多剤薬剤耐性結核の予防と治療に関する緊急研究

文献情報

文献番号
199700873A
報告書区分
総括
研究課題名
多剤薬剤耐性結核の予防と治療に関する緊急研究
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
石川 信克((財)結核予防会結核研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 杉田博宣((財)結核予防会複十字病院)
  • 高橋光良((財)結核予防会結核研究所)
  • 小林和夫(国立感染症研究所)
  • 倉島篤行(国療東京病院)
  • 富岡治明(島根医科大学)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 新興・再興感染症研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
-
研究費
40,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は多剤薬剤耐性の発生防止及び治療方法、治療体制の開発を目的として、関連の事項について以下のように課題を分けて研究を実施する。
? 日本における多剤耐性結核患者の実態の解明:日本の多剤耐性結核患者の数、その医療上の問題、発生要因、並びに動向把握の方法等について明らかにする。
? 多剤耐性結核の集学的治療方式の確立:新しい化学療法、外科療法、免疫療法の可能性を検討する。
? 多剤耐性結核菌に関する細菌学的研究:多剤耐性結核の信頼性の高い診断方法の確立、及び耐性菌の性状(毒力など)の変異について明らかにする。
? 免疫療法の基礎的研究:抗酸菌感染における宿主寄生菌関係における免疫反応の解明を通して抗酸菌感染症の治療や予防の手がかりをつかむ。
? 新薬による治療効果の観察:治療が極めて困難である多剤耐性結核に対するニューキノロン(NQ)系及びニューマクロライド系薬剤の臨床効果、治療成績を検討する。
? 新しい抗結核薬開発の可能性に関する研究:抗結核薬の開発状況とその関連問題について細菌学的な立場から検討する。
研究方法
各分担課題ごとの方法は以下の通り。
? 日本における多剤耐性結核患者の実態の解明:結核発生動向調査事業の年報の追加集計、一部結核予防会複十字病院の患者データベースをもちいて日本の多剤耐性結核患者の数と動向、発生要因、予後について分析を行う。
? 多剤耐性結核の集学的治療方式の確立:結核予防会複十字病院における最近の多剤耐性肺結核20症例の詳細なレビューをもとに新しい治療方法の可能性を検討する。
? 多剤耐性結核菌に関する細菌学的研究:薬剤感受性検査の実施上の問題を検討し、これにかわる新しい方法について可能性を検討する。
? 免疫療法の基礎的検討:実験的抗酸菌感染マウスモデルを用いて、抵抗性遺伝子、感染部位における細胞集積状況、抗酸菌計測や培養、サイトカイン発現などを解析する。感染防御性サイトカインを生体内投与し、新規免疫療法の開発を試みる。
? 新薬による治療効果の観察:INH 1γ、RFP 50γ完全耐性を含む2剤以上の耐性菌結核菌のNQ剤、ニューマクロライド剤のin vitro感受性を検討する。また多剤耐性肺結核症に対するNQ系薬剤投与での臨床効果を明らかにする。
? 新しい抗結核薬開発の可能性に関する研究:いくつかの抗結核薬についての試験管内、動物モデルでの試験及びこれまでの知見の検討を行う。
結果と考察
以下の通り。
? 日本における多剤耐性結核患者の実態の解明:多剤耐性結核患者は全国で現在2,500人程度おり、全結核有病率と平行して減少している。ただし社会経済的リスク集団に薬剤耐性患者が集中する可能性があるなど今後については予断を許さない。慢性排菌患者は孤立して全国の施設に入院しており、集学的な専門医療の枠外にある者が多い。
? 多剤耐性結核の集学的治療方式の確立:多剤耐性例の初回治療例は、超重症でなくかつ重篤な合併症がなければ、適切な化療によって従来の内科治療が奏功する。再治療例の治癒は困難であり、適切な菌薬剤感受性検査のもとで多剤耐性を誘導しないようにすること、適切な時期に外科治療を加えることが肝要である。免疫療法ではサイトカイン補充療法とは別にM.vaccaeワクチンによる治療も試用の価値があるものと考えられた。集学的治療のもとで多剤耐性結核の予後の改善を得る可能性はある。
? 多剤耐性結核菌に関する細菌学的研究:薬剤感受性検査の技術には全国の施設間のばらつきが大きく、信頼性に問題がある。薬剤耐性の遺伝子研究を応用して迅速で信頼性の高い検査技術の開発についても予備的検討を行った。
? 多剤薬剤結核の免疫療法に関する基礎的研究:抗酸菌感受性マウスではマクロファ-ジ由来Th1/IFN-g誘導性サイトカイン産生不全があり、その結果、Th2細胞非依存的にTh1細胞反応が低下している。つまり、感受性マウスのマクロファ-ジには内因性欠陥が存在する。この欠陥を是正すべく感受性マウスにTh1/IFN-g誘導性サイトカイン(IL-12)を補充投与することにより、生菌数は激減(約1/50-100)し、感受性から抵抗性に形質転換することができた。すなわち、サイトカイン免疫療法は抗酸菌感染に有効な治療戦略になると考えられた。
? 多剤薬剤耐性結核の新薬による治療効果の観察:INH、RFP2剤を含む多剤耐性肺結核症治療は困難であるが、NQ 剤は有力な1薬剤として評価できた。しかし既治療にNQを追加するのみでは菌陰性化はかなり困難であり、他に新規に2剤以上を併用して治療を開始すること、あるいは開始できる条件があることが重要である。MAC肺感染症では従来からin vitro抗菌力とin vivo抗菌力の乖離が指摘されており、本検討でもin vitro抗菌力ではSPFX、CPFX、CAMがやや優れていたが,臨床経過解析ではCAM 800mg/day以上を含むプロトコールに一定の菌量減少効果が見られた。
? 多剤薬剤耐性結核に対する新薬開発の可能性に関する研究:現在新しい抗結核剤・抗マイコバクテリア抗菌剤として有望視されているKRM、LVFX、CAMといった薬剤のマクロファージや肺胞上皮細胞内局在菌に対する抗菌活性発現には、感染菌の性状、薬剤および感染細胞の組み合わせごとに大きな差異がみられた。故に結核菌等の抗酸菌に対する化学療法剤のin vitro抗菌活性評価にはMIC判定や細胞外・マクロファージ内局在菌に対する殺菌活性測定のような既存の方法以外に肺胞上皮細胞やその他の細胞系を用いてのアッセイ系の導入が重要と思われる。
結論
日本における多剤薬剤耐性結核は今後ますます重要な課題となると考えられる。その治療については現在のところ決定的な方法はないが、内科・外科が共同し、また精度の高い薬剤感受性検査や補助的な治療を動員して行う集学的なアプローチは現在の治療成績を改善するのに有効と思われる。また新しい抗結核薬やいくつかの方法による免疫療法も今後の開発応用研究に期待がもてる。このような臨床研究を促進するためにも治療施設の集中化とネットワークづくりが望まれるところである。


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