カイコをモデル動物とした生活習慣病予防・治療薬の開発

文献情報

文献番号
201110005A
報告書区分
総括
研究課題名
カイコをモデル動物とした生活習慣病予防・治療薬の開発
課題番号
H21-生物資源・一般-005
研究年度
平成23(2011)年度
研究代表者(所属機関)
関水 和久(東京大学大学院 薬学系研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 松本靖彦(東京大学大学院 薬学系研究科)
  • 片岡啓子(株式会社ゲノム創薬研究所)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 創薬基盤推進研究(創薬総合推進研究)
研究開始年度
平成21(2009)年度
研究終了予定年度
平成23(2011)年度
研究費
9,500,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 糖尿病、脂質異常症などの生活習慣病の患者数は、全世界で増加傾向にある。生活習慣病である糖尿病や脂質異常症の治療薬を開発するためには、血液サンプルを得ることができる疾患動物モデルを使い、研究することが必要である。しかし、これまで用いられてきたマウスやラットなどの哺乳類動物モデルを用いると、費用や動物愛護の倫理的な問題が生じてしまう。この問題を解決するために、我々は、安価で倫理的な問題が少なく、体液中の成分が分析可能なカイコを用いた生活習慣病モデルを開発し、生活習慣病治療薬の候補を得ることができるか挑戦した。本研究の目的は、カイコをモデル動物とした生活習慣病モデルの開発と、その疾患モデルを用いた創薬法の開発である。平成23年度においては、カイコを用いたII型糖尿病モデルの開発と、糖尿病合併症モデルの症状を治療する化合物の同定を行った。
研究方法
 カイコに高カロリーの餌を与えて、II型糖尿病症状を呈するか検討した。このとき、II型糖尿病になっているか、カイコの体液、及び組織の成分解析を行い検証した。カイコの糖尿病合併症モデルの症状を回復させる化合物をスクリーニングした。
結果と考察
我々は、本研究課題において、カイコを用いた①糖尿病モデル、②脂質異常症によるII型糖尿病モデル、③糖尿病合併症モデル、④肝障害モデル、⑤高脂血症モデルの開発に成功した。また、カイコの糖尿病モデルを用いて同定された化合物が糖尿病マウスでも効果を示すことを証明した。このことから、生活習慣病モデルカイコを用いて、ヒトなどの哺乳動物に効果を示す糖尿病治療薬の候補が得られることがわかった。平成23年度では、カイコに高グルコース餌を与えることにより、血中の遊離脂肪酸量の増加、グルコース付加試験での糖の処理能力の低下が引き起こされた。これらの結果は、高グルコース餌により、カイコの耐糖能が低下したことを示唆する。さらに、糖尿病合併症モデルに効果を示す化合物1つを見出した。
結論
 カイコの糖尿病モデルを用いて、哺乳動物の血糖値を低下させる化合物が同定できること、及びカイコをモデル動物として糖尿病合併症モデルを確立できたと判断した。平成23年度で得られた知見は、①II型糖尿病様の症状を示すカイコのモデルを確立できたこと、②糖尿病合併症の治療薬の候補となる化合物を同定できたことを示唆する。

公開日・更新日

公開日
2012-07-02
更新日
-

文献情報

文献番号
201110005B
報告書区分
総合
研究課題名
カイコをモデル動物とした生活習慣病予防・治療薬の開発
課題番号
H21-生物資源・一般-005
研究年度
平成23(2011)年度
研究代表者(所属機関)
関水 和久(東京大学大学院 薬学系研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 松本 靖彦(東京大学大学院 薬学系研究科)
  • 片岡 啓子(株式会社ゲノム創薬研究所)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 創薬基盤推進研究(創薬総合推進研究)
研究開始年度
平成21(2009)年度
研究終了予定年度
平成23(2011)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 糖尿病、脂質異常症などの生活習慣病の患者数は、全世界で増加傾向にある。近年の食の欧米化により、日本人の生活習慣病患者数は急激に増加しており、それによる医療費を支援するための国の財源の確保は困難になることが予想され、社会問題となっている。そこで、我々の研究グループは、生活習慣病に対する予防・治療法を開発する新たな戦略を構築した。
 生活習慣病である糖尿病や脂質異常症の治療薬を開発するためには、血液サンプルを得ることができる疾患動物モデルを使い、研究することが必要である。しかし、これまで用いられてきたマウスやラットなどの哺乳類動物モデルを用いると、費用や動物愛護の倫理的な問題が生じてしまう。この問題を解決するために、我々は、安価で倫理的な問題が少なく、体液中の成分が分析可能なカイコを用いた生活習慣病モデルを開発し、生活習慣病治療薬の候補を得ることができるか挑戦した。
 本研究の目的は、カイコをモデル動物とした生活習慣病モデルの開発と、その疾患モデルを用いた創薬法の開発である。
研究方法
 カイコに高カロリーの餌を与えて、生活習慣病にした。このとき、生活習慣病になっているか、カイコの体液、及び組織の成分解析を行い検証した。生活習慣病であると考えられるカイコについて、様々な食品、生薬、化合物を投与し、症状が回復するか検証し、生活習慣病の治療薬の候補化合物を得た。カイコの実験系で得られた物質が哺乳動物の実験系でも効果を示すか、マウスを用いて確証した。
結果と考察
我々は、本研究課題において、カイコを用いた①糖尿病モデル、②脂質異常症によるII型糖尿病モデル、③糖尿病合併症モデル、④肝障害モデル、⑤高脂血症モデルの開発に成功した。また、カイコの糖尿病モデルを用いて同定された化合物が糖尿病マウスでも効果を示すことを証明した。このことから、生活習慣病モデルカイコを用いて、ヒトなどの哺乳動物に効果を示す糖尿病治療薬の候補が得られることがわかった。さらに、カイコの糖尿病モデルに効果を示す生薬4種類と化合物1つ、糖尿病合併症モデルに効果を示す化合物1つを見出した。
結論
 カイコの糖尿病モデルを用いて、哺乳動物の血糖値を低下させる化合物が同定できること、及びカイコをモデル動物として糖尿病合併症モデルを確立できたと判断した。本研究は、無脊椎動物を用いた糖尿病モデルを用いて血糖降下物質を同定できるという初めての研究となった。今後は、このカイコの生活習慣病モデルが創薬シーズの探索系として利用させるのではないかと期待している。

公開日・更新日

公開日
2012-07-02
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201110005C

成果

専門的・学術的観点からの成果
カイコなどの無脊椎動物を用いた生活習慣病モデルを確立し、そのモデルを用いた創薬に関する研究はこれまでにない。血糖値の調節機構に無脊椎動物と哺乳動物に多くの共通点があることを明らかにできた。また、カイコは、線虫やショウジョウバエのような昆虫モデルより大きく、定量的に薬液を投与することができる。我々は、世界で初めて、無脊椎動物モデルを用いた糖尿病治療薬の開発法を提案できた。
臨床的観点からの成果
無脊椎動物を創薬シーズの探索系として利用することにより、マウスやラットなどの哺乳動物を用いた動物実験の回数を少なくすることができる。これまでに創薬で問題となっていた動物実験によるコスト、倫理的な問題を軽減することができると考えられる。よって、本研究が安価で効果的な新薬の開発に貢献すると期待できる。
ガイドライン等の開発
特になし。
その他行政的観点からの成果
特になし。
その他のインパクト
本研究結果を元に、6つの特許を出願し、2つ国際雑誌に論文を受理された。本技術の開発の成功について記者会見を行い、複数の新聞やインターネットに記事が紹介された。特に、日本産業経済新聞、薬事日報では大きく取り上げられ、反響もあった。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
1件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
1件
学会発表(国際学会等)
0件
その他成果(特許の出願)
5件
その他成果(特許の取得)
1件
血糖値を低下させる物質の評価方法、スクリーニング方法及び製造方法 登録番号: 特許第5303209号(2013/6/28登録) 松本靖彦、住谷瑛理子、杉田拓也、関水和久
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
1件
本研究成果を普及するために記者会見を行った(平成23年度4月1日)。日本産業経済新聞、薬事日報に記事が掲載された。

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Matsumoto Y, Sumiya E, Sugita T, et al.
An invertebrate hyperglycemic model for the identification of anti-diabetic drugs.
PLoS One , 6 (3) , 18292-  (2011)
10.1371/journal.pone.0018292.
原著論文2
Matsumoto Y, Ishii M, Hayashi Y, et al.
Diabetic silkworms for evaluation of therapeutically effective drugs against type II diabetes.
Scientific Reports , 5 , 10722-  (2015)
10.1038/srep10722

公開日・更新日

公開日
2015-05-27
更新日
2016-01-28

収支報告書

文献番号
201110005Z