HIV感染者発症予防・治療に関する研究

文献情報

文献番号
199700876A
報告書区分
総括
研究課題名
HIV感染者発症予防・治療に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
福武 勝幸(東京医科大学)
研究分担者(所属機関)
  • 白幡聡(産業医科大学)
  • 滝正志(聖マリアンナ医科大学)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 エイズ対策研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
平成11(1999)年度
研究費
107,121,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
血液製剤を通じてHIVに感染した血友病患者におけるHIV感染はほぼ同時期に起きたと推定されることから、このコホート集団についての研究の継続は血友病という特殊な病態を併せ持つものの、HIV感染症の経過を、継続的に研究し、理解していく上で欠くことができないものである。わが国における血友病患者の動態を把握するとともに、HIV感染症の病態と現状および治療や救済事業の普及状況を把握し、必要な対策を提唱することは重要である。また、進歩する医療環境の中で臨床上とくに重要と考えられる最新の治療法や技術などについての研究を実施し、さらに、最近注目されている血友病患者に特有な肝炎などの合併症とHIV感染症の治療の関連やプロテアーゼインヒビターによる出血傾向の増悪などについても検討し、血友病患者を中心としたHIV感染者の治療の向上と生活の質の向上に寄与することを目的とする。
研究方法
厚生省の要望を受けて、従来から組織されてきた研究班の全国部会を一部改変する形で基本的に継続し、血液凝固因子製剤による治療が必要な血友病等の血液凝固異常症患者の全国調査を行った。この血液凝固異常症全国調査は従来の調査項目を見直し、患者あるいは担当医師の移動による調査の重複や欠落の回避と従来把握できていなかった施設の患者も調査すべく行った。患者のプライバシーを厳重に守りながら生年月日と疾患名を用いて重複を回避するとともに、血液凝固因子製剤を製造または販売している製薬会社の協力を得て、血液凝固因子製剤を使用した全ての医療施設を把握し、全国の関係施設・担当医師の協力を得ることにより調査の欠落を防いだ。調査票としては、様式1は現在通院中あるいは入院中の凝固因子製剤によるHIV感染例(2次感染、第4ルートを含む)について記載し、様式2には死亡を把握している患者について記載するものとした。様式3は、血友病および類縁疾患のHIV非感染の患者について記載する様式とした。以上の様式1~3に加え、過去に来院があったが、現在では転帰不明あるいは転出例の血友病および類縁疾患の患者について様式4に記載するものとし、以上4つの様式を1次調査の用紙とした。2次調査は、1次調査の用紙と共通部分の統一を保ちつつ、さらに詳細なデータを記載するものとし、1次調査の様式1~3に対応する形で様式1~3を作製した。調査票の送付は、(1)昨年度の研究班の班員・班友、ならびに(2)凝固因子製剤を製造または販売している製薬会社の協力を得て把握した凝固因子製剤納入先医療機関とした。1,446医療施設に1,924通の調査用紙を郵送し、平成9年10月30日時点での情報提供の協力を要請した。調査対象は、現在通院中あるいは入院中の凝固因子製剤によるHIV感染例(2次感染、第4ルートを含む)、凝固因子製剤によるHIV感染例の死亡例(2次感染、第4ルートを含む)、および血友病および類縁疾患のHIV非感染例である。また、HIV感染の有無を問わず過去に来院があったが、現在では転帰不明あるいは転出例の血友病および類縁疾患の患者についても調査した。今年度は、調査の複雑化を避けることおよび回収率を高める目的で、1次調査と2次調査に分けて行い、原則として2次調査は1次調査のコピーを同封して送付した。調査の回収状況は1次調査票が提出された施設・診療科および調査用紙は未提出であるが、全国調査・臨時調査票で人数のみ報告された施設数・診療科を合計すると、施設数は1,143施設、診療科は1,204診療科であった。依頼や催促、再調査をあわせて約4,500通の郵便物を発送し、約3,000通の返送を受けて調査が行われたが、平成10年1月26日現在の回収率は、施設として79%、診療科として80%であった。引き続き回収作業
を続け、95%の回収を目標として最終報告書を作成する予定である。Long term non progressorの追跡調査では1995年に行われた調査では152症例が血友病患者のLTNPとして報告されている。今回は前回報告のあった52施設135例に調査票を配布した。C型慢性肝炎など血友病患者に一般的に合併している感染症との病態や治療における関連の調査として、G型肝炎の感染状況の調査を実施した。現在、病態との関与を追跡調査している。プロテアーゼインヒビターによるHIV治療に際して、血友病患者にのみ見られる出血傾向の増悪の機序について検討するために、主要病院に対して出血状況の調査をおこなった。血友病患者に必要な包括医療(総合診療)の中で、HIV感染症に対するいかなる治療や観察を実施することが重要であるかを検討するために、主要施設のナースコーディネーターあるいは同等の担当者に研究協力を依頼し現状把握のための調査を行った。 角膜移植に代表される臓器提供と移植に際してのHIV感染のリスクと対策について検討した。
結果と考察
研究組織の構築は厚生省の要望を受けて、従来から組織されてきた全国部会を改変する形で基本的に継続した。わが国における血友病患者の動態を把握するとともに、HIV感染症の病態と現状および治療や救済事業の普及状況を調査把握するネットワークを本研究の基本骨格とした。血液凝固異常症全国調査は中間報告(平成10年1月26日集計)であるが、凝固因子製剤によるHIV感染者数は、死亡者数485人を含め1,495人と推定された。そのうちエイズ累積患者数は628人(42%)であった。また、HIVに感染していない血友病および類縁疾患の患者数(非加熱製剤未使用の患者も含む)は、血友病A2,340人、血友病B417人、von Willebrand病396人を含め3,356人と算定した。今後、凝固因子製剤によるHIV感染者については、より正確な数を把握するとともに血中HIV-RNA量、CD4陽性リンパ球数、日和見感染、抗HIV薬の投与状況などの医学的な解析、さらに救済事業の普及状況の把握を、また、HIVに感染していない血友病および類縁疾患の患者に対しては、肝炎の有無やその病期などについて解析する予定である。Long term non progressorの追跡調査は1998年1月30日現在、43施設82.7パーセントの回収状況(106症例)でCD4陽性細胞数500個以上の症例は95年が68パーセントに対し97年も69パーセントと変化はないが、CD4陽性細胞数500個以上でHIV-RNAが1,000コピー以下の無症状例は95例中24例と25パーセントであった。HIV感染症との病態や治療における関連の調査として、C型慢性肝炎など血友病患者に一般的に合併しているG型肝炎ウイルスの感染状況の調査を実施した。これまでに70例の検査を行い、非加熱製剤の投与歴のある患者58例では、HGV-RNAのみ陽性が12例、E2抗体のみ陽性が14例、両者とも陽性が2例および両者とも陰性が30例であり、既感染も含む感染率は48.3%であった。プロテアーゼインヒビターによるHIV治療に際して、血友病患者にのみ見られる出血傾向の増悪の機序について検討するために、全国調査の二次調査からプロテアーゼインヒビター使用患者の調査リストを作成している。中間成績であるがプロテアーゼインヒビターによるHIV治療を受けている血友病患者では我が国でも出血傾向の増悪と血液製剤使用量の増加が推定された。血友病患者に必要な包括医療(総合診療)の中で、HIV感染症に対するいかなる治療や観察を実施することが重要であるかを検討するために、主要施設のナースコーディネーターあるいは同等の担当者に研究協力を依頼し、現状把握のための調査を行った。50施設から回答を得て、19施設が専門外来をもち、そのうち5施設が包括外来システムを導入していた。また、慢性疾患のケアにナースコーディネーターが必要と答えた施設が43施設あった。厚生省の要望により角膜移植に際してのHIV感染のリスクと対策について検討するため、角膜ドナーの感染の実態について調査するとともに角膜移植におけるHIV感染の危険性と防御法について検討を行っている。
結論
調査研究のための血液凝固異常症を診療する医師のネットワークを確立した。血液凝固異常症全国
調査では、中間報告(平成10年1月26日集計)であるが、患者の重複を除いた調査結果として、凝固因子製剤によるHIV感染者数は、死亡者数485人を含め1,495人と算定された。そのうちエイズ累積患者数は628人(42%)であった。また、HIVに感染していない血友病および類縁疾患の患者数(非加熱製剤未使用の患者も含む)は、血友病A2340人、血友病B417人、von Willebrand病396人を含め3,356人と算定することができた。HGVの感染率は48.3%であったが、抗体のみの陽性者が約半数を占めており、また肝機能障害への関与も少ないと考えられた。包括医療の検討ではナースコーディネーターを必要とする施設が86%に上ることが明らかとなった。血液凝固因子製剤によりHIVに感染した血友病患者を中心とした患者動態と臨床病態を把握することは、様々な合併症や治療薬の副作用の克服を含めてHIV感染者の治療の向上と生活の質の向上に寄与すること大であり継続的な研究が必要である。

公開日・更新日

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