トキシコゲノミクスデータベースを活用した毒性メカニズムに基づく医薬品安全性評価に関する研究

文献情報

文献番号
201107001A
報告書区分
総括
研究課題名
トキシコゲノミクスデータベースを活用した毒性メカニズムに基づく医薬品安全性評価に関する研究
課題番号
H19-トキシコ・指定-001
研究年度
平成23(2011)年度
研究代表者(所属機関)
漆谷 徹郎(独立行政法人医薬基盤研究所 創薬基盤研究部トキシコゲノミクス・インフォマティクスプロジェクト)
研究分担者(所属機関)
  • 大野 泰雄(国立医薬品食品衛生研究所)
  • 菅野 純(国立医薬品食品衛生研究所 安全性生物試験研究センター 毒性部)
  • 水川 裕美子(同志社女子大学 薬学部 医療薬学科 病態生理学教室)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 創薬基盤推進研究(創薬バイオマーカー探索研究)
研究開始年度
平成19(2007)年度
研究終了予定年度
平成23(2011)年度
研究費
358,110,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は我が国が世界に誇る毒性データベースであるTG-GATEsを最大限に活用し、安全性予測の向上・安全性バイオマーカー合計30種以上の開発、毒性試験に義務付けられているラットのデータのヒトへの外挿性向上、ゲノミクスデータをレギュラトリーサイエンスへ応用するための基盤形成、という3つの柱をもつ。最終年度に当たり、バイオマーカーの数値目標の達成とデータベースのコンテンツの完全公開を最大の目標とした。
研究方法
基盤研、国立衛研、製薬企業13社からなるワーキンググループによって、TG-GATEs内のデータにインフォマティクスを適用し、バイオマーカーを開発した。前年度までは低レベルのバイオマーカーの蓄積に力を入れたが、本年度はこれらのグレードアップとそれに伴う検証実験に力を入れた。また、トランスクリプトミクスと他のオミクステクノロジーの融合が有望な戦略であることが判明したことから、メタボロミクスとの融合として腎障害を、また血中mRNA、マイクロRNA、あるいはDNAメチル化の網羅的解析、糖鎖の網羅的解析等の毒性学への応用可能性を探った。
結果と考察
前年度までにレベルⅢ以上のバイオマーカー16種を開発していたが、本年度、末梢血のトランスクリプトームマーカー、メタボロミクスマーカー等を含めて20種を開発し、合計36種と目標を大きく上回ることができた。これらバイオマーカーは全て再現性・予測性に優れ、また毒性メカニズム解析に有用なものであり、企業の毒性専門家が使用したいと思えるものというクライテリアを満たしている。これらバイオマーカーを活用することによって、非臨床試験における毒性試験の効率化が図られ、創薬に大きく寄与することが期待される。また、本プロジェクトで得られたデータの全ておよび前プロジェクトで得られたデータの単行本としての発行も完了し、全世界の毒性研究の発展に寄与すること大であると考えられる。
結論
前プロジェクトによって完成された毒性データベースは、その質・量ともに世界最大級のものであったが、これを創薬に利用しようとしてもそのノウハウが確立していなかった。本プロジェクトによってそのデータを安全性バイオマーカーという形に落とし込むことができ、即座に創薬に活用することが可能となった。更に、日本を代表する製薬会社が一堂に会しバイオマーカー創製の共同作業にあたったことにより、その技術が我が国の製薬企業に浸透したことも大きな成果である。

公開日・更新日

公開日
2012-07-02
更新日
-

文献情報

文献番号
201107001B
報告書区分
総合
研究課題名
トキシコゲノミクスデータベースを活用した毒性メカニズムに基づく医薬品安全性評価に関する研究
課題番号
H19-トキシコ・指定-001
研究年度
平成23(2011)年度
研究代表者(所属機関)
漆谷 徹郎(独立行政法人医薬基盤研究所 創薬基盤研究部トキシコゲノミクス・インフォマティクスプロジェクト)
研究分担者(所属機関)
  • 大野 泰雄(国立医薬品食品衛生研究所)
  • 菅野 純(国立医薬品食品衛生研究所 安全性生物試験研究センター 毒性部)
  • 水川 裕美子(同志社女子大学 薬学部 医療薬学科 病態生理学教室)
  • 三森 国敏(国立大学法人東京農工大学 大学院 農学研究院 動物生命科学部門)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 創薬基盤推進研究(創薬バイオマーカー探索研究)
研究開始年度
平成19(2007)年度
研究終了予定年度
平成23(2011)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
前プロジェクトにおいて、約150の医薬品を中心とした化合物を投与したラット肝臓・腎臓について、トキシコゲノミクスデータベース・解析システム・安全性予測システムを構築し、TG-GATEsと命名した。本研究はTG-GATEsを最大限に活用し、安全性バイオマーカーを30種以上開発、ラットデータからヒトのへの外挿性向上、ゲノミクスデータによる安全性評価のレギュラトリーサイエンスに適用する場合の基盤形成、の3点を目的とした。
研究方法
基盤研、国立衛研、製薬企業13社により、ワーキンググループを結成し、マーカー創製を行った。バイオマーカーをレベルⅣ(TG-GATEsの範囲内において有効)、レベルⅢ(再現性が保証され、毒性メカニズムも明確)、レベルⅡ(臨床での有効性が示唆)、レベルⅠ(臨床での有効性が確実な単一の指標)にわけ、レベルⅢ以上を実用的マーカーとした。種差の克服のため、血液ゲノミクス、血中RNAの解析、メタボロミクスなど、多くの手法を検討した。研究分担者により、プロジェクト本体で遂行困難な課題が遂行された。レギュラトリーサイエンスへの応用に関しては、世界のトレンドに合わせ、バイオマーカーの再現性保証という点を最重点課題とした。
結果と考察
最終的にレベルⅢ以上のバイオマーカー36種を得た。うち2種はレベルⅠ・Ⅱのマーカーである。種差の克服には、末梢血による肝細胞壊死のマーカー1種、メタボロミクスとゲノミクスの融合手法によるマーカー3種、ヒト培養肝細胞でのマーカー2種を得た。また、分担研究においてヒト型遺伝子導入マウスを用いた毒性試験の可能性を示した。ゲノミクスのレギュラトリーサイエンスへの応用を見据え、バリデーション試験の詳細を論文とした。前プロジェクト・本プロジェクトで得られたデータベースの内容すべてをWeb上で全世界に公開した。また書籍の形態としての毒性データ集を完成し、全国の医薬獣医系大学と毒性病理学会員に配布した。
結論
TG-GATEsは、質・量ともに世界最大級のものであったが、これを創薬に利用するにはノウハウが確立していなかった。今回そのデータを安全性バイオマーカーという形に落とし込むことができ、即座に創薬に活用することが可能となった。更に、日本を代表する製薬会社が一堂に会し、バイオマーカー創製の共同作業にあたったことにより、その技術が我が国の製薬企業に浸透したことも大きな成果である。

公開日・更新日

公開日
2012-07-02
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

公開日・更新日

公開日
2013-02-18
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201107001C

成果

専門的・学術的観点からの成果
前プロジェクトおよび本プロジェクトによって、質・量ともに世界最大級の毒性・トランスクリプトームデータベースTG-GATEsが完成した。この内容(遺伝子発現データと関連する毒性データ)はWeb上で公開され、全世界の毒性研究者、創薬に携わる企業に提供され、人類の福祉に寄与すること大である。また、データベースを直接創薬に結び付けるために、ここから36種ものバイオマーカーを創製し、非臨床毒性試験に大きく貢献した。
臨床的観点からの成果
今回創製したデータベースおよびバイオマーカーは、創薬初期において義務付けられているラットを用いた非臨床試験の効率化に寄与することが第一義的目的であった。しかし当然、動物試験は臨床試験の安全性の担保や臨床で認められた有害事象の機序解明のために行われるものであり、非臨床試験の改良は臨床上の利益に直結する。また、今回の成果のうちには、臨床で利用可能なマーカーや、ヒトの毒性を予測するモデル・アルゴリズムも含まれている。
ガイドライン等の開発
プロジェクト開始当時は、ゲノミクスデータを新薬申請資料に含める可能性が提唱されており、そのためのガイドラインの必要性が考慮されていたため、それを視野に入れた検討を行っていた。しかしながらその後、FDAを中心に、ゲノミクスデータそのものを取り扱うというより、バイオマーカーという形で議論すべきとの方向性が固まり、プロジェクトも、バイオマーカーの質保証に傾注することとした。ゲノミクスバイオマーカーの取り扱いについては、PMDAとの検討を続ける予定である。
その他行政的観点からの成果
上記参照
その他のインパクト
平成22年6月、本プロジェクトは、官民共同プロジェクトの成功例として、産・学・官共同研究学術会議会長賞を受賞した。平成23年2月には、Scienceの大阪特集の中で、画期的な研究として取り上げられた。また、平成24年2月に行った最終成果発表会は日経バイオに取り上げられた。データベースのコンテンツは、医薬基盤研のHPにおいて公開し、また統合データベースにもアーカイブした。前者は簡易検索機能がついており、全世界、特に欧米の巨大製薬企業・ベンチャー企業からのアクセスが殺到している。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
36件
その他論文(和文)
4件
その他論文(英文等)
16件
学会発表(国内学会)
80件
学会発表(国際学会等)
18件
その他成果(特許の出願)
2件
「出願」「取得」計2件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Henrik T Yudate, Toshihiro Kai, Mikio Aoki,et al.
Identification of a novel set of biomarkers for evaluating phospholipidosis-inducing potential of compounds using rat liver microarray data measured 24-hours after single dose administration.
Toxicology , 297 , 47-56  (2012)
原著論文2
Sumida K, Igarashi Y, Toritsuka N et al.
Effects of DMSO on gene expression in human and rat hepatocytes.
Human and Experimental Toxicology , 30 (10) , 1701-1709  (2011)
原著論文3
Uehara T, Minowa Y, Morikawa Y et al.
Prediction model of potential hepatocarcinogenicity of rat hepatocarcinogens using a large-scale toxicogenomics database.
Toxicol Appl Pharmacol. , 255 (3) , 297-306  (2011)
原著論文4
Weihua Gao, Yumiko Mizukawa, Noriyuki Nakatsua et al.
Mechanism-based biomarker gene sets for glutathione depletion-related hepatotoxicity in rats.
Toxicol Appl Pharmacol. , 247 (3) , 211-221  (2010)
原著論文5
Uehara T, Ono A, Maruyama T et al.
The Japanese toxicogenomics project: Application of toxicogenomics.
Mol. Nutr. Food Res. , 54 (2) , 218-227  (2010)
原著論文6
M. Hirode, A. Horinouchi, T. Uehara et al.
Gene expression profiling in rat liver treated with compounds inducing elevation of bilirubin.
Human and Experimental Toxicology , 28 , 231-244  (2009)
原著論文7
Mitsuhiro Hirode, Ko Omura, Naoki Kiyosawa et al.
Gene expression profiling in rat liver treated with various hepatotoxic-compounds inducing coagulopathy.
J. Toxicol. Sci. , 34 (3) , 281-293  (2009)
原著論文8
Chiaki Kondo, Yosuke Minowa, Takeki Uehara
Identification of genomic biomarkers for concurrent diagnosis of drug-induced renal tubular injury using a large-scale toxicogenomics database.
Toxicology , 265 , 15-26  (2009)
原著論文9
Takeki Uehara, Atsushi Ono, Mitsuhiro Hirode et al.
A Toxicogenomics approach for early assessment of potential non-genotoxic hepatocarcinogenicity of chemicals in rats.
Toxicology , 250 , 15-26  (2008)
原著論文10
Takeki Uehara, Atsushi T. Uehara, N. Kiyosawa, M. Hirode et al.
Gene Expression Profiling of Methapyrilene-Induced Hepatotoxicity in Rat
J. Toxicol. Sci , 33 , 37-50  (2008)
原著論文11
T. Uehara, N. Kiyosawa, T. Shimizu et al.
Species Differences in Coumarin-Induced Hepatotoxicity as an Example of How Toxicogenomics Help Assessing Risks for Human
Human and Experimental Toxicology , 27 , 23-35  (2008)
原著論文12
M. Hirode, A. Ono, T. Miyagishima, T
Gene expression profiling in rat liver treated with compounds inducing phospholipidosis.
Toxicol Appl Pharmacol. , 229 (3) , 290-299  (2008)
原著論文13
K. Omura, N. Kiyosawa, T. Uehara et al.
Gene Expression Profiling of Rat Liver Treated with Serum Triglyceride-Decreasing Compounds
J. Toxicol. Sci , 32 , 387-399  (2007)
原著論文14
N. Kiyosawa, T. Uehara, W. Gao et al,
Identification of Glutathione Depletion-Responsive Genes Using Phorone-Treated Rat Liver.
J. Toxicol. Sci , 32 , 469-486  (2007)
原著論文15
Arase S, Ishii K, Igarashi K et al.
Endocrine Disrupter Bisphenol A Increases In Situ Estrogen Production in the Mouse Urogenital Sinus
Biol Reprod. , 84 (4) , 734-742  (2011)
原著論文16
Yoshida T, Sekine T, Aisaki KI et al.
CITED2 is activated in ulcerative colitis and induces p53-dependent apoptosis in response to butyric acid.
J. Gastroenterol. , 46 (3) , 339-349  (2011)
原著論文17
Nakatsu N, Igarashi Y, Ono A, et al.
Evaluation of DNA microarray results in the Toxicogenomics Project (TGP) consortium in Japan.
J Toxicol Sci. , 37 (4) , 791-801  (2012)
原著論文18
Minowa Y, Kondo C, Uehara T, et al.
Toxicogenomic multigene biomarker for predicting the future onset of proximal tubular injury in rats.
Toxicology , 297 ( 1-3) , 47-56  (2012)
原著論文19
Yamada F, Sumida K, Uehara T,et al.
Toxicogenomics discrimination of potential hepatocarcinogenicity of non-genotoxic compounds in rat liver
J Appl Toxicol. , 33 (11) , 1284-1293  (2013)
原著論文20
Uehara T, Kondo C, Morikawa Y,et al.
Toxicogenomic biomarkers for renal papillary injury in rats.
Toxicology , 303 (1) , 1-8  (2013)

公開日・更新日

公開日
2015-06-16
更新日
-

収支報告書

文献番号
201107001Z