文献情報
文献番号
199700887A
報告書区分
総括
研究課題名
HIV抗体空白期(ウインドウ・ピリオド)が原因の血液由来HIV感染に関する疫学的研究
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
野内 英樹(結核研究所)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 エイズ対策研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
-
研究費
2,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
本研究は、HIV抗体空白期間(ウインドウ期)にあたるHIV汚染血液の発生率の推定モデルを設定し、事例研究をタイにて実施した。また、この推定モデルを活用して予防対策として、HIV低リスク群の献血推進と高リスク献血者群の献血回避プログラムの効果や、HIV抗体陰性献血でのHIVp24抗原スクリーニングの有用性を検討した。更に、日本での本モデル応用の可能性を検討考察した。
研究方法
検討したHIV抗体ウインドウ期の発生頻度推定モデル:血液銀行においての献血記録をコンピュータ化し、血液銀行番号を識別番号として活用、個人毎に過去の献血歴と献血時情報(血液マーカーを含めて)を整理する。尚、倫理上、個人情報漏洩を防ぐ為にHIV関連情報等は別途記録帳に厳重に保存管理する。複数回献血者のデーターを抽出し、Retrospective cohortを設定し、年人法により年HIV新規感染率を推定する。文献よりHIV抗体のウインドウ期を45日間とし、年HIV新規感染率に45/365.25を掛け合わせウインドウ期にあたるHIV抗体陰性献血の発生頻度を計算した。HIV感染が最後のHIV抗体陰性時期と最初のHIV抗体陽性時期の間に均等に起こるという仮定によりHIV新規感染率の年推移も検討した。
本研究では、この方法の事例研究をタイ国チェンライ全県の血液銀行データーベースにて実施した。HIV抗体検査が始まった1989年より現在までの血液銀行データーベースの2回目を入力し、既存のデーターベースと比較検討することで、データーの入力ミス等を補正した。HIV新規感染率に対する影響因子を検討することにより、HIV低リスク群への献血推進とHIV高リスク群の献血回避によるウインドウ期での献血の減少の可能性を検討した。付随研究として、HIV陰性献血におけるHIVp24抗原検査の意義を検討した。
更に、日本でのこの推定モデル活用の可能性を、C型肝炎ウイルスのウインドウ期に関して同様な研究を進めている大阪成人病センター、田中英夫氏に研究協力依頼して検討した。
本研究では、この方法の事例研究をタイ国チェンライ全県の血液銀行データーベースにて実施した。HIV抗体検査が始まった1989年より現在までの血液銀行データーベースの2回目を入力し、既存のデーターベースと比較検討することで、データーの入力ミス等を補正した。HIV新規感染率に対する影響因子を検討することにより、HIV低リスク群への献血推進とHIV高リスク群の献血回避によるウインドウ期での献血の減少の可能性を検討した。付随研究として、HIV陰性献血におけるHIVp24抗原検査の意義を検討した。
更に、日本でのこの推定モデル活用の可能性を、C型肝炎ウイルスのウインドウ期に関して同様な研究を進めている大阪成人病センター、田中英夫氏に研究協力依頼して検討した。
結果と考察
チェンライでは1989年以来11,232人の複数回献血者が平均4.09回の献血をしており9,518,863人日(約2.6万人年)の観察に貢献していた。その中で273人のHIV新規感染者が認められ、HIV新規感染率は100人年毎1.04754(95%信頼区間:0.700-1.508)と推定された。ウインドウピリオド期に当たるHIV抗体陰性献血は100検体当たり0.129(=1.04754x45/365.25)と計算された。このHIV新規感染率(100人年毎)の関与因子としては男性(1.25)が女性(0.95)に比して高かった。年齢的には21-30歳の群が1.91(95%信頼区間1.28-4.38)と一番高く、次に16-20歳(1.48)、31-40歳(0.56)、41歳以上(0.49)の順であった。受血者・入院患者の関係者(Replacement donor)による献血は1.58(95%信頼区間1.14-2.12)と完全なボランテア群(Volunteer donor)による献血の0.92(95%信頼区間0.59-1.35)よりも高値であった。2回献血群は1.27と3回以上献血群の1.02に比してより高値であった。これらのHIV新規感染危険因子を活用して献血推進活動でHIV低リスク群を増やし、HIV高リスク群を回避する効果を定量化する事が可能である。例えば、Replacement donor をなくし、Volunteer donor のみにした場合、ウインドウ期の確率はHIV抗体陰性献血100検体あたり、前述の0.129より0.113(=0.92x45/365.25)まで減少する。
HIV感染高リスク行動をしている献血者477検体のHIVp24抗原陽性率は0.84%(4/477)であった。HIV感染低リスクの他の人にHIV新規感染がないと仮定しても、1440HIV抗体陰性血液に1検体HIVp24抗原陽性血液がある確率となる。もちろん、HIVp24抗原陽性イコールHIV感染ではなく偽陽性も交じる。チェンマイでの研究よりHIVp24抗原陽性検体中、HIVp24中和抗体が確定されたのは37%であった事より補正しても、3900HIV抗体陰性血液に1検体の率でHIVp24抗原検査で発見されるウインドウ期の献血が含まれる計算である。対費用効果を考慮すべきではあるが、チェンライの様にHIV新規感染が多発している地域ではHIVp24抗原検査は考えられる予防策と考えられる。今後、HIVp24抗原検査陽性の出現時期と感度が定量化出来れば上記の推定モデルにて効果判定できる。
97年5月末、日本において初めて新規HIV感染者におけるHIV抗体ウインドウ期による事が原因によるHIV輸血後感染例が確定された事が、大きく報道され社会的話題となった。よって日本においてもHIV抗体ウインドウ期の発生頻度推定は急務と考えられる。田中等は1992年2月より大阪府赤十字血液センターでの献血者のデーターベースを作成しているが、38.4万人の複数回献血者より80万人年の分母を得、HCVの新規感染者が34人(分子)であったため、新規感染率4.26(10万人年当たり)を得ている。この値と、HCV・PHA法のウインドウ期(平均60日)とを用いて、HCVにおけるウインドウ期献血による感染のリスクを10万件体当たり0.70(95%信頼区間=0.48-0.98)と計算している。このデーターベースにより分母は基本的に得られているので、分子である大阪府の複数回献血者での新規HIV感染者数が得られれば、HCVと同様にして複数回献血者におけるHIV新規感染率とHIV抗体ウインドウ期の発生頻度が推定可能である。
この推定モデルの特徴を考察する。欠点は複数回献血者のデーターに基づくので、単回献血者がかなりの率を占め、複数回献血者と性格がかなり異なる献血者人口集団では応用性が低くなる事である。この問題点は、単回献血者と複数回献血者の特徴の比較検討を繰り返すことでより正確な解釈をすることが出来る。タイの事例では、単回献血者はより男性で20-39歳に多く、Replacement donorsの頻度が高く、HIV有病率が高かったので、複数回献血者よりのHIV抗体ウインドウ期推定よりより発生頻度が高いと推測される。更に2回献血者の方が3回以上献血者よりもHIV新規感染率が高かった事も、この解釈を支持する。データーベース上の改善点としての時間的(期間:年数)、空間的(場所)な制約を広げ、献血者の献血歴同定をより良くして、データーベースの不完全さにより誤って単回献血者と分類される複数献血者を拾い上げる事が重要である。これは分母の問題のみならず分子の問題でも結果の信頼性を改善する。例えば、前述の日本におけるHIV抗体ウインドウ期すり抜け第1例でも、ウインドウ期の献血は96年12月に京都でなされ、HIV抗体陽性化が発見された献血は97年2月に大阪でされている。時間的な問題と共に空間的にも、献血者が複数の都府県で献血をするような状況ではより広域にデーターベース化がはかられる必要があろう。タイの事例では、チェンライ県がタイ最北端に比較的隔離された地理空間的条件と1989年以来の長期間に渡るデータベース化により75,980献血検体中、60.4%の45,925検体は複数回献血者による献血であり、結果の信頼性と意義を高めている。日本の血液センターでは血清保存を96年9月より実施しており、新規HIV感染を起こした複数回献血者の以前のHIV抗体陰性献血サンプルを用いた調査研究が可能となろう。その様な研究は単純に新規HIV感染者のみを調べるのではなく、HIV継続陰性複数回献血者のコントロールを設定して比較研究(Nested Case-Control Study)されるべきであり、その為にも複数回献血者を同定できる献血者データーベース・システム構築が望まれる。
HIV感染高リスク行動をしている献血者477検体のHIVp24抗原陽性率は0.84%(4/477)であった。HIV感染低リスクの他の人にHIV新規感染がないと仮定しても、1440HIV抗体陰性血液に1検体HIVp24抗原陽性血液がある確率となる。もちろん、HIVp24抗原陽性イコールHIV感染ではなく偽陽性も交じる。チェンマイでの研究よりHIVp24抗原陽性検体中、HIVp24中和抗体が確定されたのは37%であった事より補正しても、3900HIV抗体陰性血液に1検体の率でHIVp24抗原検査で発見されるウインドウ期の献血が含まれる計算である。対費用効果を考慮すべきではあるが、チェンライの様にHIV新規感染が多発している地域ではHIVp24抗原検査は考えられる予防策と考えられる。今後、HIVp24抗原検査陽性の出現時期と感度が定量化出来れば上記の推定モデルにて効果判定できる。
97年5月末、日本において初めて新規HIV感染者におけるHIV抗体ウインドウ期による事が原因によるHIV輸血後感染例が確定された事が、大きく報道され社会的話題となった。よって日本においてもHIV抗体ウインドウ期の発生頻度推定は急務と考えられる。田中等は1992年2月より大阪府赤十字血液センターでの献血者のデーターベースを作成しているが、38.4万人の複数回献血者より80万人年の分母を得、HCVの新規感染者が34人(分子)であったため、新規感染率4.26(10万人年当たり)を得ている。この値と、HCV・PHA法のウインドウ期(平均60日)とを用いて、HCVにおけるウインドウ期献血による感染のリスクを10万件体当たり0.70(95%信頼区間=0.48-0.98)と計算している。このデーターベースにより分母は基本的に得られているので、分子である大阪府の複数回献血者での新規HIV感染者数が得られれば、HCVと同様にして複数回献血者におけるHIV新規感染率とHIV抗体ウインドウ期の発生頻度が推定可能である。
この推定モデルの特徴を考察する。欠点は複数回献血者のデーターに基づくので、単回献血者がかなりの率を占め、複数回献血者と性格がかなり異なる献血者人口集団では応用性が低くなる事である。この問題点は、単回献血者と複数回献血者の特徴の比較検討を繰り返すことでより正確な解釈をすることが出来る。タイの事例では、単回献血者はより男性で20-39歳に多く、Replacement donorsの頻度が高く、HIV有病率が高かったので、複数回献血者よりのHIV抗体ウインドウ期推定よりより発生頻度が高いと推測される。更に2回献血者の方が3回以上献血者よりもHIV新規感染率が高かった事も、この解釈を支持する。データーベース上の改善点としての時間的(期間:年数)、空間的(場所)な制約を広げ、献血者の献血歴同定をより良くして、データーベースの不完全さにより誤って単回献血者と分類される複数献血者を拾い上げる事が重要である。これは分母の問題のみならず分子の問題でも結果の信頼性を改善する。例えば、前述の日本におけるHIV抗体ウインドウ期すり抜け第1例でも、ウインドウ期の献血は96年12月に京都でなされ、HIV抗体陽性化が発見された献血は97年2月に大阪でされている。時間的な問題と共に空間的にも、献血者が複数の都府県で献血をするような状況ではより広域にデーターベース化がはかられる必要があろう。タイの事例では、チェンライ県がタイ最北端に比較的隔離された地理空間的条件と1989年以来の長期間に渡るデータベース化により75,980献血検体中、60.4%の45,925検体は複数回献血者による献血であり、結果の信頼性と意義を高めている。日本の血液センターでは血清保存を96年9月より実施しており、新規HIV感染を起こした複数回献血者の以前のHIV抗体陰性献血サンプルを用いた調査研究が可能となろう。その様な研究は単純に新規HIV感染者のみを調べるのではなく、HIV継続陰性複数回献血者のコントロールを設定して比較研究(Nested Case-Control Study)されるべきであり、その為にも複数回献血者を同定できる献血者データーベース・システム構築が望まれる。
結論
輸血によるHIV感染の伝幡は、国民の関心が高く1例であっても許容され難いが、HIVスクリーニング検査のウインドウ期の問題により、その確率はゼロにはなり難い。よって、HIV新規感染率を基にした本推定モデルは科学的にその危険度(リスク)を定量化し、輸血に関するインフォームド・コンセントを日赤等の血液供給側、病院等の医療提供者、患者等の消費者の3者で成り立たせる上で不可欠な情報を提供する。また、HIV高リスク群の献血回避、PCR法の導入、HIVp24抗原検査導入などのそれぞれの対策について、定量的に費用効果分析を進める意味でも活用意義が高いと考えられた。
公開日・更新日
公開日
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更新日
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