HIV-1のアッセンブリ阻害剤開発のための基礎研究

文献情報

文献番号
199700890A
報告書区分
総括
研究課題名
HIV-1のアッセンブリ阻害剤開発のための基礎研究
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
松田 善衛(国立感染症研究所・エイズ研究センター)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 エイズ対策研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
-
研究費
2,500,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 最近、HIV-1感染に対する薬剤の多剤併用療法の著効が報告されている。しかし薬剤耐性株の出現、第三世界への適用の際の高コストなどの問題から薬剤療法以外の新しい治療法の探求、開発は今後のエイズ予防および治療を考えるうえで不可欠である。
理論的にアッセンブリの阻害剤はウイルス蛋白質合成そのものではなく、合成されたウイルス蛋白質間の相互作用を阻害することにより感染性のあるウイルス粒子の形成を阻害する。従って、このような阻害剤は宿主によるウイルス蛋白質に対する免疫応答を誘起する一方でウイルスの複製をも阻害するという治療上の相乗効果を有することが期待される。本研究はHIV-1のアッセンブリ過程の阻害剤の開発を目指してp28を一つのモデルとしてその阻害機構解明のための解析を進めた。
研究方法
p28cDNA あるいはその誘導体を発現ベクターに組み込んで、HIV-1のプロウイルスDNAクローン(HXB2) とともにCD4陽性T細胞株SupT1にトランスフェクションする方法によって、それぞれのHIV-1の複製に対する影響を調べた。p28の誘導体としては、serine rich domainを欠失したもの、あるいはgp41部のみを持つものを作成した。
p28の細胞内分布を調べるために、p28のC末をFLAGペプチドによって修飾したクローンをつくり、培養COS細胞にトランスフェクション後、抗FLAG モノクローナル抗体を用いて間接蛍光抗体法にて解析した(2次抗体はCy5によってラベルしたものを用いた)。EnvおよびGagの細胞内局在については、Envはp28と同様の方法で検出を試み、GagについてはGag-EGFP(eukaryotic green fluorescent protein)の融合タンパク質を発現するようなベクターを用いて検出した。
結果と考察
研究結果:
(1)co-transfection アッセイ
p28を発現するプロウイルスクローンではHIV-1構造蛋白質の発現やプロセッシング、ウイルス粒子の放出には著名な変化なく、その感染性が失われるが、p28 cDNAを用いてin transでp28を発現させても同様にウイルスの感染性を抑えることがわかった(data not shown)。さらにp28は3つのドメイン(SIVmacVpx領域、serine rich ドメイン、HIV-1gp41細胞質内部分)からなるが、gp41部分が阻害活性に必要であることを示した。
(2)一過性発現系(COS細胞)による蛋白局在の解析:培養COS細胞にp28発現ベクターをトランスフェクションして、細胞内分布を調べた結果、p28は細胞質を中心として分布し、その染色パターンとしては細粒状の像を示した。一方EnvC末がFLAG で標識されたHIV-1 プロウイルスプラスミド(pol変異体、複製能力の無いクローン)をトランスフェクションし解析したところ、Envは他の一般の糖タンパクと同様に、細胞質内、特に核近傍でおそらくGolgi領域と思われる部分の染色パターンが得られた。この分布はp28のそれとは明らかに異なるものであった。さらにp28とGag の局在を比較するために、GagタンパクのC末をEGFPで標識してその細胞内分布を見たところ、細胞質、および一部核に分布する像が得られた。この分布もまたp28の細胞内分布とは異なるものであった。
考察:
p28によるHIV-1複製の阻害はHIV-1のタンパク発現やそのプロセッシングにはあまり大きな影響を与えないことから、post-translationalレベルで阻害効果を発揮していると考えられる。今回の実験結果から、p28の阻害ドメインとしてgp41部分が同定されたことはこの仮説を裏付けるものである。
トランスメンブレン蛋白の細胞質部分とギャグマトリックス蛋白の相互作用が報告されているので、p28はそのgp41部分を介してHIV-1のGag-Envタンパク質の相互作用を阻害することによって、HIV-1の複製阻害作用を発揮しているとの作業仮説を立てた。そこで、p28とGagあるいはEnvとが同様の細胞内局在するかどうかを検証した。
COS 細胞を用いた一過性タンパク発現によるここの蛋白質の細胞内分布を調べた範囲では、p28とGagあるいはEnvは共通の分布パターンは示さなかった。ただCOSによる一時発現系では、高いタンパクの発現は期待できるが、その一方で高い発現のためによるアーティファクトの可能性もあり、他の細胞系による検証が必要である。また今回の実験では各タンパク質個々のの細胞内分布には、共通の局在は見られなかったが、それらを同時に発現させたときの分布あるいはその時の各タンパク質の動態み変化が見られる可能性はある。これらの点は今後検討される必要がある。
結論
 本研究では、HIV-1複製阻害作用のあるリコンビナントタンパク質であるp28についての解析を行った結果、p28のうちgp41部分が阻害活性を担っていることを証明した。p28の阻害機構解析の目的で、p28の細胞内分布をしらべたところ、細胞質を中心とした細粒状分布像が得られた。この分布像は、Gag, Envの分布とは直接重なり合うことがないため、p28は直接Gag-Envの相互作用を阻害していないのかもしれない。 ただ、それらのタンパク質を共発現させたときの分布については未解析であるので、この可能性は否定できない。。今後は定常系を用いた形態学的解析あるいは細胞分画法などの生化学的手法の活用が必要と考えられる。
最後に、p28のによるようなアッセンブリの阻害は、ウイルスタンパクの生成そのものには影響を与えることなく、産生されるウイルスの感染性をなくすことをもたらす。この際、宿主によるウイルスタンパク質への免疫応答は温存される。すなわち、阻害物質によるウイルス複製の阻害と同時に、宿主のウイルスに対する免疫免疫応答も誘導可能である点でエイズ発症予防のために有効であると期待される。われわれは、ウイルス向性および阻害ドメインの2つのmodulesからなる、アッセンブリを標的とした阻害分子をvirion-specific inhibitory molecule (VSIM)と呼ぶことを提唱した。VSIMに基づくアプローチは、HIV-1複製に対するmolecular interventionの1つとして極めて有用であると考えられる。

公開日・更新日

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