼先天異常(C群)では評価不能例 33%を除き大部分の例(62%)が0.02以上と比較的良好であった。中枢神経系合併症や発達遅滞と診断された例はR群が46%とC群29%に比べ多い傾向にあった。関東圏外からの来院例はR群が43%とC群5%に比べ著明に多く、重症未熟児網膜症では手術目的で遠隔地からも来院する背景が伺われた。また両親の病識に関して調査したところ、病名および病態や経過について正確に認識している例はR群が97%とC群67%に比べて多かった。
年齢別の療育や社会参加の現状については、療育機関施設、盲学校幼稚部、盲学校、弱視学級などの教育機関に相談、在籍している例がB群では86%、C群では100%と高率であったのに対して2歳以下のA群では45%であった。ほとんどの例で現段階にいたるまで、また現時点においても種々の社会参加に関する問題点を抱えており、その内容は多岐にわたっているが、疾患別に検討するとR群では視機能や全身の発育状況に関する悩みが多く、C群では教育に関する悩みが最も多かった。患者側からのニーズとしては、早期からの福祉教育相談や情報提供、病院と福祉教育施設との円滑な連携、親同士の交流の希望などが主であった。現在、院内および他施設と協力して個々の児のニーズに応じた相談、情報提供、Low vision careから開始しており、それぞれ効果を上げている。
視覚障害児に占める重症未熟児網膜症児の比率は低年齢層ほど高く、当院のような小児硝子体手術の専門病院では、近年、未熟児網膜症が重症視覚障害児の主疾患となっていることがわかった。重症未熟児網膜症では手術による治療技術の向上にもかかわらず、依然として他疾患に比べてきわめて重篤な視覚障害をォたしており、重複障害や発達遅延例の比率も高い。未熟児網膜症に対する両親の病識は他疾患と比べ早期から十分得られていたが、障害の重篤度や発達遅延が患児の療育や社会参加に対する大きな問題である。0~2歳代においても、より早期からLow vision careの相談と実践が必要であると思われる。また手術治療目的のため遠隔地から来院する例が増加しており、各地域の医療、行政、福祉教育施設との連携対策が必要である。
眼先天異常児は未熟児網膜症児に比べ視覚障害の程度が軽く、発達遅延も少ないため、乳幼児期に大きな問題をかかえる例が比較的少ない。しかし、両親が早期から病気自体や視覚障害に関して十分理解していない例もみられ、学校教育の開始時期前後に種々の問題を抱える例がみられた。眼先天異常児に対しても、早期から病識を明確にしてLow vision careを開始することが、教育問題を解決するひとつの対策になると考えられる。同時に医療現場と教育機関との連携、特殊教育機関(弱視学級)の充実がこの疾患群にとって重要であると考えられた。
現在、院内および他施設と協力して個々の児のニーズに応じた相談、情報提供を開始しているが、今後さらに、各病院内でのLow vision 部門の充実に加え、包括的に医療と地域行政機関、療育施設、教育機関を連携する対策が必要である。
結論
近年増加傾向にある重症未熟児網膜症児の実態調査の結果、眼先天異常児と比較して、きわめて重篤な視覚障害や重複障害を有することが明らかになった。重度障害に起因する療育や社会参加への問題に対し、より早期からのLow vision careの開始に加え、医療と地域行政機関、療育施設、教育機関との連携した対策が必要であると考えられる。
公開日・更新日
公開日
-
更新日
-