日本の道路安全と外傷予防に関する経験を活用した途上国の外傷予防に関する研究

文献情報

文献番号
201103003A
報告書区分
総括
研究課題名
日本の道路安全と外傷予防に関する経験を活用した途上国の外傷予防に関する研究
課題番号
H21-地球規模・一般-004
研究年度
平成23(2011)年度
研究代表者(所属機関)
中原 慎二(聖マリアンナ医科大学 医学部)
研究分担者(所属機関)
  • 木村 昭夫(国立国際医療研究センター 救急科)
  • 市川 政雄(筑波大学大学院 人間総合科学研究科)
  • 吉川 徹(財団法人労働科学研究所 研究部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 地球規模保健課題推進研究(地球規模保健課題推進研究)
研究開始年度
平成21(2009)年度
研究終了予定年度
平成23(2011)年度
研究費
3,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
わが国において、交通外傷や労働災害をはじめとする外傷・外因による傷害の発生を減少させてきた経験を評価し、途上国の政策立案、途上国に対する国際協力に役立てることを目的とする。最終年度である今年度は、3年間の研究成果を踏まえて具体的な提言を行う。
研究方法
我が国の外傷予防対策については、チャイルドシート着用義務化の効果をジョインポイント回帰分析を用いて検討し、東日本大震災における防災対策の効果を地域別年齢別死亡率の地域差によって検討した。ラオスにおける事業用自動車運転者の運転行動と事故リスクの関係を明らかにするために、ビエンチャン市内のバス運転手を対象として質問紙調査を行った。外傷データ分析の枠組みについては、昨年度作成した外傷患者の生存予測指標の予測精度を改善し、タイのデータで妥当性を検証した。わが国の労働災害対策の経験を紹介、活用するために、職場における参加型の実践活動を支援するための教材を英文に翻訳した。最後に、本研究の成果を途上国の専門家に紹介し、わが国の経験を途上国で活用していく方向性について意見交換した。
結果と考察
チャイルドシート着用義務化の効果評価では、着用が義務化された時期に未就学幼児の自動車乗車中の死傷率に減少方向への変化が認められたが、交通量増加によりその効果は打ち消されていた。東日本大震災において、防災対策の違いが学校における児童・生徒の死亡率に影響している可能性が示唆された。ラオスのバス運転手に対する調査では、危険な運転や疲労・眠気が事故のリスクとなっており、運転手に対する教育や労務管理の必要性が示唆された。外傷患者の生存予測指標は、年齢を連続変数とすることで予測精度を改善できた。ラオス、タイで専門家と意見交換し、わが国の経験を活用できる領域として、交通規則の導入と取り締まりの強化、交通量を削減するための対策、住民参加型の活動への支援、外傷データの収集分析の支援などがあげられた。
結論
わが国の外傷予防に関する対策の評価を継続するとともに、途上国における調査および意見交換を行い、わが国の経験を途上国の実情に合わせて活用するための提言を行った。研究成果は英文の論文・報告書にまとめ、資料の翻訳も行っており、途上国での活用が期待される。

公開日・更新日

公開日
2012-06-19
更新日
-

文献情報

文献番号
201103003B
報告書区分
総合
研究課題名
日本の道路安全と外傷予防に関する経験を活用した途上国の外傷予防に関する研究
課題番号
H21-地球規模・一般-004
研究年度
平成23(2011)年度
研究代表者(所属機関)
中原 慎二(聖マリアンナ医科大学 医学部)
研究分担者(所属機関)
  • 木村 昭夫(国立国際医療研究センター 救急科)
  • 市川 政雄(筑波大学 医学医療系)
  • 吉川 徹(財団法人 労働科学研究所 研究部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 地球規模保健課題推進研究(地球規模保健課題推進研究)
研究開始年度
平成21(2009)年度
研究終了予定年度
平成23(2011)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は、近年開発途上国(以下途上国)で健康問題として増大しつつある外傷に対して、過去わが国において行われた予防対策と予防策立案に不可欠なデータ収集・分析の枠組みを評価し、途上国の外傷予防対策立案、評価に生かすための提言をおこなうことを目的とする。
研究方法
わが国の外傷予防策の評価として、交通外傷と労働災害を中心に文献レビューを行い、事業用自動車の安全対策については東京都内のタクシー会社で訪問調査を行った。また、警察庁のデータを用いて、飲酒運転対策、子供の歩行者事故予防策、チャイルドシート着用義務化などの効果を評価した。ラオスでは、ビエンチャン市内のバス運転手を対象に、交通事故のリスク要因について質問紙調査を行った。外傷データ収集と分析について、タイ、ラオス、ベトナムなどで外傷発生状況及び外傷データの収集について調査を行うとともに、途上国に適したデータ分析モデルの開発と途上国での妥当性検討、わが国におけるデータ収集成功例の調査、外傷分類の改善と簡略化に関する検討を行った。さらに途上国の専門家と意見交換し、わが国の経験を途上国の外傷予防活用する方向性について提言を行った。
結果と考察
わが国の交通外傷予防策の評価では、環境の改善、社会規範の変化、交通量低減などに結びつくポピュレーション・アプローチの効果が高く、労働災害予防策では参加型の活動の効果が高いことが示された。ラオスのバス運転手に対する調査では、危険な運転や疲労・眠気が事故のリスクとなっており、運転手に対する教育や労務管理の必要性が示唆された。外傷データの収集・分類・分析について、途上国に適した方法・枠組みを開発し提案した。ラオス、タイで専門家と意見交換し、わが国の経験を活用できる領域として、交通規則の導入と取り締まりの強化、交通量を削減するための対策、公共交通機関の安全性向上、住民参加型の活動への支援、外傷データの収集分析の支援などがあげられた。
結論
わが国の外傷予防に関する対策の評価を総合的に行うとともに、外傷データ収集と分析について途上国に適した枠組みを提案した。さらに途上国における調査および意見交換を行い、わが国の経験を途上国の実情に合わせて活用するための提言を行った。

公開日・更新日

公開日
2012-06-19
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201103003C

成果

専門的・学術的観点からの成果
交通安全対策を中心に、わが国の外傷予防対策の効果を評価し、特に飲酒運転対策として罰則強化と報道の効果、チャイルドシート着用義務化の効果、交通安全対策としてハイリスクアプローチよりポピュレーションアプローチの効果が大きいこと、学校防災対策の効果などについて示すことができた。これらは論文として発表するとともにタイ、ラオス、ベトナムの専門家と行政担当者に情報提供した。外傷データの収集と分析の枠組みについては、途上国に適した分析モデルの開発を行った。
臨床的観点からの成果
外傷死亡の二次予防としての外傷診療の質改善を評価するための予後予測モデルを、途上国でも使用しやすいような簡略化したものを開発し、その妥当性をタイのデータを用いて検証した。予後予測モデル及び疫学的分析にも使用する外傷分類の方法について、現在使用されている国際疾病分類の問題点を明確にし、簡略な分類の使用や外傷に特化したAIS分類との統合による診療の質評価の促進、さらに多発外傷の分類方法の改善方法について提言を行った。
ガイドライン等の開発
わが国の労働安全衛生対策で効果を上げてきた参加型の実践活動を支援する目的で作成されたマニュアルを翻訳、紹介した。「職場改善のための安全衛生実践マニュアル」の中から、途上国の労働災害として多い転落・墜落、機械への巻き込まれの予防対策と、緊急時の対応、職場安全チェックリストを英文に翻訳した。また、わが国の飲酒運転対策として作成されたビデオ教材(飲酒運転事故が被害者と加害者の関係者に及ぼす悲劇を描く30分のドラマ)に英語、タイ語字幕をつけ紹介した。
その他行政的観点からの成果
わが国における公共交通機関の安全向上の経験を途上国に活用する目的で、都内のタクシー会社で安全対策に関する聞き取り調査を行うとともに、ラオス、ビエンチャンのバス公社に勤務する運転手に対して飲酒行動や危険運転行動および疲労や眠気などの交通事故に関連する要因について調査を行った。ラオスでの調査から、運転手の間に交通事故リスクを高める要因が少なからず認められた。この調査結果はラオス交通省に提出した。調査結果に基づき、バス運転手に対する飲酒運転対策や労務管理などの改善が行われることが期待される。
その他のインパクト
途上国では飲酒運転による交通外傷が大きな問題となっており、途上国の専門家と行政担当者にわが国における飲酒運転対策の成功への関心をもってもらうことができた。特に、ドラマを用いたビデオ教材では、わが国と社会規範や罪の意識に関する文化的な違いはあるものの、事故後に起こる悲劇の状況がわかりやすく描かれており、途上国でも効果的に使用できるのではないかとの意見をもらった。タイの専門家は、同じようなビデオ教材を作成して教育用に使用したいと述べていた。

発表件数

原著論文(和文)
2件
原著論文(英文等)
6件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
4件
学会発表(国内学会)
3件
学会発表(国際学会等)
3件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Nakahara S, Ichikawa M, Kimura A
Simplified alternative to the TRISS method for resource-constrained settings
World Journal of Surgery , 35 (3) , 512-519  (2011)
原著論文2
Nakahara S, Ichikawa M
Effects of high-profile collisions on drink-driving penalties and alcohol-related crashes in Japan
Injury Prevention , 17 (3) , 182-188  (2011)
原著論文3
Kimura A, Nakahara S, Chadbunchachai W
The development of simple survival prediction models for blunt trauma victims treated at Asian emergency centers
Scandinavian Journal of Trauma Resucitation and Emergency Medicine , 20 (1) , 9-  (2012)
原著論文4
Kimura A, Nakahara S, Chadbunchachai W
Modification of the Trauma and Injury Severity Score (TRISS) method provides better survival prediction in Asian blunt trauma victims
World Journal of Surgery , 36 (4) , 813-818  (2012)
原著論文5
中原慎二、内田康之、織田順他
ICDとAISへ変換可能な新たな外傷分類の作成
日本外傷学会誌 , 26 (1) , 19-26  (2012)
原著論文6
Nakahara S, Ichikawa M
Mortality in the 2011 tsunami in Japan
Journal of Epidemiology , 23 (1) , 70-73  (2013)
10.2188/jea.JE20120114
原著論文7
Nakahara S, Katanoda K, Ichikawa M
Onset of a Declining Trend in Fatal Motor Vehicle Crashes Involving Drunk-driving in Japan
Journal of Epidemiology , 23 (3) , 195-204  (2013)
10.2188/jea.JE20120134
原著論文8
Nakahara S, Uchida Y, Oda J, et al.
Bridging classification for injury diagnoses that can be converted to both the International Classification of Diseases and the Abbreviated Injury Scale
Acute Medicine & Surgery , 1 (1) , 10-16  (2014)
10.1002/ams2.2
原著論文9
Nakahara S, Ichikawa M, Nakajima Y
Effects of increasing child restraint use in reducing occupant injuries among children aged 0-5 years in Japan
Traffic Injury Prevention , 16 (1) , 55-61  (2015)
10.1080/15389588.2014.897698

公開日・更新日

公開日
2015-05-28
更新日
2018-06-05

収支報告書

文献番号
201103003Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
3,000,000円
(2)補助金確定額
3,000,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 232,995円
人件費・謝金 278,047円
旅費 831,165円
その他 1,657,793円
間接経費 0円
合計 3,000,000円

備考

備考
-

公開日・更新日

公開日
2018-06-05
更新日
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