固形がんの標的治療とその治療効果のMRIによる追跡を可能にする診断-治療機能一体型DDSの創製

文献情報

文献番号
201111013A
報告書区分
総括
研究課題名
固形がんの標的治療とその治療効果のMRIによる追跡を可能にする診断-治療機能一体型DDSの創製
課題番号
H21-ナノ・一般-011
研究年度
平成23(2011)年度
研究代表者(所属機関)
西山 伸宏(東京大学 大学院医学系研究科)
研究分担者(所属機関)
  • Cabral Horacio (カブラル オラシオ)(東京大学 大学院工学系研究科 )
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 医療機器開発推進研究(医療機器[ナノテクノロジー等]総合推進研究)
研究開始年度
平成21(2009)年度
研究終了予定年度
平成23(2011)年度
研究費
5,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
がん組織に選択的に集積し、がんのMRI診断に広く利用できるMRI造影剤が望まれているが、そのような造影剤は未だ開発されていないのが現状である。前年度までは、抗がん剤とGd-DTPAを同時に搭載した診断-治療機能一体型DDSの開発を行い、その有用性を明らかにしてきたが、本システムは投与量に関して、抗がん剤の最大耐用量に基づく制限があり、鮮明なイメージングを得るために投与量を上げることが困難であった。そこで本研究では、固形がんの精密診断を目的として、制がん活性を持たないGd-DTPA内包ミセルを開発し、MRI診断用ナノデバイスとしての有用性を明らかにすることを目指して研究を行った。
研究方法
H2PtCl6、Gd-DTPA、側鎖にエチレンジアミン構造を有するブロック共重合体を水中で混合し、120時間反応させることによって、Gd-DTPA内包ミセルを調製した。調製したGd-DTPA内包ミセルのT1緩和能を測定し、HEVEC細胞への細胞毒性を評価した。さらに、担がんマウスを用いて、血中濃度ならびに組織分布と固形がんのMRイメージング能を評価した。
結果と考察
T1緩和能をパルスNMRを用いて評価したところ、Gd-DTPA内包ミセルは、Gd-DTPAの13倍のT1緩和能を有することが明らかになった。また、Gd-DTPA内包ミセルは高濃度においてもHUVEC細胞に対する細胞毒性を示さなかった。この結果より、Gd-DTPA内包ミセルは、毒性が低く、投与量を上げることが可能であるものと考えられる。一方、担がんマウスにおけるGd-DTPA内包ミセルの体内動態評価では、Gd-DTPAがリリースされるために、Gdの血中濃度はPtの血中濃度より低くなるものの、Gd-DTPA単独よりは高い血中滞留性を示し、結果的に固形がんに効果的かつ選択的に集積することが確認された。その結果、固形がんのMRイメージングにおいて、Gd-DTPA内包ミセルは腫瘍特異的にMRIの信号強度が増大させることが明らかになった。
結論
以上のように本年度は、Ptをリンカーとして可逆的な配位結合によりGd-DTPAをポリマーに結合した高分子ミセルを開発し、その安全性とMRI造影剤としての有用性を明らかにした。

公開日・更新日

公開日
2012-06-26
更新日
-

文献情報

文献番号
201111013B
報告書区分
総合
研究課題名
固形がんの標的治療とその治療効果のMRIによる追跡を可能にする診断-治療機能一体型DDSの創製
課題番号
H21-ナノ・一般-011
研究年度
平成23(2011)年度
研究代表者(所属機関)
西山 伸宏(東京大学 大学院医学系研究科)
研究分担者(所属機関)
  • Cabral Horacio (カブラル オラシオ)(東京大学 大学院工学系研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 医療機器開発推進研究(医療機器[ナノテクノロジー等]総合推進研究)
研究開始年度
平成21(2009)年度
研究終了予定年度
平成23(2011)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
がん組織に選択的に集積し、がんのMRI診断に広く利用できるMRI造影剤が望まれているが、そのような造影剤は未だ開発されていないのが現状である。また、がん化学療法においては、その有効性を的確に把握する必要があり、その目的においてMRIは有効な手段であると考えられる。近年、Gdのデリバリーの為のDDSが活発に開発されているが、固形がんの選択的造影に成功した例は数少なく、すべてのシステムにおいてGdがDDS担体に安定な共有結合で導入されている為に、Gdの蓄積毒性が問題となる。そこで本研究では、Gd-DTPAと白金の可逆的な錯体形成を利用してGd-DTPAを内包した高分子ミセルを開発し、固形がんのMRイメージングを実施した。
研究方法
ブロック共重合体、Gd-DTPA、白金錯体の金属錯体形成を利用した高分子ミセルを調製した。ミセルのT1緩和能は、パルスNMRを用いて評価した。また、担がんマウスを用いて体内動態ならびにMRイメージング能を評価した。
結果と考察
本研究では、研究期間の前半において、抗がん剤とGd-DTPAを同時に搭載した診断-治療一体型高分子ミセルを開発した。このミセルはGd-DTPAの24倍のT1緩和能を有しており、MRI造影剤として非常に高い性能を有することが示唆された。また、膵臓がん同所移植モデルにおけるMRイメージング能を評価した結果、Gd-DTPAの投与ではMRIシグナルの増大は確認されなかったが、ミセルの投与によって腫瘍特異的に信号強度が増大することが確認された。さらに抗がん剤制がん剤による治療効果をMRIにより追跡することが可能であることを確認し、Theranostic Nanomedicineの概念を動物実験で実証することができた。一方、研究期間後半において、抗がん活性を持たないGd-DTPA内包ミセルを開発した。このミセルは、Gd-DTPAの13倍のT1緩和能を有することが明らかになった。また、Gd-DTPA内包ミセルは、固形がんに選択的に集積し、腫瘍特異的にMRIの信号強度が増大させることが明らかになった。
結論
本研究課題では、抗がん剤の治療効果をMRIによって追跡できる診断-治療機能一体型DDSとGd-DTPAの蓄積毒性を示さないDDSの2種類のMRI診断用ナノデバイスを開発し、その有用性を動物実験により明らかにした。

公開日・更新日

公開日
2012-06-26
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201111013C

成果

専門的・学術的観点からの成果
Ptリンカーを利用してGd-DTPAの体内で望ましい速度で放出する高分子ミセル型DDSを開発し、Gdの蓄積毒性を回避する一方で、固形がんのMRイメージングを行うことに成功した。さらに、がん組織への集積や抗がん剤の治療効果をMRIによってリアルタイムで追跡できる診断-治療機能一体型DDSを開発し、近年注目を集めているTheranostic Nanomedicineの概念を動物実験で実証することができた。
臨床的観点からの成果
DDSは固形がんに集積することが動物実験で実証されているが、実際のがん患者に対してDDSがどの程度有効であるかは未だ明らかになっていない。そこで、DDSのがん組織への集積や治療効果をMRIによる非侵襲的イメージングによって追跡することができれば、より確実ながん治療ができるものと考えられる。このようなイメージング機能を備えたDDSは、DDSによるターゲティング治療を広く普及させるためにもきわめて重要であると考えられる。
ガイドライン等の開発
該当なし
その他行政的観点からの成果
該当なし
その他のインパクト
本プロジェクトにおける研究成果が2010年9月15日付でCancer Research誌に掲載され、毎日新聞(夕刊)、日経産業新聞、日本経済新聞電子版で紹介された。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
57件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
40件
学会発表(国際学会等)
13件
その他成果(特許の出願)
3件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
S. Deshayes, H. Cabral, N. Nishiyama, et al.
Phenylboronic acid-installed polymeric micelles for targeting sialylated epitopes in solid tumors
Journal of the American Chemical Society , 135 (41) , 15501-15507  (2013)
DOI: 10.1021/ja406406h
原著論文2
Y. Miura, N. Nishiyama, et al.
Cyclic RGD-linked polymeric micelles for targeted delivery of platinum anticancer drugs to glioblastoma through the blood-brain tumor barrier
ACS Nano , 7 (10) , 8583-8592  (2013)
DOI: 10.1021/nn402662d
原著論文3
H. Cabral, N. Nishiyama, et al.
Targeted therapy of spontaneous murine pancreatic tumors by polymeric micelles prolongs survival and prevents peritoneal metastasis
Proceedings of the National Academy of Sciences, USA , 70 (18) , 11397-11402  (2013)
DOI: 10.1073/pnas.1301348110
原著論文4
Md. Rafi, H. Cabral, N. Nishiyama, et al.
Polymeric micelles incorporating (1,2-diaminocyclohexane)platinum (II) suppress the growth of orthotopic scirrhous gastric tumors and their lymph node metastasis
Journal of Controlled Release , 159 (2) , 189-196  (2012)
DOI: 10.1016/j.jconrel.2012.01.038
原著論文5
H. Cabral, Y. Matsumoto, N. Nishiyama, et al.
Accumulation of sub-100nm polymeric micelles in poorly permeable tumours depends on size
Nature Nanotechnology , 6 (12) , 815-823  (2011)
DOI: 10.1038/nnano.2011.166
原著論文6
S. Kaida, H. Cabral, N. Nishiyama, et al.
Visible-drug delivery by supra-molecular nanocarriers directing to single-platformed diagnosis and therapy of pancreatic tumor model
Cancer Research , 70 (18) , 7031-7041  (2010)
DOI: 10.1158/0008-5472.CAN-10-0303

公開日・更新日

公開日
2015-05-27
更新日
2016-01-28

収支報告書

文献番号
201111013Z