「食」を通して支え合うコミュニティづくりに関する研究

文献情報

文献番号
201101010A
報告書区分
総括
研究課題名
「食」を通して支え合うコミュニティづくりに関する研究
課題番号
H22-政策・一般-004
研究年度
平成23(2011)年度
研究代表者(所属機関)
野村 知子(桜美林大学 総合科学系)
研究分担者(所属機関)
  • 杉澤 秀博(桜美林大学大学院 自然科学系)
  • 友永 美帆(桜美林大学 健康福祉学群)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 政策科学総合研究(政策科学推進研究)
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成23(2011)年度
研究費
3,359,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 調布ゆうあい福祉公社を対象に、一般市民である高齢者・子育て中の女性、社会福祉協議会、保健福祉の相談専門職の立場から評価し、福祉的ニーズに対する配食と住民の相互扶助活動の両面からその意味と可能性を探る。
 調布ゆうあい福祉公社は、住民が調理から配達までを担う住民参加型配食サービスを実施し、専門職による相談機能と密接な連携を図っている。
研究方法
 研究方法は、市民対象では高齢者と子育て期の女性に対し無作為抽出のアンケート調査を実施し、社会福祉協議会へは、関係する部署の職員を対象にしたグループインタビュー調査を行った。保健福祉相談の専門職として地域包括支援センターとケアマネージャーを対象に行ったアンケート調査は、全数を対象としている。
結果と考察
 市民調査からは高齢者の公社配食利用希望が6割、担い手希望が2割あること、また小さい子どもをもち、食の問題を抱える女性の3割が料理教室への参加希望をもっていた。公社の公共性に対して評価し、市の助成金の支出に対し肯定的な人は、高齢者・子育て期の女性とも5割以上にのぼり、公社への支持と利用者・担い手・食育支援ニーズがあることが明らかにされた。
 専門職調査からは、公社配食は利用者情報を把握でき日常生活の見守りを通して、高齢者のみの認知症世帯の支援につながるなど福祉的ニーズへ対応できることが評価されていた。さらに、公社活動全体に対し、利用者ニーズを尊重した柔軟な支援、予防的対応、家族支援、他機関との連携に対して、高く評価されていた。民間配食の手軽さ、使いやすさが高く評価される一方で、福祉的ニーズに対応できる公社の配食サービスが評価されていた。今後の期待としては、低栄養で閉じこもりの介護予防対象者の支援、ケアマネージャーからは、研修機関としての機能等がだされていた。さらに、社会福祉協議会調査も含めて、公社の相互扶助活動に対しては固有の価値として高く評価されていた。
結論
 調布ゆうあい福祉公社を対象とした多面的な調査をとおして、住民参加型配食サービスが、専門的な相談援助と結び付くと相乗効果を生み、お互いの価値を高め、地域ケアシステムの一モデルとなりうることが示された。また、次世代の食育支援の場となる可能性を見いだすことができた。
 また、介護保険における支援が限定される中で、福祉公社のような柔軟な支援が可能となる組織は、市民福祉の質の向上に資することが示唆された。

公開日・更新日

公開日
2013-02-21
更新日
-

文献情報

文献番号
201101010B
報告書区分
総合
研究課題名
「食」を通して支え合うコミュニティづくりに関する研究
課題番号
H22-政策・一般-004
研究年度
平成23(2011)年度
研究代表者(所属機関)
野村 知子(桜美林大学 総合科学系)
研究分担者(所属機関)
  • 杉澤 秀博(桜美林大学大学院 老年学研究科 老年学専攻)
  • 友永 美帆(桜美林大学 健康福祉学群)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 政策科学総合研究(政策科学推進研究)
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成23(2011)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 この総合報告書は、これまで行った調査、各団体の情報を集約、再構成しマニュアル的にまとめることで、今後、住民参加型食事サービスがどのような形で活動を展開していけば、より「支えあうコミュニティづくり」に貢献し、未来につなげられる活動になりうるのか、活動者自身の指針および行政等の支援方策を提示することを目的としている。
研究方法
 住民参加型食事サービス(配食サービス)を10年以上の長期にわたり実施し続けている全国7団体を調査対象とし、現地訪問とインタビュー調査、資料収集を行うと共に、全団体合同の会議をもち、各団体が作成しているマニュアルについて検討した。
 さらに、調査対象の一つである調布ゆうあい福祉公社については、会の利用者と担い手による内部評価と、市民や市役所等、保健福祉の専門家からの外部評価を実施した。当組織は、福祉公社として食事サービスを住民団体に委託している点では、ほぼ日本で唯一の存在であり、保健福祉の専門職と住民との連携、専門職のアセスメントに基づいた配達方法について貴重な情報を得ることが出来た。
結果と考察
 主に下記の内容を中心にマニュアル的な指針を作成した。
1)住民参加型食事サービスにおける手づくり配食の意味
 ①手づくり配食を利用し続けることで心身機能の低下が抑制
 ②要介護の高齢者にとって、数少ない食べ続けられる食事
 ③要支援の高齢者にとって、貴重なモニタリングの機会
 ④多様な福祉ニーズをかかえる高齢者等を対象とし、幅広い介護予防を展開
 ⑤地域貢献と健康な生活を志向する人材の育成拠点
2)利用者の重度化に対応した「見守り」の必要性と実践例
3)専用厨房と公共施設の厨房に関する設計指針の提示
4)初心者を受け入れる厨房での参加方法をとおした育成方策の提案
5)若い母親への食育の必要性、担い手の可能性の検討
6)災害時の炊き出し拠点としての常設厨房の期待と実践
結論
 住民参加型食事サービスが、コミュニティにとって有益な社会資源であることを示した上で、コミュニティへの貢献、未来につながる持続可能な活動について検討し、提案を行った。当事者である各団体が、活動を見直し変化に立ち向かう一助となれば幸いである。 
 一方で「守り合い支えあうコミュニティづくり」は厚生労働行政をはじめ国および市民の焦眉の課題である。住民参加型食事サービスが、より強固で効果的な活動を展開させるべく専用拠点づくりへの支援も視野に入れた方策が早急に求められる。

公開日・更新日

公開日
2013-03-28
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201101010C

成果

専門的・学術的観点からの成果
(1)研究目的の成果
本研究は、地域住民が配食サービスの担い手として活動に参加している調布ゆうあい福祉公社の活動の効果を複眼的に評価することで、「食を通して支え合うコミュニティづくり」の構築方法について明らかにした。
(2)研究成果の学術的・国際的・社会的意義
本研究のように、一事例を、①他地域の住民参加型配食サービス事業との対比、②担い手への質的評価、③アンケートによる一般住民による評価、④保健福祉の専門家の立場からの評価といった複眼的視点を通した研究はこれまで行われていない。
臨床的観点からの成果
(1)研究目的の成果
 配食サービスが高齢者の生活の安定に寄与するプロセスについて、質的調査を用いて行い、【不安だらけの生活】の中で、公社の配食サービスを中心に生活を組み立て、バランスのとれた食事から栄養を摂るだけでなく、楽しみと生活リズムを確保することで【生活の安定化】を図っている様子を明らかにした。
(2)研究成果の学術的・国際的・社会的意義
これまで、量的調査においては、配食サービスが高齢者の生活の安定に寄与することは明らかにされているが、そのプロセスについては明らかにされてこなかった。
ガイドライン等の開発
「食を通して支え合うコミュニティづくり」のための支援マニュアルを作成した。調布ゆうあい福祉公社も含め全国の住民参加食事サービス7事例をとりあげた。各事例の活動紹介を行った上で、活動概要、配達方法、安否確認、調理、衛生管理、拠点について取り組み状況を紹介している。また、調理施設、衛生管理、献立については、専門家からのアドバイスを載せている。さらに、新たな担い手の開拓方法として、小さい子どものいる親に着目し、子育て中の親が「食」にどのように対応しているか、既往研究を基にその実態を紹介している。
その他行政的観点からの成果
地域包括ケアシステムの一環として、住民主体による配食サービスを通した見守り機能については、その有効性が事例調査の中で明らかにされた。本研究の成果は、第6次介護保険事業計画における介護予防・日常生活支援総合事業のその他の生活支援サービスの中で、配食サービスが明記されたこと、住民主体の活動に力点がおかれることを後押ししたのではないかと推察している。
その他のインパクト
住民参加型食事サービスにおいて、担い手不足は多くの団体が抱える課題であるが、新たな担い手の発掘と子育て支援をかねた、小さな子どものいる親への料理教室や活動への参加について事例やアンケートを通して検討した。市民アンケートからは、教室への参加意向は、就学前の子供がいる場合に高いという結果が得られた。子育て期にある女性は、子供の食事などで悩みが多く、その悩みを解消するための手段として公社の料理教室への参加を希望していることが示唆された。

発表件数

原著論文(和文)
2件
老年学雑誌、厚生の指標
原著論文(英文等)
1件
The Journal of Nutrition, Health and Aging
その他論文(和文)
5件
2012年度日本老年社会科学会(2),2013年度日本老年社会科学会(2),月刊ゆたかなくらし
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
5件
2011年度日本社会福祉学会(1),2012年度日本老年社会科学会(2),2013年度日本老年社会科学会(2),
学会発表(国際学会等)
0件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
1件
第6次介護保険事業計画の生活支援・総合事業のその他に住民主体の配食サービスが位置付けられた。
その他成果(普及・啓発活動)
2件
2011市民セクターよこはま、横浜市社会福祉協議会「食でつながるまちづくり」講師,平成23年度子ども家庭福祉研究講演会の講師

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
野村知子、杉澤秀博、友永美帆 他
定年退職男性が食事サービスボランティアをとおして定年退職男性がボランティア活動を生活習慣化させるプロセスに関する研究-食事サービスボランティアに関する質的検討-
老年社会科学 , 34 (2) , 299-  (2012)
原著論文2
友永美帆、野村知子、杉澤秀博、他
単身高齢者の在宅生活を支える「食」を中心とした生活の安定化に関するプロセス-M-GTAを用いた食事サービスに関する質的研究-
老年社会科学 , 34 (2) , 200-  (2012)
原著論文3
野村知子、杉澤秀博、友永美帆 他
保健福祉の相談専門と利用者からみた住民参加型食事サービスの評価に関する研究
老年社会科学 , 35 (2) , 196-  (2013)
原著論文4
杉澤秀博、野村知子、友永美帆
高齢者における食品摂取習慣の階層間格差とその要因
老年社会科学 , 35 (2) , 185-  (2013)
原著論文5
Hidehiro Sugisawa, Tomoko Nomura, Miho Tomonaga
Psychosocial Mediators between Socioeconomic Status and Dietary Habits among Japanese Older Adults JNHA
The Journal of Nutrition, Health and Aging , 398-404  (2015)
原著論文6
友永美帆、野村知子、杉澤秀博
単身高齢者の暮らしにみる配食サービスの生かし方
老年学雑誌 , 1-20  (2015)
原著論文7
野村知子
配食の担う福祉の役割-現状と課題について
月刊ゆたかなくらし ,  (6) , 18-22  (2013)
原著論文8
野村知子、杉澤秀博、友永美帆 他
保健福祉の専門職による住民主体,行政,民間による配食サービスおよび訪問介護による食事提供の評価
厚生の指標 , 63 (3) , 14-22  (2016)

公開日・更新日

公開日
2016-06-10
更新日
-

収支報告書

文献番号
201101010Z