治療中の者等に対する保健指導を行った場合の医療費適正化の効果に関する調査研究

文献情報

文献番号
201101036A
報告書区分
総括
研究課題名
治療中の者等に対する保健指導を行った場合の医療費適正化の効果に関する調査研究
課題番号
H23-政策・一般-001
研究年度
平成23(2011)年度
研究代表者(所属機関)
岡本 悦司(国立保健医療科学院 医療・福祉サービス研究部)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 政策科学総合研究(政策科学推進研究)
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成23(2011)年度
研究費
5,481,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は,特定保健指導を治療中者にも実施したら医療費がどのように増減するかを評価することを目的とする。協会けんぽの大規模な被保険者集団をレセプトデータとリンクして治療中であるにもかかわらず特定保健指導を受けた被保険者を抽出し,それと傾向得点(プロペンシティスコア)によりマッチさせた対照群(治療中でありかつ特定保健指導を受けなかった者)との間で医療費の変化を比較することによって特定保健指導の医療費への効果を評価する。
研究方法
全国健康保険協会が保有するレセプトデータならびに特定健康診査・保健指導データより以下のように抽出した。
介入群
○母集団のうちH21年4月以降に保健指導を受けた者(保健指導を受けた時期は問わない)
対照群
○母集団のうち保健指導を受けなかった者
1)特定健診受診者の中で保健指導を受けた者とそうでない者をプロペンシティスコア(傾向得点)法によって同数マッチングを行う。
2)プロペンシティマッチングは,特定保健指導を受ける受けないを目的変数としてロジスティック回帰を行い,特定保健指導を受ける確率の等しい者同士同数組み合わせる。
3)マッチングはSTATAという統計ソフトのPSmatch2というコマンドで実行する。特定健診データと質問票のデータを説明変数(共変量)として用いるが,変数を取捨選択して繰り返して行い,1)判別精度(ROC曲線下の面積すなわちAUCの値),2)適合度(Hosmer-Lemeshow)そして3)両群バランスを観察する。
4)レセプトを抽出し,介入後の経過月数ごとの累積医療費を算出する。対照群として一対一で選択された者については,相手となった保健指導受診者と同時に同じ保健指導を受けたものとみなして経過月数を算出する。
結果と考察
●累積医療費の比較
両群の総累積医療費(外来+調剤)の推移は以下の通り,介入群の医療費は一貫して対照群より低く,その差は拡大している。
●傷病部医療費の比較
 PDM法によりメタボ関連の3傷病分類の医療費のみを抽出した。メタボ関連3傷病分類(糖尿病402,高脂血症403,高血圧901)は外来+調剤医療費の約26%を占めていた。総医療費と同様にその累積額は介入群の方が対照群よりも低く、月が経過するごとに差は拡大していた。
●考察
保険者が自ら保有するレセプトデータと健診データをリンケージすることにより科学的に妥当な評価を行う手法を提示した。
結論
40-74歳対象人口の4割を占める全国健康保険協会の十分な標本数をもって評価した結果,治療中者に特定保健指導を実施することによってメタボ関連医療費を削減できると結論した。

公開日・更新日

公開日
2012-11-06
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201101036C

成果

専門的・学術的観点からの成果
治療中者が特定保健指導を受けた場合の医療費への影響を全国健康保険協会のデータを用いて,プロペンシティスコア(傾向得点)マッチングとPDM法による傷病別医療費で評価した。糖尿病薬もしくは循環器薬を服用中でありながら特定保健指導を受けた群の累積医療費の伸びは,総医療費でもメタボ関連疾患医療費でも保健指導受けた群は対照群よりも低く,特定保健指導は現に治療中の者に行うことで医療費伸び抑制効果があることが実証された。
臨床的観点からの成果
治療上の介入の効果は理想的には無作為割り付け比較対照試験(RCT)で評価するのが理想であるが,保健事業のように,技術的倫理的理由からRCTを行えない場合が少なくない。しかし近年急速に普及しつつあるプロペンシティスコア(傾向得点)によるマッチングを用いることによってレセプトや健診データといった既存データからでもRCTと同様の効果測定を行うことが可能である。わが国のレセプトと特定健康診査・保健指導データはプロペンシティマッチングに理想的な条件を備えており,実際に適用可能であることを実証した。
ガイドライン等の開発
プロペンシティスコア(傾向得点)の算出法と,マッチングの具体的な方法ならびに,マッチングの妥当性評価の方法をマニュアル化して示した。また傷病別の医療費を客観的に推計する比例配分法(PDM)を電子レセプトに適応するように改善したプログラムをフリーウェアとして公開している(http://resept.com)。
その他行政的観点からの成果
治療中者を対象に加えるべきかが検討会で議論されたものの「特定保健指導は未治療者のみを対象」という従来の方針は変更されなかった。その理由は「従来のままでもメタボ者一人あたり9万円の削減効果」というナショナルデータベースの結果であった。しかしNDBは暗号化の不備から健診とレセプトが12.7%しか結合されておらず100%近く結合できた本研究より劣っていた。それらが評価されないまま大臣告示にも用いられたことは遺憾である。しかし糖尿病の重症化予防など治療中者に対する対策が導入された等の成果があった。
その他のインパクト
プロペンシティマッチングをレセプトならびに特定健康診査・保健指導データに適用した最初のケースとして,特定健康診査・保健指導のあり検討委員会の担当室ならびに委員各位に報告書を送付した。協力を仰いだ全国健康保険協会においては報告会を開催した。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
0件
その他論文(和文)
2件
レセプトデータベースの研究利用.日本臨床試験研究会雑誌2011;1(2):188-190. ナショナルデータベースで正確な根拠に基づく政策を.日本歯科医師会雑誌2011;64(9):16-17.
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
3件
日本薬剤疫学会第17回学術総会2011年11月東京.抄録48?49頁. 医療費適正化計画-第一期計画の評価と第二期計画策定.第82回日本衛生学会学術総会2012年3月京都.講演集253頁.
学会発表(国際学会等)
0件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

公開日・更新日

公開日
2014-05-21
更新日
-

収支報告書

文献番号
201101036Z