途上国における健康教育教材としての小学校教科書の役割強化に関する研究

文献情報

文献番号
201103010A
報告書区分
総括
研究課題名
途上国における健康教育教材としての小学校教科書の役割強化に関する研究
課題番号
H21-地球規模・若手-011
研究年度
平成23(2011)年度
研究代表者(所属機関)
野中 大輔(琉球大学 医学研究科 寄生虫学・国際保健学講座)
研究分担者(所属機関)
  • 溝上 哲也(国立国際医療研究センター 臨床研究センター 疫学予防研究部)
  • 小林 潤(国立国際医療研究センター 国際医療協力部)
  • 神馬 征峰(東京大学大学院 医学系研究科 国際地域保健学教室)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 地球規模保健課題推進研究(地球規模保健課題推進研究)
研究開始年度
平成21(2009)年度
研究終了予定年度
平成23(2011)年度
研究費
3,500,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
教科書に記載されている保健情報が疾病対策や健康増進のために重要な知識や技術に触れているかどうか、国内外の保健政策や戦略に相反していないかどうかを調べ、健康教育教材としての教科書の役割強化に寄与する知見を導くことである。
研究方法
対象国であるアジア・アフリカの9カ国(ラオス、カンボジア、バングラデシュ、ネパール、スリランカ、ザンビア、ベナン、ニジェール、ガーナ)の小・中学生用の学習教科書(474冊)について、マラリア、基本的衛生(特に土壌伝播寄生虫対策)、薬物乱用(特に喫煙対策)に関する記述を解析した。解析は、Facts for Life(ユニセフ)や WHO Information Series on School Healthに掲載されている、疾病対策や健康増進のために一般市民や学童が知っておくべき知識や技術を教科書が包含しているかどうかを調べた。
結果と考察
いずれの対象国においても、マラリアは教科書中で触れられているものの、マラリアに対処するための知識や技術の多くは、教科書には記載されていなかった。最も効果的な予防方法であり戦略として重視されている殺虫剤処理蚊帳については、6か国の教科書は触れていなかった。治療に関する記述がある教科書の中には、対象国のマラリア対策戦略が推奨している治療薬以外の治療薬を教科書が推奨しているなど、対象国の政策と教科書の保健情報との乖離が認められた。土壌伝播寄生虫に関する記述は、土壌伝播寄生虫がエンデミックである3か国の教科書には無かった。基本的衛生技術は教科書の中で紹介されているものの、必ずしも土壌伝播寄生虫対策と関連付けられていなかった。いずれの対象国においても、教科書は喫煙対策教育に関する内容を包含していた。そして、喫煙による健康被害は教科書中で強調されているものの、喫煙の理由や社会的影響、喫煙の誘いを断る技術は、必ずしも紹介されていなかった。
結論
調査した対象国の教科書は、マラリア、土壌伝播寄生虫対策、及び喫煙対策について、健康教育教材として十分な役割を果たしていないと考えられる。健康教育教材として教科書を強化するためには、世界保健機関やユニセフが推奨する科学的根拠に基づいた教育項目(疾病対策や健康増進に重要な知識や技術)を教科書の中に取り込む必要がある。さらに、対象国の保健政策と教科書の保健情報の乖離を防ぐため、教科書作成・改訂時における保健・教育セクター間の連携強化が求められる。

公開日・更新日

公開日
2012-06-19
更新日
-

文献情報

文献番号
201103010B
報告書区分
総合
研究課題名
途上国における健康教育教材としての小学校教科書の役割強化に関する研究
課題番号
H21-地球規模・若手-011
研究年度
平成23(2011)年度
研究代表者(所属機関)
野中 大輔(琉球大学 医学研究科 寄生虫学・国際保健学講座)
研究分担者(所属機関)
  • 溝上 哲也(国立国際医療研究センター 臨床研究センター 疫学予防研究部)
  • 小林 潤(国立国際医療研究センター 国際医療協力部)
  • 神馬 征峰(東京大学大学院 医学系研究科 国際地域保健学教室)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 地球規模保健課題推進研究(地球規模保健課題推進研究)
研究開始年度
平成21(2009)年度
研究終了予定年度
平成23(2011)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
多くの途上国では、健康に関する情報ソースや保健人材の不足、全人口に占める高い子供の割合等が見られる。従って、学童用の教科書は、最も身近にあり且つ信頼できる情報を提供し得る健康教育教材としても重要である。本研究の目的は、教科書に記載されている保健情報が疾病対策や健康増進のために重要な知識や技術を紹介しているかどうか、国内外の保健政策に相反していないかどうかを調べ、健康教育教材としての教科書の役割強化に寄与する知見を導くことである。
研究方法
研究の一年目は、先行研究の系統的文献レビューと調査の準備を行った。二年目は、アジア・アフリカの9か国(ラオス、カンボジア、バングラデシュ、ネパール、スリランカ、ザンビア、ベナン、ニジェール、ガーナ)から、小・中学生用の教科書(474冊)を収集し、保健に関する記述の抽出を行った。三年目は、マラリア、基本的衛生(特に土壌伝播寄生虫対策)、薬物乱用(特に喫煙対策)に関する記述を解析した。
結果と考察
いずれの対象国においても、マラリアは教科書中で触れられているものの、マラリアに対処するための知識や技術の多くは記載されていなかった。最も効果的な予防方法であり戦略として重視されている殺虫剤処理蚊帳については、6か国の教科書は触れていなかった。治療に関する記述がある教科書の中には、対象国のマラリア対策戦略が推奨している治療薬以外の治療薬を教科書が推奨しているなど、政策と教科書の情報との乖離が認められた。土壌伝播寄生虫対策に関する記述は、この寄生虫がエンデミックである3か国の教科書には無かった。基本的衛生技術は教科書の中で紹介されているものの、必ずしも寄生虫対策と関連付けられていなかった。いずれの対象国においても、教科書は喫煙対策教育に関する内容を包含していた。喫煙による健康被害は教科書中で強調されているものの、喫煙の理由や社会的影響、喫煙の誘いを断る技術等は、必ずしも紹介されていなかった。
結論
対象国の教科書は、マラリア、土壌伝播寄生虫対策、及び喫煙対策について、健康教育教材として十分な役割を果たしていないと考えられる。健康教育教材として教科書を強化するためには、科学的根拠に基づいた、疾病対策や健康増進に重要な知識や技術を教科書の中に取り込む必要がある。さらに、保健政策と教科書の保健情報の乖離を防ぐため、教科書作成・改訂時における保健・教育セクター間の連携強化が求められる。

公開日・更新日

公開日
2012-06-19
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201103010C

成果

専門的・学術的観点からの成果
本研究のような複数の開発途上国の学習教科書に注目し、保健衛生に関する記述を対象とした研究は世界的にもこれまで発表されていないので、本研究の新規性は高い。本研究は、アジア・アフリカ9か国の保健政策と教科書が提供している保健情報との乖離や疾病対策・健康増進に重要な知識や技術等がしばしば教科書から欠落していることを明らかにした。研究成果は、多くの途上国において、既存の学校教育カリキュラムを通した健康教育の強化に貢献できる。研究成果は、論文発表や学会発表、研修事業などを通して、国際的な発信を行った。
臨床的観点からの成果
本研究の成果は、診断技術や治療効果の向上等には結びつかない。しかし本研究は、教科書が推奨するマラリア治療薬は対象国の保健政策が推奨するマラリア治療薬以外のものであったり、教科書が提供するマラリアに関する保健情報は早期診断の重要性や自己治療の危険性を包含していなかったりすることを明らかにした。本研究の成果が対象国の教科書作成・改訂に活用されるならば、対象国において、マラリアによるmorbidity やmortalityの低減に貢献できる可能性がある。
ガイドライン等の開発
本研究の成果の一部は、国際学校保健コンソーシアムが開催する国際学校保健研修を通して、ネパール、バングラデシュ、タイ、ラオス、ブルネイ、フィリピン、マレーシア、中国、カンボジア、ニジェール等の学校保健担当官や研究者と共有されている。これらの国々で教科書が改訂される際には、本研究の成果が活用される可能性がある。論文発表を通じて、他の国々の学校保健担当者とも研究成果が共有されはじめている。ナイジェリア・ラゴス大学の研究者らは、本研究の論文発表を参考にし、教科書改訂のための教科書分析を進めている。
その他行政的観点からの成果
我が国は、グローバルファンドや国際寄生虫対策センターを通して、国際的な寄生虫対策に貢献している。本研究では、マラリア対策のための殺虫剤処理蚊帳が教科書には紹介されていないことや土壌伝播寄生虫に関する情報の不備を明らかにした。マラリア流行国の住民は殺虫剤処理蚊帳を使用する意味や利益を認識していないため、援助された蚊帳を使用しない例が報告されている。また、我が国が支援した駆虫プログラムは、再感染予防のために健康教育が不可欠である。従って、本研究の成果は、我が国が支援している寄生虫対策に貢献できる。
その他のインパクト
本研究を通じて、国際学校保健に関係している国内外の研究者や行政担当者とのネットワークが強化された。強化されたネットワーク、国際学校保健コンソーシアムなどのリソース(ウェブサイトやSNS、研修等)、JICA研修などを活用し、途上国の学校保健政策関係者らと本研究の成果を共有し、政策に反映されるように努めている。本研究の論文は、世界保健機関発行の目録(Bibliography of Scientific publications on Vector-borne-diseases)に収録された。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
3件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
5件
学会発表(国際学会等)
1件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
5件
本研究の波及効果が認められる。本研究を参考にした教科書分析研究が5か国(ナイジェリア、イラン、インド、韓国、チリ)において実施された。各国の健康教育行政の改善のためのエビデンスが導かれた。
その他成果(普及・啓発活動)
2件
アジア・アフリカの学校保健担当官:http://www.tm.nagasaki-u.ac.jp/schoolhealth/schoolhealth.jp/asia20131203-11.html

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Daisuke Nonaka, Masamine Jimba, Tetsuya Mizoue et al.
Content Analysis of Primary and Secondary School Textbooks Regarding Malaria Control: a Multi-Country Study
PLoS ONE , 7 (5) , e36629-  (2012)
10.1371/journal.pone.0036629
原著論文2
Marino Nomoto, Daisuke Nonaka, Tetsuya Mizoue et al.
Content analysis of school textbooks on health topics: A systematic review
BioScience Trends , 5 (2) , 61-68  (2011)
10.5582/bst.2011.v5.2.61
原著論文3
Junko Saito, Daisuke Nonaka, Tetsuya Mizoue et al.
Limited potential of school textbooks to prevent tobacco use among students grade 1-9 across multiple developing countries: a content analysis study
BMJ Open , 3 (2) , e002340-  (2013)
10.1136/bmjopen-2012-002340

公開日・更新日

公開日
2015-06-08
更新日
2018-06-05

収支報告書

文献番号
201103010Z