経口型抗がん剤のmetronomic dosingによる腫瘍内微小環境変化を利用した革新的siRNAデリバリー技術の開発とがん治療への応用

文献情報

文献番号
201111014A
報告書区分
総括
研究課題名
経口型抗がん剤のmetronomic dosingによる腫瘍内微小環境変化を利用した革新的siRNAデリバリー技術の開発とがん治療への応用
課題番号
H21-ナノ・一般-012
研究年度
平成23(2011)年度
研究代表者(所属機関)
石田 竜弘(徳島大学 大学院ヘルスバイオサイエンス研究部)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 医療機器開発推進研究(医療機器[ナノテクノロジー等]総合推進研究)
研究開始年度
平成21(2009)年度
研究終了予定年度
平成23(2011)年度
研究費
5,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
研究代表者は既に、外来化学療法で汎用されている経口フッ化ピリミジン系抗がん剤(S-1)の繰り返し投与と併用することでsiRNA・キャリア複合体の腫瘍内移行性および拡散性の亢進と、それに基づく顕著な抗腫瘍効果が得られることを平成21-22年度の研究で確認した。最終年度において、臨床応用可能な組み合わせとして、5-FUのprodrugであるtegafulを含むS-1と5-FUの標的であるthymidylate synthase (TS)に対するsiRNAを選択し、本検討課題によって確立したsiRNAデリバリー技術の有用性に関して検討した。  
研究方法
DLD-1またはDLD-1/FU担がんマウスに対し、PEG修飾siRNA搭載リポソーム(siTSもしくはsiGFP含有) を80 ugずつ1日間隔で合計8回マウス尾静脈より投与し、同時に2) S-1をtegafur量で6.9 mg/kgずつ毎日経口投与を行い、腫瘍体積変化と体重変化について検討を行った。また、担がんマウスから摘出した腫瘍切片対してTUNEL染色を行いアポトーシス細胞を評価した。
結果と考察
5-FU感受性細胞DLD-1において、PEG修飾TS-siRNA搭載リポソームおよびS-1単独投与でも高い腫瘍成長抑制効果がみられたが、両者を併用することでさらに高い腫瘍成長抑制効果を得ることができた。腫瘍内アポトーシス細胞においても、併用投与群で顕著に高い値が確認された。また、治療後のTS遺伝子ノックダウンに関して評価したところ、併用投与群でのみ顕著な発現抑制効果が観察された。しかしながら、5-FU耐性腫瘍では、併用治療による高い抗腫瘍効果は得られなかった。
S-1投与によるEPR効果の増強メカニズムは、A) 腫瘍新生血管の内皮細胞が傷害され、内皮細胞間の間隙が広がり、より漏出性の高い血管が形成される、B) 腫瘍内血管系が正常化し、腫瘍内の広範囲に血液が分布するようになる、さらにC) 血管近傍のがん細胞が傷害され、血管外スペースが増加したこと、など腫瘍内の微小環境が改変された結果であると考えてきた。しかし、上記成果は、S-1のmetronomic投与によるEPR効果の増強メカニズムは、主としてC)の血管近傍のがん細胞が傷害され、血管外スペースが増加したこと、に起因する可能性が極めて高い事を示唆するものであると考えている。
結論
本研究で確立したsiRNAデリバリーシステムは、抗がん剤による治療時に生ずる腫瘍内微小環境変化を利用しており、臨床応用へのバリアは極めて低く、siRNAを用いたがん治療の実現に大きく貢献する優れた成果であると確信している。

公開日・更新日

公開日
2012-06-26
更新日
-

文献情報

文献番号
201111014B
報告書区分
総合
研究課題名
経口型抗がん剤のmetronomic dosingによる腫瘍内微小環境変化を利用した革新的siRNAデリバリー技術の開発とがん治療への応用
課題番号
H21-ナノ・一般-012
研究年度
平成23(2011)年度
研究代表者(所属機関)
石田 竜弘(徳島大学 大学院ヘルスバイオサイエンス研究部)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 医療機器開発推進研究(医療機器[ナノテクノロジー等]総合推進研究)
研究開始年度
平成21(2009)年度
研究終了予定年度
平成23(2011)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
siRNAを薬剤として利用する場合、その生体内動態を量的・空間的に制御することが重要である。100nm程の粒子径を持つナノキャリアは腫瘍内新生血管内皮の隙間を通過して腫瘍に集積するが腫瘍深部まで到達できない。この改善には、腫瘍内の3次元的空間を人為的に変化させる必要がある。本検討では、経口型抗がん剤(S-1)を繰り返し投与することで腫瘍内の微小環境を変化させ、siRNAの腫瘍移行性と腫瘍内拡散性の向上、および抗腫瘍効果の向上が期待できる革新的siRNAデリバリー技術の開発を目的として研究を行った。
研究方法
①S-1の低用量頻回投与によるPEG修飾siRNA搭載リポソームの腫瘍移行性の変化、②S-1の低用量頻回投与によるPEG修飾siRNA搭載リポソームの腫瘍内分布の変化、③S-1 とPEG修飾siRNA搭載リポソームの併用による抗腫瘍効果と安全性、について検討した。
結果と考察
担がんマウスに、S-1を投与した際、PEG修飾siRNA搭載リポソームの腫瘍移行性が選択的に向上している事を確認した。さらに、S-1処置により腫瘍内での分布領域が拡大し、腫瘍内にほぼ均一に行き渡っている事も確認できた。また、S-1とアポトーシス誘導siRNAを搭載したPEG修飾siRNA搭載リポソームの併用により顕著に高い抗腫瘍効果が得られた。興味深い事に、5-FU感受性細胞DLD-1において、前述の併用による腫瘍成長抑制効果がみられたが、5-FU耐性細胞DLD-1/FUでは、併用治療による高い抗腫瘍効果は得られなかった。S-1投与によるEPR効果の増強メカニズムは、A) 腫瘍新生血管の内皮細胞が傷害され、内皮細胞間の間隙が広がり、より血管透過性が亢進する、B) 腫瘍内血管系が正常化し、腫瘍内の広範囲に血液が分布するようになる、さらにC) 血管近傍のがん細胞が傷害され、血管外スペースが拡大したこと、などの結果であると考えてきた。しかし、上記成果は、S-1の投与によるEPR効果の増強が、主としてC)の血管近傍のがん細胞が傷害され、血管外スペースが拡大したこと、に起因する事を示唆しており、新たな重要な知見が得られたものと考えている。
結論
S-1は大腸がん・胃がん・膵がん治療などで既に臨床応用されており、このS-1との併用によって、より腫瘍深部の細胞にsiRNAが導入され、薬効発現につながったことは、siRNAを用いたがん治療の実現に大きく貢献する新たな知見であると確信している。

公開日・更新日

公開日
2012-06-26
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201111014C

成果

専門的・学術的観点からの成果
経口型抗がん剤S-1の投与が腫瘍内の微小環境を変化させ、siRNA含有ナノキャリアの腫瘍内移行性を亢進させると共にその分布領域を拡大させ、結果として高い抗腫瘍効果を得る事ができる事を世界で初めて確認した。昨今のがん化学療法は多剤併用が主体であり、これら抗がん剤の投与はS-1のように腫瘍内の微小環境をナノキャリアが移行しやすいものに変化させる可能性が高い。この性質を利用し、これらの抗がん剤の効果を亢進させうるようなsiRNAを送達すれば、より高い治療効果を獲得することができるものと期待できる。
臨床的観点からの成果
本研究で確立したsiRNAデリバリーシステムは、抗がん剤による治療時に生ずる腫瘍内微小環境変化を利用しており、臨床応用へのバリアは極めて低い。また本システムの実現により、経口抗がん剤投与量の低量化、高い薬価が想定されるsiRNA薬剤の投与量の低量化が実現された事により、①従前の化学療法とは異なり非選択的な毒性の発現が抑制でき、②長期生存者で問題となっている抗がん剤の長期使用によるcumulative toxicityの発現を回避でき、③結果として患者のQOLの向上と更なる延命効果が期待される。
ガイドライン等の開発
現時点では基礎の研究成果にとどまっており、ガイドライン等の開発にかかわるような成果は得られていない。
その他行政的観点からの成果
がんはsiRNA薬剤のターゲットとしても注目されており、今後多くのsiRNA薬剤が上市されてくる。siRNA薬剤の治療効果を確保するには、腫瘍内移行量と腫瘍内拡散性の担保が必要である。経口投与可能な抗がん剤は外来がん化学療法において汎用されており、このような既存の治療法と組み合わせるだけでsiRNA薬剤の薬理効果が向上しうる極めて普遍性の高い本戦略は、がん治療の均てん化および外来がん化学療法へのシフトを進める厚生労働行政にマッチした優れた戦略である。
その他のインパクト
国際学会や国内学会から招待を受け、当該研究成果に関して講演を行っている。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
17件
その他論文(和文)
1件
その他論文(英文等)
2件
学会発表(国内学会)
61件
学会発表(国際学会等)
15件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Ishihara, T., Takeda, M., Sakamoto, H., Kimoto, A., et al.
Accelerated blood clearance phenomenon upon repeated injection of PEG-modified PLA-nanoparticles.
Pharm. Res. , 26 , 2270-2279  (2009)
原著論文2
Tagami, T., Nakamura, K., Shimizu, T., Ishida, T., et al.
Effect of siRNA in PEG-coated siRNA-lipoplex on anti-PEG IgM production.
J. Control. Release , 137 , 234-240  (2009)
原著論文3
Tagami, T., Nakamura, K., Shimizu, T., Yamazaki, N., et al.
CpG motifs in pDNA-sequences increase anti-PEG IgM production induced by PEG-coated pDNA-lipoplexes.
J. Control. Release , 142 , 160-166  (2010)
原著論文4
Ishihara T., Maeda T., Sakamoto H., Takasaki N., et al.
Evasion of the accelerated blood clearance phenomenon by coating of nanoparticles with various hydrophilic polymers.
Biomacromolecules , 11 , 2700-2706  (2010)
原著論文5
Tagami T., Uehara Y., Moriyoshi N., Ishida T., et al.
Anti-PEG IgM production by siRNA encapsulated in a PEGylated lipid nanocarrier is dependent on the sequence of the siRNA.
J. Control. Release , 151 , 149-154  (2011)
原著論文6
Barichello, J.M., Kizuki, S., Tagami, T., Asai, T., et al.
Agitation during lipoplex formation improves the gene knockdown effect of siRNA.
Int. J. Pharm. , 410 , 153-160  (2011)
原著論文7
Tagami, T., Suzuki, T., Hirose, K., Barichello, J.M., et al.
Argonaute2 is a potential target for siRNA-based cancer therapy for HT1080 human fibrosarcoma.
Drug Deliv. Transl. Res. , 1 , 277-288  (2011)
原著論文8
Nakamura, K, Abu Lila A., Matsunaga, M., Doi, Y., et al.
A double-modulation strategy in cancer treatment with a chemotherapeutic agent and siRNA.
Mol. Ther. , 19 , 2040-2047  (2011)
原著論文9
Tagami, T., Suzuki, T., Matsunaga, M., Nakamura, K., et al.
Anti-angiogenic therapy via cationic liposome-mediated systemic siRNA delivery.
Int. J. Pharm. , 422 , 280-289  (2012)
原著論文10
Tagami, T., Abu Lila, A.S., Matsunaga, M., Moriyoshi, N., et al.
Improved intratumoral delivery of PEG-coated siRNA-lipoplexes by combination with metronomic S-1 dosing in a murine solid tumor model.
Drug Deliv. Transl. Res. , 2 , 77-86  (2012)
原著論文11
Barichello, J.M., Kizuki, S., Tagami, T., Luiz Alberto Lira Soares, L.A.L., et al.
Agitation during lipoplex formation harmonizes the interaction of siRNA to cationic liposomes.
Int. J. Pharm. , 430 , 359-365  (2012)

公開日・更新日

公開日
2015-05-27
更新日
2016-01-28

収支報告書

文献番号
201111014Z