生活習慣病増悪フェーズの鍵分子「HMGB1」に対する分子標的抗体薬の臨床応用研究

文献情報

文献番号
201114001A
報告書区分
総括
研究課題名
生活習慣病増悪フェーズの鍵分子「HMGB1」に対する分子標的抗体薬の臨床応用研究
課題番号
H21-トランス・一般-001
研究年度
平成23(2011)年度
研究代表者(所属機関)
西堀 正洋(国立大学法人 岡山大学 大学院医歯薬学総合研究科生体制御科学専攻生体薬物制御学講座薬理学)
研究分担者(所属機関)
  • 高橋 英夫(近畿大学 医学部)
  • 劉 克約(国立大学法人 岡山大学 大学院医歯薬学総合研究科)
  • 槇野 博史(国立大学法人 岡山大学 大学院医歯薬学総合研究科 )
  • 松川 昭博(国立大学法人 岡山大学 大学院医歯薬学総合研究科)
  • 伊達 勲(国立大学法人 岡山大学 大学院医歯薬学総合研究科)
  • 吉野 正(国立大学法人 岡山大学 大学院医歯薬学総合研究科)
  • 森 秀治(就実大学 薬学部)
  • 榎本 秀一(国立大学法人 岡山大学 大学院医歯薬学総合研究科)
  • 武田 吉正(国立大学法人 岡山大学 大学院医歯薬学総合研究科)
  • 和氣 秀徳(国立大学法人 岡山大学 大学院医歯薬学総合研究科)
  • 友野 靖子(医療法人創和会 重井医学研究所 分子細胞生物部門)
  • 和田 淳(国立大学法人 岡山大学 大学院医歯薬学総合研究科)
  • 大塚 愛二(国立大学法人 岡山大学 大学院医歯薬学総合研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 医療技術実用化総合研究(臨床研究推進研究)
研究開始年度
平成21(2009)年度
研究終了予定年度
平成23(2011)年度
研究費
63,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
アテローム性動脈硬化症、脳梗塞、高脂血症などの生活習慣病の基礎病態に共通して関与する重要な新規メディエーターとして、細胞核由来の「HMGB1」を、疾患モデル動物を用いて同定した。前年度までに明らかにできた抗HMGB1抗体効果の作用機序解析に、漏出アルブミンの動態検討と神経細胞HMGB1の細胞内小器官における局在検討を加える。抗体治療の適応疾患の一つである動脈硬化性末梢動脈疾患患者の血中HMGB1値を測定し、疾患重症度のマーカーとしての可能性を調査する。抗HMGB1抗体の新しい適応症として、BBB破綻を伴う脳外傷急性期の脳腫脹について検討する。ヒト自己免疫疾患患者からインフォームドコンセント後提供された末梢血を用いて、抗HMGB1抗体産生B細胞クローンの探索を継続実施する。
研究方法
1. ラットMCAO2時間・再灌流モデルを用いた坑HMGB1抗体効果の解析
  ・漏出アルブミンの動態
  ・HMGB1の細胞内小器官における局在(免疫電顕)
2. 動脈硬化性末梢動脈疾患患者の血中HMGB1値の測定と疫学的解析
  ・ABI,フィブリノーゲン、 CRPとの相関
3. 完全ヒト抗体作製
  ・抗HMGB1抗体産生ヒトB細胞クローンの探索
4. 抗HMGB1療法の適応拡大のための探索研究
結果と考察
虚血脳神経細胞内への能動的アルブミン輸送の可能性を見出した。神経細胞内でのHMGB1の動態として、核から細胞質、さらにペルオキシゾーム、ミトコンドリアへと移動することを明らかにした。動脈硬化性末梢動脈疾患患者81名の血中HMGB1値が疾患重篤度(ABI)と負の相関を示した。抗HMGB1抗体の新しい適応症として、脳外傷急性期の脳腫脹を見出し、用量探索試験を実施した。SLEを中心とするヒト自己免疫疾患患者から提供された末梢血を用いて、抗HMGB1抗体産生B細胞クローンの探索を40名の患者について実施したが、低親和性抗体が数クローン得られるに留まった。
結論
虚血神経細胞内へのアルブミン輸送は、新規の薬物創薬とDDSの大きなヒントになる。
血中HMGB1値の測定は、末梢動脈疾患の優れたマーカーになりうる。抗HMGB1抗体治療の新規適応として、脳外傷急性期の脳腫脹を見出した。治療用ヒト抗体を作製するために新たな方法を試みる必要がある。

公開日・更新日

公開日
2012-06-29
更新日
-

文献情報

文献番号
201114001B
報告書区分
総合
研究課題名
生活習慣病増悪フェーズの鍵分子「HMGB1」に対する分子標的抗体薬の臨床応用研究
課題番号
H21-トランス・一般-001
研究年度
平成23(2011)年度
研究代表者(所属機関)
西堀 正洋(国立大学法人 岡山大学 大学院医歯薬学総合研究科生体制御科学専攻生体薬物制御学講座薬理学)
研究分担者(所属機関)
  • 高橋 英夫(近畿大学 医学部)
  • 劉 克約(国立大学法人 岡山大学 大学院医歯薬学総合研究科)
  • 槇野 博史(国立大学法人 岡山大学 大学院医歯薬学総合研究科)
  • 松川 昭博(国立大学法人 岡山大学 大学院医歯薬学総合研究科)
  • 伊達 勲(国立大学法人 岡山大学 大学院医歯薬学総合研究科)
  • 吉野 正(国立大学法人 岡山大学 大学院医歯薬学総合研究科)
  • 森 秀治(就実大学 薬学部)
  • 榎本 秀一(国立大学法人 岡山大学 大学院医歯薬学総合研究科)
  • 武田 吉正(国立大学法人 岡山大学 大学院医歯薬学総合研究科)
  • 和氣 秀徳(国立大学法人 岡山大学 大学院医歯薬学総合研究科)
  • 友野 靖子(医療法人創和会 重井医学研究所)
  • 和田 淳(国立大学法人 岡山大学 大学院医歯薬学総合研究科)
  • 大塚 愛二(国立大学法人 岡山大学 大学院医歯薬学総合研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 医療技術実用化総合研究(臨床研究推進研究)
研究開始年度
平成21(2009)年度
研究終了予定年度
平成23(2011)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
アテローム性動脈硬化症、脳梗塞、高脂血症などの生活習慣病の基礎病態に共通して関与する重要な新規メディエーターとして、細胞核由来の「HMGB1」を、疾患モデル動物を用いて同定した。この鍵分子に対する特異的単クローン抗体を、脳梗塞、クモ膜下出血後の脳血管攣縮、アテローム性動脈硬化症の抗体医薬としてすでに開発した。このような基礎研究の成果を臨床現場に迅速かつ効率的に応用していくために、本研究では、(1)抗体による分子標的治療の詳細解明、(2)抗体の生体内動態解析と安全性に関する一般毒性試験、(3)ヒト化単クローン抗体の作製、(4)サルなどの大型実験動物を用いた用量探索試験を実施する、(5)新規適応疾患の探索
研究方法
1.ラットMCAO2時間・再灌流モデルを用いた坑HMGB1抗体効果の解析
 ・神経細胞核HMGB1のトランスロケーションの解析
 ・BBB構造の電顕解析
 ・In vitro BBB培養系を用いた組換え体ヒトHMGB1の作用解析と抗体効果
 ・炎症関連遺伝子発現解析
2.ラットを用いた急性毒性試験
 ・単回投与
 ・6日間連続投与
3.64Cu-DOTA標識抗体の作製と生体内動態解析
4.完全ヒト抗体作製
 ・抗HMGB1抗体産生ヒトB細胞クローンの探索
5.ニホンザルを使った脳虚血実験
6.ヒト末梢動脈疾患の疫学的検討と抗HMGB1療
結果と考察
ラット脳虚血部位神経におけるHMGB1のトランスロケーションと抗HMGB1抗体投与によるその抑制を明らかにした。組換え体HMGB1によるBBBの機能的、構造的変化は抗体治療で強く抑えられた。抗体の急性毒性試験では、調査された全項目で異常所見は認められなかった。抗原結合性を保持した抗体の64Cu-DOTA標識化に成功し、PET撮影で脳内分布を明らかにした。ニホンザルの脳虚血を動脈カテーテル・バルーン法で作製し、ラット脳と同様のHMGB1トランスロケーションを明らかにした。ヒトPADと脳外傷急性期脳腫脹が抗体薬のよい適応になることをつきとめた。自己免疫疾患患者の末梢血Bリンパ球には、高親和性抗HMGB1抗体産生クローンは見出せなかった。
結論
抗HMGB1抗体は、脳梗塞・脳外傷急性期、脳血管攣縮、アテローム動脈硬化症を適応疾患として優れた効果を発揮する。抗体の毒性試験から、急性投与される抗体治療の安全性が確認された。治療用ヒト抗体を作製するために新規の方法を試みる必要がある。

公開日・更新日

公開日
2012-06-29
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201114001C

成果

専門的・学術的観点からの成果
ラット抗HMGB1単クローン抗体の遺伝子配列の解析を完了した。この遺伝子配列の解析に基づき、抗体のヒト配列への置換えを実施した。各置換体の抗原結合活性を比較し、高親和性ヒト化抗体を得た。Lonza社との契約により、ヒトへの使用を前提としたCHO-K1SV細胞を用いた高収量発現系を構築し、Research Cell Bank(RCB)の確立を図った。20L培養スケールで得られたProtein A 精製抗体の高親和性抗原結合を確認した。動物実験でのCOI確立を目指している。
臨床的観点からの成果
ヒト化抗体の作成が完了したことで、臨床実用化が確実に近づいた。適応症として癌性疼痛を含む神経因性疼痛に応用可能であることをラットのモデル実験で明らかにした。マウスのインフルエンザ肺炎モデルにおける抗体の投与効果を明らかにした。
ガイドライン等の開発
該当なし
その他行政的観点からの成果
第61回日本麻酔科学会(2014.5.17)および第25回脳血管シンポジウム(2015.9.12)に招待され、特別講演を行った。
マウスのインフルエンザ肺炎モデルにおける抗体の投与効果を明らかにした。
Bio Japan 2015(横浜パシフィコ、10/14-15)に出展し、マッチングを実施した。
その他のインパクト
神経因性疼痛に対する抗HMGB1抗体投与の効果が複数の新聞メディアで報道された。
Bio Japan 2015(横浜パシフィコ、10/14-15)に出展し、マッチングを実施した。
インフルエンザ肺炎の治療薬への適用を特許出願した。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
9件
その他論文(和文)
4件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
37件
生体機能と創薬シンポジウム2012・第22回脳血管シンポジウム・第61回日本麻酔科学会学術集会・第25回脳血管シンポジウム等 招待講演
学会発表(国際学会等)
13件
その他成果(特許の出願)
16件
その他成果(特許の取得)
6件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
3件
・International Innovation 記事

特許

特許の名称
ヒト化抗HMGB1抗体もしくはその抗原結合性断片
詳細情報
分類:
特許番号: 特願2014-558456,PCT/JP2013/82860,EP13872417.4-1403
発明者名: 高田賢蔵、寅嶋崇、西堀正洋
出願年月日: 20150915
国内外の別: 日本、WIPO、欧州
特許の名称
インフルエンザ治療剤
詳細情報
分類:
特許番号: 特願2016-47807
発明者名: 西堀正洋、劉克約、塚原宏一、森島恒雄、八代将登、野坂宜之、畑山一貴
出願年月日: 20160311
国内外の別: 日本
特許の名称
外傷性神経障害治療剤
詳細情報
分類:
特許番号: 特願2012-546930,PCT/JP2011/077782
発明者名: 西堀正洋、森秀治、髙橋英夫、和氣秀徳、劉克約、伊達勲、大熊佑、友野靖子
出願年月日: 20111201
国内外の別: 日本、WIPO
特許の名称
好中球活性化に起因する疾患の治療薬、治療方法及び検査方法
詳細情報
分類:
特許番号: 特願2015-172691,PCT/JP2013/64779,US14/995679,EP13801138.2
発明者名: 西堀正洋、森秀治、和氣秀徳、髙橋英夫、劉克約、勅使川原匡
出願年月日: 20150902
国内外の別: 日、WIPO、米、欧
特許の名称
脳梗塞抑制剤
詳細情報
分類:
特許番号: EP1946774(B1),6811724.1
発明者名: 西堀正洋、森秀治、髙橋英夫、友野靖子、足立尚登、劉克約
出願年月日: 20061013
取得年月日: 20131204
国内外の別: 欧州
特許の名称
B細胞悪性リンパ腫治療薬
詳細情報
分類:
特許番号: 特許第5224325号、特願2007-267948
発明者名: 西堀 正洋、髙橋英夫、森秀治、吉野正、友野靖子、菅家徹、佐藤康晴
出願年月日: 20071015
取得年月日: 20130322
国内外の別: 日本
特許の名称
アテローム動脈硬化抑制剤
詳細情報
分類:
特許番号: 特許第5467313号、特願2009-223472
発明者名: 西堀正洋、髙橋英夫、森秀治、劉克約、友野靖子
出願年月日: 20090928
取得年月日: 20140207
国内外の別: 日本
特許の名称
脳血管攣縮抑制剤
詳細情報
分類:
特許番号: US8071098(B2),12/227292、EP2020241(B1),07743666.5
発明者名: 西堀正洋、森秀治、髙橋英夫、友野靖子、伊達勲、小野成紀
出願年月日: 20081113
取得年月日: 20111206
国内外の別: 米国、欧州

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Zhang FF, Nishibori M, Nakata Y. et al.
Perineural expression of high-mobility group box-1 contributes to long-lasting mechanical hypersensitivity via matrix metalloproteinase-9 upregulation in mice with painful peripheral neuropathy.
J Neurochem. , 136 , 837-850  (2016)
10.1111/jnc.13434.
原著論文2
Izushi Y, Teshigawara K, Nishibori M. et al.
Soluble form of the receptor for advanced glycation end-products attenuates inflammatory pathogenesis in a rat model of lipopolysaccharide-induced lung injury.
J Pharmacol Sci. , 130 , 226-234  (2016)
10.1016/j.jphs.2016.02.005.
原著論文3
Sasaki T, Liu K, Nishibori M. et al.
Anti-high mobility group box1 antibody exerts neuroprotection in a rat model of Parkinson`s disease.
Exp Neurol. , 275 , 220-231  (2016)
10.1016/j.expneurol.2015.11.003.
原著論文4
Niwa A, Nishibori M,Takahashi H. et al.
Voluntary exercise induces neurogenesis in the hypothalamus and ependymal lining of the third ventricle.
Brain Struct Funct. , 221 (3) , 1653-1666  (2016)
10.1007/s00429-015-0995-x
原著論文5
Okuma Y., Liu K., Nishibori M. et al.
Glycyrrhizin inhibits traumatic brain injury by reducing HMGB1-RAGE interaction.
Neuropharmacology , 85 , 18-26  (2014)
10.1016/j.neuropharm.2014.05.007.
原著論文6
Takahashi HK., Sadamori H., Nishibori M. et al.
Role of cell-cell interactions in high mobility group box 1 cytokine activity in human peripheral blood mononuclear cells and mouse splenocytes.
Eur J Pharmacol. , 701 , 194-202  (2013)
10.1016/j.ejphar.2012.11.058
原著論文7
Shichita T.,Hasegawa E.,Nishibori M. et al.
Peroxiredoxin family proteins are key initiators of post-ischemic inflammation in the brain.
Nature Medicine , 18 (6) , 911-917  (2012)
10.1038/nm.2749
原著論文8
Okuma Y.,Liu K.,Nishibori M. et al.
Anti-High Mobility Group Box-1 Antibody Therapy for Traumatic Brain Injury.
Annals of Neurology , 72 (3) , 373-384  (2012)
10.1002/ana.23602
原著論文9
Kondo E., Saito K., Nishibori M. et al.
Tumour lineage-homing cell-penetrating peptides for peptide-based anti-cancer molecular delivery systems.
Nature Commun. , 3 (951)  (2012)
10.1038/ncomms1952

公開日・更新日

公開日
2015-05-27
更新日
2017-06-20

収支報告書

文献番号
201114001Z