陽子線高線量率ラインスキャニングの革新的技術の研究

文献情報

文献番号
201114006A
報告書区分
総括
研究課題名
陽子線高線量率ラインスキャニングの革新的技術の研究
課題番号
H21-トランス・一般-006
研究年度
平成23(2011)年度
研究代表者(所属機関)
西尾 禎治(独立行政法人国立がん研究センター 東病院臨床開発センター 粒子線医学開発部 粒子線生物学室)
研究分担者(所属機関)
  • 河野 良介(独立行政法人国立がん研究センター東病院臨床開発センター粒子線医学開発部)
  • 亀岡 覚(独立行政法人国立がん研究センター東病院臨床開発センター粒子線医学開発部)
  • 二瓶 圭二(独立行政法人国立がん研究センター東病院臨床開発センター粒子線医学開発部)
  • 白土 博樹(国立大学法人北海道大学大学院医学研究科)
  • 石川 正純(国立大学法人北海道大学大学院医学研究科)
  • 松浦 妙子(国立大学法人北海道大学大学院医学研究科)
  • 西岡 史絵(独立行政法人国立がん研究センター東病院臨床開発センター粒子線医学開発部)
  • 阿蘇 司(独立行政法人国立高等専門学校機構・富山高等専門学校)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 医療技術実用化総合研究(臨床研究推進研究)
研究開始年度
平成21(2009)年度
研究終了予定年度
平成23(2011)年度
研究費
40,017,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
陽子線高線量率ラインスキャニングの技術の研究開発から実臨床利用までを本研究の最終目的とする。本年度は、研究最終年度であるので、これまでの研究成果を統合させることで、陽子線高線量率ラインスキャニング技術の臨床利用への実用化に向けた研究開発を目的とする。
研究方法
陽子線スキャニングビームの(1)高精度位置確認システム及び(2)高精度線量制御システムの研究:高線量率陽子線に対する線量モニタの応答性を検証するために、電離箱線量計と線量測定フィルムEBT2を用いて実施した。(3)体内照射位置確認システムの研究:ビームオンラインPETシステムによって得られたデータを用いて、GPU高速並列化ML-EMアルゴリズムによる画像再構成技術での照射位置検出の高速化を検討した。(4)最適化治療計画システムの研究: GEANT4を陽子線ラインスキャニング照射装置用に開発した。線量計算精度向上のための人体への物質データへの割り当て手法を検証した。GPU高速線量分布評価ソフトウェアの開発を行った。(5)線量の生物学的効果比の高線量率依存性の検証システムの研究及び¬(6)臨床試験に向けての研究:多施設共同試験の結果に基づいた臨床的放射線治療に必須な安全性の調査を実施した。
結果と考察
(1)及び(2)陽子線高線量率による線量モニタの印加電圧が1500Vまでイオン再結合効果が大きかった。Boag理論式は高線量率の陽子線に対して適応可能であると考えられる。EBT2の高線量率線量測定の有用性を示した。(3)GPU高速並列化ML-EMアルゴリズムによる逐次近似法画像再構成技術により照射位置検出の高速化を示した。(4)GEANT4/PTSIMによる陽子線スキャニングの線量計算機能を開発した。計算時間の短縮化のためにGPU並列計算システムを駆使したソフトウェアの開発が必要である。治療計画画面上のROI情報による各臓器領域内を近似的な物質で置き換える機能を実装した。GPU高速線量分布評価ソフトウェアの開発を行い、三次元γ解析機能を整備した。(5)及び(6)従来型陽子線治療とX線治療の多施設臨床試験の結果から、直腸毒性が悪化するという結果は得られなかった。
結論
陽子線高線量率ラインスキャニング照射法における照射・シミュレーション・位置確認の研究と技術開発、生物学的な検証と臨床データに基づく治療の安全性の示唆、といった包括的な研究体制を実施した。陽子線ラインスキャニング装置は薬事承認の認可を得ることができた。前立腺がんに対する臨床試験の開始準備が整った。

公開日・更新日

公開日
2012-06-29
更新日
-

文献情報

文献番号
201114006B
報告書区分
総合
研究課題名
陽子線高線量率ラインスキャニングの革新的技術の研究
課題番号
H21-トランス・一般-006
研究年度
平成23(2011)年度
研究代表者(所属機関)
西尾 禎治(独立行政法人国立がん研究センター 東病院臨床開発センター 粒子線医学開発部 粒子線生物学室)
研究分担者(所属機関)
  • 河野 良介(独立行政法人国立がん研究センター東病院臨床開発センター粒子線医学開発部)
  • 亀岡 覚(独立行政法人国立がん研究センター東病院臨床開発センター粒子線医学開発部)
  • 二瓶 圭二(独立行政法人国立がん研究センター東病院臨床開発センター粒子線医学開発部)
  • 白土 博樹(国立大学法人北海道大学大学院医学研究科)
  • 石川 正純(国立大学法人北海道大学大学院医学研究科)
  • 松浦 妙子(国立大学法人北海道大学大学院医学研究科)
  • 西岡 史絵(独立行政法人国立がん研究センター東病院臨床開発センター粒子線医学開発部)
  • 阿蘇 司(独立行政法人国立高等専門学校機構・富山高等専門学校)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 医療技術実用化総合研究(臨床研究推進研究)
研究開始年度
平成21(2009)年度
研究終了予定年度
平成23(2011)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
陽子線高線量率ラインスキャニングを先駆的に実施するため、その技術の研究開発から実臨床利用までを本研究の最終目的とする。
研究方法
本研究目的を達成するために、研究開発要素を6つの項目に別けた実施体制を組んでいる:①陽子線スキャニングビームの高精度位置確認システムの研究、②高精度線量制御システムの研究、③陽子線スキャニングビームの体内照射位置確認システムの研究、④陽子線スキャニング及び強度変調陽子線治療(IMPT)の最適化治療計画システムの研究、⑤陽子線スキャニングビームの線量の生物学的効果比の高線量率依存性の検証システムの研究、⑥臨床試験に向けた研究。これまでの研究成果の統合及び陽子線高線量率ラインスキャニング技術の実用化に向け、陽子線ラインスキャニング照射に関する一連の動作及び検証試験を実施した。また、陽子線治療を含む粒子線治療の費用対効果も考慮した上で、その有用性に関する国際的評価を探った。
結果と考察
前立腺がんに対する陽子線ラインスキャニング照射治療を想定した場合、処方線量に対する絶対線量精度は1%以内であることが確認でき、治療計画による線量分布計算結果と面検出器(二次元線量検出器)を利用した線量分布測定結果とは高い一致を示した。また、陽子線高線量率ラインスキャニング用のビーム調整等に約15分の時間を要した。尚、陽子線ラインスキャニング装置は、薬事承認の認可を得ることができた。治療を実施する患者ごとの陽子線ラインスキャニングの患者別線量検証法の確立については、臨床試験開始までに確立する予定である。
陽子線ラインスキャニング照射法は従来照射法より腫瘍に対する線量集中性を向上させ、重要臓器への照射線量を低減することが可能であるため、その安全性を確認する臨床試験の実施が可能である。陽子線治療装置への投資は費用対効果が良いと示されているが、データ不足などによる不確定性があるため、この結果の扱いには十分な注意が必要であると思われる。小児髄芽腫の陽子線治療の費用対効果においては、従来の放射線治療と比べて、適切な患者選択をすることで、費用対効果が優れ、費用削減効果もあることが示されたが、放射線治療の長期成績に関する情報収集が更に必要であると考えられる。
結論
陽子線高線量率ラインスキャニング照射法における照射・シミュレーション・位置確認の研究と技術開発、生物学的な検証と臨床データに基づく治療の安全性の示唆、といった包括的な研究体制を実施した。陽子線ラインスキャニング装置は薬事承認の認可を得ることができた。前立腺がんに対する臨床試験の開始に向け、準備状況は最終段階まで達成することができた。

公開日・更新日

公開日
2012-06-29
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201114006C

成果

専門的・学術的観点からの成果
前立腺がんに対する陽子線ラインスキャニング照射治療を想定した場合、処方線量に対する絶対線量精度は1%以内であることが確認でき、治療計画による線量分布計算結果と線量分布測定結果とは高い一致を示した。また、ラインスキャニング照射準備時間は約15分で実施可能であった。臨床的放射線治療に必須な安全性の調査において、ラインスキャニング照射法は従来照射法と比較して、腫瘍形状と線量分布形状の一致性を示す指標であるconformity indexの向上、中性子の被曝量の減少において優位であった。
臨床的観点からの成果
陽子線ラインスキャニング技術は従来照射法より腫瘍に対する線量集中性を向上させ、重要臓器への照射線量を低減することが可能であるため、陽子線スキャニング技術が開発されれば、その安全性を確認する臨床試験の実施が可能である。陽子線高線量率ラインスキャニング治療において物理的な技術精度と絡めた臨床的な判断のもとで、治癒率向上と安全性を両立させた治療実施のモデルの構築が重要である。
ガイドライン等の開発
前立腺がんに対する陽子線治療2年後のグレード2以上の直腸出血頻度は、2.0%、最終経過観察においては、4.1%であった。また、グレード2以上の膀胱副作用については、2年後で4.1%、最終経過観察においては7.8%であり、X線を用いた三次元原体照射や強度変調放射線治療の報告と比較すると良好であった。従来型陽子線治療の多施設臨床試験の結果から、X線を用いた他の外部放射線治療と比較し、少なくとも直腸毒性が悪化するという結果は得られず、むしろ良好である可能性が示唆された。
その他行政的観点からの成果
陽子線治療装置への投資は費用対効果が良いと示されているが、データ不足などによる不確定性があるため、この結果の扱いには十分な注意が必要であると思われる。小児髄芽腫の陽子線治療の費用対効果においては、従来の放射線治療と比べて、適切な患者選択をすることで、費用対効果が優れ、費用削減効果もあることが示されたが、放射線治療の長期成績に関する情報収集が更に必要であると考えられる。
その他のインパクト
陽子線治療は国内外で急速な普及をしているが、陽子線スキャニング技術に関しては、まだ、ほとんど確立できていない状況である。本研究において、国内初となる回転ガントリー照射が可能な陽子線ラインスキャニング装置の薬事承認の認可を得ることができた。平成27年度に世界初の陽子線ラインスキャニング照射による前立腺治療を開始した。

発表件数

原著論文(和文)
5件
原著論文(英文等)
21件
その他論文(和文)
66件
その他論文(英文等)
24件
学会発表(国内学会)
126件
学会発表(国際学会等)
39件
その他成果(特許の出願)
11件
国内外含む
その他成果(特許の取得)
3件
国際特許(韓国2件、台湾1件)
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
1件
装置の薬事承認取得

特許

特許の名称
荷電粒子線量シミュレーション装置、荷電粒子線照射装置、荷電粒子線量のシミュレーション方法、及び荷電粒子線照射方法
詳細情報
分類:
特許番号: 特許第5590663号
発明者名: 西尾禎治、江頭祐亮、山田学
権利者名: 独立行政法人国立がん研究センター、住友重機械工業株式会社
出願年月日: 20100407
国内外の別: 国内及び国外
特許の名称
荷電粒子線照射制御装置及び荷電粒子線照射方法
詳細情報
分類:
特許番号: 特許第5380693号
発明者名: 立川敏樹、西尾禎治
権利者名: 住友重機械工業株式会社、独立行政法人国立がん研究センター
出願年月日: 20090317
国内外の別: 国内及び国外
特許の名称
陽子線治療におけるポジトロン放出核種のアクティビティ分布のシミュレーション法
詳細情報
分類:
特許番号: 特許第5339592号
発明者名: 西尾禎治、宮武彩
権利者名: 独立行政法人国立がん研究センター
出願年月日: 20090128
国内外の別: 国内

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
T. Nishio, A. Miyatake, T. Ogino, et al.
The development and clinical use of a beam ON-LINE PET system mounted on a rotating gantry port in proton therapy
Int. J. Radiat. Oncol. Biol. Phys. , 76 (1) , 277-286  (2010)
10.1016/j.ijrobp.2009.05.065
原著論文2
A. Miyatake, T. Nishio, T. Ogino
Development of activity pencil beam algorithm using measured distribution data of positron emitter nuclei generated by proton irradiation of targets containing 12C, 16O and 40Ca nuclei in preparation of clinical application
Med. Phys. , 38 (10) , 5818-5829  (2011)
10.1118/1.3641829
原著論文3
A. Miyatake, T. Nishio, T. Ogino, et al.
Measurement and verification of positron emitter nuclei generated at each treatment site by target nuclear fragment reactions in proton therapy
Med. Phys. , 37 (8) , 4445-4455  (2010)
10.1118/1.3462559
原著論文4
Y. Egashira, T. Nishio, T. Matsuura, et al.
Experimental evaluation of a spatial resampling technique to improve the accuracy of pencil-beam dose calculation in proton therapy
Med. Phys. , 39 (7) , 4104-4114  (2012)
10.1118/1.4722984
原著論文5
Y. Egashira, T. Nishio, K. Hotta, et al.
Application of the pencil-beam redefinition algorithm in heterogeneous media for proton therapy
Phys. Med. Biol. , 58 (4) , 1169-1184  (2013)
10.1088/0031-9155/58/4/1169
原著論文6
A. Miyatake, T. Nishio
Application of activity pencil beam algorithm using measured distribution data of positron emitter nuclei for therapeutic SOBP proton beam
Med. Phys. , 40 (9) , 091709-1-9  (2013)
10.1118/1.4818057
原著論文7
T. Nishio, K. Matsushita, M. Sekine, S. Nakamura, S. Tanaka, A. Miyatake
Study of dose-volume delivery guided proton therapy
J. J. Radiol. Tech. , 69 (11) , 1297-1305  (2013)
10.6009/jjrt.2013_JSRT_69.11.1297

公開日・更新日

公開日
2015-05-27
更新日
2017-06-20

収支報告書

文献番号
201114006Z