マラリア感染細胞表面のタンパク質一分子計測と異常ヘモグロビンのマラリア耐性メカニズムの解明に関する研究

文献情報

文献番号
201103008A
報告書区分
総括
研究課題名
マラリア感染細胞表面のタンパク質一分子計測と異常ヘモグロビンのマラリア耐性メカニズムの解明に関する研究
課題番号
H21-地球規模・若手-009
研究年度
平成23(2011)年度
研究代表者(所属機関)
有江 隆之(大阪府立大学 工学研究科 電子物理工学分野)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 地球規模保健課題推進研究(地球規模保健課題推進研究)
研究開始年度
平成21(2009)年度
研究終了予定年度
平成23(2011)年度
研究費
3,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
遺伝性疾患であるヘモグロビン異常がマラリアに耐性を示すことは知られているが、そのメカニズムは明らかにされていない。本研究では原子間力顕微鏡およびカーボンナノチューブ片持ち梁を用い、感染赤血球表面のマラリア由来の突起状構造が、血管内壁細胞へ接着するプロセスを一分子レベルで可視化するための要素技術を開発し、耐性メカニズムを明らかにする。
研究方法
当該年度は前年度の片持ち梁を用いた分子間相互作用力計測を、より一分子間計測に近づけることを目標とし、酸化したナノチューブ先端に結合させた抗原と、対向のプローブに結合させた抗体間の相互作用力を、ナノチューブの撓みから算出した。また原子間力顕微鏡を用い、ヘモグロビンCとヘモグロビンSに加え、胎児ヘモグロビンであるヘモグロビンFとa-thalassemiaを持つ赤血球に対してもこれまでと同様に感染細胞表面の解析を行い、マラリアに対する耐性を調べた。
結果と考察
対向するプローブに配置した抗体の濃度を希釈することで、得られた相互作用力は一分子間の結合力とおよそ等しくなり、本手法の有効性を確認することが出来た。また当該年度はナノチューブのバネ定数を正確に求めるために、既知のバネ定数を持つ片持ち梁を対向させ、力を加えたときの撓みを計測した。これによりこれまでより精度良く相互作用力を計測することが可能となった。
感染細胞表面の原子間力顕微鏡の測定結果から、ヘモグロビンCやSと同様、ヘモグロビンFやa-thalassemiaといった他の遺伝型ヘモグロビン異常でも、細胞表面の特異な構造変化が観察された。これにより我々が提案する耐性メカニズムは、異常ヘモグロビンに共通したものであると示唆される。
結論
ナノチューブ片持ち梁を用い、一分子間相互作用を計測することができた。今後は本手法を用いて実際に感染細胞表面に発現したタンパク質と、血管内壁細胞との相互作用力計測を行い、ヘモグロビン異常のマラリア耐性メカニズムを解明する。

公開日・更新日

公開日
2012-06-19
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

公開日・更新日

公開日
2013-02-18
更新日
-

文献情報

文献番号
201103008B
報告書区分
総合
研究課題名
マラリア感染細胞表面のタンパク質一分子計測と異常ヘモグロビンのマラリア耐性メカニズムの解明に関する研究
課題番号
H21-地球規模・若手-009
研究年度
平成23(2011)年度
研究代表者(所属機関)
有江 隆之(大阪府立大学 工学研究科 電子物理工学分野)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 地球規模保健課題推進研究(地球規模保健課題推進研究)
研究開始年度
平成21(2009)年度
研究終了予定年度
平成23(2011)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
遺伝性疾患であるヘモグロビン異常がマラリアに耐性を示すことは知られているが、そのメカニズムは明らかにされていない。本研究では原子間力顕微鏡およびカーボンナノチューブ片持ち梁を用い、感染赤血球表面のマラリア由来の突起状構造が、血管内壁細胞へ接着するプロセスを一分子レベルで可視化するための要素技術を開発し、耐性メカニズムを明らかにする。
研究方法
本研究では原子間力顕微鏡およびナノチューブ片持ち梁を用いて一分子間相互作用力計測を行うために、まずシリコン片持ち梁先端に部位特異的にタンパク質を配置する技術を確立した。さらにレーザー光を用いて酸化したナノチューブ先端にカルボキシル基を導入し、タンパク質を結合させる技術を確立した。これはシリコン片持ち梁に比べ、より少量のタンパク質を結合させることが可能で、より正確に一分子計測に用いることが可能である。さらに原子間力顕微鏡を用い、ヘモグロビンCとヘモグロビンSに加え、胎児ヘモグロビンであるヘモグロビンFとa-thalassemiaを持つ赤血球に対してもこれまでと同様に感染細胞表面の解析を行い、マラリアに対する耐性を調べた。
結果と考察
対向するプローブに配置した抗体の濃度を希釈することで、得られた相互作用力はおよそ270pNとなり、原子間力顕微鏡で計測された力と同程度であった。本手法では計測中の分子の様子を蛍光顕微鏡で観察可能であることから、相互作用力計測では従来の手法と比較してより有効であるといえる。またナノチューブのバネ定数を正確に求める手法も開発し、より精度良く分子間の相互作用力を計測することが可能となった。
感染細胞表面の原子間力顕微鏡の測定結果から、ヘモグロビンCやSと同様、ヘモグロビンFやa-thalassemiaといった他の遺伝型ヘモグロビン異常でも、細胞表面の特異な構造変化が観察された。これにより我々が提案する耐性メカニズムは、異常ヘモグロビンに共通したものであると示唆される。
結論
遺伝型ヘモグロビン異常を持つ赤血球によるマラリア耐性メカニズムを解明するため、一分子間相互作用力計測手法を開発した。これにより光学顕微鏡下で分子の様子を観察しながら相互作用力を計測することが可能となる。さらにヘモグロビンFやa-thalassemiaをもった感染赤血球の原子間力顕微鏡観察から、ヘモグロビンCやSと同様な構造変化を見出した。このことは我々が提案している耐性メカニズムが、さまざまなヘモグロビン異常に共通していることを示している。

公開日・更新日

公開日
2012-06-19
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

公開日・更新日

公開日
2013-02-18
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201103008C

成果

専門的・学術的観点からの成果
本研究では、遺伝型ヘモグロビン異常によるマラリア耐性メカニズムを分子レベルで明らかにするため、カーボンナノチューブ片持ち梁を用いた一分子間の相互作用力計測手法を確立した。本手法は原子間力顕微鏡や光マニピュレーションを用いた手法に比べ、簡便で計測中に分子の挙動を蛍光観察可能であり、マラリア以外にも生物物理学・細胞生物学の分野で非常に有用である。
臨床的観点からの成果
ワクチンの臨床試験では、血中抗体濃度の高感度検出・定量化が必要となるが、本研究で確立した分子間相互作用力計測では一分子間の相互作用を検出可能であり、特異性・定量性の観点から大幅な改善が期待できる。また原子間力顕微鏡を用いた感染赤血球の表面構造解析から、ヘモグロビンCやSと同様の構造変化がヘモグロビンFやa-thalassemiaでも見られ、これら遺伝性異常ヘモグロビン症のマラリアへの耐性は、同じメカニズムに基づいていると示唆された。
ガイドライン等の開発
特になし。
その他行政的観点からの成果
本研究はヘモグロビン異常におけるマラリア耐性のメカニズムを明らかにするだけではなく、国際保険分野における開発途上国への技術協力に活用できる革新的な科学技術の開発として、マラリアのワクチン開発に有用な知見を供する。例えばワクチンの臨床試験では、ワクチン接種後の血中抗体濃度の検出・定量化が必要であり、抗原-抗体反応の高い特異性と定量性の良さ・感度が求められる。本研究で確立した手法では一分子間の相互作用を検出することから、特異性・定量性の大幅な改善が期待される。
その他のインパクト
AIP Advancesに掲載された以下の論文が、Virtual Journal of Nanoscale Science & Technologyに取り上げられた。
A multi-walled carbon nanotube cantilever for interaction force sensing in liquid
T. Arie, S. Sawano, and S. Akita, AIP Advances, 2, 012144 (2012).

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
3件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
2件
学会発表(国際学会等)
2件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
T. Arie, S. Sawano, and S. Akita
A multi-walled carbon nanotube cantilever for interaction force sensing in liquid
AIP Advances , 2 , 12144-  (2012)

公開日・更新日

公開日
2018-06-05
更新日
-

収支報告書

文献番号
201103008Z