ヒトWaardenburg 症候群発症におけるMITF、PAX3、Endothelin-Receptor B の相互作用の解析

文献情報

文献番号
199700912A
報告書区分
総括
研究課題名
ヒトWaardenburg 症候群発症におけるMITF、PAX3、Endothelin-Receptor B の相互作用の解析
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
信国 好俊(京都府立医科大学薬理学教室)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 感覚器障害及び免疫・アレルギー等研究事業(感覚器障害研究分野)
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
平成10(1998)年度
研究費
4,100,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
Waardenburg症候群 (以下WS) は、人の先天性難聴の重要な原因の1つである。WSにはいくつかの臨床的に異なる病型が存在し、また同じ家系内においても症状ならびに重症度には個人差が大きく、その原因および発症機構を明らかにすることは非常に重要な課題である。これまでにMITF(Microphthalmia-associated Transcription Factor)、 PAX3、Endothelin-3、Endothelin-Receptor Bの遺伝子の異常がWSの原因となることが明らかにされてきた。このことは、これらの転写因子、リガンド、レセプター及びその間の刺激伝達、相互作用がWSの発症ならびに重症度の決定に重要であることを示唆する。しかしながら、その詳細はなお不明な点が多く、また、これら以外の分子の異常もWS を誘起することが遺伝学的に示唆されてきた。本研究では、ヒWaardenburg症候群発症におけMITF、PAX3、Endothelin-Receptor Bの相互作用の解析を進めることを目的として、まずMITF転写因子ならびにその機能に及ぼす分子についての基礎的検討を行った。
研究方法
(1)転写因子MITFの転写活性に重要な領域とその調節機構に関する検討:まず、転写因子MITFの種々の変異蛋白発現ベクターを遺伝子工学的に作製した。これら変異MITF蛋白発現ベクターをチロシナーゼプロモーター/ルシフェラーゼキメラプラスミドと共にNIH3T3培養細胞に同時にトランスフェクトし発現させ、MITFのチロシナーゼプロモーター活性化能をルシフェラーゼを用いたレポーターアッセイにて測定することにより、 MITF変異蛋白の転写活性能を検討した。蛋白リン酸化実験、MITFの298番目セリンの変異蛋白発現ベクターを用いたトランスフェクション実験とルシフトアッセイによりMITFリン酸化の転写活性に及ぼす影響について検討した。(2)ubiquitine conjugating enzyme(UBE2I)遺伝子の構造解析:まず、ヒトゲノムP1ファージライブラリーよりPCR法にてヒトUBE2I遺伝子を含むクローンhUBE2I-P1をクローニングした。次にヒトUBE2I-cDNAを用いたヒトゲノムDNAとhUBE2I-P1 DNAのサザンブロットを検討することによりクローンhUBE2I-P1にはヒトUBE2I 遺伝子のほとんどが含まれていることを確認した。クローンhUBE2I-P1を数種類の制限酵素にて切断、DNA断片をプラスミドベクターにサブクローニング後コロニーハイブリ法にてエクソンを含むクローンを同定し、更にシークエンス法にてエクソン/イントロン接合部周辺の塩基配列を決定した。また、サザンブロット解析ならびに PCR を用いてUBE2I 遺伝子 の大きさを検討した。
結果と考察
(1)MITF の変異蛋白発現ベクターとチロシナーゼプロモーター/ルシフェラーゼキメラプラスミドの培養細胞への同時発現法によるMITF変異蛋白の転写活性能の検討にて、MITFのN-末端、C-末端にはそれぞれ転写活性に重要な領域が存在することが確認された。また、蛋白リン酸化実験、MITF 変異蛋白発現ベクターを用いたトランスフェクション実験とルシフトアッセイによりMITF 蛋白 298 番目セリンのリン酸化が MITF 蛋白のDNA 結合能ならびに転写活性能に重要であることを明らかとなった。近年アメリカのグループによりMITFはc-Kitシグナル伝達系を介したリン酸化により転写活性能が調節されていることが明らかにされた。今回われわれが明らかにした リン酸化部位はこれとは異なり、MITFは いくつかの異なるシグナル伝達系により調節を受けていることが考えられた。(2)ヒトゲノムP1ファージライブラリーよりクローニングしたクローン hUBE2I-P1 の解析によりヒトUBE2I遺伝子は7個のエクソンからなること、エクソン/イントロン接合部はすべてGT/AGルール に従
うこと、またこの遺伝子は約20 kbの大きさであることが明らかとなった。
結論
(1)MITF蛋白のN-末端、C-末端にはそれぞれ転写活性に重要な領域があり、またその転写活性能はリン酸化によって調節される。(2)ヒトUBE2I 遺伝子は約20 kbの大きさで、7個のエクソンからなることが明らかとなった。今後Endothelin-B Receptor、UBE2I 発現プラスミドとPAX3、MITFプロモーター/ルシフェラーゼキメラプラスミドとの同時発現法用いてこれら蛋白質の相互作用を明らかにしていくことにより、WSの発症ならびに重症度の決定に重要なファクターを明らかにし、WS の予防・治療の開発への道を開くことが期待される。

公開日・更新日

公開日
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更新日
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