医薬品等の安全性評価を目的とした新規発がん物質予測法の開発

文献情報

文献番号
201110003A
報告書区分
総括
研究課題名
医薬品等の安全性評価を目的とした新規発がん物質予測法の開発
課題番号
H21-生物資源・一般-003
研究年度
平成23(2011)年度
研究代表者(所属機関)
岡村 匡史(独立行政法人国立国際医療研究センター 感染症制御研究部ヒト型動物開発研究室)
研究分担者(所属機関)
  • 石坂 幸人(独立行政法人国立国際医療研究センター 難治性疾患研究部)
  • 松田潤一郎(独立行政法人医薬基盤研究所)
  • 津田 洋幸(名古屋市立大学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 創薬基盤推進研究(創薬総合推進研究)
研究開始年度
平成21(2009)年度
研究終了予定年度
平成23(2011)年度
研究費
7,920,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
ヒトがんの発生原因の約80%は環境中に存在する化学物質であるといわれており、医薬品、農薬さらには食品に含まれる化学物質がどの程度ヒトのがん発生に関わっているかを明らかにすることは、医学的にもまた社会的にも極めて重大な課題である。本研究では、ヒトゲノム中に散在するレトロトランスポゾンであるLINE1に注目し、ゲノムの不安定化を誘発するLINE1の動きを生体レベルでモニターできるトランスジェニックマウスを樹立し、新規発がん物質予測法を開発する。
研究方法
今年度は、EGFPの発現を指標にLINE1レトロトランスポジション(L1-RTP)をモニターできるhL1-EGFPマウスを用いて、加熱食品中に存在する癌原物質であるPhIPのL1-RTP誘導能を解析した。さらに、ネオマイシン耐性遺伝子の発現を指標にL1-RTPをモニターできるトランスジェニックラットを作製した。
結果と考察
ヒトが暴露する極低濃度のPhIPの複数回投与によって、PhIPの標的臓器とされる乳腺でL1-RTPが誘導されることを明らかにした。PhIPのL1-RTP誘導は、芳香族炭化水素化合物受容体とエストロジェン受容体αに依存した。以上のことから、低濃度のPhIPでもL1-RTPを介したゲノム不安定性を誘導し、癌化を促進している可能性が示され、hL1-EGFPマウスが癌原物質作用を検証するための迅速なシステムとして機能することが示唆された。
 また、マウスにおいて誘発することが困難な発癌モデルが多数開発されているラットにおいて、ネオマイシン耐性遺伝子の発現を指標にL1-RTPをモニターできるトランスジェニックラット(hL1-neoラット)を開発した。Cre/loxPシステムを用いて肺特異的に活性型ヒトHrasG12Vが誘導されるトランスジェニックラットは、化学発がんで発生させることが困難な扁平上皮成分を含むがんを高率に発生させることができる。肺癌モデルラットにおいては、N-ERCが有意に上昇していることから、肺癌発生を簡便に評価できる。
結論
これらのモデル動物は、レトロトランスポジションが誘発するエピジェネテイックな変化から恒常的なゲノム構造異常誘発過程の評価系でもあるため、発癌物質の評価だけでなく、発癌過程におけるL1-RTPの機能解析に有用なツールと考えられる。

公開日・更新日

公開日
2012-07-02
更新日
-

文献情報

文献番号
201110003B
報告書区分
総合
研究課題名
医薬品等の安全性評価を目的とした新規発がん物質予測法の開発
課題番号
H21-生物資源・一般-003
研究年度
平成23(2011)年度
研究代表者(所属機関)
岡村 匡史(独立行政法人国立国際医療研究センター 感染症制御研究部ヒト型動物開発研究室)
研究分担者(所属機関)
  • 石坂 幸人(独立行政法人国立国際医療研究センター)
  • 松田潤一郎(独立行政法人医薬基盤研究所)
  • 津田 洋幸(名古屋市立大学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 創薬基盤推進研究(創薬総合推進研究)
研究開始年度
平成21(2009)年度
研究終了予定年度
平成23(2011)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
ヒト癌の発生原因の約80%は環境中に存在する化学物質であるといわれている。医薬品、食品に含まれる化学物質がどの程度ヒトの癌発生に関わっているかを明らかにすることは、医学的にもまた社会的にも極めて重大な課題である。本研究では、ヒトゲノム中に散在するレトロトランスポゾンであるLINE1(以下、L1)に注目し、ゲノムの不安定化を誘発するLINE1レトロトランスポジション(以下、L1-RTP)を生体レベルでモニターできるモデル動物を開発する。
研究方法
生体内でEGFPの発現を指標にL1-RTPをモニターできるマウス(hL1-RGFP)を作製した。発癌過程におけるL1-RTPの関与を明らかにするため、DMBA/TPAによる二段階皮膚癌モデルを用いた。さらに、加熱食品中に含まれる癌原物質であるヘテロサイクリックアミン(HCA)のL1-RTP誘導能を評価した。また、膵癌および肺癌モデルを樹立し、これらの腫瘍においてもL1-RTPの機能が解析できるモデルラットを作製した。
結果と考察
(1)遺伝毒性発癌物質であるDMBAのL1-RTP誘導は一過性であり、非遺伝発癌毒性物質であるTPAが繰り返し塗布されることで、恒常的にL1-RTPが誘導された。すなわち、TPA によりL1が、ゲノム内のDNA損傷シグナル解除遺伝子へ挿入されることで、癌化すると考えられた。
(2) HCAは、肉や魚などを高温調理した際に生成される発癌リスクを持つ物質である。hL1-EGFPマウスに、ヒトが暴露するごく低濃度のHCAの複数回投与した結果、HCAの標的臓器でL1-RTPが検出された。このことから、HCAは、低濃度でもL1-RTPを介したゲノム不安定性を誘導し、癌化を促進する可能性があり、hL1-EGFPマウスが癌原物質作用を検証するための迅速なシステムとして機能する事が示された。
(3)ネオマイシン耐性遺伝子の発現を指標にL1-RTPをモニターできるトランスジェニックラットを開発し、マウスでは誘発困難な膵管癌および扁平上皮癌におけるL1-RTPの機能解析が可能となった。
結論
これらのモデル動物を用いて、L1-RTP誘導と癌化との直接的な関連性が明らかとなれば、L1-RTPによるゲノムの不安定性誘導を遮断し、癌の進展及び悪性化を予防するという、既存の抗癌剤とは全く異なるコンセプトに基づいた抗がん剤開発も期待される。

公開日・更新日

公開日
2012-07-02
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201110003C

成果

専門的・学術的観点からの成果
ゲノムの不安定化を誘発するLINE1レトロトランスポジションを生体レベルでモニターできるモデル動物を開発した。二段階皮膚癌モデルを用いて,非遺伝毒性癌原物質の癌化における関与を明らかにすると共に、加熱食品中に含まれる癌原物質であるヘテロサイクリックアミンによるLINE1レトロトランスポジション誘導を、鋭敏に関知するシステムを開発した。これらの成果を論文および学会発表し、新しい癌化のメカニズムとして注目された。
臨床的観点からの成果
LINE1レトロトランスポジション誘導と癌化との直接的な関連性が明らかとなれば、LINE1レトロトランスポジション誘導を遮断し、癌の進展及び悪性化を予防するという、新しいタイプの抗がん剤開発も期待される。逆転写酵素阻害剤は、すでにHIV治療に使われており、有力な候補である。
ガイドライン等の開発
該当無し
その他行政的観点からの成果
今後、これらのモデル動物を用いた研究が進み、LINE1レトロトランスポジションと癌化の直接的な関連が明らかとなれば、医薬品や食品に含まれる化学物質のLINE1レトロトランスポジション誘導能を評価する必要が出てくるかもしれない。
その他のインパクト
作製したマウスは独立行政法人医薬基盤研究所実験動物研究資源バンクに寄託し、ホームページで公開されている。複数の研究機関から問い合わせがあり、2研究機関に分与した。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
6件
書籍1、雑誌2
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
2件
学会発表(国内学会)
18件
学会発表(国際学会等)
0件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Ishizaka Y, Okudaira N, Tamura M et al.
Modes of retrotransposition of long interspersed element-1 by environmental factors.
Frontiers in Microbiology (in press)  (2012)
原著論文2
Ishizaka Y, Okudaira N, Okamura T.
Regulation of retrotransposition of long interspersed element-1 by mitogen-activated protein kinases.
Protein Kinases (in press)  (2012)
原著論文3
Okudaira N, Goto M, Abe Y, Tamura M et al
Involvement of retrotransposition of long interspersed nucleotide element-1 in DMBA/TPA-induced skin carcinogenesis.
Cancer Sci. , 102 , 2000-2006  (2011)
原著論文4
Iijima, K., Okudaira, N., Tamura, M. et al.
Viral protein R of human immunodeficiency virus type-1 induces retrotransposition of long interspersed element-1.
Retrovirology , 10 , 83 -  (2013)
doi: 10.1186/1742-4690-10-83
原著論文5
Okudaira N, Okamura T, Tamura M et al.
Long interspersed element-1 is differentially regulated by food-borne carcinogens via the aryl hydrocarbon receptor.
Oncogene , 3 , 1-10  (2012)
原著論文6
Otsubo T, Okamura T, Hagiwara T, Ishizaka Y, Dohi T, Kawamura YI.
Retrotransposition of long interspersed nucleotide element-1 is associated with colitis but not tumors in a murine colitic cancer model.
PLoS One , 24 , e0116072-  (2015)
doi: 10.1371/journal.pone.0116072.

公開日・更新日

公開日
2015-05-27
更新日
-

収支報告書

文献番号
201110003Z