文献情報
文献番号
199700883A
報告書区分
総括
研究課題名
HIVプロウイルスDNA定量法の標準化
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
藤井 輝久(広島大学医学部附属病院輸血部助手)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 エイズ対策研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
-
研究費
2,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
HIVはCD4陽性細胞に感染し、その細胞内で自らの逆転写酵素、インテグラーゼを用いて、宿主のDNAにプロウイルスDNAとして組み込まれる。そのため治療により血清(血漿)ウイルス量が減少しても、プロウイルス量が減少しない限り、再度HIVの複製・増殖が起こりうる。宿主細胞に存在するプロウイルス量を定量する事ができれば、経過や治療により増減するのか、またウイルスの複製の増減を詳細に把握する手段となりうる。本研究ではHIV感染細胞のプロウイルスDNA量を臨床的にも簡便に測定できる方法を検討し、HIVプロウイルス量の変化がウイルス複製の増減の把握に有用か、また臨床的にも有用なマーカーとなりうるか検討する。
研究方法
1)HIV感染症患者の末梢血単核球を分離しその数をカウントする。またそれよりgenomic DNAを抽出して分光度計にてDNA量を測定する。2)HIV-1 gag領域に特異的なプライマーを設定し5末端をビオチンラベルする。検体であるgenomic DNAと同じプライマーにより増幅する標準DNAを加え、Taqポリメラーゼによる定量的PCRを行う。3)増幅したHIV gag領域、標準DNAそれぞれに特異的なプローブを96穴プレートに固相化しておき、それらにハイブリダイズさせる。4)ペロオキダーゼ標識アビジン及びテトラメチルベンジジンを加えて発色させ分光高度計を用いて測定し、発色量によりgenomic DNA内に存在するHIV プロウイルスDNA量を計算する。5)上記の測定法を用いて17例のHIV感染者のプロウイルスDNA量を経時的にモニターする。6)プロウイルスDNA量をモニターした患者の臨床病期、CD4実数、血清ウイルス量、治療法と比較検討し、多変量解析を行う。
結果と考察
本研究で用いた方法は、全過程の所要時間は約5時間であり、またRI施設など特別な施設が不要なため、臨床に要求される簡便さ、短時間での測定には適している。また同時再現性、日差再現性を検討すると、0.5log以内であり、臨床で用いられている血清HIV-RNA定量法と同レベルである。DNA量による値の直線性については検討中である。HIV感染者の末梢血単核球においてHIV プロウイルスDNA量を約4ヶ月間経時的にモニターしたが、17例中14例はほとんど変化がなく、残り3例は血清HIV-RNA量に相関して増減した。無変化群14例と変化群3例のCD4実数、臨床病期、感染ルート、血清HIV-RNA量を比較したが、特に変わりはなかった。またHIVプロウイルス量とCD4実数、臨床病期、血清HIV-RNA量との相関を見たが、相関するものは見いだせなかった。本研究で我々が用いたHIVプロウイルスDNA定量法は、簡便、短時間に測定でき、またRI等の特別な施設が不要である。またその測定値も再現性は0.5log以下であり臨床に用いるに充分であると考えた。しかし測定DNA量による値の直線性についての検討は不充分であり、その結果によっては測定するDNA量をある程度規定する必要があるかもしれない。HIV感染症患者の末梢血単核球内のプロウイルス量を測定し経時的にモニターしたが、17例中14例はそのCD4実数、血清HIV-RNA量の変化に関わらずほとんど変化がなかった。その理由としてまず観察期間が4カ月という短期間であったことが挙げられる。しかし他には次の様な点がある。リンパ球は生体内全体の1%に過ぎず、99%はリンパ節、その他網内系組織に存在している。そのため末梢血単核球内のプロウイルス量も生体内のプロウイルス量のほんの一部しか反映していないことになり、その量的変化を検出できない可能性がある。これを明らかにする方法としてはリンパ組織を経時的に生検しその中のプロウイルス量の変化を見ることが挙げられる。また定量したプロウイルスはプライマーで増幅したHIV gag領域のみであるため、ビリオン量を正確に反映していない可能性がある。加えて患者
は全例逆転写酵素阻害剤を使用中であるため、不完全に逆転写されたウイルスDNAが宿主DNAにインテグレーションされていることも考えられる。不完全なプロウイルスであれば、完全なウイルスを産生することができないため、血清ウイルス量と相関しないのは当然といえる。こういった可能性を明らかにするためには、逆転写酵素活性の測定、プライマーを変えて他の領域でのプロウイルスの定量、HIV mRNA量の測定などを行う必要がある。
は全例逆転写酵素阻害剤を使用中であるため、不完全に逆転写されたウイルスDNAが宿主DNAにインテグレーションされていることも考えられる。不完全なプロウイルスであれば、完全なウイルスを産生することができないため、血清ウイルス量と相関しないのは当然といえる。こういった可能性を明らかにするためには、逆転写酵素活性の測定、プライマーを変えて他の領域でのプロウイルスの定量、HIV mRNA量の測定などを行う必要がある。
結論
HIV感染細胞内のプロウイルスDNA定量を簡便に測定し、臨床的にも耐えうる方法をデザインした。HIV感染症患者の末梢血単核球内プロウイルスDNA量を測定し、経時的にモニターしたが、そのCD4実数、血清ウイルス量等との関連は観察期間内では認めなかった。
公開日・更新日
公開日
-
更新日
-