視覚障害者の見やすい表示看板作製のための調査

文献情報

文献番号
199700915A
報告書区分
総括
研究課題名
視覚障害者の見やすい表示看板作製のための調査
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
林 弘美(国立身体障害者リハビリテーションセンター病院第三機能回復訓練部)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 感覚器障害及び免疫・アレルギー等研究事業(感覚器障害研究分野)
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
平成10(1998)年度
研究費
2,100,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
我が国においては、道路標識等は公的な基準をもって作成、設置されているが、駅の路線名表示や病院の誘導表示等の表示看板は公的な基準がない状態で設置されており、かつ健常者の発想でデザインされている。視覚障害者はもとより、高齢化に伴う視覚障害者の増大が予測されながら、現在の表示看板は視覚障害者や高齢者が利用する上で十分に配慮されたものとはなっておらず、避難誘導等の必要最低限の情報さえも視覚障害者に確実に伝達されているとは言えない。よってこれら表示看板の表示作製基準を早急に作成する必要があると考える。本研究は視覚障害者が視認しやすい表示看板の配慮を喚起するとともに、視覚障害者や高齢者の社会復帰の一助となることを目的とするものである。
研究方法
まず、本研究の方向性を明確にするために、国立身体障害者リハビリテーションセンター病院1階に設置の公共性の高い表示看板について、その視認性評価をロービジョン者、健常者が目視のうえでアンケート調査し、視認性の要素を導き出した。次に、アンケート結果から導き出された視認性要素のひとつであるコントラストについて、ロービジョン者、健常者を被験者として試験機により試験し、試験機の検証、試験方法の検証を行った。試験方法は、コントラストの違う試験用看板を被験者に複数目視してもらい、視認できる時間から視認性の高いコントラストの範囲を求めるものである。
結果と考察
アンケート調査は、ロービジョン者64名、健常者48名の計112名であった。
院内の表示看板について、評価対象となる表示看板数は160枚で、場所表示が全体の46.9%を占め最多である。表示色については、デザインが本館は白地・黒文字、新館は抹茶地・白文字となっており、特に白地黒文字の表示看板が全体の54.4%で最多となっている。また看板の塗料の変色、汚れ、周辺の環境により、同じ種類の看板でも違う色に見える場合があり、実際の表示色にはばらつきがあった。見やすい表示看板として、ロービジョン者及び健常者とも、眼科診察室表示(箱文字壁面取付タイプ)、受付種別、非常口等同種の表示看板を選んでおり、特徴は、文字・表示看板自体が大きく、文字数が少ないものである。見やすい色としては、ロービジョン者、健常者とも白地・黒文字、抹茶地・白文字で、地色と文字色のコントラストが強い彩色が選ばれている。見やすい理由は、ロービジョン者、健常者とも、「文字の大きさが適当である、色が適当である、コントラストが適当である、看板の大きさが適当である、照明があるので、位置が適当である」等であり、文字と看板の大きさ、明るさ、取付位置および色が見やすい要素となっている。色についての回答は「はっきりした色がよい」「目にやさしい色がよい」等となっているが、実際は見やすさを特定の色というよりも明度差=コントラストでとらえている。
見にくい表示看板として、ロービジョン者は、眼科診察室表示(天井吊下タイプ)、担当医師名表示、診察券入れを選んでいる。健常者では、総合案内板、トイレ表示、診察室表示等である。特にロービジョン者が選んだ眼科診察室表示は天井吊り下げタイプのものが見にくいとされた。理由は看板が利用者の動線に対して正面を向かずに直角方向になっているためである。他は文字、看板自体が小さいもの、文字数が多いもの、通路から見えにくいものが選ばれている。見にくい色として選ばれたのは、ロービジョン者、健常者とも、白地・黒文字、抹茶地・白文字で、見やすい表示看板の組み合わせと同じになっている。見にくい理由は、ロービジョン者、健常者とも同じで、「文字が小さい、文字が多い、看板の大きさが不適当である、暗い、位置が不適当である、色が不適当である、コントラストが不適当である」等あった。つまり、文字と看板の大きさ、明るさ、取付位置、色およびコントラストが見やすい要素となっている。色についての回答は「看板と文字の配色が不適当である」等であり、被験者は見やすい色の回答と同様、実際は見やすさを特定の色というよりも明度差=コントラストでとらえている。
以上アンケートの結果から、ロービジョン者、健常者とも評価対象の表示看板や評価理由等の回答傾向に大きな差違は認められなかった。表示看板の見易さの要件は、「看板の大きさ、文字の大きさ、看板の取付位置、地色と文字色のコントラスト、文字量」である。これら要件は、視機能レベルを問わない表示看板の視認性に関わる普遍性の高い要素であるといえる。これら各々の要素について、以下のことが考えられる。看板と文字の大きさについては、絶対的な大きさだけでなく、場所や利用方法に応じた大きさが必要と考えられる。また文字の大きさは、表示看板自体の大きさと看板中の文字量(文字面積)に影響されることから、文字の大きさ、文字数、書体、使用文字(ひらがな、カタカナ、漢字、英文、絵文字等)の関係を求める必要がある。取付位置については、視野に入りやすく、かつ動線に対する表示方向、看板形状の最適な関係を求める必要がある。同じ組み合わせの色が、一方では見やすい、一方では見にくいと評価されたことから、周辺の環境と色の変化の関係を求める必要がある。被験者は色をコントラストとして捕らえていることから、表示に最適なコントラストの範囲を求めるとともに、色彩、認知心理等を考慮する必要がある。
次に、コントラストについて視認性の範囲を求めるため、試験機及び試験方法の検証を行った。試験機については、一定照度とするために、1200ルクス・白色光に設定したが、ロービジョン者にとっては眩しすぎることがあった。従って眩しさの軽減のため、被験者の遮光レンズ使用等の配慮が必要である。試験方法については、今後残存視機能や疾患の特性を配慮する必要がある。検証としては被験者が4名と少なかったが、おおよその傾向は捉えられた。健常者は地色と文字のコントラスト全ての試験用看板において1.3秒前後で認識が可能だった。ロービジョン者は、55~95%の全ての試験用看板において認識時間が2秒前後であった。また低いコントラストほど認識時間が長く、最長で5秒及び認識が不可能な場合があった。配色では、ロービジョン者は明度の違うグレーの地色と文字の組み合わせより、グレーの地色で白文字の組み合わせの認識時間が早く、健常者は色の組み合わせによる認識時間の差が認められなかった。試験機によるコントラストの検証から、濃い地色に白文字が見やすく、地色と文字色のコントラストは最低55%以上必要ということが推察される。なお米国ADA法では70%以上とされており、本検証試験と差違をふまえ、さらに調査が必要と考える。
結論
アンケート結果から視認性の要件として、表示看板と文字の大きさ、位置、コントラスト(地色と文字色、周辺の環境)、文字量が求められ、これらの要件を研究の方向性とした。その中からまずコントラストに関して、推察ではあるがグレー地白文字55%以上のコントラストが必要という結果が求められた。ただし今回は検証のために行われたものであり、今後は統計的解釈が可能な試験を行う必要がある。またコントラスト以外の要件についても今後調査、試験が必要と考える。また、今回のアンケート、試験は屋内環境に限定して行われたものであり、屋外においてはさらに多様な要件が発生すると考えられる。屋外における表示については、本研究結果をもとに、改めて調査する必要がある。

公開日・更新日

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