肝硬変・肝がん治療への応用を目的としたβ-catenin依存性シグナルによる肝代謝機能制御機構の基礎的研究

文献情報

文献番号
201108018A
報告書区分
総括
研究課題名
肝硬変・肝がん治療への応用を目的としたβ-catenin依存性シグナルによる肝代謝機能制御機構の基礎的研究
課題番号
H22-政策創薬・一般-011
研究年度
平成23(2011)年度
研究代表者(所属機関)
関根 茂樹(独立行政法人国立がん研究センター研究所 分子病理分野)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 創薬基盤推進研究(政策創薬総合研究)
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究費
2,077,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 β-cateninは肝小葉内で領域特異的な遺伝子発現制御に重要な働きを果たしており、この制御を通じて種々の代謝機能の制御に関わっている。さらに、30-40%の肝細胞がんではβ-cateninをコードするCTNNB1遺伝子の変異の存在が知られている。本研究では肝細胞の代謝機能調節に関わるβ-catenin の役割に注目し、その肝硬変、肝細胞がんにおけるβ-cateninシグナル異常の病態への関わりを明らかにし、肝硬変における肝代謝能の改善や肝細胞がんの診断・個別化治療への応用のための基礎を築く事を目標とする。
研究方法
 本研究では、マウスモデルの解析によりβ-catenin の生体肝における生理的機能を明らかにし、これを基盤として、ヒト疾患でのβ-catenin シグナル異常の病態への関わりを明らかにするため、ヒト肝がん切除検体におけるCTNNB1遺伝子変異、β-catenin 下流遺伝子の発現とその臨床的意義を検索する。
結果と考察
 肝細胞特異的β-cateninノックアウトマウスの解析からβ-catenin依存性シグナルが肝臓における胆汁酸代謝制御に重要な役割を果たしている事が明らかになった。この所見から、胆汁酸代謝に関わる遺伝子の発現とCTNNB1遺伝子変異の相関をヒト肝細胞がんにおいて検索したところ、CTNNB1遺伝子変異を有する肝細胞がんにおいて、胆汁酸取り込みに関わるトランスポーターであるSLCO1B3の高い発現を認めた。
 SLCO1B3は近年、画像診断において広く用いられている肝細胞特異的MRI造影剤であるGd-EOB-DTPAの主要なトランスポーターでもある。このため、CTNNB1遺伝子の変異とこの造影剤によるMRI信号増強効果の相関を検索したところ、CTNNB1遺伝子変異を有する肝細胞がんは、Gd-EOB-DTPAにより、有意に強い造影効果を示した。この所見はβ-catenin依存性シグナルと、この造影効果の相関を示すものと考えられる。
結論
 マウスモデルおよび臨床例の解析から、ヒト肝細胞がんにおけるSLCO1B3発現とCTNNB1変異の相関を明らかにした。β-catenin依存性シグナルはヒト肝臓において、胆汁酸トランスポーターSLCO1B3の発現を誘導していると考えられる。この結果から、これまでに蓄積された種々の肝疾患におけるWnt/β-cateninシグナルの異常に関連する知見をGd-EOB-DTPAによる造影効果の理解へ応用が可能と考えられる。

公開日・更新日

公開日
2012-07-02
更新日
-

収支報告書

文献番号
201108018Z