文献情報
文献番号
201105004A
報告書区分
総括
研究課題名
EHEC/0111食中毒事例における疫学・細菌学・臨床的研究
課題番号
H23-特別・指定-004
研究年度
平成23(2011)年度
研究代表者(所属機関)
佐多 徹太郎(富山県衛生研究所)
研究分担者(所属機関)
- 綿引 正則(富山県衛生研究所 細菌部)
- 宮脇 利男(富山大学大学院 医学薬学研究部)
- 岡部 信彦(国立感染症研究所 感染症情報センター)
- 関塚 剛史(国立感染症研究所 病原体ゲノム解析研究センター第三室)
- 大西 真(国立感染症研究所 細菌第一部)
- 黒澤 豊(富山県高岡厚生センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 厚生労働科学特別研究
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成23(2011)年度
研究費
14,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
2011年4月下旬から、富山県を中心とした焼肉チェーン店で腸管出血性大腸菌(EHEC)O111による食中毒が起こり、死亡者がでた。当該菌による事例は稀なことから、総合的に調査研究を行う。
研究方法
食品衛生法や感染症法に基づく調査結果とともに、さらに再調査を行い、患者の重症化にかかわる要因等を解析した。また菌の分離同定と性状解析、患者血清中のEHECのLPS抗体価や便のメタゲノム解析も行った。
結果と考察
食中毒患者は、4県6店舗の利用者で181名、うち溶血性尿毒症症候群(HUS)の重症患者は32名、うち5名が死亡した。牛肉の生食料理のユッケの喫食が原因とされた。患者の便検体から分離されたO111菌株と店舗に残っていた肉から分離されたO111菌株は由来が同一とされた。便検査あるいは血清抗体でEHEC/O111が検出された確定症例85例では、年齢は15-19歳が最も多く22例 (25.9%)、HUS発症例は34例(40.0%)、うち脳症例は21例(61.8%)と判明した。検便からは、血清型ではO111やO157、毒素型ではベロ毒素(VT)がないO111VT-やVT2、そしてO157ではVT1、VT2、VT1,2と多様なEHECが分離された。菌が全く分離できなかった102名(181名中の56.4%)中のHUS患者12名では抗O111LPS血清抗体が優位であった。血便のメタゲノム解析では全例O111のゲノムが検出された。EHEC/O111VT2株の毒素産生性はとくに高くなかった。O111VT2とO111VT-は遺伝的に極めて近い関連株とされ、塩基配列の解析ではVT2プロファージの違いだけであった。病原因子の遺伝子は、VT2以外にeaeA、hlyA、ospG、norVが陽性であった。現在のところ、菌の性状から患者の高い重症化率を十分説明することはできない。臨床的には、HUS発症例で特に強い腹痛、血便がみられ、発熱を伴っていた。HUS発症時には血清サイトカインの増加がみられた。HUS発症直前に尿蛋白定性が陽性となる症例がみられた。血液浄化療法が14例で行われ、HUSによる腎障害は致命的とならなかった。本事例で多かった脳症はHUSに並行して発症する印象があった。剖検例の病理学的所見では、死因として急性脳症が重要と考えられ、DICによる多発微少血栓や出血性腸炎等が認められた。
結論
再発防止のためには、新たに施行された生食基準の遵守等への対処について、さらに検討が必要で、今回得られたデータは診断や治療のガイドライン等の改善に役立てられる。
公開日・更新日
公開日
2012-05-29
更新日
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