ナノマテリアルの健康影響の評価手法に関する総合研究

文献情報

文献番号
201035008A
報告書区分
総括
研究課題名
ナノマテリアルの健康影響の評価手法に関する総合研究
課題番号
H20-化学・一般-008
研究年度
平成22(2010)年度
研究代表者(所属機関)
武田 健(東京理科大学 薬学部)
研究分担者(所属機関)
  • 中村 伸(NPO法人プラメイト・アゴラ バイオメディカル研究所)
  • 菅又昌雄(栃木臨床病理研究所)
  • 井原智美(栃木臨床病理研究所)
  • 矢島博文(東京理科大学 理学部)
  • 押尾 茂(奥羽大学 薬学部)
  • 盛口敬一(愛知学院大学 歯学部)
  • 光永総子(NPO法人プラメイト・アゴラ バイオメディカル研究所)
  • 田畑真佐子(東京理科大学 薬学部)
  • 立花 研(東京理科大学 薬学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 化学物質リスク研究
研究開始年度
平成20(2008)年度
研究終了予定年度
平成22(2010)年度
研究費
39,230,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本プロジェクトではナノマテリアルを妊娠期曝露後、母獣、出生した子における体内挙動を長期間にわたって把握するとともに、生体影響評価手法を病理学的に、また、薬理学的、物理化学的、分子生物学的解析手段をもちいて確立する。げっ歯類の他に胎盤特性(構造および薬物透過性)や化学物質応答性がヒトと高い共通性を持つ霊長類への影響を比較検討し、ヒトへの外挿可能な健康影響評価手法を確立する。
研究方法
妊娠マウスに様々なナノマテリアルを投与し、出生した仔の脳神経系、雄性生殖系への影響を検討した。また、皮膚への透過性を検討した。FE-SEM及びX線スペクトロ解析等で検出・同定した。アカゲザル成獣を用い、それらの背部皮内にナノマテリアルを投与し、投与部位、リンパ節、主要組織の試料を採取し、機能遺伝子の発現変化を解析した。また、組織病理学・免疫組織学的解析、電子顕微鏡での超微形態学的観察を実施した。加えて、分析電子顕微鏡を駆使してナノマテリアルの同定も試みた。
結果と考察
化粧品に汎用されるルチル型酸化チタン及びそのアルミナ表面加工体ナノ粒子、酸化亜鉛ナノ粒子は胎仔期に曝露されると、雄性生殖系に移行すること、極めて低いドーズで影響を及ぼすことが明らかになった。ナノ粒子は健常皮膚をほとんど透過しないが、角質が障害されると容易に透過することが明らかになった。テストしたどのナノマテリアルも胎仔期曝露により、脳神経系の末梢血管に特徴的な病変をもたらすことが明らかになった。
 サルモデルの系では、皮内投与したナノマテリアルはマクロファージに取り込まれ、キチナーゼおよびCCL18遺伝子高発現性のタイプII化してその免疫機能を改変し、アレルギー、感染症およびガンなどの疾患感受性を高める事が示唆された。しかも、皮内投与したナノマテリアルは、近傍リンパ節に3年以上も残留してマクロファージの免疫機能に長期影響を与えることも明らかにされた。
結論
マウスの系において、化粧品に含まれるナノマテリアルが胎仔期に曝露されると脳や精巣に移行し、極めて低いドーズで影響をおよぼすこと、また、サルモデルの系では、皮内投与したナノマテリアルが近傍リンパ節に3年以上も残留し、マクロファージの免疫機能に長期影響を与えることが明らかになった。上記研究の過程で、いくつかの有用なナノマテリアルの健康影響評価系を確立した。

公開日・更新日

公開日
2011-05-27
更新日
-

文献情報

文献番号
201035008B
報告書区分
総合
研究課題名
ナノマテリアルの健康影響の評価手法に関する総合研究
課題番号
H20-化学・一般-008
研究年度
平成22(2010)年度
研究代表者(所属機関)
武田 健(東京理科大学 薬学部)
研究分担者(所属機関)
  • 中村 伸(NPO法人プラメイト・アゴラ バイオメディカル研究所)
  • 菅又昌雄(栃木臨床病理研究所)
  • 井原智美(栃木臨床病理研究所)
  • 矢島博文(東京理科大学 理学部)
  • 押尾 茂(奥羽大学 薬学部)
  • 盛口敬一(愛知学院大学 歯学部)
  • 光永総子(NPO法人プラメイト・アゴラ バイオメディカル研究所)
  • 田畑真佐子(東京理科大学 薬学部)
  • 立花 研(東京理科大学 薬学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 化学物質リスク研究
研究開始年度
平成20(2008)年度
研究終了予定年度
平成22(2010)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本プロジェクトでは、様々なナノマテリアルをげっ歯類動物の妊娠期に曝露し、出生した仔への移行を検出・同定するとともに、病理学的、薬理学的及び分子生物学的解析手段等を用いて生体影響評価手法を確立する。また、胎盤特性や化学物質応答性がヒトと高い共通性を持つ霊長類サルへの影響を比較検討し、ヒトへの外挿可能な健康影響評価手法を確立することを目的にした。
研究方法
妊娠マウスに金属系及び炭素系の様々なナノマテリアルを気管内、点鼻あるいは皮下投与し、出生した仔の主に脳神経系及び雄性生殖系への影響を検討した。組織内のナノ粒子は電子顕微鏡やX線スペクトロ解析等で検出・同定した。妊娠アカゲザルにナノ粒子を投与し、経胎盤的に胎仔に達したナノマテリアルの脳・神経系への影響を検討した。また、アカゲザル新生仔および成獣を用い、それらの背部皮内にナノマテリアルを投与し、機能遺伝子の発現変化を解析した。さらに、病理・免疫組織学的解析及び超微形態学的観察を行った。
結果と考察
酸化チタン(アナターゼ型及びルチル型)ナノ粒子が産仔の脳や精巣に移行すること、仔の発達の過程で脳神経系や生殖系等に病理学的、機能的に様々な異変が認められること、極めて低い用量で影響を及ぼすことなどが明らかになった。同様に他の炭素系や金属系ナノマテリアルも投与法に関わらず次世代に影響を及ぼすことが明らかになった。この過程で多くの健康影響評価法を確立した。霊長類の系ではナノマテリアルの胎児影響として脳・神経系でのヘモグロビン遺伝子発現誘導を明らかにした。さらに、サル新生仔・成獣において皮内投与した様々なナノマテリアルがマクロファージに取込まれ、近傍リンパ節に集積してタイプII化し、免疫機能を強く攪乱することを見いだした。この免疫攪乱作用は3年以上持続した。これらの結果を基に、ヒトへの外挿可能なナノマテリアル生体影響評価法を開発した。
結論
げっ歯類の系では、ナノマテリアルが妊娠期に曝露されると仔の脳や精巣に移行し、極めて低い用量で様々な影響をおよぼすこと、また、サルモデルの系で、皮内投与したナノマテリアルは、近傍リンパ節に3年以上も残留してマクロファージの免疫機能に長期影響を与えることが明らかになった。上記研究の過程で、ヒトへの外挿可能な評価法も含めて、いくつかの有用なナノマテリアルの生体影響評価法を確立した。

公開日・更新日

公開日
2011-05-27
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201035008C

成果

専門的・学術的観点からの成果
酸化チタンナノ粒子が産仔の脳や精巣に移行すること、脳神経系や生殖系等に病理学的、機能的に様々な異変を及ぼすこと、極めて低い用量(0.5 μg/マウス)で影響を及ぼすことを明らかにした。炭素系や他の金属系ナノマテリアルも次世代に同様な健康影響を及ぼすことが明らかになった。霊長類サル新生仔・成獣においてナノマテリアルが近傍リンパ節に集積し、マクロファージをタイプII化して免疫機能を変え、長期にわたり影響を及ぼすことを見いだした。上記研究過程で多くのナノマテリアル健康影響評価法が確立された。
臨床的観点からの成果
妊娠期に曝露されたナノマテリアルは産仔脳末梢血管の微小梗塞をきたし、脳の発達に影響することが示された。幼少期の自閉症や注意欠陥多動症及び壮老齢期のアルツハイマーやパーキンソン病との関わりを示唆する所見やデータが得られた。サルの系ではアレルギー性免疫系疾患の増悪化の原因となりうる結果が得られた。現在、増加していて原因がよくわからない疾患(脳精神・神経疾患や喘息やアトピー)と何らかの関わりがあるのではないかと考察している。
ガイドライン等の開発
酸化チタンナノ粒子は、光触媒に用いられるアナターゼ型及び化粧品基材として汎用されるルチル型ともに妊娠期の母から仔に移行し、微量で仔の発達過程で様々な健康影響を及ぼすことが示された。従って妊娠期は極力、酸化チタンナノ粒子が血中に移行するような曝露(経肺、経口、経皮)を避けるようなガイドラインの制定が望まれる。炭素系ナノマテリアルに対しても同様な注意が必要である。
その他行政的観点からの成果
健康危険情報について、下記の内容を通報した。カーボンブラック、カーボンナノチューブ、フラーレン、酸化チタン、酸化亜鉛など工業的に生産される様々なタイプのナノマテリアルは、妊娠マウスに投与すると、脳末梢血管周囲に異常をきたし、脳の発達に影響が及ぶことが示唆された。雄性生殖系にも影響が認められた。以上の結果から、ナノマテリアルは微量で有害性を示す物質であり、取り扱いには注意が必要と思われた。今後、皮膚障害時の透過性及び作業中での吸入曝露について十分検討する必要がある。
その他のインパクト
学術会議シンポジウム「ナノマテリアルの未来と課題」(本研究代表の武田健がオーガナイズ)を開催し、「ナノマテリアルの健康影響とその克服―次世代脳神経系を中心に」を発表した。その内容は、読売新聞、科学新聞(1面トップ)に紹介された。薬学会ハイライトに選出され、J H S誌投稿論文は2009 年度ベストペーパーアオードを受賞し、PFT誌に投稿した論文は、高アクセス論文の称号を与えられ、ロンドンの出版社制定の年間優秀論文にノミネートされた。関連の記事が20誌ほどのウェブニュースに紹介されている。

発表件数

原著論文(和文)
4件
原著論文(英文等)
14件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
44件
学会発表(国際学会等)
16件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
15件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
武田 健、押尾茂、菅又昌雄、他
ナノマテリアルの次世代健康影響―妊娠期曝露の子に及ぼす影響
YAKUGAKU ZASSHI , 131 (2) , 229-236  (2011)
原著論文2
武田 健、押尾茂、菅又昌雄、他
ナノマテリアルの次世代影響―脳神経系及び雄性生殖系を中心に
フロンティア出版 , 15 , 54-59  (2010)
原著論文3
Takahashi, Y., Oshio, S., Takeda, K.etal.
Prenatal exposure to titanium dioxide nanoparticles increases dopamine levels in the prefrontal cortex and neostriatum of mice.
J. Toxicol. Sci. , 35 (5) , 749-756  (2010)
原著論文4
Suzuki, T., Oshio, S.,Takeda, K.etal.
In utero exposure to a low concentration of diesel exhaust affects spontaneous locomotor activity and monoaminergic system in male mice.
Part. Fibre Toxicol. , 7 , 1-7  (2010)
原著論文5
Shimizu, M., Umezawa, M.,Takeda, K.etal.
Maternal exposure to nanoparticulate titanium dioxide during the perinatal period alters gene expression related to brain development in the mice.
Part. Fibre Toxicol. , 6 , 20-28  (2009)
原著論文6
Umezawa, M., Takeda, K.,Sugamata, M.etal.
Microarray analysis provides insight into the early steps of pathophysiology of mouse endometriosis model induced by autotransplantation of endometrium.
Life Sci. , 84 (23) , 832-837  (2009)
原著論文7
Sugamata, M., Ihara, T., Takeda, K.
Prenatal diesel exhaust causes neurodegenerative diseases in adults.
MEDIMOND: New Trends in Alzheimer and Parkinson Disorders. , 21-24  (2009)
原著論文8
武田 健、菅又昌雄
未知なる遭遇-ナノマテリアルの健康影響 次世代影響を中心に
ファルマシア , 45 (3) , 245-250  (2009)
原著論文9
Takeda, K., Nihei, Y.,Sugamata.M.etal.
Nanoparticles transferred from pregnant mice to their offspring can damage the genital and cranial nerve systems.
J. Health Sci. , 55 (1) , 95-102  (2009)
原著論文10
Xu, G., Umezawa, M., Takeda, K.
Early Development Origins of Adult Disease Caused by Malnutrition and Environmental Chemical Substances.
J. Health Sci. , 55 (1) , 11-19  (2009)
原著論文11
Yokota, S., Oshio, S., Takeda, K.etal.
Effect of prenatal exposure to diesel exhaust on dopaminergic system in mice.
Neurosci. Lett. , 449 (1) , 38-41  (2009)
原著論文12
Sugamata, M., Ihara, T., Takeda, K.
Maternal exposure to titanium dioxide nano-particles damages newborn murine brains.
MEDIMOND s.r.l. , 279-281  (2008)
原著論文13
Komatsu, T., Nihei, Y., Takeda, K.etal.
The effects of nanoparticles on mouse testis Leydig cells in vitro.
Toxicol. In Vitro., , 22 (8) , 1825-1831  (2008)
原著論文14
Ono, N., Oshio, S., Takeda, K.etal.
Detrimental effects of prenatal exposure to filtered diesel exhaust on mousespermatogenesis.
Arch. Toxicol. , 82 (11) , 851-859  (2008)
原著論文15
Umezawa, M.,Takeda, K., Sugamata, M.etal.
Diesel exhaust exposure enhances the persistence of endometriosis model in rats.
J. Health Sci. , 54 (4) , 503-507  (2008)
原著論文16
Suzuki, K.,Takeda, K., Nihei, Y.etal.
Interaction between Diesel Exhaust Particles and Cellular Oxidative Stress.
Applied Surface Science. , 255 (4) , 1139-1142  (2008)
原著論文17
Suzuki, K., Takeda, K., Nihei, Y.etal.
Characterization of Environmental Nanoparticles.
Applied Surface Science. , 255 (4) , 1539-1540  (2008)

公開日・更新日

公開日
2016-06-21
更新日
-

収支報告書

文献番号
201035008Z