文献情報
文献番号
199700909A
報告書区分
総括
研究課題名
加齢による視聴覚障害の危険因子に関する縦断的研究
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
下方 浩史(国立療養所中部病院長寿医療研究センター)
研究分担者(所属機関)
- 葛谷文男(名古屋大学名誉教授、社団法人オリエンタル労働衛生協会理事長)
- 長田久雄(東京都立医療技術短期大学部教授)
- 中島務(名古屋大学部医学部耳鼻咽喉科学教室教授)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 感覚器障害及び免疫・アレルギー等研究事業(感覚器障害研究分野)
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
平成11(1999)年度
研究費
55,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
本研究の目的は視聴覚機能の経年変化を縦断的疫学調査から、視聴覚機能低下の危険因子を解明し、予防・早期発見に資することである。数千人以上の一般人を対象とした大規模な感覚器機能の縦断的調査での検討は、通常は膨大な予算と人材を要するためほとんど行われていない。その上加齢や喫煙・飲酒などの生活習慣との関連を詳細に検討した研究は、非常に重要な問題にも関わらず、国内外をみてもほとんどない。国民の関心も疾患から健康そのものに移りつつある。より健康的な生活環境整備のためには感覚機能低下の危険因子の解明は早急に着手すべき問題であろう。
研究方法
(1)1989年から追跡されている10歳代から90歳代の66,000人の大規模集団ですでに蓄積されている視覚・聴覚基本特性、喫煙・飲酒などの生活習慣、生理機能についてのデータを用いて、感覚機能基本特性の縦断的経年変化と機能低下の危険因子の検討を行う。対象者は名古屋市内の人間ドック受診者であり、毎年約25,000人が受診し、医学的検査だけでなく喫煙飲酒などの生活習慣や疾病治療についての調査も行っている。受診者の半数以上が複数年にわたって継続して受診を繰り返しており、多因子についての大規模な横断的および縦断的解析が可能である。
(2)米国国立老化研究所で実施中されているボルチモア加齢縦断研究で、1961年から1993年までに聴力検査を受けた男性1,326名を対象に聴力の縦断的変化を検討するとともに、聴力損失の危険因子としての喫煙の影響を検討し、日米の比較を行った。
(3)A県B村に居住する65歳以上の1,153人を対象として、面接調査と医学検診を実施した。今回は、聴力および視力の主観的評価との関連を男女別に分析した。検討した項目は、年齢、活動能力、抑うつ状態、生活満足度、健康度自己評価、高血圧の既往、糖尿病の既往、過去1年間の転倒、過去1年間の骨折、散歩、運動、趣味、飲酒の状況であった。活動能力は、老研式活動能力指標を用いて評価し、うつ状態は、Geriatric Depression Scale短縮版を用いて評価した。
(4)1972年から1996年までに一側性突発性難聴の発症後2週間以内に名古屋大学耳鼻咽喉科を受診した1,725名を対象とし、健側の聴力を検討した。周波数は250Hz、500Hz、1kHz、2kHz、4kHz、8kHzの値を用い、10歳ごとの年齢階級別に聴力の解析を行った。
(5)長寿医療研究センターで実施を開始した老化の長期縦断疫学研究は、対象を当センター周辺(大府市および知多郡東浦町)の地域住民からの無作為抽出者(観察開始時年齢40-79歳)としている。調査内容資料の郵送後、参加希望者に調査内容に関する説明会を実施し、文章による同意(インフォームド・コンセント)の得られた者を対象者とした。対象は40,50,60,70代男女同数とし2年ごとに調査を行う。2年間で計2,400人の調査を目標としている。測定項目は感覚器機能の加齢変化に対してリスクとなりうる、もしくは感覚器機能の低下に伴って影響を受けると考えられる多くの項目について、感覚器機能を中心とした医学分野のみならず、運動生理学分野、栄養学分野、心理学分野のそれぞれの専門家が詳細な基礎データを収集した。
(2)米国国立老化研究所で実施中されているボルチモア加齢縦断研究で、1961年から1993年までに聴力検査を受けた男性1,326名を対象に聴力の縦断的変化を検討するとともに、聴力損失の危険因子としての喫煙の影響を検討し、日米の比較を行った。
(3)A県B村に居住する65歳以上の1,153人を対象として、面接調査と医学検診を実施した。今回は、聴力および視力の主観的評価との関連を男女別に分析した。検討した項目は、年齢、活動能力、抑うつ状態、生活満足度、健康度自己評価、高血圧の既往、糖尿病の既往、過去1年間の転倒、過去1年間の骨折、散歩、運動、趣味、飲酒の状況であった。活動能力は、老研式活動能力指標を用いて評価し、うつ状態は、Geriatric Depression Scale短縮版を用いて評価した。
(4)1972年から1996年までに一側性突発性難聴の発症後2週間以内に名古屋大学耳鼻咽喉科を受診した1,725名を対象とし、健側の聴力を検討した。周波数は250Hz、500Hz、1kHz、2kHz、4kHz、8kHzの値を用い、10歳ごとの年齢階級別に聴力の解析を行った。
(5)長寿医療研究センターで実施を開始した老化の長期縦断疫学研究は、対象を当センター周辺(大府市および知多郡東浦町)の地域住民からの無作為抽出者(観察開始時年齢40-79歳)としている。調査内容資料の郵送後、参加希望者に調査内容に関する説明会を実施し、文章による同意(インフォームド・コンセント)の得られた者を対象者とした。対象は40,50,60,70代男女同数とし2年ごとに調査を行う。2年間で計2,400人の調査を目標としている。測定項目は感覚器機能の加齢変化に対してリスクとなりうる、もしくは感覚器機能の低下に伴って影響を受けると考えられる多くの項目について、感覚器機能を中心とした医学分野のみならず、運動生理学分野、栄養学分野、心理学分野のそれぞれの専門家が詳細な基礎データを収集した。
結果と考察
(1)一般男女66,000人の大規模集団での縦断的データによる聴力の解析では、男女とも30歳代から明らかに加齢に伴って聴力低下が認められた。この聴力の低下は1,000Hz、2,000Hz、4,000Hzと男女とも高音になるほど大きかった。男性での聴力低下は高音域で女性よりも大きかったが、出生コホートによる加齢変化の差はどの周波数でもほとんどなかった。聴力低下の要因として喫煙との関係を検討した結果、男女ともに喫煙者で聴力損失が大きく、特に女性で喫煙本数と聴力低下の間に明らかな用量反応関係が認められた。
(2)米国NIAとの聴力の国際比較研究では、日米ともに喫煙は聴力損失の危険因子であることが示された。特に米国のデータの解析では喫煙による聴力障害の影響を縦断的に確認することができた。
(3)聴力、視力について、「普通」と「低」の2群間で、活動能力、抑うつ状態、生活満足度の平均のt検定を行なった結果を示した。聴力の「低」群は「普通」群と比較して、男女ともに活動能力が有意に低かった。また、男性では抑うつ状態が有意に強く、女性では強い傾向がみられた。生活満足度には有意差はみられなかった。視力の「低」群は「普通」群と比較して、男女ともに抑うつ状態が有意に強く、女性では活動能力と生活満足度が有意に低かった。男性では、活動能力に低い傾向がみられ、生活満足度には有意差はみられなかった。
(4)一側性突発性難聴患者の、健側の聴力を加齢変化の検討では、66,000人の大規模集団での解析とほぼ同様の加齢変化が認められた。
(5)長寿医療研究センターでの老化の縦断疫学研究では、平成9年10月にボランティアを対象にテストランを行い、実施上の問題点の解決を図った後、11月より無作為抽出集団を対象に実際の調査を開始した。平成9年度は合計約200名、平成10年度は年間1200名の実施を行う。調査の中間データの横断的解析を現在実施中である。本年度は開始してまだ日が浅いため視機能の解析の一部の結果しか示すことが出来なかったが、いくつかの重要な視機能の加齢変化のパターンを検討することが出来た。
縦断的疫学はその調査が継続的かつ信頼性の高いものであることが不可欠であり、施設での詳細な検討には人材・設備・経費が莫大なものとなるため、国家的プロジェクトとして進めることが重要である。特に感覚器機能の老化については、包括的縦断研究がほとんどなされていないのが現状である。
本年度の研究で、いくつかの集団での聴覚機能の縦断的加齢変化を検討するとともに、聴力が喫煙によって大きく影響を受けることを示すことが出来た。特に7万人近い大規模集団での縦断的検討は世界でも初めてと思われる。また聴力の国際比較では検査機器の精度、検査手技の問題もあり、測定値の単純な比較は出来ないが、危険因子の検討に関しては、日本の結果と同様に米国でのデータでも喫煙が聴力損失に有意な影響を与えることが確認できた。こうした国際的な比較研究は、詳細な縦断データを蓄積していくことで、より広範囲に実施できるようになっていくものと期待できる。
本年度11月より開始した当研究所での老化の縦断研究は、世界の最も優れているといわれる老化の縦断研究である米国国立老化研究所(NIA)でのボルチモア加齢縦断研究(BLSA)に劣らない、むしろ感覚器の老化に関しては内容・規模をともにBLSAを越える、世界に誇れる縦断研究である。今後この調査から得られる感覚器機能の加齢に関する調査成果は、世界における老化研究をリードするものとなろう。
(2)米国NIAとの聴力の国際比較研究では、日米ともに喫煙は聴力損失の危険因子であることが示された。特に米国のデータの解析では喫煙による聴力障害の影響を縦断的に確認することができた。
(3)聴力、視力について、「普通」と「低」の2群間で、活動能力、抑うつ状態、生活満足度の平均のt検定を行なった結果を示した。聴力の「低」群は「普通」群と比較して、男女ともに活動能力が有意に低かった。また、男性では抑うつ状態が有意に強く、女性では強い傾向がみられた。生活満足度には有意差はみられなかった。視力の「低」群は「普通」群と比較して、男女ともに抑うつ状態が有意に強く、女性では活動能力と生活満足度が有意に低かった。男性では、活動能力に低い傾向がみられ、生活満足度には有意差はみられなかった。
(4)一側性突発性難聴患者の、健側の聴力を加齢変化の検討では、66,000人の大規模集団での解析とほぼ同様の加齢変化が認められた。
(5)長寿医療研究センターでの老化の縦断疫学研究では、平成9年10月にボランティアを対象にテストランを行い、実施上の問題点の解決を図った後、11月より無作為抽出集団を対象に実際の調査を開始した。平成9年度は合計約200名、平成10年度は年間1200名の実施を行う。調査の中間データの横断的解析を現在実施中である。本年度は開始してまだ日が浅いため視機能の解析の一部の結果しか示すことが出来なかったが、いくつかの重要な視機能の加齢変化のパターンを検討することが出来た。
縦断的疫学はその調査が継続的かつ信頼性の高いものであることが不可欠であり、施設での詳細な検討には人材・設備・経費が莫大なものとなるため、国家的プロジェクトとして進めることが重要である。特に感覚器機能の老化については、包括的縦断研究がほとんどなされていないのが現状である。
本年度の研究で、いくつかの集団での聴覚機能の縦断的加齢変化を検討するとともに、聴力が喫煙によって大きく影響を受けることを示すことが出来た。特に7万人近い大規模集団での縦断的検討は世界でも初めてと思われる。また聴力の国際比較では検査機器の精度、検査手技の問題もあり、測定値の単純な比較は出来ないが、危険因子の検討に関しては、日本の結果と同様に米国でのデータでも喫煙が聴力損失に有意な影響を与えることが確認できた。こうした国際的な比較研究は、詳細な縦断データを蓄積していくことで、より広範囲に実施できるようになっていくものと期待できる。
本年度11月より開始した当研究所での老化の縦断研究は、世界の最も優れているといわれる老化の縦断研究である米国国立老化研究所(NIA)でのボルチモア加齢縦断研究(BLSA)に劣らない、むしろ感覚器の老化に関しては内容・規模をともにBLSAを越える、世界に誇れる縦断研究である。今後この調査から得られる感覚器機能の加齢に関する調査成果は、世界における老化研究をリードするものとなろう。
結論
加齢による感覚器機能の縦断的変化を検討するとともに、聴覚機能低下の予防、早期発見に資するため、聴覚機能低下の危険因子について検討し、喫煙が聴覚に大きく影響を与えることを示した。6万人を越える大規模集団での検討は世界的にも他に類をみないものである。さらに聴力についての国際比較研究を行い、同様の結果を得ることが出来た。また高齢者の視聴覚機能と生活活動、情動との関連があることを地域住民での検討で示すことができた。本年度より当研究所において感覚器機能の老化などを目標にした包括的縦断研究を開始した。このような大規模かつ包括的で詳細な感覚機能の加齢研究は他になく、世界的にも貴重な結果が得られると期待できる。
公開日・更新日
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