環境中の疾病要因の検索とその作用機構の解明に関する研究

文献情報

文献番号
201104006A
報告書区分
総括
研究課題名
環境中の疾病要因の検索とその作用機構の解明に関する研究
課題番号
H23-国医・指定-006
研究年度
平成23(2011)年度
研究代表者(所属機関)
中釜 斉(独立行政法人 国立がん研究センター研究所 発がんシステム研究分野)
研究分担者(所属機関)
  • 若林 敬二(静岡県立大学 環境科学研究所)
  • 渡辺 徹志(京都薬科大学 公衆衛生学分野)
  • 大島 寛史(静岡県立大学 食品栄養科学部/大学院生活健康科学研究科)
  • 續 輝久(九州大学大学院医学研究院 分子遺伝学分野)
  • 椙村 春彦(浜松医科大学 医学部 腫瘍病理学講座)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 地球規模保健課題推進研究(国際医学協力研究)
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成23(2011)年度
研究費
11,111,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
環境中に存在する変異原や発がん物質について、新規物質を探索すると共に、これら環境要因によるがん等の疾病発生の分子機構の解明及びその成果に基づく予防法の開発を目的とする。
研究方法
ラット大腸発がんモデルでのmiRNA発現から発がん物質特異的なmiRNAを解析した。正常組織3D培養系にPhIPを暴露して造腫瘍能を検討した。In vitro糖尿病(DM)モデル系で同定したABAQのin vivo変異原性及びDMモデル動物の尿中の量を解析した。西日本で、大気粉塵を捕集し、粉塵濃度等を解析し、後方流跡線解析で気塊の移動を調べた。アルデヒド・ケトン類の網羅的分析法を開発し、マウス組織・血漿を用いて解析した。p53遺伝子欠損マウスでの酸化ストレス誘発腸管発がんを解析した。日中の胃がん患者の胃粘膜検体でDNA付加体の網羅的解析を行った。
結果と考察
環境要因では、日中の胃がん患者の胃粘膜で、7種の過酸化脂質由来DNA付加体量により日中を判別可能であり、地域ごとの環境要因の詳細な比較から疾病原因が同定可能なことが示唆された。ABAQは変異原性を示し、DMモデルラット尿中から高値で検出されたので、DM患者の体内で生成し変異を誘発する可能性がある。黄砂を含む中国大陸からの長距離輸送性大気汚染が示唆された。アルデヒド・ケトン類は、生体内に約400種類が存在し、多くが炎症により顕著に増加した。発がん物質特異的なmiRNAによる発がん性予測の可能性を示した。正常腸管腺管3D培養系はPhIPにより造腫瘍能を獲得する可能性が示され、in vitro発がんモデル系は発がんへの影響の解析に有用である。遺伝的要因では、p53遺伝子欠損マウスでは、酸化ストレスによる小腸腫瘍の発生が顕著に増加し、腸管発がんでのp53による細胞死制御の重要性を示した。
結論
環境要因では、DNA付加体の網羅的解析で同定される地域ごとの要因、黄砂を含む中国大陸からの長距離輸送性大気汚染、内因性要因では、DM患者で生成する物質や、炎症部位で生成するアルデヒド・ケトン類を示唆した。miRNAや、正常組織の3D培養を用いた発がん解析系により、候補要因の発がんへの影響を解析できる。遺伝的要因では、細胞死制御関連遺伝子の重要性を示した。環境要因を同定して、その除去・低減化や新規の予防法の開発、及び高危険度群の推定等を行い、成果の日本及びアジア諸国におけるがん等の疾病予防対策への活用を目指す。

公開日・更新日

公開日
2012-06-06
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201104006C

成果

専門的・学術的観点からの成果
発がん物質機特異的に発現変化するmiRNAによる発がん性予測や、正常組織3D培養系を用いた in vitro発がんモデル系の可能性を示した。西日本の広範な地域での観測から、黄砂を含む中国大陸からの長距離輸送性大気汚染の可能性を示した。酸化ストレス誘発消化管発がんの抑制での、p53による細胞死制御の重要性を示した。日中の胃がん患者の胃粘膜の、DNA付加体の網羅的解析による過酸化脂質由来のDNA付加体の定量から、日中を判別可能であり、地域毎の環境要因の比較で疾病原因を同定可能なことが示唆された。
臨床的観点からの成果
in vitro糖尿病モデルで生成するABAQが、in vivo変異原性を示し、糖尿病モデル動物の尿中から検出されたことから、糖尿病の発がんの高リスク要因である可能性を示した。アルデヒド・ケトン類の網羅的分析法を開発し、それらが生体内には数多く存在し、又、炎症により顕著に増加することを示した。慢性炎症に関連する疾患(がん、糖尿病等)において、アルデヒド・ケトン類がこれらの疾患に関連する可能性があり、この分析法を用いて特定のアルデヒド類を疾患のバイオマーカーに応用する可能性が示された。
ガイドライン等の開発
黄砂を含む中国大陸からの長距離輸送性大気汚染を示したので、呼吸器疾患への健康影響(喘息・肺がん等)を調査中であり、それらと関連性が明らかになれば、黄砂への暴露の回避により健康被害を防止する施策のための基礎的資料となる。正常組織の3D培養系を用いるin vitro発がんモデルは、環境要因の発がんへの影響の解析に有用な可能性が示され、新たな化学物質の発がん性のガイドラインの開発へ応用できる可能性がある。
その他行政的観点からの成果
DNA付加体の網羅的解析によるprofileが環境要因の違いを反映することが示唆され、地域ごとの環境要因の詳細な比較により、疾病原因が同定可能なことが示された。同定した環境要因の低減化によるがん予防などに応用可能である。正常組織の3D培養を用いるin vitro発がんモデルは、遺伝子再構成と組み合わせることにより、遺伝的要因の解析にも応用可能であり、同定された遺伝的要因を用いた高危険度群の推定などによるがん予防が期待できる。
その他のインパクト
研究代表者中釜 斉が公開シンポジウム、第4回疾患モデルシンポジウム「がん研究のモデル動物」(2011年11月11日)において「発がん動物モデルのin vitroでの再構築」の演題で、正常腸管組織の3D培養を用いたがん抑制遺伝子shRNAの導入による遺伝子再構成による発がんに関して発表した。また、正常組織の3D培養に化学物質を暴露する新規in vitro発がんモデルに関しても言及した。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
18件
その他論文(和文)
1件
その他論文(英文等)
4件
学会発表(国内学会)
35件
学会発表(国際学会等)
9件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Hori M, Kitahashi T, Wakabayashi K et al.
Enhancement of carcinogenesis and fatty infiltration in the pancreas in N-nitrosobis-(2-oxopropyl)amine-treated hamsters by high-fat diet.
Pancreas , 40 , 1234-1240  (2011)
原著論文2
Matsubara S, Takasu S, Wakabayashi K et al.
Induction of glandular stomach cancers in Helicobacter pylori-infected Mongolian gerbils by 1-nitrosoindole-3-acetonitrile.
Int J Cancer , 130 , 259-266  (2011)
原著論文3
Lim TH, Fujikane R, Tsuzuki T et al.
Activation of AMP-activated protein kinase by MAPO1 and FLCN inducesapoptosis triggered by alkylated base mismatch in DNA.
DNA Repair , 11 , 259-266  (2012)

公開日・更新日

公開日
2015-05-27
更新日
2016-05-25

収支報告書

文献番号
201104006Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
11,111,000円
(2)補助金確定額
11,111,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 7,379,261円
人件費・謝金 863,413円
旅費 2,509,520円
その他 358,806円
間接経費 0円
合計 11,111,000円

備考

備考
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公開日・更新日

公開日
2016-05-25
更新日
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