抑肝散の精神機能障害に対する効能解析への科学的・分子生物学的アプローチ

文献情報

文献番号
201110011A
報告書区分
総括
研究課題名
抑肝散の精神機能障害に対する効能解析への科学的・分子生物学的アプローチ
課題番号
H22-創薬総合・一般-004
研究年度
平成23(2011)年度
研究代表者(所属機関)
遠山 正彌(大阪大学大学院 医学系研究科/小児発達学研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 掛樋 一晃(近畿大学 薬学部)
  • 島田 昌一(大阪大学大学院 医学系研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 創薬基盤推進研究(創薬総合推進研究)
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究費
14,620,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
抑肝散は認知症の治療に有効な成分を含むのみならず統合失調症に有効な成分をも含む可能性が示されており、さらに漢方薬は長年の歴史から副作用は少なく安全性が確保されている。しかしながら疾患に有効であるという科学的立証が殆どなされていないため、一般的に広く普及しているとはいえない。本研究は認知症や統合失調症に有効とされている抑肝散の科学的立証を目指すものである。
研究方法
認知症研究:抑肝散各構成分の小胞体ストレスに対する防御機序をSK-N-SHヒト神経芽細胞腫、Neuro2aマウス神経芽細胞腫で検討した。
統合失調症研究:抑肝散に含まれるアルカロイドの一成分であるガイソシジンメチルエーテルがドーパミン受容体に対してどの様に作用するかを、細胞内Ca2+イメージング法を用いて解析した。本研究では抑肝散の構成生薬の釣籐鈎のアルカロイドの一成分であるガイソシジンメチルエーテルがドーパミン受容体に与える影響について検討した。
結果と考察
認知症研究:本年度はヒト神経細胞芽腫細胞Sk-N-SH細胞への小胞体ストレスに対してサイコが、マウス神経芽腫細胞でブクリョウ、トウキも小胞体ストレス負荷による神経細胞死を抑制する事を明らかにした。また、抑肝散により蛋白質のSUMO化が促進した。この抑肝散中の構成生薬のうち、サイコ(Bupleurum falcatum)中にはβセクレターゼに対し阻害活性を示す成分が含まれ、その活性成分が脂溶性成分であると考えられた。
統合失調症研究:ガイソシジンメチルエーテルはD2受容体にパーシャルアゴニストであり、パーシャルアンタゴニストであることが明らかとなった。興味深いことにD1受容体はドーパミンには応答するが、ガイソシジンメチルエーテルに対しては全く応答を示さなかった。ガイソシジンメチルエーテルは、第3世代の非定型抗精神病薬のアリピプラゾールと類似した薬理学特性を有しており、ガイソシジンメチルエーテルをリード化合物とした新しい抗精神病薬の開発にも繋がる可能性がある。
結論
抑肝散の認知症に対する効果は小胞体ストレスより回避、SUMO化の亢進により神経細胞を守ることに起因することが明らかとなった。さらにガイソシジンメチルエーテルはドーパミンD2受容体に対してパーシャルアゴニストとして作用することが明らかになり、非定型抗精神病薬のアリピプラゾールと類似した薬理学特性を有することが分かった。

公開日・更新日

公開日
2012-07-02
更新日
-

収支報告書

文献番号
201110011Z