テロメラーゼ依存性蛍光発現ナノバイオ・ウイルス製剤を標識薬剤とする高感度リアルタイム微小癌転移イメージングシステムの開発

文献情報

文献番号
201111010A
報告書区分
総括
研究課題名
テロメラーゼ依存性蛍光発現ナノバイオ・ウイルス製剤を標識薬剤とする高感度リアルタイム微小癌転移イメージングシステムの開発
課題番号
H21-ナノ・一般-008
研究年度
平成23(2011)年度
研究代表者(所属機関)
藤原 俊義(岡山大学 大学院医歯薬学総合研究科)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 医療機器開発推進研究(医療機器[ナノテクノロジー等]総合推進研究)
研究開始年度
平成21(2009)年度
研究終了予定年度
平成23(2011)年度
研究費
38,491,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
天然に存在する生物由来の蛍光タンパク質は、至適な波長の励起光を吸収することにより強い蛍光を発し、導入した細胞を生きたままの状態で可視化することができる。GFPをはじめとする蛍光タンパク質を用いた分子イメージングは、最先端の生命科学の研究や技術開発には広範囲に利用されているが、医療への応用は未だ研究段階であり、実際にヒトに臨床応用された事例はない。本研究では、新たに鏡視下手術用の高感度蛍光感知機能を付与したビデオスコープを試作し、大動物でその操作性と有用性を評価することで、最近の腹腔鏡・胸腔鏡手術の普及に対応した、より実践的な低侵襲治療の確立を目指す。
研究方法
GFPより深部の微小癌組織を高感度に検出するために、組織透過性の高い近赤外蛍光を発する蛍光タンパク質を搭載した新たなウイルス標識薬剤を作成した。GFPの蛍光波長505 nmより長く組織透過性の高い635 nmの近赤外蛍光を発するイソギンチャクEntacmaea quadricolor由来の新しい蛍光タンパク質Katushkaをコードする遺伝子を、幼児の「かぜ」症状の原因となるアデノウイルス5型のE1欠失領域にサイトメガロウイルス・プロモーターとともに挿入した。また、近赤外蛍光を可視化することができる高感度蛍光検出ビデオスコープを試作した。
結果と考察
全身麻酔下のミニブタにKatushka遺伝子発現H1299ヒト肺癌細胞を濃縮懸濁液にして開腹にて胃壁漿膜下や近傍リンパ節に注入し、高感度近赤外蛍光検出ビデオスコープにて腹腔内を観察したところ、近赤外蛍光が明瞭に検出可能であった。また、陽性コントロールとして赤色ビーズを同様に胃漿膜下やリンパ節に投与して同様に観察可能であることを確認した。さらに、胃漿膜下にインジゴカルミン色素を注入し、リンパ流が近傍リンパ節に流入することを検証し、病変近辺に投与したウイルス製剤がリンパ節まで到達できることを確認した。
結論
大動物において高感度蛍光検出ビデオスコープ試作機にてKatushka遺伝子発現による近赤外蛍光を可視化することができた。

公開日・更新日

公開日
2012-06-26
更新日
-

文献情報

文献番号
201111010B
報告書区分
総合
研究課題名
テロメラーゼ依存性蛍光発現ナノバイオ・ウイルス製剤を標識薬剤とする高感度リアルタイム微小癌転移イメージングシステムの開発
課題番号
H21-ナノ・一般-008
研究年度
平成23(2011)年度
研究代表者(所属機関)
藤原 俊義(岡山大学 大学院医歯薬学総合研究科)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 医療機器開発推進研究(医療機器[ナノテクノロジー等]総合推進研究)
研究開始年度
平成21(2009)年度
研究終了予定年度
平成23(2011)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
天然に存在する生物由来の蛍光タンパク質は、至適な波長の励起光を吸収することにより強い蛍光を発し、導入した細胞を生きたままの状態で可視化することができる。本研究では、新たに鏡視下手術用の高感度蛍光感知機能を付与したビデオスコープを試作し、大動物でその操作性と有用性を評価することで、最近の腹腔鏡・胸腔鏡手術の普及に対応した、より実践的な低侵襲治療の確立を目指す。
研究方法
TelomeScanは幼児の「かぜ」症状の原因となるアデノウイルス5型を基本骨格とし、テロメラーゼ構成成分であるhTERT遺伝子のプロモーターの下流にウイルス増殖に必須のE1遺伝子が組み込まれている。TelomeScanは癌細胞で選択的に増殖してGFP蛍光を発する。Ad-Katushkaは、組織透過性の高い近赤外蛍光を発する蛍光タンパク質を搭載したウイルス標識薬剤である。高感度GFP蛍光および近赤外蛍光検出ビデオスコープを試作し、蛍光ビーズ、あるいは遺伝子導入ヒト癌細胞が大動物で可視化できるかどうかを検証した。
結果と考察
初年度である平成21年度は、GFPを可視化することができる高感度蛍光感知ビデオスコープの第1号試作機、および小型・軽量化した第2号試作機を作成した。全身麻酔下のミニブタで、経口的に挿入した消化管内視鏡で胃粘膜下にTelomeScanと同一の蛍光特性を持つ蛍光ビーズを注入したところ、腹腔内から第2号試作機にて極めて良好に胃から所属リンパ節へのリンパ流をリアルタイムに確認することができた。研究2年目には、高感度蛍光感知ビデオスコープ第2号試作機によるミニブタの組織におけるGFP遺伝子発現の検出を試みた。Ad-GFPの投与では蛍光発現はみられなかったが、細胞レベルでGFP発現していると高感度に検出可能であることが明らかとなった。また、近赤外蛍光Katushka遺伝子を挿入した非増殖型アデノウイルスベクター(Ad-Katushka)を作成し、各種ヒト癌細胞において近赤外蛍光の発現を確認した。最終年度には、近赤外蛍光感知ビデオスコープを試作し、Ad-Katushkaをex vivoで感染させたヒト癌細胞を投与して空間的検出能を含めたビデオスコープの機能解析を行った。
結論
蛍光遺伝子発現で組織を特異的にラベリングすることができ、大動物において高感度蛍光検出ビデオスコープを用いてリンパ流や臓器近傍のリンパ節、組織を可視化することが可能であった。

公開日・更新日

公開日
2012-06-26
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201111010C

成果

専門的・学術的観点からの成果
蛍光タンパク質を用いたin vivo蛍光イメージングは、最先端の生命科学の研究に重要な技術であるが、医療の現場で実用化された事例はまだない。本研究では、蛍光タンパク質をコードする遺伝子を搭載したウイルス製剤が感染した癌細胞を高感度蛍光感知ビデオスコープで検出できることを証明し、診断用イメージング医薬品としてのウイルスの可能性を示した。また、励起波長と蛍光波長を調整することで、緑色蛍光、近赤外蛍光いずれも使用できることを明らかとした。
臨床的観点からの成果
蛍光遺伝子発現で組織を特異的にラベリングすることができ、大動物(ミニブタ)の腹腔鏡手術において、高感度蛍光検出ビデオスコープを用いてリンパ流や臓器近傍のリンパ節、組織を可視化することが可能であった。この鏡視下手術用外科ナビゲーション・システムにより、手術中にリアルタイムにリンパ節転移などの微小癌組織を同定することができ、必要最小限の領域を切除する超縮小手術の施行が可能となると期待される。
ガイドライン等の開発
特に大きく関与はしていない。
その他行政的観点からの成果
本研究に用いるウイルス製剤の基本骨格となるテロメラーゼ依存性アデノウイルス製剤Telomelysinの臨床試験は米国で終了しており、その腫瘍内投与の安全性は確立されている。本邦では、放射線と併用するプロトコールで臨床研究として厚生労働省で審査中であり、承認されれば本邦でもテロメラーゼ依存性アデノウイルス製剤のヒトへの投与が可能となる。
その他のインパクト
本研究に用いたアデノウイルス製剤で循環癌細胞が可視化できることが毎日新聞で紹介され(H22/9/25)、また骨軟部腫瘍にも有効であることが地方新聞(山陽新聞、H23/8/25)で取り上げられ、その細胞障害活性にmicro-RNAが関与していることも注目された(山陽新聞、H23/9/22)。市民公開講座「がんと闘う医療:最先端の治療現場から」(H23/1)、健康増進プロジェクト第7回岡山健康フォーラム「消化器がん治療の最前線」(H24/4)でも、その可能性について期待されていることが紹介された。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
43件
その他論文(和文)
14件
その他論文(英文等)
2件
学会発表(国内学会)
44件
学会発表(国際学会等)
41件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
2件
市民公開講座

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Kurihara, Y., Watanabe, Y., Onimatsu, H., et al.
Telomerase-specific virotheranostics for human head and neck cancer.
Clinical Cancer Research , 15 , 2335-2343  (2009)
原著論文2
Ikeda, Y., Kojima, T., Kuroda, S., et al.
A novel antiangiogenic effect for telomerase-specific virotherapy through host immune system.
Journal of Immunology , 182 , 1763-1769  (2009)
原著論文3
Liu, D., Kojima, T., Ouchi, M., et al.
Preclinical evaluation of synergistic effect of telomerase-specific oncolytic virotherapy and gemcitabine for human lung cancer.
Molecular Cancer Therapeutics , 8 , 980-987  (2009)
原著論文4
Kishimoto, H., Zhao, M., Hayashi, K., et al.
In vivo internal tumor illumination by telomerase-dependent adenoviral GFP for precise surgical navigation.
Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America , 106 , 14514-14517  (2009)
原著論文5
Kojima, T., Hashimoto, Y., Watanabe, Y., et al.
A simple biological imaging system for detecting viable human circulating tumor cells.
Journal of Clinical Investigation , 119 , 3172-3181  (2009)
原著論文6
Kishimoto, H., Urata, Y., Tanaka, N., et al.
Selective metastatic tumor labeling with green fluorescent protein and killing by systemic administration of telomerase-dependent adenoviruses.
Molecular Cancer Therapeutics , 8 , 3001-3008  (2009)
原著論文7
Ouchi, M., Kawamura, H., Urata, Y., et al.
Antiviral activity of cidofovir against telomerase-specific replication-selective oncolytic adenovirus, OBP-301 (Telomelysin).
Investigational New Drugs , 27 , 241-245  (2009)
原著論文8
Nemunaitis, J., Tong, A. W., Nemunaitis, M., et al.
A phase I study of telomerase specific replication competent oncolytic adenovirus (Telomelysin) for various solid tumors.
Molecular Therapy , 18 , 429-434  (2010)
原著論文9
Kuroda, S., Fujiwara, T., Shirakawa, Y., et al.
Telomerase-dependent oncolytic adenovirus sensitizes human cancer cells to ionizing radiation via inhibition of DNA repair machinery.
Cancer Research , 70 , 9339-9348  (2010)
原著論文10
Sakai, R., Kagawa, S., Yamasaki, Y., et al.
Preclinical evaluation of differentially targeting dual virotherapy for human solid cancer.
Molecular Cancer Therapeutics , 9 , 1884-1893  (2010)
原著論文11
Kojima, T., Watanabe, Y., Hashimoto, Y., et al.
In vivo biological purging for lymph node metastasis of human colorectal cancer by telomerase-specific oncolytic virotherapy.
Annals of Surgery , 251 , 1079-1086  (2010)
原著論文12
Watanabe, Y., Kojima, T., Kagawa, S., et al.
A novel translational approach for human malignant pleural mesothelioma: heparanase-assisted dual virotherapy.
Oncogene , 29 , 1145-1154  (2010)
原著論文13
Sasaki, T., Tazawa, H., Hasei, J., et al.
Preclinical evaluation of telomerase-specific oncolytic virotherapy for human bone and soft tissue sarcomas.
Clinical Cancer Resarch , 17 , 1828-1838  (2011)
原著論文14
Kishimoto, H., Aki, R., Urata, Y., et al.
Tumor-selective adenoviral-mediated GFP genetic labeling of human cancer in the live mouse reports future recurrence after resection.
Cell Cycle , 10 , 2737-2741  (2011)
原著論文15
Tazawa, H., Kagawa, S., Fujiwara, T.
MicroRNA as potential target gene in cancer gene therapy of gastrointestinal tumors.
Expert Opinion on Biological Therapy , 11 , 145-155  (2011)
原著論文16
Fujiwara, T., Shirakawa, Y., Kagawa, S.
Telomerase-specific oncolytic virotherapy for human gastrointestinal cancer.
Expert Review of Anticancer Therapy , 11 , 522-532  (2011)
原著論文17
Sasaki, T., Tazawa, H., Hasei, J., et al.
A simple detection system for adenovirus receptor expression using a telomerase-specific replication-competent adenovirus.
Gene Therapy , 20 , 112-118  (2013)
原著論文18
Yamasaki, Y., Tazawa, H., Hashimoto, Y., et al.
A novel apoptotic mechanism of genetically engineered adenovirus-mediated tumor-specific p53 overexpression through E1A-dependent p21 and MDM2 suppression.
European Journal of Cancer , 48 , 2282-2291  (2012)
原著論文19
Tazawa, H., Yano, S., Yoshida, R., et al.
Genetically engineered oncolytic adenovirus induces autophagic cell death through an E2F1-microRNA-7-epidermal growth factor receptor axis.
International Journal of Cancer , 131 , 2939-2950  (2012)
原著論文20
Kikuchi, S., Kishimoto, H., Tazawa, H.,et al
Biological ablation of sentinel lymph node metastasis in submucosally invaded early gastrointestinal cancer.
Molecular Therapy , 23 , 501-509  (2015)

公開日・更新日

公開日
2015-05-27
更新日
2017-06-20

収支報告書

文献番号
201111010Z