シックハウス症候群の原因解明のための全国規模の疫学研究-化学物質及び真菌・ダニ等による健康影響の評価と対策-

文献情報

文献番号
201036008A
報告書区分
総括
研究課題名
シックハウス症候群の原因解明のための全国規模の疫学研究-化学物質及び真菌・ダニ等による健康影響の評価と対策-
課題番号
H20-健危・一般-009
研究年度
平成22(2010)年度
研究代表者(所属機関)
岸 玲子(北海道大学 環境健康科学研究教育センター)
研究分担者(所属機関)
  • 吉岡 英治(北海道大学大学院 医学研究科予防医学講座公衆衛生学分野)
  • 柴田 英治(愛知医科大学 医学部衛生学講座)
  • 河合 俊夫(中央労働災害防止協会 大阪労働衛生総合センター)
  • 西條 泰明(旭川医科大学 医学部健康科学講座)
  • 瀧川 智子(岡山大学大学院 医歯薬学総合研究科公衆衛生学分野)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 健康安全・危機管理対策総合研究
研究開始年度
平成20(2008)年度
研究終了予定年度
平成22(2010)年度
研究費
17,052,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
シックハウス症候群(SHS)の原因を明らかにすることを目的にハイリスク集団である小学校に通う児童およびその家族を対象に、自宅の環境化学物質濃度や生物学的環境調査の実施、特に世界的にエビデンスが乏しい可塑剤が分解して発生する2-エチル-1-ヘキサノール(2EH)や、エンドトキシン、βグルカン、微生物由来VOC(MVOC)、の測定、児童の個人化学物質曝露濃度の推測を検討した。
研究方法
平成20年度に5地域22小学校に通う全児童への質問紙調査データの再解析、および平成21-22年には4地域で合計178人を対象として児童の自宅健康調査と家族全員の質問票調査を実施し、ホルムアルデヒド・VOC類42化合物、MVOC 13化合物、2-エチル-1-ヘキサノール(2EH)、エンドトキシン・βグルカン、ダニアレルゲン量を測定した。平成22年には子どもの行動と曝露濃度の関連について小型携帯サンプラーを用いて測定した。
結果と考察
戸建住宅と集合住宅でSHS有訴のリスクが異なる可能性が示唆された。対象者数が多い札幌でSHS有訴は築年数の経過、ダンプネスおよび換気装置の不使用、借家と有意な関連が得られた。クロロホルム、C8-12アルカン、デカナール、1-オクテン-3-オール、3-オクタノン濃度がSHS有訴群の住宅で有意に高かったが、エンドトキシン、β-グルカン、ダニアレルゲンに有意な差はなかった。児童の化学物質曝露濃度は総じて低かったが、トルエンやパラジクロロベンゼンに高値を示したケースがおり、SHS有訴との関連を含めて今後解析予定である。分担研究では1)小型携帯サンプラーの分析条件確立と疫学研究での応用、2)ダニアレルゲン、Rhodotorula, Aspergillus、経年による化学物質によるSHSのリスク、3)「カビの発生、家の臭いの自覚、睡眠不十分、VOC発生に関連する物質の室内での使用・保管」によるSHSリスク、4)室内ダストの有機リン酸トリエステル類と農薬による健康影響、5)2003年以降に竣工した特定建築物に一部2EH濃度の高い建物があり、フタル酸エステル類は室内空気汚染物質の一つとして示唆された。
結論
換気装置不使用の住宅で長鎖鎖状アルカンの濃度が高いことから、換気の施行が重要であると考えられる。また、戸建・集合住宅別にはSHS有訴に差はなかったが、水漏れや幹線道路の影響などについて建物の特徴に応じたSHSの予防対策が必要である。

公開日・更新日

公開日
2011-07-22
更新日
-

文献情報

文献番号
201036008B
報告書区分
総合
研究課題名
シックハウス症候群の原因解明のための全国規模の疫学研究-化学物質及び真菌・ダニ等による健康影響の評価と対策-
課題番号
H20-健危・一般-009
研究年度
平成22(2010)年度
研究代表者(所属機関)
岸 玲子(北海道大学 環境健康科学研究教育センター)
研究分担者(所属機関)
  • 田中 正敏(福島学院大学福祉学部)
  • 吉村 健清(福岡県保健環境研究所)
  • 森本 兼曩(大阪大学大学院 医学系研究科社会環境医学講座環境医学)
  • 柴田 英治(愛知医科大学 医学部衛生学講座)
  • 河合 俊夫(中央労働災害防止協会 大阪労働衛生総合センター)
  • 西條 泰明(旭川医科大学 医学部健康科学講座)
  • 瀧川 智子(岡山大学大学院 医歯薬学総合研究科公衆衛生学分野)
  • 吉岡 英治(北海道大学大学院 医学研究科予防医学講座公衆衛生学分野)
  • 湯浅 資之(北海道大学大学院 医学研究科予防医学講座公衆衛生学分野)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 健康安全・危機管理対策総合研究
研究開始年度
平成20(2008)年度
研究終了予定年度
平成22(2010)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
小学校児童およびその家族を対象に、シックハウス症候群(SHS)の原因として、1)小学校および自宅の環境化学物質濃度や生物学的環境調査の実施、2)2-エチル-1-ヘキサノール(2EH)、エンドトキシン、βグルカン、微生物由来VOC(MVOC)の測定、3)ダンプネスに伴う室内空気質の問題、生物・化学的要因とSHS有訴、4)児童の個人化学物質曝露濃度の推測、5)換気システム、適切な工期などの建築衛生面からの予防策を目的とした。
研究方法
平成20年度に旭川市、札幌市、福島市、大阪府、太宰府市の5地域22小学校に通う全児童を対象に質問紙調査を実施した。旭川市・福島市・太宰府市では教室の気中化学物質濃度を測定した。平成21-22年度は児童の自宅環境調査と家族全員の質問紙調査を行い、ホルムアルデヒド・VOC類42化合物、MVOC 13化合物、2EH、エンドトキシン・βグルカン、ダニアレルゲン量の測定を実施した。平成22年には児童の1日の化学物質曝露量を測定した。
結果と考察
調査票は5地域10877人の児童に配付、7064人から回収した(回収率69.9%)。SHS有訴率は札幌市8.5%、福島市8.0%、旭川市5.9%、太宰府市4.4%、大阪府3.6%であった。教室から基準値濃度を上回る化学物質は検出されなかった。自宅環境調査の結果、札幌でSHS有訴と有意な関連が得られた項目は築年数が古い、ダンプネスがある、換気装置の不使用だった。SHS有訴群の住宅ではクロロホルム、C8-12アルカン、デカナール、1-オクテン-3-オール、3-オクタノン濃度が有意に高かった。エンドトキシン、β-グルカン、ダニアレルゲンとSHSに有意な関連はなかった。児童の1日の化学物質曝露濃度は総じて低かった。この他、1)1つの拡散サンプラーによるVOC 56物質の分析条件検討、小型携帯サンプラーの分析条件確立、2)ダニアレルゲン、Rhodotorula, Aspergillus、および経年と化学物質によるSHSのリスク、3)カビ発生、家の臭いの自覚、不十分な睡眠、VOC発生に関与する物質の使用・保管によるSHSのリスク、4)室内塵中有機リン酸トリエステル類による健康影響、5)平成15年以降に竣工した特定建築物に一部2EH濃度の高い建物があり、フタル酸エステル類は室内空気汚染物質の一つとして示唆された。
結論
SHSの予防には積極的な換気による室内化学物質濃度の低下、ダンプネスの問題改善とMVOC発生予防が重要であることが児童を対象にした研究でも明らかになった。

公開日・更新日

公開日
2011-07-22
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201036008C

成果

専門的・学術的観点からの成果
築年数の経過した住宅、集合住宅を含めた住環境調査を実施し、ホルムアルデヒドやVOCに加えて、微生物由来VOC(MVOC)、半揮発性有機化合物(SVOC)であるフタル酸エステル類やリン系難燃剤、気中真菌同定、微生物由来エンドトキシンやβグルカン、ダニアレルゲンを同時に測定した。この結果、シックハウス症候群(SHS)の原因は建材由来の化学物質のみではなく、築年数の経過によるダンプネスや微生物もSHS有訴のリスクをあげる一因となりうること、SHSの症状によって要因が異なる可能性を示唆した。
臨床的観点からの成果
本研究では国際的な定義に従い、シックビル症候群に関する調査票MM040EA、MM080school(Andersson 1998)日本語版を用いてSHS有訴を定義している。SHS有訴は大人よりも子どもに多く、学童の調査でSHS有訴は8.5-3.6%であった。ホルムアルデヒドはSHS有訴と量―反応関係を示したほか、一部の気中真菌、MVOC類、有機リン系難燃剤もSHS有訴のリスクを上げる可能性が示唆された。SHSの予防には換気の施行とダンプネスおよびMVOC発生を防ぐことも重要であることが示された。
ガイドライン等の開発
住宅で室内化学物質濃度指針値を超過する化学物質は、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、p-ジクロロベンゼン、総VOC(暫定値)に限定される。規定の機械換気装置を使用している住宅では、機械換気を使用していない・機械換気がない住宅よりも室内の揮発性化学物質濃度が低かった。本研究はMVOCのうち1-オクテン-3-オールがSHS粘膜への刺激症状のリスク、ダスト中フタル酸エステル類やリン系難燃剤がアレルギーのリスクを上げるとの関連を示したが、ガイドラインの必要性についてはさらなる調査の蓄積が必要であろう。
その他行政的観点からの成果
ホルムアルデヒドやVOC、MVOC、SVOC、ダニアレルゲン、気中真菌、エンドトキシン、βグルカンなど様々な室内汚染物質を測定した結果、SHSは新築・改築時に建材から発生する化学物質のみならず、築年数の経過によるダンプネスや換気装置の不使用も原因となることを明らかにした。MVOCやフタル酸エステル類・リン系難燃剤は居住者のアレルギーと関連する可能性を示唆した。2013年5月18日に厚生労働省で開催されたシックハウス(室内空気汚染)問題に関する検討会にてこれらの成果について参考人として報告した。
その他のインパクト
2009年12月に日本公衆衛生協会より一般向けに「シックハウス症候群に関する相談と対策マニュアル」を刊行した。2011年3月にスウェーデンよりSHS研究の第一人者ノルバック博士を招へいし、スウェーデンでの室内空気質への対策および本研究班のこれまでの研究成果についての市民講演会を開催した。新築改築は化学物質への恐れがあるが、カビ・ダニ・ダンプネスは新しい家よりも古い家の方が多く、SHSのリスクが高くなること、総合的な対策をとる必要があることを啓発した。

発表件数

原著論文(和文)
4件
原著論文(英文等)
16件
その他論文(和文)
26件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
31件
学会発表(国際学会等)
9件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
3件
市民講演会「スウェーデンに学ぶ、室内環境と健康」を開催。

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Kishi R, Saijo Y, Kanazawa A.et al.
Regional differences in residential environments and the association of dwellings and residential factors with the sick house syndrome. A nationwide cross-sectional questionnaire study in Japan
Indoor Air , 19 (3) , 243-254  (2009)
10.1111/j.1600-0668.2009.00589.x
原著論文2
Saijo Y, Nakagi Y, Ito T.et al.
Relation of dampness to sick building syndrome in Japanese public apartment houses
Environ Health Prev Med , 14 (1) , 26-35  (2009)
10.1007/s12199-008-0052-y
原著論文3
Takigawa T, Wang BL,Kishi R.et al.
A longitudinal study of environmental risk factors for subjective symptoms associated with sick building syndrome in new dwellings
Science of the Total Environment , 407 (19) , 5223-5228  (2009)
10.1016/j.scitotenv.2009.06.023
原著論文4
Araki A, Eitaki Y,Kishi R.et al.
Diffusive sampling and measurement of microbial volatile organic compounds (MVOC) in indoor air
Indoor Air , 19 (5) , 421-432  (2009)
10.1111/j.1600-0668.2009.00606.x
原著論文5
Takeda M, Saijo Y,Kishi R.et al.
Relationship between sick building syndrome and indoor environmental factors in newly-built Japanese dwellings
International Archives of Occupational and Environmental Health , 82 (5) , 583-593  (2009)
10.1007/s00420-009-0395-8
原著論文6
Kanazawa A, Saito I,Kishi R.et al.
Association between indoor exposure to semi-volatile organic compounds and building-related symptoms among the occupants of residential dwellings
Indoor Air , 20 (1) , 72-84  (2010)
10.1111/j.1600-0668.2009.00629.x
原著論文7
Takigawa T, Wang BL,Kishi R.et al.
Relationship between indoor chemical concentrations and subjective symptoms associated with sick building syndrome in newly-built houses in Japan
International Archives of Occupational and Environmental Health , 83 (2) , 225-235  (2010)
10.1007/s00420-009-0475-9
原著論文8
Araki A, Kawai T,Kishi R.et al.
Relationship between selected indoor volatile organic compounds, so-called microbial VOC, and the prevalence of mucous membrane symptoms in single family homes
Science of the Total Environment , 408 (10) , 2208-2215  (2010)
10.1016/j.scitotenv.2010.02.012
原著論文9
Saijo Y, Nakagi Y, Ito T.et al.
Dampness, food habits, and sick building syndrome symptoms in elementary school pupils
Environmental Health and Preventive Medicine , 15 (5) , 276-284  (2010)
10.1007/s12199-010-0139-0
原著論文10
竹田智哉, 荒木敦子, 岸玲子 et al.
小学生のシックハウス症候群の有訴と自宅の床ダスト中有機リン酸トリエステル類濃度との関連
北海道公衆衛生学雑誌 , 24 (2) , 73-84  (2010)
原著論文11
金澤文子、西條泰明、岸玲子他
シックハウス症候群についての全国規模の疫学調査研究―寒冷地札幌市と本州・九州の戸建住宅における環境要因の比較―
日本衛生学雑誌 , 65 (3) , 447-458  (2010)
原著論文12
酒井潔, 上島通浩, 柴田英治, 他
特定建築物における揮発性有機化合物による室内空気汚染 2002年建築物衛生法改正後の実態と残された問題点
日本公衆衛生雑誌 , 57 (9) , 825-834  (2010)
原著論文13
Saijo Y, Kanazawa A, Kishi R.et al.
Relationships between mite allergen levels, mold concentrations, and sick building syndrome symptoms in newly built dwellings in Japan
Indoor Air , 21 (3) , 253-263  (2011)
10.1111/j.1600-0668.2010.00698.x
原著論文14
荒木敦子、金澤文子、岸玲子他
札幌市戸建住宅における3年の室内環境とシックハウス症候群有訴の変化
日本衛生学雑誌 , 66 (3) , 589-599  (2011)
原著論文15
Araki A., Tsuboi T., Kishi R. et al.
Validation of diffusive mini-samplers for aldehyde and VOC and its feasibility for measuring the exposure levels of elementary school children
J Environ Monit , 14 (2) , 368-374  (2012)
10.1039/c1em10624d
原著論文16
Takigawa T., Saijo Y., Kishi R. et al.
A longitudinal study of aldehydes and volatile organic compounds associated with subjective symptoms related to sick building syndrome in new dwellings in Japan
Sci Total Environ , 417-418 , 61-67  (2012)
10.1016/j.scitotenv.2011.12.060
原著論文17
Ukawa S., Araki A., Kishi R. et al.
The relationship between atopic dermatitis and indoor environmental factors: a cross-sectional study among Japanese elementary school children
Int Arch Occup Environ Health , 86 (7) , 777-787  (2013)
10.1007/s00420-012-0814-0
原著論文18
Ait Bamai Y., Araki A., Kishi R. et al.
Associations of phthalate concentrations in floor dust and multi-surface dust with the interior materials in Japanese dwellings
Sci Total Environ , 468-469 , 147-157  (2014)
10.1016/j.scitotenv.2013.07.107
原著論文19
Tajima S., Araki A., Kishi R. et al.
Detection and intake assessment of organophosphate flame retardants in house dust in Japanese dwellings
Sci Total Environ , 478 , 190-199  (2014)
10.1016/j.scitotenv.2013.12.121
原著論文20
Ait Bamai Y., Shibata E., Kishi R. et al.
Exposure to house dust phthalates in relation to asthma and allergies in both children and adults
Sci Total Environ , 485-486 , 153-163  (2014)
10.1016/j.scitotenv.2014.03.059

公開日・更新日

公開日
2014-05-22
更新日
2017-08-03

収支報告書

文献番号
201036008Z