HIV感染症の医療体制に関する研究

文献情報

文献番号
199700877A
報告書区分
総括
研究課題名
HIV感染症の医療体制に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
南谷 幹夫(杏林大学)
研究分担者(所属機関)
  • 岡慎一(国立国際療センター・エイズ治療・研究開発センター)
  • 梅田典嗣(国立国際医療センター)
  • 池田正一(神奈川県立こども医療センター)
  • 石原美和(国立国際医療センター・エイズ治療・研究開発センター)
  • 河北博文(日本医療機能評価機構)
  • 青木眞(国立国際医療センター・エイズ治療・研究開発センター)
  • 今井光信(神奈川県衛生研究所)
  • 瀬田克孝(日本病院会)
  • 加々美光安(防災都市計画研究所)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 エイズ対策研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
平成11(1999)年度
研究費
220,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
全国に格差のない最新のHIV感染症医療を提供する体制作りが目的である。エイズ治療拠点病院の医療水準の向上、情報提供の迅速化のために、エイズ治療・研究開発センターと8ブロック拠点病院との連携強化を図り、針事故防止策と事故対応の確立はエイズ医療の推進力となろう。看護部門の病院看護、看護連携に加えて地域医療のコーディネイターの役割分担、在宅医療は今後のエイズ看護の1部門として検討する。救急医療のエイズ対応や歯科医療の日常的対応は、基本対策として広く対応する必要がある。地域の一般医療機関のエイズ診療の現状、一般病院からみた拠点病院、要望、問題点などから医療対応の見直し資料を求め、向上を図る。拠点病院の機能評価策は新視点から機能向上に有用である。検査部門の研究進展や薬害調査による解明なども体制作りの支援を成している。
研究方法
地域の拠点病院モデルとして6病院の担当者は、拠点病院と地域医療機関・保健所などとの連携体勢の推進に努め、益子班員は全国救急病院に対するアンケート調査を行い、南谷は拠点病院を除く全国の一般病院にエイズ関連のアンケート調査を行った。岡班員は治療開発センターとブロック拠点病院の連携を基に医療向上を図り、梅田班員とともに事故対策を担当し、青木班員は橋報提供に担当した。看護問題は、石原班員の担当で、在宅医療、コーディネイター活動を検討した。歯科対策は池田班員が担当し、検査部門は今井班員、そして薬害調査は加々美班員の担当である。瀬田班員は8本病院会会員のエイズ啓発活動を努める。新規部門では河北班員による病院機能評価が拠点病院機能の向上につながるものと期待される。
結果と考察
1.エイズ治療拠点病院と地域医療機関・保健所・その他協力機関との連携に関する研究(分担研究者 南谷 幹夫)1) 全国拠点病院を対象としたエイズ診療関連のアンケート調査(南谷 幹夫)1998年2月、エイズ治療拠点病院を除く全国無作為抽出の2,099病院を対象にアンケート調査を行い、有効回答907(回答率43.2%)を分析して次の結果を得た。?228施設(25.1%)がエイズ診療を経験し、回答では拠点病院並診療可能:125施設(13.8%)、HIVキャリアまで診療可能:255施設(28.1%)である。?HIV感染患者の保健指導は83施設、カウンセリング可能は130施設に過ぎない。?エイズ患者送院先拠点病院が(決っている+ほぼ決っている)のは69.8%で、拠点病院活動をよく知らない病院が少なくない。2) エイズ治療拠点病院と地域医療機関・保健所など協力機関との連携に関する研究 地域と病院の実状に応じてエイズ診療推進態勢が進められた。院内体制の整備、院内教育・研修、針事故対策など医療関係者の啓発活動や調査活動が行われ、地域医療機関との連携(講演会、カンファレンス、症例検討会)、医師会(県、市、地区医師会)との連携、行政との連携(県、市、保健所)など活発な活動を進めたほか,地域住民への啓発活動も行った。鹿児島県では、特に離島におけるエイズ診療活動、実態調査、教育講演などが行われた。3)エイズ治療拠点病院における救急医療体制に関する研究(益子 邦洋) 全国359拠点病院の救急医療部門のアンケート調査から266通(回答率74.1%)を回収して次ぎの結果を得た。救急部門の34.8%がHIV感染者を経験し、24時間体制でエイズ患者診療可能は77.6%、HIV感
染者の初診対応は、HIV専門医でなく症状に応じた各科医師が過半数である。救急担当医でエイズ医療教育を受けていないものが多く、防護措置,備品整備など改善を要する点が多い。2.エイズ治療・研究開発センターとエイズ治療の地方ブロック拠点病院間の連携に関する研究(分担研究者 岡 慎一)エイズ医療の格差是正と先端医療情報の伝達円滑化を目標に、ブロック拠点病院のスタッフを対象として医療研修や実習を行った。参加者の少人数化により研修の質の向上を企図した。研修の波及は研修参加のブロック拠点病院が所属のブロックにおいて研究会を行うことで研修、伝達の実効があがることを期待できる。平成9年度は、HIV適性検査に関する検討会、カリニ肺炎の診断法に関する講習会、リトナビル・サキナビル併用療法に関する研究会、徐放性ガンシクロビル硝子体内移植に関する講習会を開催した。3.臨床現場における針刺し事故防止に関する研究(分担研究者 梅田 典嗣)本研究の目標は医療現場でHIV関連の医療事故の絶滅にあり、安全な医療環境を整備することである。医療現場で、HIV関連医療事故を防止し安全な医療を進めるために、358拠点病院を対象に医療センターにおける救急システムを解説し、事故発生時対策の救急ボックスを配備し事故対応に備えた。4.HIV患者の歯科治様に関する研究(分担研究者 池田 正一)拠点病院を中心とした歯科関係者の情報交換会、研究会、講演会を開催し、またブロック拠点病院の歯料診療モデル事業を大阪、東京で開催した。拠点病院を中心として460施設にアンケート調査を行い、回答242通(回答率52.6%)から、60%以上の歯科医療施設でエイズ対策設備を整えていることが知られた。5.HIV患者の看護に関する研究(分担研究者 石原 美和)HIV感染症患者に対する在宅医療の現状と問題点を解明し、今後の検討課題とする。
ターミナル3例を含む8事例を分析し、HIV感染症愚者の在宅医療は4型に分類された。必要な医療処置は、一般的在宅医療処置(褥創処置,輸液等)に加え、日和見感染症治療用化学療法剤や抗ウイルス剤の予防投与や点滴維持療法である。6.エイズ治療拠点病院の機能評価に関する研究(分担研究者 河北 博文)?特定機能サーベイから構成される調査票の作成 ?吉崎班によるアンケート調査と重複部分を考慮し、今年度は原案作成にとどめた。?4種類の評価項目体系を統一的に管理し、評点を入力できるシステムを開発委託する。?評価機構の協力で、評価判定指針、サーベイヤー研修用ビデオ等配布、また評価機構が委嘱しているサーベイヤーに対し協力を依頼。?ブロック拠点病院/拠点病院3カ所に対し総合的組織管理機能の評価を行った。7.エイズ医療情報の収衆・提供に関する研究(分担研究者  青木 眞)?診療情報の提供・診療援助:医療センターにおける情報提供では者/家族、一般、医療機関、マスコミ、行政機関関連団体等に年間2,076件で、その内容は多岐に渡る。その他に日本病院会より依頼10件、?医師、看護婦の米国研修準備等の援助・情報提供14件、?インターネットを介した国内及び米国の協力メンバー専門医によるコンサルテーションと情報提供。8.臨床検査部門におけるエイズ対策に関する研究(分担研究者 今井 光信)?血中HIV量の定量に関する研究:PCR法によるRNA定量キット(アンブリコアモニター/ロシュ)は定量値の同時再現性・設置間の測定値の一致性とも優れていた。?HIV-1RNA定量とサブタイプの検討では、サブタイプEとAとに対応したプライマーを合成し、PCRキットに加えてサブタイプB、E、Aのいずれをも効率よく測定できる定量法を開発した。本法とロシュが最近開発したプライマー添加法による各種サブタイプ対応の新定量キット、従来法とを比較検討した。サブタイプBでは三法ほぼ同一の結果で、サブタイプE、Aでは従来法に比し神奈川プライマー法は数倍から10倍以上の高値が得られた。神奈川プライマー法と新ロシュ法の測定値はサブタイプB、E、Aのいずれもよく一致していた。9.日本病院会会員のエイズ診療維進に関する研究(分担研究者 瀬田 克孝)?ストップ・エイズ・キャンペーン・ワークショップ:過去9回実施してきたが、今年は2回開催(医療従事者に感染者・患者への信頼と安全な医療への参加と支援を図る)?エイズ・ピア・エデュケーションの実施とエデュケーター第3期生の養成:?エイズ・ウォームラインの総承:今年度まで専門相談を行ってきたが、来年度からは国立国際医療センターへ移行する。10.エイズ問題に関連する行政的対応に関する研究(分担研究者 加々美 光安) 血液凝固因子製剤によるHIV感染、サリドマイド事件、スモン事件、クロロキン事件、ソリブジン事件などの薬害の事実経過をVT法を用いて分析した結果、薬害防止のポイントを抽出した。各薬害防止のポイントについてFTA法を用い背後要因の分析を行った。
結論
全般的に拠点病院を中心としたエイズ診療体制は、向上効果を挙げつつある。エイズ治療・研究開発センターを中心としたブロック拠点病院の研修体制は軌道に乗り始め、針事故対策と救急ボックスの配布は新治療法への期待と相まって、医療活動の活性化が期待される。情報提供も活発化しつつある。看護問題では今後在宅医療に進展が期待される。 救急医療の分野及び歯科医療は一層の改善努力が必要である。地域医療では、地域の拠点病院を核とする連携体制が重要であるが、拠点病院並診療可能の一般病院が知られる一方、拠点病院活動を知らない病院が少なくないのは、連携の円滑化未だしの実証でもあり、地域医療の推進努力と医療評価による向上が望まれる。検査部門の研究進展、薬害調査の体制支援も順調に進められている。

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