LCAT遺伝子導入前脂肪細胞を用いた家族性LCAT欠損症患者に対する新規治療法の開発

文献情報

文献番号
201114004A
報告書区分
総括
研究課題名
LCAT遺伝子導入前脂肪細胞を用いた家族性LCAT欠損症患者に対する新規治療法の開発
課題番号
H21-トランス・一般-004
研究年度
平成23(2011)年度
研究代表者(所属機関)
武城 英明(千葉大学 大学院医学研究院)
研究分担者(所属機関)
  • 横手 幸太郎(千葉大学 大学院医学研究院 )
  • 佐藤 兼重(千葉大学 大学院医学研究院 )
  • 白井 厚治(東邦大学 医学部)
  • 花岡 英紀(千葉大学 医学部附属病院)
  • 黒田 正幸(千葉大学 医学部附属病院)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 医療技術実用化総合研究(臨床研究推進研究)
研究開始年度
平成21(2009)年度
研究終了予定年度
平成23(2011)年度
研究費
37,156,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は根本的治療法のない難治性血清蛋白欠損症である家族性LCAT欠損症に持続的蛋白補充に基づく新規治療法を実用化・提案することを目的とする。
研究方法
昨年度、遺伝性疾患遺伝子治療臨床研究作業委員会において指摘を受けた追加検討課題について検討を実施した。LCAT欠損マウスモデルの繁殖・飼育体制を整え、主要な指摘事項であったモデル動物での薬効解析を実施した。これらの検討に加えて、国内外の研究協力施設よりLCAT欠損症検体を供与頂き、前脂肪細胞の分泌したLCATの反応性を評価すると共に合併症である腎不全とリポ蛋白プロファイルを指標とした病態解析を行った。LCAT遺伝子導入前脂肪細胞の移植生着率の向上を目指し、臨床移植カクテルの開発研究を行った。
結果と考察
hLCAT遺伝子導入マウス前脂肪細胞の移植により、LCAT欠損マウスにおいてhLCATに対する免疫反応が惹起され、抗体の出現を確認した。免疫抑制剤の投与により、マウス血中へのhLCAT分泌をウェスタンブロット、活性測定により確認することが可能となった。また、hLCATが機能する血中HDL分画においてコレステロールエステル比の上昇を認めた。国内外の研究機関の協力の下で集められたLCAT欠損症例全ての血清でヒト前脂肪細胞の産生するLCAT蛋白がHDLの成熟化へ作用した。血清リポ蛋白解析から、家族性LCAT欠損症の予後を規定する腎機能障害に関連したリポ蛋白の変動を同定し、本治療法適応前後の病態把握、薬効評価に有用と考えられた。遺伝子導入前脂肪細胞の移植生着率向上に向けて、多血小板血漿(PRP)ゲルが移植細胞のアポトーシスを抑制することから、移植カクテルとして移植効率を向上することに有用と考えられた。また前脂肪細胞ではDAPK1、BIMがアポトーシスの重要な実行因子であることが示唆された。
結論
これらの研究成果を薬効、安全性の両面から精査し、遺伝子治療臨床研究実施に向け、現在厚生労働省において審議中の遺伝子治療臨床研究実施計画書の改訂を行う。本遺伝子細胞治療技術はさまざまな酵素欠損症の移植技術に有用であることが明らかになり、今後さまざまな酵素補充療法に応用する予定である。また、前脂肪細胞におけるDAPK1、BIMの発現抑制が移植効率の向上に寄与する可能性が示され、再生医療含めた他の移植治療への応用において重要な知見が得られた。

公開日・更新日

公開日
2012-06-29
更新日
-

文献情報

文献番号
201114004B
報告書区分
総合
研究課題名
LCAT遺伝子導入前脂肪細胞を用いた家族性LCAT欠損症患者に対する新規治療法の開発
課題番号
H21-トランス・一般-004
研究年度
平成23(2011)年度
研究代表者(所属機関)
武城 英明(千葉大学 大学院医学研究院)
研究分担者(所属機関)
  • 横手 幸太郎(千葉大学 大学院医学研究院 )
  • 佐藤 兼重(千葉大学 大学院医学研究院 )
  • 白井 厚治(東邦大学 医学部)
  • 花岡 英紀(千葉大学 医学部附属病院)
  • 黒田 正幸(千葉大学 医学部附属病院)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 医療技術実用化総合研究(臨床研究推進研究)
研究開始年度
平成21(2009)年度
研究終了予定年度
平成23(2011)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は根本的治療法のない難治性血清蛋白欠損症である家族性LCAT欠損症に持続的蛋白補充に基づく新規治療法を実用化・提案することを目的とする。
研究方法
Ex vivo遺伝子治療法の標的細胞として、脂肪組織から天井培養法によって調製される前脂肪細胞を選択した。前脂肪細胞について、その薬効、安全性に関する検討、移植技術の向上を目指した検討を実施した。同時に国内外の研究協力施設よりLCAT欠損症検体を供与頂き、病態解析と共に、本治療法の臨床評価、適応患者の選択に関する検討を実施した。平行して遺伝子治療臨床研究の実施申請作業を行った。
結果と考察
前脂肪細胞は、純度が高く、脂肪細胞への分化能を高度に維持した細胞であり、皮下脂肪組織への移植に適した細胞であることが示された。さらに治療遺伝子であるLCAT遺伝子を安定持続発現する細胞であり、そのレトロウイルスベクターによる遺伝子導入様式は安全性の高いものであることが示された。前脂肪細胞の産生するLCAT蛋白はLCAT欠損マウスモデルにおいて機能し、LCAT欠損症患者血清において障害されているリポ蛋白代謝異常を改善する機能を保持していた。すなわち、異所性に前脂肪細胞が分泌するLCATが血中に補充されることによりLCAT欠損症の病態を改善することが示唆された。多血小板血漿(PRP)ゲルが前脂肪細胞のアポトーシスを抑制することを見出し、薬効の持続・向上の観点から、遺伝子導入前脂肪細胞の臨床移植カクテルとして有用であると考えられた。今後、安全性を精査した上で本治療法への応用を考慮する。本移植カクテルは他の細胞移植治療技術への応用が可能であると考えられた。本治療の臨床導入に向けて、LCATの生理学的機能に関連した臨床評価指標を見出し、患者の病態や予後、並びに移植治療前後の効果安全性の評価に有用であることが示された。これらの研究成果を元に、遺伝子治療臨床研究の承認・実施に向け、現在厚生労働省において審議中の遺伝子治療臨床研究実施計画書の改訂を行う。
結論
本研究での評価により、前脂肪細胞を用いた遺伝子細胞治療技術はさまざまな酵素欠損症の移植技術に有用であることが明らかになり、遺伝子導入前脂肪細胞の技術基盤を確立した。今後LCAT欠損症に対する本治療法の適応に加えて、さまざまな酵素欠損症治療法への応用を進める予定である。

公開日・更新日

公開日
2012-06-29
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201114004C

成果

専門的・学術的観点からの成果
脂肪細胞(組織)は、従来形成外科領域で臨床実績のある移植材料である。近年の脂肪細胞の生理学的研究を背景として、それを治療蛋白の供給細胞、いわば分泌装置と見立てた研究開発を進めてきた。本研究の結果、脂肪組織より比重特性に基づいて天井培養により調製できる前脂肪細胞は、ex vivoにおける遺伝子導入様式や増殖の安定性を示し、移植後の安全性に優れた細胞であった。前脂肪細胞は新たなex vivo遺伝子治療用の標的細胞の選択肢の一つとしてその基盤が確立された。
臨床的観点からの成果
遺伝子治療臨床試験が実施されている疾患の内、先天性の遺伝子異常に基づく疾患の半数は酵素補充療法が有効な治療法となる。本研究で確立した遺伝子導入前脂肪細胞による移植治療技術は、既存の組換え型蛋白製剤による酵素補充療法では不可能であった、長期薬効持続を可能とする技術である。現在薬事承認に向けた研究が継続されている。原理的には治療遺伝子を変えるだけで多くの希少疾病や高齢化社会に向けて患者数が増大すると想定される糖尿病への治療技術開発も期待される。
ガイドライン等の開発
本治療開発の対象疾患であるLCAT欠損症は脂質異常、視力障害、腎不全と複数の診療領域にまたがる疾患であることから、治療開発のための患者実態、疾病診断も明確でなかった。本事業により多施設から問い合わせがあり我が国における実態の解明が進んだ。今後、本研究で確立した病態評価法等を用いて、さらに厚生労働科学研究難治性疾患等克服研究事業で本疾患の全国調査が行われる予定である。
その他行政的観点からの成果
平成22年4月に千葉大学医学部附属病院から厚生労働省に遺伝子治療臨床研究「家族性L
CAT欠損症を対象としたLCAT遺伝子導入ヒト前脂肪細胞の自家移植に関する臨床研究」を申請した。第1回(同6月29日)、第2回(平成24年12月5日)遺伝性疾患遺伝子治療臨床研究作業委員会の審議を経て、平成25年5月13日付、本遺伝子治療臨床研究の実施承認を受けた。再生医療新法施行に対応するため、平成28年5月13日付、大阪大学特定認定再生医療等委員会の審議を受け、実施に向けた準備を進めている。
その他のインパクト
LCAT欠損症に対する遺伝子治療臨床研究の実施承認に伴い、日経バイオテク、朝日新聞に取り上げられた。千葉大学よりニュースリリースを発信した。また、日本動脈硬化学会、日本肥満学会、日本栄養学会等のシンポジウムで研究成果が発表された。欧州のLCAT欠損症の診療拠点であるオランダアムステルダム大学との大学間共同調査研究により病態解明研究が進んだ。本研究は、脂肪細胞を用いた本邦独自の治療開発研究であり、本技術基盤は脂質異常症の新規治療として国際的に注目されている。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
8件
その他論文(和文)
3件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
5件
学会発表(国際学会等)
5件
その他成果(特許の出願)
1件
「出願」「取得」計1件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Asada A, Kuroda M, Aoyagi Y, et al.
Disturbed apolipoprotein A-I-containing lipoproteins in fish-eye disease are improved by the lecithin:cholesterol acyltransferase produced by gene-transduced adipocytes in vitro.
Mol. Genet. Metab. , 102 , 229-231  (2011)
原著論文2
Kuroda M, Aoyagi Y, Asada S, et al.
Ceiling culture-derived proliferative adipocytes are a possible delivery vehicle in enzyme replacement therapy in lecithin:cholesterol acyltransferase deficiency.
The Open Gene Ther. J. , 4 , 1-10  (2011)
原著論文3
Aoyagi Y, Kuroda M, Asada S, et al.
Fibrin glue increases the cell survival and the transduced gene product secretion of the ceiling culture-derived adipocytes transplanted in mice.
Exp. Mol. Med. , 43 , 161-167  (2011)
原著論文4
Asada S, Kuroda M, Aoyagi Y, et al.
Ceiling culture-derived proliferative adipocytes retain high adipogenic potential suitable for use as a vehicle for gene transduction therapy.
Am J Physiol Cell Physiol. , 301 , 181-185  (2011)
原著論文5
Kuroda M, Bujo H, Aso M, et al.
Adipocytes as a vehicle for ex vivo gene therapy: Novel replacement therapy for diabetes and other metabolic diseases.
J. Diabetes Invest. , 2 , 333-340  (2011)
原著論文6
Aoyagi Y, Kuroda M, Asada S, et al.
Fibrin glue is a candidate scaffold for long-term therapeutic protein expression in spontaneously differentiated adipocytes in vitro.
Exp. Cell Res. , 318 , 8-15  (2012)
原著論文7
Fukaya Y, Kuroda M, Aoyagi Y, et al.
Platelet-rich plasma inhibits the apoptosis of highly adipogenic homogeneous preadipocytes in an in vitro culture system.
Exp. Mol. Med. , 44 , 330-339  (2012)
原著論文8
Naito S, Kamata M, Furuya M, et al.
Amelioration of circulating lipoprotein profile and proteinuria in a patient with LCAT deficiency due to a novel mutation (Cys74Tyr) in the lid region of LCAT under a fat-restricted diet and ARB treatment
Atherosclerosis , 228 , 193-197  (2013)

公開日・更新日

公開日
2017-05-30
更新日
-

収支報告書

文献番号
201114004Z