内耳への直接的薬剤注入法による蝸牛血管条の再生に関する研究

文献情報

文献番号
199700908A
報告書区分
総括
研究課題名
内耳への直接的薬剤注入法による蝸牛血管条の再生に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
山下 裕司(山口大学医学部附属病院・講師)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 感覚器障害及び免疫・アレルギー等研究事業(感覚器障害研究分野)
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
-
研究費
4,100,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
現在まで行われてきた内耳障害の治療法は、ステロイド治療に代表されるように、作用部位や薬理作用の解明が不充分のまま経験的に使用されてきた。本研究の目的は、薬剤の作用部位や薬理作用が明確な内耳障害の治療法を確立することである。
急性難聴の障害部位として、蝸牛血管条およびラセン靭帯が最近注目されている。蝸牛血管条やラセン靭帯は、障害後に機能回復が期待出来る部位である。
今回の研究において、内耳障害動物モデル(マウス)を作成し、増殖マーカーであるBrdUを指標として蝸牛血管条およびラセン靭帯における細胞増殖を検討した。また、これらの部位において、増殖と関連ある因子の同定を試みた。
次ぎに、浸透圧ポンプをモルモット内耳に留置し、持続的に薬剤を内耳に投与する方法により、成長因子を内耳へ直接的に注入し、蝸牛血管条およびラセン靭帯における成長因子の細胞増殖効果について検討した。
研究方法
1)マウスにストレプトマイシンを投与することにより、内耳障害マウスを作成した。作成した内耳障害マウスおよびコントロールマウスの皮下に、BrdUを注入した浸透圧ポンプを7日間留置し、連続投与した。浸透圧ポンプ留置後7日目にマウスを潅流固定し、側頭骨を摘出した。脱灰、パラフィン包埋を施行し、切片を作成した。BrdU染色キットにて、蝸牛におけるBrdU陽性細胞を標識した。また、免疫組織学的に、細胞増殖に関連する成長因子レセプターおよび接着因子を同定した。
2)モルモット内耳に浸透圧ポンプを留置し、FGFなどの成長因子を直接的に投与した。また同時に、BrdUを注入した浸透圧ポンプを皮下に埋め込み連続投与した。ポンプ留置7日後に、モルモットを潅流固定し、側頭骨を摘出した。脱灰、パラフィン包埋を施行し、切片を作成した。BrdU染色キットにて、蝸牛におけるBrdU陽性細胞を標識した。
結果と考察
ストレプトマイシンによる内耳障害マウスにおいて、コントロールと比較して、蝸牛ラセン靭帯に多くのBrdU陽性細胞を認めた。このことにより、内リンパ液の代謝に関与しているラセン靭帯は、障害後に再生することが明らかになった。また、障害マウス蝸牛ラセン靭帯において、FGFレセプターの染色性が増加した。また、増殖と関連していると考えられるコネクシン43(接着因子)も認められた。以上結果から、ラセン靭帯における細胞増殖に様々な因子が関与していることが明らかになり、特にFGFの関与が強く想定された。
この結果をもとに、実際に内耳にFGFを投与して、蝸牛ラセン靭帯や血管条の細胞増殖が促進されるかを検討した。
浸透圧ポンプにより、内耳に障害をきたさず直接的に薬剤を注入する方法を、我々は既に開発している。この方法を用い、モルモットFGFを投与して、投与側と非投与側の蝸牛におけるBrdU陽性細胞数を比較検討した。この結果、50ng/mlのFGF投与で、投与側蝸牛の血管条、ラセン靭帯のBrdU陽性細胞が増加していた。このことから、FGFの内耳への局所投与により、内リンパ液の代謝に関連するラセン靭帯および血管条の再生が促進されるの可能性が示唆された。
近年、血管条やラセン靭帯の障害による急性難聴は、機能回復することが臨床的に示唆されている。したがって、本研究の結果から、これらの急性難聴にたいする治療法として、直接的な内耳への薬剤投与が有効な治療法となる可能性が高まった。今後、さらに動物実験を施行することにより、臨床応用への道が近くなると考える。
結論
1)蝸牛血管条およびラセン靭帯は、障害後再生する可能性が高い。2)これら再生は、FGFなどの成長因子により促進される。3)浸透圧ポンプにより、内耳に障害なく、直接的に薬剤を注入することが可能である。4)今後、動物実験を進めることにより、臨床応用への道が開けると考える。

公開日・更新日

公開日
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更新日
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研究報告書(紙媒体)