受容体アッセイ4種からなるヒト核内受容体48種すべてに対する化学物質リスク評価スキームの構築

文献情報

文献番号
201035003A
報告書区分
総括
研究課題名
受容体アッセイ4種からなるヒト核内受容体48種すべてに対する化学物質リスク評価スキームの構築
課題番号
H20-化学・一般-003
研究年度
平成22(2010)年度
研究代表者(所属機関)
下東 康幸(国立大学法人 九州大学 大学院 理学研究院)
研究分担者(所属機関)
  • 野瀬 健(国立大学法人 九州大学 大学院 理学研究院 )
  • 松島 綾美(国立大学法人 九州大学 大学院 理学研究院 )
  • 下東 美樹(福岡大学 理学部 地球圏科学科 生物学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 化学物質リスク研究
研究開始年度
平成20(2008)年度
研究終了予定年度
平成22(2010)年度
研究費
20,330,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
胎児や乳幼児をはじめとする化学物質に対して脆弱な集団を保護するために、化学物質の総合的で迅速なリスク評価が提唱されている。現在、ビスフェノールAは「低用量で内分泌撹乱作用を引き起す」と強く懸念されている化学物質であり、2008年9月には、米国・国家毒性プログラム NTPが「胎児、乳幼児に悪影響を及ぼす可能性がある」とする最終報告書を公表した。こうしたなか我々は、胎児脳や胎盤などに多く発現する核内受容体・エストロゲン関連受容体γ型(ERRγ)にビスフェノールAが非常に強く結合することを世界に先駆けて発見し、報告した。これは、ヒト核内受容体48種すべてを視野に入れた化学物質リスク評価が切要のものであることを示した。本研究の目的は、受容体結合試験、受容体センシング抗体法、レポーター遺伝子アッセイ、Two-hybrid法の4種を組合せた統合的な核内受容体リスク評価システムを構築し、有害化学物質および標的受容体を迅速に同定するアッセイスキームを確立し、化学物質をスクリーニングすることである。
研究方法
核内受容体48種について、全長およびリガンド結合ドメインをそれぞれに組込んだプラスミドを作製し、各試験系を構築する。発現受容体タンパク質の結合試験系も構築する。そして、化学物質、核内受容体をスクリーニングする。
結果と考察
ヒト核内受容体のうち、新たにPPAR、LRH-1、Rev-erb、LXR、VDRなどを含め、総計14種についてスクリーニングした。その結果、有害性が危惧される化学物質および核内受容体が同定された。特に、生産が急増している高性能特殊ポリカーボネート・プラスティックの原料「新世代ビスフェノール」が、ER、ERR、CAR、RXR、RORなどに強く結合することが判明した。また、ハロゲン含有ビスフェノールが一般的にERα型にフル活性なアゴニスト、β型には不活性なアンタゴニストとして機能することが証明された。
結論
化学物質リスク評価では、ヒト核内受容体48種すべてを標的に調べる必要がある。そして現在でも、核内受容体に対してシグナル毒性を示す有害化学物質が開発、生産され、化学製品化されている可能性のあることが分かり、将来的なヒト健康への悪影響が懸念される。

公開日・更新日

公開日
2011-05-30
更新日
-

文献情報

文献番号
201035003B
報告書区分
総合
研究課題名
受容体アッセイ4種からなるヒト核内受容体48種すべてに対する化学物質リスク評価スキームの構築
課題番号
H20-化学・一般-003
研究年度
平成22(2010)年度
研究代表者(所属機関)
下東 康幸(国立大学法人 九州大学 大学院 理学研究院)
研究分担者(所属機関)
  • 野瀬 健(国立大学法人 九州大学 大学院 理学研究院 )
  • 松島 綾美(国立大学法人 九州大学 大学院 理学研究院 )
  • 下東 美樹(福岡大学 理学部 地球圏科学科 生物学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 化学物質リスク研究
研究開始年度
平成20(2008)年度
研究終了予定年度
平成22(2010)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
胎児や乳幼児をはじめとする化学物質に対して脆弱な集団を保護するために、化学物質の総合的で迅速なリスク評価が提唱されている。現在、ビスフェノールAは「低用量で内分泌撹乱作用を引き起す」と強く懸念されている化学物質であり、2008年9月には、米国・国家毒性プログラム NTPが「胎児、乳幼児に悪影響を及ぼす可能性がある」とする最終報告書を公表した。こうしたなか我々は、胎児脳や胎盤などに多く発現する核内受容体・エストロゲン関連受容体γ型(ERRγ)にビスフェノールAが非常に強く結合することを世界に先駆けて発見し、報告した。これは、ヒト核内受容体48種すべてを視野に入れた化学物質リスク評価が切要のものであることを示した。本研究の目的は、受容体結合試験、受容体センシング抗体法、レポーター遺伝子アッセイ、Two-hybrid法の4種を組合せた統合的な核内受容体リスク評価システムを構築し、有害化学物質および標的受容体を迅速に同定するアッセイスキームを確立し、化学物質をスクリーニングすることである。
研究方法
核内受容体48種について、全長およびリガンド結合ドメインをそれぞれに組込んだプラスミドを作製し、各試験系を構築する。発現受容体タンパク質の結合試験系も構築する。そして、化学物質、核内受容体をスクリーニングする。
結果と考察
ヒト核内受容体48種のうち、この3カ年で21種について受容体結合試験系を構築・確立に成就した。そして、各受容体について200-500種の化学物質をスクリーニングした。その結果、有害性が危惧される化学物質および核内受容体がいくつも同定された。ビスフェノールAが結合する受容体として、ERRγの他にCARが新たに同定された。また、近年生産が急増している新世代ビスフェノールが強く結合する核内受容体も数種判明した。さらに、ハロゲン含有ビスフェノールがERα型にフル活性なアゴニスト、β型には不活性なアンタゴニストとして機能することが証明された。
結論
ビスフェノールAやビスフェノールAFが非常に強く結合する受容体が実際にヒト体内に存在することを証明した。これらはごく低用量で、核内受容体を介したシグナル毒性として悪影響を及ぼす可能性がある。化学物質リスク評価では、ヒト核内受容体48種すべてを標的に調べる必要がある。

公開日・更新日

公開日
2011-05-31
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201035003C

成果

専門的・学術的観点からの成果
 ビスフェノールAのエストロゲン様活性の分子機構が、エストロゲン受容体ERと関連受容体ERRの協働作用による増強効果に基づくことが明らかとなった。また、ビスフェノールAFなど、フッ素、塩素、臭素などのハロゲン含有ビスフェノールがエストロゲン受容体ERα型にアゴニスト、β型にはアンタゴニストとして機能することが明らかとなった。新世代ビスフェノールはヒト核内受容体を介してシグナル毒性を発現する可能性が高く、ヒト核内受容体48種全てをスクリーニング調査すべきであることを明確に示している。
臨床的観点からの成果
(臨床的要素を含まない基礎研究であるため該当なし)
ガイドライン等の開発
(現時点で該当なし)
その他行政的観点からの成果
 本研究は、胎児、乳幼児の脳神経系悪影響が強く懸念されているビスフェノールAの特異的核内受容体ERRγ及びCARの同定に成就したように、化学物質に対して脆弱な集団を保護するために有害性評価を国際的な協調のもとで推進しようとする厚生労働行政における化学物質リスク研究事業の本質的な部分を直接的に推進するものである。特に、核内受容体のスクリーニングの必要性を明らかとするなど、評価方法の本質的な要件のあり方を明確に示した。また、ビスフェノールAFの成果は、米国厚生省の試験要請に応えた研究成果である。
その他のインパクト
 ビスフェノールAFのERα型にアゴニスト、β型にアンタゴニストとして機能することの発見は、プレプリントの段階で、米国のScience News誌にスクープされ、その後、数十の雑誌、Webニュースに転載されるなど、大きな社会的な反響を呼び起こした。また、Breast Cancer Network Newsでは、乳がん細胞における各種化学物質の不可思議な受容体応答の解析に、新たな視点を与えるものとして紹介、注目された。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
48件
その他論文(和文)
1件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
176件
学会発表(国際学会等)
10件
その他成果(特許の出願)
1件
受容体アッセイ法
その他成果(特許の取得)
1件
受容体結合試験法
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
5件
講演会(日本繁殖生物学会シンポジウム、日本化学会九州支部フォーラム、WSフォーラム)主催講演会(リスクサイエンス研究フォーラム2012、及び2013)

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
X., Liu, A., Matsushima, H., Okada, and Y., Shimohigashi
Distinction of the binding modes for human nuclear receptor ERRγ between bisphenol A and 4-hydroxytamoxifen.
J. Biochem. , 148 (2) , 247-254  (2010)
原著論文2
A. Matsushima, X. Liu, H. Okada, M. Shimohigashi, and Y. Shimohigashi
Bisphenol AF is a Full Agonist for the Estrogen Receptor ERα, but a Highly Specific Antagonist for ERβ
Environ. Health Perspect. , 118 (9) , 1267-1272  (2010)
原著論文3
Y. Takeda, X. Liu, M. Sumiyoshi, A. Matsushima, M. Shimohigashi, and Y. Shimohigashi
Placenta Expressing the Greatest Quantity of Bisphenol A Receptor ERRγ among the Human Reproductive Tissues: Predominant Expression of Type-1 ERRγ Isoform
J. Biochem. , 146 (1) , 113-122  (2009)
原著論文4
T. Nose, T. Tokunaga, and Y. Shimohigashi
Exploration of Endocrine Disrupting Chemicals on Estrogen Receptor α by the Agonist/Antagonist Differential-docking Screening Method: 4-(1-Adamantyl)phenol as a potent endocrine disruptor candidate
Toxicology Lett. , 191 (1) , 33-39  (2009)
原著論文5
A. Matsushima, T. Teramoto, H. Okada, X. Lui, T. Tokunaga, Y. Kakuta, and Y. Shimohigashi
ERRγ Tethers Strongly Bisphenol A and 4-α-Cumylphenol in an Induced-fit Manner
Biochem. Biophys. Res. Commun. , 373 (3) , 408-413  (2008)
原著論文6
D. Asai, T. Tokunaga, Y. Yakabe, Y. Shimohigashi, et al.
Direct Measure of Fluorescence Intensity for Efficient Receptor-binding Assay: Conjugates of Ethinylcarboxyestradiol and 5(and 6)-Carboxyfluorescein via α,ω-Diaminoalkanes as a Tracer for Estrogen Receptor
J. Biochem. , 143 (6) , 781-792  (2008)
原著論文7
H. Okada, T. Tokunaga, Lui, X., S. Takayanagi, A. Matsushima, and Y. Shimohigashi
Direct Evidence Revealing Structural Elements Essential for the High Binding Ability of Bisphenol A to Human Estrogen-related Receptor γ (ERRγ)
Environ. Health Perspect. , 116 (1) , 32-38  (2008)
原著論文8
T. Nose and Y. Shimohigashi
A Computer-aided Docking Modelling Rationally Predicts Strong Binding of Bisphenol A to Estrogen-related Receptor γ (ERRγ), a Constitutively Highly Active Human Nuclear Receptor
Protein Peptide Lett. , 150 (9) , 290-296  (2008)
原著論文9
X. Liu, A. Matsushima, M. Nakamura, T. Costa, T. Nose, and Y. Shimohigashi
Fine spatial assembly for construction of the phenol-binding pocket to capture bisphenol A in the human nuclear receptor ERRγ
J. Biochem. , 151 (4) , 403-415  (2012)
原著論文10
M. Nishigori, T. Nose, and Y. Shimohigashi
Highly potent binding and inverse agonist activity of bisphenol A derivatives for retinoid-related orphan nuclear receptor RORγ
Toxicology Lett. , 212 (2) , 205-211  (2012)
10.1016/j.toxlet.2012.05.020
原著論文11
A. Matsushima, R. Kerrianne, Y. Shimohigashi, and I.A. Meinertzhagen
An endocrine disruptor, bisphenol A, affects development in the protochordate Ciona intestinalis: Hatching rates and swimming behavior alter in a dose-dependent manner
Environmental Pollution , 173 , 257-263  (2013)
10.1016/j.envpol.2012.10.015

公開日・更新日

公開日
2016-06-21
更新日
-

収支報告書

文献番号
201035003Z