構造生物学的アプローチによるアルツハイマー病の病態解明と分子標的治療の開発

文献情報

文献番号
201111009A
報告書区分
総括
研究課題名
構造生物学的アプローチによるアルツハイマー病の病態解明と分子標的治療の開発
課題番号
H21-ナノ・一般-007
研究年度
平成23(2011)年度
研究代表者(所属機関)
星 美奈子(先端医療振興財団 先端医療センター 医薬品開発研究グループ)
研究分担者(所属機関)
  • 鍋島 陽一(先端医療振興財団 先端医療センター)
  • 菊地 和也(大阪大学 大学院工学研究科 )
  • 廣明 秀一(神戸大学 大学院医学研究科)
  • 村松 慎一(自治医科大学 医学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 医療機器開発推進研究(医療機器[ナノテクノロジー等]総合推進研究)
研究開始年度
平成21(2009)年度
研究終了予定年度
平成23(2011)年度
研究費
50,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究ではアミロスフェロイド(ASPD)の立体構造を解明し、神経細胞上にある標的分子へのASPDの結合を阻止することで安全で効果的な新規分子標的治療法の開発に結びつけようとするものである。
研究方法
そのため、倫理面に配慮し、ASPDの(1)分子構造解析、(2)標的分子の同定と機能解析、(3)非侵襲的観測法の構築を目標として研究を遂行した。
結果と考察
目標(1)については、今回、我々は、NMR測定に十分量の安定同位体標識したAβ (1-40)/(1-42)を調製することを検討し、これに成功した。さらに、安定同位体標識したAβ (1-40)からのASPDの作成を検討し、その収率を上げることができた。
 目標(2)については、ASPD標的分子の候補として、成熟神経細胞に特異的に発現するシナプスタンパク質を同定した。この新規標的分子は、成熟神経細胞の生存と機能に極めて重要な役割を果たしていると考えられ、ASPDによりその機能が阻害され細胞死が起きていることが示唆された(大西・井上・星、未発表データ)。この新規標的分子の機能の解明により、成熟神経細胞に起こる死の分子機構が解明出来ると期待される。また、 血管内投与により広範な脳領域の神経細胞に遺伝子導入可能なアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターを開発し, 筋肉内注射によっても中枢神経の神経細胞に治療用遺伝子を送達することが可能なことを明らかにした. このベクターを応用してASPDに対する特異的抗体分子を発現するベクターを作製した.
 目標(3)については、プローブの血液脳関門(BBB)透過性が脳のイメジングでは大きな問題となるため、BBB透過能を持ち中枢神経細胞に選択的に導入されるRabies virus糖蛋白質由来ペプチドに着目し、そのペプチドを遺伝子工学により融合させた蛋白質の神経細胞選択的導入を行った。さらに、蛋白質化学修飾法とデリバリー法を組み合わせることで、蛋白質と共に小分子プローブを神経細胞に選択的に導入する技術を開発した。
結論
この取り組みにより、治療効果のある抗ASPD抗体あるいはペプチドを神経細胞内で発現することが可能となり、本研究の目的とする構造情報から新たな治療法及び診断方法を開発出来ることが期待出来る。上記のとおり、目標に向けて研究は順調に進行し、全く新しい切り口の診断と治療方法を開発する基盤を産業界に提供できるのではないかと考えている。

公開日・更新日

公開日
2012-06-26
更新日
-

文献情報

文献番号
201111009B
報告書区分
総合
研究課題名
構造生物学的アプローチによるアルツハイマー病の病態解明と分子標的治療の開発
課題番号
H21-ナノ・一般-007
研究年度
平成23(2011)年度
研究代表者(所属機関)
星 美奈子(先端医療振興財団 先端医療センター 医薬品開発研究グループ)
研究分担者(所属機関)
  • 藤吉 好則(平成21年度)(京都大学 大学院理学研究科)
  • 鍋島 陽一(先端医療振興財団 先端医療センター)
  • 菊地 和也(大阪大学 大学院工学研究科)
  • 廣明 秀一(神戸大学 大学院医学研究科)
  • 村松 慎一(自治医科大学 医学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 医療機器開発推進研究(医療機器[ナノテクノロジー等]総合推進研究)
研究開始年度
平成21(2009)年度
研究終了予定年度
平成23(2011)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究ではアミロスフェロイド(ASPD)の立体構造を解明し、神経細胞上にある標的分子へのASPDの結合を阻止することで安全で効果的な新規分子標的治療法の開発に結びつけようとするものである。
研究方法
そのため、倫理面に配慮し、ASPDの(1)分子構造解析、(2)標的分子の同定と機能解析、(3)非侵襲的観測法の構築を目標として研究を遂行した。
結果と考察
目標(1)については、NMRの構造解析を実施し、ASPDは既存のAβ凝集体とは異なる特異的な立体構造を持つことを示した。上記を達成するためには、Aβの安定同位体標識体を大量に得る必要があるが、そのためにユビキチン- Aβ (1-40)/(1-42) の融合タンパク質を大腸菌で発現する系を確立し、安定同位体標識を施したAβ (1-40)/(1-42)を高収量で得る方法を確立した。
 目標(2)については、ASPD標的分子の候補として、成熟神経細胞に特異的に発現するシナプスタンパク質を同定した。この新規標的分子は、成熟神経細胞の生存と機能に極めて重要な役割を果たしていると考えられ、ASPDによりその機能が阻害され細胞死が起きていることが示唆され、初めて患者脳で起こる神経細胞死の機構に明快な説明が可能となった。また、発達過程の影響を受けない新規のモデル動物を作製するためアデノ随伴ウイルス(AAV)を応用した. AAVのカプシド蛋白およびゲノム配列を改変し, 広範な脳領域の神経細胞特異的にアミロイド前駆体蛋白質遺伝子を発現可能な血管内投与型AAVベクターを開発した。
 目標(3)については、プローブの血液脳関門(BBB)透過性が脳のイメジングでは大きな問題となるため、BBB透過能を持ち中枢神経細胞に選択的に導入される狂犬病ウイルスRabies virus糖蛋白質由来ペプチドに着目し、蛋白質デリバリー法の開発を行った。また、nAChR結合ペプチドの中から新規神経細胞導入ペプチドを見出した。これらのペプチドを利用して、遺伝子発現ウイルスベクターAAVの脳内神経細胞における発現に成功し、蛋白質及び小分子プローブを神経細胞に導入する技術を開発した。
結論
この取り組みにより、治療効果のある抗ASPD抗体あるいはペプチドを神経細胞内で発現することが可能となり、本研究の目的とする構造情報から新たな治療法及び診断方法を開発出来ることが期待出来る。上記のとおり、目標に向けて研究は順調に進行し、将来的に全く新しい切り口の診断と治療方法を開発する基盤を産業界に提供できるのではないかと考えている。

公開日・更新日

公開日
2012-06-26
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

公開日・更新日

公開日
2013-02-18
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201111009C

成果

専門的・学術的観点からの成果
アルツハイマー病ではAβが凝集し異常構造体を形成し神経毒性を獲得する。代表者らは、患者脳より世界で初めて神経細胞死の直接原因となる異常構造体ASPDの単離に成功した。本研究により、
1:ASPDの構造を解明、結合ペプチドを得た。
2:ASPD標的分子を同定し神経細胞死機構を解明した。
3:新たな遺伝子ベクター及びタンパク質/低分子脳内デリバリー法を開発した。
4:Aβ凝集過程の新たな観測手法を開発し論文化した。
5:ASPD結合ペプチドからASPD非侵襲的観測法の構築を開始した。
臨床的観点からの成果
1:について日米に特許出願し、治療薬開発を目指し製薬企業にライセンスアウトした。
2:も日米に特許出願し、製薬企業にライセンスアウトした。
3:それぞれ特許出願し、論文化した。
5:PETプローブ開発企業と提携した。
その他、ASPDの神経毒性を中和出来る抗ASPD抗体を用いた治療法については、ヒト化抗ASPD抗体をGMPグレードで製造する方法を確立し、サル雌雄4匹を用いた非臨床試験により100 mg/kgまで安全であることを示し、治験概要書の作製が可能となった。
ガイドライン等の開発
本成果を基に、アルツハイマー病の前臨床におけるガイドラインのたたき台を作り、今、星が特定准教授を務める京都大学のHPなどでパブリックコメントを募集中である。http://www.med.kyoto-u.ac.jp/outline/results/
その他行政的観点からの成果
上記のとおり、本研究の成果が、製薬企業及び医療機器開発メーカーとの連携に繋がった。
その他のインパクト
海外より共同研究者を招聘し、国際シンポジウムを公開で開催した。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
58件
その他論文(和文)
4件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
174件
学会発表(国際学会等)
64件
その他成果(特許の出願)
11件
「出願」「取得」計11件
その他成果(特許の取得)
3件
その他成果(施策への反映)
1件
その他成果(普及・啓発活動)
2件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Noguchi, A. et al.
Isolation and characterization of patient-derived, toxic, high-mass amyloid β-protein (Aβ) assembly from Alzhiemer’s disease brains
J. Biol. Chem. , 284 , 32895-32905  (2009)
原著論文2
Matsumura, S. et al.
Two distinct amyloid β-PROTEIN (Aβ) assembly pathways leading to oligomers and fibrils identified by combined fluorescence correlation spectroscopy, morphology and toxicity analyses
J. Biol. Chem. , 286 , 11555-11562  (2011)
原著論文3
Watanabe, S. et al.
Multicolor Protein Labeling in Living Cells Using Mutant β-Lactamase-tag Technolog
Bioconjug. Chem. , 21 , 2320-2326  (2010)
原著論文4
Sadhu, K. K. et al.
Turn-on Fluorescence Switch Involving Aggregation and Elimination Processes for b-Lactamase-Tag
Chem. Commun. , 46 , 7403-7405  (2010)
原著論文5
Sadhu, K. K. et al.
Sequential ordering among multicolor fluorophores for protein labeling facility via aggregation- elimination based β-lactam probes.
Mol. Biosyst. , 7 , 1766-1772  (2011)
原著論文6
Yoshimura, A. et al.
Cell-surface protein labeling with luminescent nanoparticles through biotinylation by using mutant β-lactamase-tag technology
Chembiochem. , 12 , 1031-1034  (2011)
原著論文7
Mizukami, S. et al.
19F MRI detection of β-galactosidase activity for imaging of gene expression.
Chem. Sci , 2 , 1151-1155  (2011)
原著論文8
Sadhu, K. K. et al.
Switching Modulation for protein labeling with activatable fluorescent probes.
Chembiochem. , 12 , 1299-1308  (2011)
原著論文9
Watanabe, S. et al.
Intracellular Protein Labeling with Prodrug-Like Probes Using a Mutant β-Lactamase Tag.
Chem. Eur. J. , 17 , 8342-8349  (2011)
原著論文10
Mizukami, S. et al.
No-Wash Protein Labeling Designed Fluorogenic Probes and Application to Real-Time Pulse-Chase Analysis
J. Am. Chem. Soc. , 134 , 1623-1629  (2012)
原著論文11
Sadhu, K. st al.
Fluorogenic Protein Labeling through Photoinduced Electron Transfer-Based BL-tag Technology
Chem. Asian. J. , 7 , 272-276  (2012)
原著論文12
Hori, Y. et al.
Development of Protein-Labeling Probes with Redesigned Fluorogenic Switch Based on Intramolecular Association for No-wash Live-cell Imaging.
Angew. Chem. Int. Ed  (2012)
原著論文13
Muramatsu S et al.
Multi-tracer assessment of dopamine function after transplantation of embryonic stem cell-derived neural stem cells in a primate model of Parkinson’s disease.
Synapse , 63 , 541-548  (2009)
原著論文14
Tanaka Y et al.
ERas is expressed in primate embryonic stem cells but not related to tumorigenesis
Cell Transplant , 18 , 381-389  (2009)
原著論文15
Okuno T et al.
Self-contained induction of neurons from human embryonic stem cells
PLoS ONE , 4  (2009)
原著論文16
Ito T et al.
A convenient enzyme-linked immunosorbent assay for rapid screening of anti-adeno-associated virus neutralising antibodies.
Ann Clin Biochem , 46 , 508-510  (2009)
原著論文17
Kadkhodaei B et al.
Nurr1 is Required for Maintenance of Maturing and Adult Midbrain Dopamine Neurons.
J Neurosci , 29 , 15923-15932  (2009)
原著論文18
Krzyżosiak A et al.
Retinoid X receptor gamma control of motivated behaviours involves dopaminergic signalling in mice.
Neuron , 66 , 908-920  (2010)
原著論文19
Muramatsu S et al.
A phase I study of aromatic L-amino acid decarboxylase gene therapy for Parkinson’s disease.
Mol Ther, , 18 , 1731-1735  (2010)
原著論文20
Muramatsu S et al.
Gene therapy for Parkinson's disease. Strategies for the local production of dopamine.
Gene Therapy & Regulation , 5 , 57-65  (2010)

公開日・更新日

公開日
2015-06-16
更新日
2017-06-20

収支報告書

文献番号
201111009Z