文献情報
文献番号
199700894A
報告書区分
総括
研究課題名
ヒト免疫不全ウイルス1型の膜蛋白の高次構造解析及び免疫学的解析
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
杉浦 亙(国立感染症研究所、エイズ研究センター)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 エイズ対策研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
-
研究費
2,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
HIV-1の予防治療の基礎的研究として ウイルス表面に発現しているenvelope (env) gp120-gp41複合体のoligomer構造およびその抗原性の解析、さらにはoligomerのワクチン抗原としての可能性に関して検討する。この目的のために以下のことを行う。1)B型およびE型ウイルスのgp120-gp41複合体をワクチニアウイルスを用いたタンパク発現系で多量に作成し、2)それぞれのタンパクの構造を比較解析する。同時に現時点では情報の少ないE型ウイルスの液性及び細胞性免疫抗原性領域の検索を行う。これを進めるにあたり、B型ウイルスと比べて種類の極端に少ないE型ウイルスに対する抗血清を作成するが、これらは今後のE型ウイルスの様々な研究に有用なものと考えられる。
研究方法
(1) HIV-1 subtype Bおよび Eの可溶性oligomeric 120-41複合体(gp140)とmonomeric gp120の作成:subtype BおよびE env gene より可溶性gp140作成するために、env遺伝子の5' 末にNde I, gp41のtransmembrane直前にstop codonとSal I をいれ、pVote2 vaccinia expression vector に入れる。このDNAをwild type vaccina virus(vSC60)を感染させたCV-1細胞に導入し、得られたplaque を少なくとも4世代にわたりcloningし、recombinant vaccinia virusを回収する。monomeric gp120の作成にはgp41の直前にstop codonとSal I siteをいれ、前述gp140同様にしてrecombinant virus回収する。このようにして作成したrecombinant vacciniaをBSC-1細胞に感染させ、その培養上清に分泌されたgp140 あるいはgp120をlentil lectin affinity columnで回収、さらにSuperdex columnを用いて、monomer, dimerの各分画に分離し、動物感作抗原及び解析用のタンパクとして使用する。(2)ウサギ抗血清およびモノクローナル抗体の作成:ウサギに精製したgp140あるいはgp120をRiBiアジュバンドとともに4週間の間隔をあけて3回感作し、抗血清の作成を試みた。またE型ウイルスに関してはマウスに感作することによりモノクロナル抗体の作成を試みた。(3)ELISAを用いた抗env認識活性の解析。種々のHIVウイルス由来のgp160をConcanavalinA(ConA)を介してELISA-plateに固層化し,抗血清の結合能の測定を行った。手技は以下の通りである。ConA(100mg/ml)100ulを加え2時間室温で反応させる。PBS/TWEEN20で洗浄後、100ug/mlの濃度のgp160を100ul加え、12時間 4Cでplateに吸着させる。洗浄後、解析対象である抗血清を加え2時間37Cで反応させる。反応後洗浄し、抗ウサギIgG-HRP標識ヤギ抗体を加え、更に1時間反応させる。反応後洗浄し基質を添加し発色させる。反応後plate readerで読み取り解析する。ELISAの陽性コントロールとしてはHIV-1陽性者血清を用いた。
(4)抗血清の中和抗体の評価:抗血清のウイルス中和能の評価をHela-CD4-LTR-b-galを用いたMAGIアッセイを用いた。希釈した抗血清ウイルスを混合し約1時間反応させた後に、その混合液をHela-CD4-LTR-b-gal細胞をまいたwellに加え、4時間培養、その後x-galで染色を行い顕微鏡的にb-gal陽性細胞を数えた。さらにACTG-protocolをもとにしたvirus infectivity reduction assayを用いた中和アッセイも行った。すなわち、反応系の抗体の濃度を一定にし、ウイルスを5倍の希釈系列で希釈していくことにより、ウイルスの感染性を測定する。この結果を感作前の血清の場合のものと比較し、何%の感染性が監査することにより失活したか観察するものである。ウイルスと抗血清は2時間エッペンドルフチューブ内で反応差せた後host細胞であるPHA刺激芽球化リンパ球に加え感染させる。培養は2週間にわたり維持され、2週間目に逆転写酵素活性を測り、Reed-Munch法に基づいてウイルスタイターに換算される。
(5)BIAcoreを用いた抗血清の解析
抗血清に含まれる抗体のpopulationを見るためにセンサーチップ上gp140を固相化し、anti-V3あるいはanti-CD4抗体でepitopeをブロックした後のそれぞれの抗血清の結合能の変化を調べ抗血清内に含まれる抗体の量を推定した。
(4)抗血清の中和抗体の評価:抗血清のウイルス中和能の評価をHela-CD4-LTR-b-galを用いたMAGIアッセイを用いた。希釈した抗血清ウイルスを混合し約1時間反応させた後に、その混合液をHela-CD4-LTR-b-gal細胞をまいたwellに加え、4時間培養、その後x-galで染色を行い顕微鏡的にb-gal陽性細胞を数えた。さらにACTG-protocolをもとにしたvirus infectivity reduction assayを用いた中和アッセイも行った。すなわち、反応系の抗体の濃度を一定にし、ウイルスを5倍の希釈系列で希釈していくことにより、ウイルスの感染性を測定する。この結果を感作前の血清の場合のものと比較し、何%の感染性が監査することにより失活したか観察するものである。ウイルスと抗血清は2時間エッペンドルフチューブ内で反応差せた後host細胞であるPHA刺激芽球化リンパ球に加え感染させる。培養は2週間にわたり維持され、2週間目に逆転写酵素活性を測り、Reed-Munch法に基づいてウイルスタイターに換算される。
(5)BIAcoreを用いた抗血清の解析
抗血清に含まれる抗体のpopulationを見るためにセンサーチップ上gp140を固相化し、anti-V3あるいはanti-CD4抗体でepitopeをブロックした後のそれぞれの抗血清の結合能の変化を調べ抗血清内に含まれる抗体の量を推定した。
結果と考察
(1)IIIB-gp140, IIIB-gp120を抗原として各々3匹のウサギを免疫し、抗血清を作成した。抗IIIB-gp140および抗IIIB-gp120を感作して得られたウサギ抗血清のIIIB, JRCSF, SF2, RF, Bal, 89.6, CM235各ウイルスenvへの結合能をELISAにより測定した。その結果、IIIB-gp140,gp120のオリジナルあるIIIBに対してはanti-gp140もanti-gp120もほぼ同じレベルの結合能を示した。他のenvに対しては抗gp140抗体の方が高い結合能を示すことが明らかになった。抗gp140はcladeBに対しては優れた抗原性を示すが、cladeEのウイルス株であるCM235に対してはどちらのグループも極めて低い結合能しか示さず、oligomerを抗原とした抗血清を用いてもcladeを越えて認識するような抗体を誘導することは出来ないことが明らかになった。このことはclade Bとclade Eで高次構造のレベルにおいても共通する抗原領域が少ないことを示唆するものであり、cladeを越えて交差性を示すような抗血清を誘導するenvをもとにしたsubunit vaccineを作ることが困難であり、cladeEに対しては特異的抗血清を作成する必要性を裏付ける結果となった。(2)anti-IIIB-gp140、gp120 血清のウイルス中和能について解析を行った。その結果gp140で感作した抗血清の方が高い中和活性を持つことが明らかになった。この結果を確認するために更にinfectivity reduction end point assay という手法を用いてNL4-3とMNに対する中和活性を調べた。anti-IIIB-gp120血清では、NL4-3を50%中和する抗体濃度が755、43、103ug/mlであったのに対し、anti-IIIB-gp140血清では3匹とも15.6ug以下の濃度で達成された。V3の塩基配列がNL4-3と異なるMNウイルスに対してはanti-IIIB-gp120血清では50%中和を最高実験濃度でも達成できなかったのに対し、anti-IIIB-gp140血清では3匹が850、262、142ug/mlの濃度で達成した。このようにanti-IIIB-gp140血清のほうが明らかに高い中和能を持つことが明らかになった。このように抗IIIB-gp140抗血清は質と量ともにgp120よりも優れていることが明らかになった。(3)抗血清の違いを見るためにBIAcoreを用いてV3およびCD4結合部に対する抗体の比率を検討した。その結果anti-gp140血清の方がCD4結合部に対する抗体の比率が高いことが明らかになった。
結論
我々は将来のサブユニットワクチン開発の基礎的研究として、oligomeric-gp140とmonomeric-gp120、それぞれをウサギに感作して抗血清を作成し、その抗原認識のスペクトラムおよびウイルス中和能について解析した。結論は結果で述べた通り、oligomerで感作したもののほうが明らかに広範で且つ強い中和活性を示すことが明らかになった。oligomerで感作されたものは患者より分離されてきたウイルスも中和に成功しており、HIV感染者血清に類似したものであることが判る。しかしながらその中和活性はHIVが感染することにより誘導されてくる場合と比べてまだ低く、不十分であることも明らかになった。今後より高い中和活性を誘導するためには使用するアジュバンド、抗原濃度、回数など、感作方法を改善していく必要があると考えられる。さらに、ELISA での解析結果が示すようにsubtype B 由来のenvに対しては広範な認識能を示したIIIB-gp140抗血清でもsubtypeを越えてE型 ウイルスを認識することは難しく、 B型とE 型では共通する抗原領域が少ないことが示唆された。したがってこの結果を見るかぎり単独ですべてのenvを認識する様な抗原タンパクを見いだすことは困難であり、各種envのカクテルを使用することが望ましいと考えられた。
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