文献情報
文献番号
199700880A
報告書区分
総括
研究課題名
HIV感染/AIDSの感染病態とその生体防御に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
倉田 毅(国立感染症研究所)
研究分担者(所属機関)
- 倉田毅(国立感染症研究所)
- 岡慎一(国立国際医療センター)
- 塩田達雄(東京大学医科学研究所)
- 生田和良(北大免疫科学研血清学部門)
- 石川栄治(宮崎医科大学)
- 竹森利忠(国立感染症研究所)
- 高橋秀実(日本医科大学)
- 宮沢正顕(近畿大学医学部)
- 松下修三(熊本大学エイズ学研究センター)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 エイズ対策研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
平成11(1999)年度
研究費
135,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
有効なワクチンや抗HIV療法を開発するためには、HIV感染者体内でのウイルスの分布、体内伝搬の機序を明らかにし、HIVの遺伝子変異と病態進行過程を詳細に解析し、体内での細胞死、それを制御する生体防御機構との関係を明らかにする必要がある。また遺伝子変異を凌駕する細胞阻害T細胞機能の活性化・増強機序を賦活・持続するワクチン、物質の開発を目指す。わが国でも最近発生したウインドウ期での輸血感染阻止は緊急かつ重要な課題である。上記の問題を解決していくために非人類霊長類発症系を用いて感染発症機序の解析とその制御法の開発を行なう必要がある。
研究方法
1)感染個体での遺伝子変異と病態進行について
? 感染から発症への期間が短い症例及び長い症例について、またさらに10年以上に渡り発症しない症例についての遺伝子変異と病態変化及び病態病理について詳細に検討比較し、ワクチン開発や発症阻止剤開発の基盤とする(岡、塩田、倉田、及び研究協力者)。
? 感染個体内の細胞死の機序とそれを促進あるいは制御する因子の解析(生田、及び研究協力者)。
2)感染初期のウインドウ期を短縮する超高感度迅速診断系の開発(石川)
HIV-1 p24抗原の検出と免疫複合体転移測定法を高感度化させると共にHIV-RNA検出PCR法の高感度化を試みる。
3)非人類霊長類のエイズ病態モデルの解析―マカク属サルとSIV感染系をモデルとして(倉田、及び研究協力者)
? 脳症サル脳からウイルスを回収し、ゲノム構造を明らかにし、神経組織親和性を規定する部位を同定する。
? マクロファージ指向性については逆転写、インテグレーション、プロウイルスからの転写を詳細に解析しその分子基礎を明らかにする。
? SIVゲノムから種々の遺伝子を除去し、SIVベクターウイルス産生系を確立し、遺伝子治療を試みる。
? ワクチンを有効にする免疫系賦活機序を解析する。
4)HIV感染の宿主生体防御―ワクチン系を有効にするシステムの開発(竹森、及び研究協力者)
? HIVgag,env等を抗原として用い異なったルートやデリバリーシステムを介して生体内に投与し、異なった局所における抗原結合細胞、免疫記憶細胞及び抗体産生細胞の持続、活性を免疫学的手法を用い解析し、免疫記憶の活性と持続に関しどの方法が優れているかを明らかにする。
? 末梢血樹状細胞を用い、ex vivoで樹状細胞にHIV遺伝子の一部を効率よく発現させる方法を開発し、HIV遺伝子発現樹状細胞による細胞傷害性T細胞の活性効率を検討する。更に遺伝子導入樹状細胞を用い、生体のHIV感染防御に対する効果を検討する。
? 細胞傷害性T細胞活性における抗原提示細胞のウィルス遺伝子産物の抗原処理・提示の機序をin vitroの系を用い、免疫学的、生化学的方法で明らかにする。
? HIV(SIV)特異的細胞傷害性T細胞の出現機序を明らかにする目的で、活性を有する亜群(CD28陰性)が、どのような刺激で産生されるかをin vitroの実験系で明らかにするとともに、in vitroの系で産生された亜群を生体内に移入し、その機能を明らかにする。
5)HIV感染下での細胞障害性T細胞の役割に関する研究(高橋、松下、宮沢、及び研究協力者)
? HIV-1 V3特異的なキラーT細胞のみ有するトランスジェニックマウス等のモデル動物に、皮下あるいは粘膜を介してHIV env geneを組み換えたワクチニアウィルス感染線維芽細胞を接種し、局所におけるウィルス産生の経時的変化 、ウィルス特異的T細胞の反応と感染組織の分布と感染細胞の排除を免疫学的方法で明らかにする。
? HIV感染者由来HIV特異的細胞傷害性T細胞(CTL)が認識するHIV抗原決定期をin vitroの系を用いて明らかにするとともに、病体の進行に伴うin vivoでのCTLの活性抑制の原因を明らかにする。
? 細胞傷害性T細胞(CTL)及びCD4陽性T細胞が認識するレトロウィルスgag遺伝子産物に対する生体内での免疫活性を明らかにするとともに、gagエピトープがワクチンとして感染防御に有効となる方法論を検討する。
? 感染から発症への期間が短い症例及び長い症例について、またさらに10年以上に渡り発症しない症例についての遺伝子変異と病態変化及び病態病理について詳細に検討比較し、ワクチン開発や発症阻止剤開発の基盤とする(岡、塩田、倉田、及び研究協力者)。
? 感染個体内の細胞死の機序とそれを促進あるいは制御する因子の解析(生田、及び研究協力者)。
2)感染初期のウインドウ期を短縮する超高感度迅速診断系の開発(石川)
HIV-1 p24抗原の検出と免疫複合体転移測定法を高感度化させると共にHIV-RNA検出PCR法の高感度化を試みる。
3)非人類霊長類のエイズ病態モデルの解析―マカク属サルとSIV感染系をモデルとして(倉田、及び研究協力者)
? 脳症サル脳からウイルスを回収し、ゲノム構造を明らかにし、神経組織親和性を規定する部位を同定する。
? マクロファージ指向性については逆転写、インテグレーション、プロウイルスからの転写を詳細に解析しその分子基礎を明らかにする。
? SIVゲノムから種々の遺伝子を除去し、SIVベクターウイルス産生系を確立し、遺伝子治療を試みる。
? ワクチンを有効にする免疫系賦活機序を解析する。
4)HIV感染の宿主生体防御―ワクチン系を有効にするシステムの開発(竹森、及び研究協力者)
? HIVgag,env等を抗原として用い異なったルートやデリバリーシステムを介して生体内に投与し、異なった局所における抗原結合細胞、免疫記憶細胞及び抗体産生細胞の持続、活性を免疫学的手法を用い解析し、免疫記憶の活性と持続に関しどの方法が優れているかを明らかにする。
? 末梢血樹状細胞を用い、ex vivoで樹状細胞にHIV遺伝子の一部を効率よく発現させる方法を開発し、HIV遺伝子発現樹状細胞による細胞傷害性T細胞の活性効率を検討する。更に遺伝子導入樹状細胞を用い、生体のHIV感染防御に対する効果を検討する。
? 細胞傷害性T細胞活性における抗原提示細胞のウィルス遺伝子産物の抗原処理・提示の機序をin vitroの系を用い、免疫学的、生化学的方法で明らかにする。
? HIV(SIV)特異的細胞傷害性T細胞の出現機序を明らかにする目的で、活性を有する亜群(CD28陰性)が、どのような刺激で産生されるかをin vitroの実験系で明らかにするとともに、in vitroの系で産生された亜群を生体内に移入し、その機能を明らかにする。
5)HIV感染下での細胞障害性T細胞の役割に関する研究(高橋、松下、宮沢、及び研究協力者)
? HIV-1 V3特異的なキラーT細胞のみ有するトランスジェニックマウス等のモデル動物に、皮下あるいは粘膜を介してHIV env geneを組み換えたワクチニアウィルス感染線維芽細胞を接種し、局所におけるウィルス産生の経時的変化 、ウィルス特異的T細胞の反応と感染組織の分布と感染細胞の排除を免疫学的方法で明らかにする。
? HIV感染者由来HIV特異的細胞傷害性T細胞(CTL)が認識するHIV抗原決定期をin vitroの系を用いて明らかにするとともに、病体の進行に伴うin vivoでのCTLの活性抑制の原因を明らかにする。
? 細胞傷害性T細胞(CTL)及びCD4陽性T細胞が認識するレトロウィルスgag遺伝子産物に対する生体内での免疫活性を明らかにするとともに、gagエピトープがワクチンとして感染防御に有効となる方法論を検討する。
結果と考察
計画欄に示した1)~5)の中項目につき、研究を実施し、次の結果を得た。
1)感染個体内での遺伝子変異と病態進行の解析:
抗エイズ薬で治療中の問題は耐性株の出現である。SIをもつ未治療患者でAZT/STC治療中半年で耐性SIウイルスが出現した。得られたNSIのクローンにもSIウイルスと同じ耐性パターンを有しており、両者間でrecombinationにより耐性の獲得がありうることが明らかとなった(岡)。長期未発症者の血清中HIV-1のenv蛋白の進化の解析からenv遺伝子の多様性は、病態進行の緩慢な例よりも低かった(塩田)。Tヘルパー細胞サブセット内のHIV-1の増殖性を分離ウイルスの株毎に異なる現象を決める分子機序をみると、Th1細胞は、Mφ-tropic Envと親和性が高く、Th2細胞はT-tropic Envと親和性が高いことが示され、その増殖性の違いは、Env gp120のV3 loopが決めていることを明らかとなった(小柳)。樹状細胞はHIV-1の感染において粘膜では最初の標的であり、リンパ節、脾臓などで全身へのウイルス播種の役割を占める。そこで、非感染性L-2粒子を樹状突起細胞に吸着させ、自己、非自己のPBMC-Tと共培養すると、アポトーシスが強く誘導された(生田)。末血中の単球はその局所の環境により、樹状細胞あるいはマクロファージに比べ抗原提示あるいは異物除去に重要な役割を果たしている。CD14陽性単球をサイトカイン(IL-4)、GM-CSFと培養すると樹状細胞やマクロファージに分化し、HIVを感染させると、ウイルス産生は少なくとも、抗原特異的にT細胞を活性化させ、ウイルス増殖を促進させる、またマクロファージはこの活性は低いが、感染初期に、マクロファージ指向性ウイルスの増殖には不可欠と思われる(横田)。HIVの標的細胞指向性を決めるのは、gp120であり、CD4膜タンパク分子とケモカインの受容体に標的細胞膜上で結合する。これにより、gp-41が活性化される。この侵入を特異的に高感度測定しうる系を偽ウイルスを用い確立させた。CXCR4でT-指向性ウイルスと、CCR5でM-指向性ウイルス侵入の測定が可能となった(服部)。
大部分のヒトに潜状感染しているHCMV、HHV6のβヘルペスはAIDSに伴い高度に再活性化されるが、in vitroで無血清培地で、容易に再活性化され、CDEを増殖することがわかり、免疫機構のサーベイランスのみでウイルス再活性が起こるわけではないことが示された。エイズ症例の70%以上にHCMVの活性化を認めた(倉田)。また、エイズ剖検脳36例で、HIV-1 env域をPCRで増幅すると、エイズ脳で75%、脳に腫瘍や他の感染がある場合50%、いずれもない例で21%に検出された。得られたクローンから感染初期に脳内に入ったウイルスの持続感染の存在が示唆された(佐多、倉田)。
2)感染初期ウインドウ期を短縮する超高感度迅速診断系の開発:免疫複合抗体転移測定法により、p24抗原と抗p17 IgG抗体、抗RT IgG抗体を同時に検出し、従来法により、HIV-1診断でウインドウ期を約2週間短縮することができ、さらにp24抗原の血中への出現前に抗p17 IgG抗体が検出される場合があることもわかった。このことから、IgM抗体とIgG抗体の比較を行ったところ、IgG抗体の方が安定して、検出しうることが判った。また、RT-PCR法でのRNAとIgGの比較をすると、RNA検出が常に万能ではないことを明らかにした(石川)。
3)非人類霊長類のエイズ病態モデルの解析:マカク属サル類でのSIV感染モデルSIV mac239をカニクイザルに接種し、典型的エイズ脳炎を発症した。またその血液を他のサルに輸血し同様のエイズ症状を発症させ得た(山田、向井)。さらに、サルのマクロファージ指向性を決めると思われるSIV遺伝子を2カ所みつけた。また、SIV感染系では、組織指向性の異なるSIVのいずれもCCR5に対するリガンドによる感染阻害はみられず、それ以外のレセプターを用いていることが推測された(山田、森)。
4)HIV感染宿主の生体防御機序の解析:HIVの制御には、CTLが重要な要素と考えられているが、ワクチンによる誘導が可能かどうか精製HIV gp24をコレラトキシンあるいはリポゾーム、高マンノース被覆リポゾーム等と共にマウス鼻腔粘膜に投与したところ、鼻汁中に抗p24 IgA、IgG抗体が検出されたが、p24特異的細胞障害生T細胞の活性はみられなかった(竹森)。また、インフルエンザウイルスのHA内にHIV V3遺伝子を挿入し、組換えのワクチニアウイルスを作成し、マウスに接種したところ、HA特異的CTLと共に、HIV-V3に対するCTLを優位に誘導し得た(高橋)。HIV V3エピトープ BCGに組み込みサルを免疫した。CTLは4/10でみられた(本多)。
5)HIV感染下での細胞障害性T細胞の役割の解析:CTLの役割をサルの系でSIV-HIVキメラウイルスで感染慢性期で、抗CD8モノクローナル抗体投与により、CD8細胞排除を試みた。末血中のCD8細胞は減少し、それに伴い生体内感染ウイルス量は増加した。すなわち、CD8細胞は、ウイルス増殖抑制に重要な役割を担っていると思われる(俣野)。リーバス・イムノジェネティクス法で、日本人の約70%が持つHLA-A24が提示するCTLエピトープを同定した。このHLAを有するHIV感染者での検討でHLA-A24拘束性CTLエピトープの変異により、HIV-1はCTLからの認識を逃避している可能性が示唆された(滝口)。
HIV感染者のHIVクワシスピーシスと免疫応答についてみると、in vitroでくり返し中和が得られていたが、急に中和抵抗性が出現し、免疫不全が進行した例があり、その患者より多数のウイルスを分離中和抵抗株で、V3の中央部何カ所かにアミノ酸の変異がみられ、指向性もSI/TTへ変化し、RC25(ヒト型化単クローン抗体)の反応性も失われた(松下)。この機序は、ワクチン開発、薬剤開発にとって最も重要な点と考えられる。感染防御に有効な抗原エピトープ構造とその作用機序を同定するために、合成ペプチドで検討したところ、gag5末にコードされるマトリクス蛋白質の2つのアミノ酸基に強いレトロウイルス感染防御効果(ヘルパーT細胞感作能)を認めた(宮澤)。
1)感染個体内での遺伝子変異と病態進行の解析:
抗エイズ薬で治療中の問題は耐性株の出現である。SIをもつ未治療患者でAZT/STC治療中半年で耐性SIウイルスが出現した。得られたNSIのクローンにもSIウイルスと同じ耐性パターンを有しており、両者間でrecombinationにより耐性の獲得がありうることが明らかとなった(岡)。長期未発症者の血清中HIV-1のenv蛋白の進化の解析からenv遺伝子の多様性は、病態進行の緩慢な例よりも低かった(塩田)。Tヘルパー細胞サブセット内のHIV-1の増殖性を分離ウイルスの株毎に異なる現象を決める分子機序をみると、Th1細胞は、Mφ-tropic Envと親和性が高く、Th2細胞はT-tropic Envと親和性が高いことが示され、その増殖性の違いは、Env gp120のV3 loopが決めていることを明らかとなった(小柳)。樹状細胞はHIV-1の感染において粘膜では最初の標的であり、リンパ節、脾臓などで全身へのウイルス播種の役割を占める。そこで、非感染性L-2粒子を樹状突起細胞に吸着させ、自己、非自己のPBMC-Tと共培養すると、アポトーシスが強く誘導された(生田)。末血中の単球はその局所の環境により、樹状細胞あるいはマクロファージに比べ抗原提示あるいは異物除去に重要な役割を果たしている。CD14陽性単球をサイトカイン(IL-4)、GM-CSFと培養すると樹状細胞やマクロファージに分化し、HIVを感染させると、ウイルス産生は少なくとも、抗原特異的にT細胞を活性化させ、ウイルス増殖を促進させる、またマクロファージはこの活性は低いが、感染初期に、マクロファージ指向性ウイルスの増殖には不可欠と思われる(横田)。HIVの標的細胞指向性を決めるのは、gp120であり、CD4膜タンパク分子とケモカインの受容体に標的細胞膜上で結合する。これにより、gp-41が活性化される。この侵入を特異的に高感度測定しうる系を偽ウイルスを用い確立させた。CXCR4でT-指向性ウイルスと、CCR5でM-指向性ウイルス侵入の測定が可能となった(服部)。
大部分のヒトに潜状感染しているHCMV、HHV6のβヘルペスはAIDSに伴い高度に再活性化されるが、in vitroで無血清培地で、容易に再活性化され、CDEを増殖することがわかり、免疫機構のサーベイランスのみでウイルス再活性が起こるわけではないことが示された。エイズ症例の70%以上にHCMVの活性化を認めた(倉田)。また、エイズ剖検脳36例で、HIV-1 env域をPCRで増幅すると、エイズ脳で75%、脳に腫瘍や他の感染がある場合50%、いずれもない例で21%に検出された。得られたクローンから感染初期に脳内に入ったウイルスの持続感染の存在が示唆された(佐多、倉田)。
2)感染初期ウインドウ期を短縮する超高感度迅速診断系の開発:免疫複合抗体転移測定法により、p24抗原と抗p17 IgG抗体、抗RT IgG抗体を同時に検出し、従来法により、HIV-1診断でウインドウ期を約2週間短縮することができ、さらにp24抗原の血中への出現前に抗p17 IgG抗体が検出される場合があることもわかった。このことから、IgM抗体とIgG抗体の比較を行ったところ、IgG抗体の方が安定して、検出しうることが判った。また、RT-PCR法でのRNAとIgGの比較をすると、RNA検出が常に万能ではないことを明らかにした(石川)。
3)非人類霊長類のエイズ病態モデルの解析:マカク属サル類でのSIV感染モデルSIV mac239をカニクイザルに接種し、典型的エイズ脳炎を発症した。またその血液を他のサルに輸血し同様のエイズ症状を発症させ得た(山田、向井)。さらに、サルのマクロファージ指向性を決めると思われるSIV遺伝子を2カ所みつけた。また、SIV感染系では、組織指向性の異なるSIVのいずれもCCR5に対するリガンドによる感染阻害はみられず、それ以外のレセプターを用いていることが推測された(山田、森)。
4)HIV感染宿主の生体防御機序の解析:HIVの制御には、CTLが重要な要素と考えられているが、ワクチンによる誘導が可能かどうか精製HIV gp24をコレラトキシンあるいはリポゾーム、高マンノース被覆リポゾーム等と共にマウス鼻腔粘膜に投与したところ、鼻汁中に抗p24 IgA、IgG抗体が検出されたが、p24特異的細胞障害生T細胞の活性はみられなかった(竹森)。また、インフルエンザウイルスのHA内にHIV V3遺伝子を挿入し、組換えのワクチニアウイルスを作成し、マウスに接種したところ、HA特異的CTLと共に、HIV-V3に対するCTLを優位に誘導し得た(高橋)。HIV V3エピトープ BCGに組み込みサルを免疫した。CTLは4/10でみられた(本多)。
5)HIV感染下での細胞障害性T細胞の役割の解析:CTLの役割をサルの系でSIV-HIVキメラウイルスで感染慢性期で、抗CD8モノクローナル抗体投与により、CD8細胞排除を試みた。末血中のCD8細胞は減少し、それに伴い生体内感染ウイルス量は増加した。すなわち、CD8細胞は、ウイルス増殖抑制に重要な役割を担っていると思われる(俣野)。リーバス・イムノジェネティクス法で、日本人の約70%が持つHLA-A24が提示するCTLエピトープを同定した。このHLAを有するHIV感染者での検討でHLA-A24拘束性CTLエピトープの変異により、HIV-1はCTLからの認識を逃避している可能性が示唆された(滝口)。
HIV感染者のHIVクワシスピーシスと免疫応答についてみると、in vitroでくり返し中和が得られていたが、急に中和抵抗性が出現し、免疫不全が進行した例があり、その患者より多数のウイルスを分離中和抵抗株で、V3の中央部何カ所かにアミノ酸の変異がみられ、指向性もSI/TTへ変化し、RC25(ヒト型化単クローン抗体)の反応性も失われた(松下)。この機序は、ワクチン開発、薬剤開発にとって最も重要な点と考えられる。感染防御に有効な抗原エピトープ構造とその作用機序を同定するために、合成ペプチドで検討したところ、gag5末にコードされるマトリクス蛋白質の2つのアミノ酸基に強いレトロウイルス感染防御効果(ヘルパーT細胞感作能)を認めた(宮澤)。
結論
当班の研究は、個体レベルでのHIV感染の病態解析とその防御を目指すもので、本年度の成果から、多様な感染HIV-1の遺伝子変異とそれによる発症病態病理が少しずつ判明してきている。これらの結果から、ウイルスの変異をおさえこむ、あるいは変異と無関係に感染防御、発症防御に効果的なワクチン、物質の開発が最も重要、かつ急がれている。これらの点を解決していくためには、極めてありふれたカニクイザルで発症系ができたことは、大きな意味を持つ。CTLはヒト、サルでもウイルス増殖制御に大きな役割を担っており、この賦活化手段も今後の重要なテーマである。
公開日・更新日
公開日
-
更新日
-