抗体遺伝子を用いたエイズ遺伝治療の基礎的研究

文献情報

文献番号
199700899A
報告書区分
総括
研究課題名
抗体遺伝子を用いたエイズ遺伝治療の基礎的研究
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
大場 浩美(東京理科大学・基礎工学部)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 エイズ対策研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
-
研究費
2,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
HIV-1の逆転写酵素を阻害する活性を持つ抗体の遺伝子を治療に用いる可能性を示すことを目的とする。抗体の遺伝子を細胞に導入して細胞質に組換え抗体断片を産生させ逆転写酵素を阻害することによって、現行の阻害剤の強い副作用と耐性株の出現という問題を解決した治療が可能と考えられる。このために用いるモノクローナル抗体は、HIV-1の逆転写酵素に特異的で他の逆転写酵素、ヒトのDNAポリメラーゼには反応せず、現在エイズ治療に用いられている逆転写酵素の阻害剤とは異なる作用部位に結合しなければならない。この部位はHIV-1株間で保存されており、抗体による阻害を免れる変異株の出現の可能性は低いと考えられている。本研究では、新しい組換えモノクローナル抗体の作製とヒト培養細胞を用いたHIV-1複製阻害実験系の構築を試みた。
研究方法
我々の研究室では既にハイブリドーマ法を用いて、逆転写酵素を阻害するモノクローナル抗体7C4を作製している。これに加えて本研究では、新たに逆転写酵素を完全に阻害する組換えモノクローナル抗体を作製し、その遺伝子をヒトCD4陽性培養細胞で発現させ、組換え抗体断片を細胞質に産生させることを試みた。新たな組換えモノクローナル抗体は、逆転写酵素を免疫したマウスの抗体cDNAのファージディスプレイライブラリーから抗原との親和性に基づいて選択を行い、抗原に強く結合する組換えFab断片を発現するファージをクローン化した。組換えFab断片を大腸菌で発現させ、逆転写酵素の阻害活性、エピトープの決定、抗原との親和力の測定を行った。抗体遺伝子をヒトCD4陽性Hela細胞に導入し、細胞質に組換えFabを産生させた。
結果と考察
抗体cDNAのファージディスプレイライブラリーからアフィニティー選択したファージの発現する組換えFab断片のうち、RT5-F、RT5-Gと命名した2クローンが逆転写酵素を濃度依存的に阻害する活性を持つことが明らかになった。RT5-F、RT5-Gの組換えFab断片は、逆転写酵素との結合に関して7C4の組換えFab断片の10倍以上の親和性を持つことが分かった。この高い親和性に伴って、逆転写反応の阻害活性も7C4の組換えFab断片の3倍以上であり、7C4が40%程度の阻害をする濃度で100%阻害をする強い阻害活性を持つことが分かった。また、RT5-F、RT5-Gはいずれも7C4と同じthumbサブドメインにエピトープを持つことが明らかになったので、このサブドメインの機能であるテンプレート/プライマーの結合を阻害していると考えられる。そして、RT5-F、RT5-GはいくつかのDNAポリメラーゼやレトロウイルスの逆転写酵素には反応しなかったことから、HIV-1の逆転写酵素に高い特異性を持つと考えられる。これらのことから、RT5-F、RT5-Gの遺伝子をモデル実験に用いて、宿主細胞への副作用を伴わずに効率よくHIV-1の複製を阻止すること、阻害剤耐性のHIV-1株の複製の阻止が可能と考えられる。これを検証するための培養細胞での実験系を構築するために、ヒトCD4陽性Hela細胞の細胞質に7C4、RT5-F、RT5-Gの組換えFab断片を産生させることができた。今後、これら組換えFab断片を発現する細胞株を樹立したあと、HIV-1の感染とプロウイルスDNAの導入実験を行う必要がある。7C4、RT5-F、RT5-GのcDNAを改変し、単鎖抗体断片(ScFv)を大腸菌で作製した。これらが逆転写酵素と特異的に結合することが分かったので、今後、各ScFvの逆転写反応の阻害活性、抗原との親和性を解析し、ヒトCD4陽性Hela細胞での発現、感染実験などを行っていく必要がある。
結論
本研究によって、HIV-1の逆転写酵素を完全に阻害する2クローンの組換えモノクローナル抗体RT5-F、RT5-Gが得られた。これらの組換え抗体断片は、HIV-1の逆転写酵素に高い特異性を持ち、変異の可能性が低いと考えら
れるテンプレート/プライマー結合部位に結合した。ヒト培養細胞実験系の構築を目的として、RT5-F、RT5-Gの組換えFab断片をCD4陽性Hela細胞で発現させることに成功した。今後、ヒト培養細胞実験系を使い、細胞質内に産生させたRT5-F、RT5-Gの組換え抗体断片によってHIV-1の逆転写酵素を阻害しウイルスの複製を阻止できるかを調べることにより、これらの抗体の遺伝子を使った遺伝子治療が現行のエイズ治療薬である逆転写酵素阻害剤の強い副作用と耐性株の出現という問題を解決する有力な治療方法となる可能性を検証する必要がある。

公開日・更新日

公開日
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更新日
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