新型インフルエンザH5N1の診断、ワクチン開発等に関する研究

文献情報

文献番号
199700871A
報告書区分
総括
研究課題名
新型インフルエンザH5N1の診断、ワクチン開発等に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
柏木 征三郎(九州大学医学部附属病院)
研究分担者(所属機関)
  • 田代眞人(国立予防研究所)
  • 根路銘国昭(国立予防研究所)
  • 廣田良夫(九州大学医学部)
  • 武内可尚(川崎市立川崎病院)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 新興・再興感染症研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
-
研究費
100,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
A型インフルエンザは、10年から40年の周期で新型が出現すると考えられており、近年世界
的に新型の出現が危惧されていた。実際に昨年暮れには、香港においてH5N1の鳥型インフルエンザが
出現し、感染者18例および死亡例6例が報告されている。これに対して、わが国では、インフルエンザ
ワクチンの接種率および生産量は極度に減少しており、さらに近年の高齢者人口の増加、基礎疾患を有
するハイリスクグループの増加などにより一度新型インフルエンザが流行すると多数の死亡者や大きな
社会的損害が予想される。このような観点から、新型インフルエンザの出現に対する対策が望まれ、必
要な基礎データの蓄積、大流行に対する姿勢、対応体制の研究を目的とした。
研究方法
研究方法としては以下の5つの項目を重点とした。1)ワクチンに関する研究:リバース・ジェ
ネティクスによる弱毒ウイルス株ワクチンの開発、経鼻ワクチンの開発、DNAワクチンの開発。2)検査
キットの開発に関する研究:蛍光抗体法による血清抗体診断キットの開発、ELISA法による血清抗体診
断キットの開発。3)疫学に関する研究:新型インフルエンザの流行予測に関する疫学的研究、ワクチン
効果に関する疫学的研究。4)臨床研究:新型インフルエンザの臨床対応、治療法に関する研究。5)新型イ
ンフルエンザ政策に関する政策的研究:新型インフルエンザに対する情報に関する研究、新型インフル
エンザに体する国際協力に関する研究、新型インフルエンザに対するワクチン政策に関する研究。
結果と考察
1) ワクチンに関する研究:1997年暮のH5N1の鳥型インフルエンザの流行により、迅速な
ワクチンの製造の必要性がみとめられた。H5N1は病原性が非常に強いことから、ワクチン製造の為の
弱毒化されたウイルス株の作成を試みた。A/HongKong/156 /97(H5N1)についてリバースジェネティク
スの手法を用い、HA遺伝子に改善を加え、ワクチン株作製を試みた。得られたウイルス株は、プロテア
ーゼ依存性の増殖を示し、発育鶏卵に対して病原性を示さず、しかもその抗原性を保有している。すな
わち、ワクチン製造に適している株が得られた。2) 検査キットに関する研究:新型インフルエンザが出
現した場合、血清診断方法の確立が必要となる。組換えシンドビスウイルスベクターを用いてH5遺伝
子の発現系を構築し、蛍光抗体法による抗体検出キットの開発を試みた。この結果、構築したインフル
エンザウイルスH5遺伝子を含む組換えシンドビスRNAをBHK細胞に導入し、24時間培養後、抗
A/HongKong/483/483/97抗体を用いて蛍光抗体法を行ったところ、20ー40%の細胞にH5タンパクの発
現がみとめられた。これを用い香港の患者血清について蛍光抗体法を行ったところ、強陽性を示し、ヒ
トの血清診断に有用であることが示された。3) 疫学に関する研究: 新型インフルエンザの発生に適切
に対応するために以下の4項目を検討した。1) アジアかぜ流行時の疫学調査、2)流行把握調査、3)ワク
チンの効果調査4)疫学的調査の具体的進め方。これらの疫学調査にあたっては、事前の承諾、情報源へ
の周知、流行の各段階に応じた調査の迅速な実地、データーの集計と一般への公表を適切に行わなけれ
ばならない。4)臨床研究: 香港におけるH5N1型では、若年者を含む6例の死亡例が報告されている
が、その後の発生はみとめられずその臨床像の研究は限られている。従来のインフルエンザでは特に高
齢者が罹患すると約20%は肺炎を合併し、死亡例もみられ、高齢者における新型インフルエンザの予防、
流行時の対策はきわめて重要である。一方、小児においては、インフルエンザの流行中に高熱、意識障
害、けいれんなどの神経症状を呈し、急速に進行する予後不良の脳炎・脳症が発生している。わが国で
は、年間100-400例の発生が予測されている。また、H5N1型ではアマンタジンが有効であることから、
新型インフルエンザが流行する場合には、アマンタジンの予防効果および治療がすすめられるためにア
マンタジンのガイドライン(案)を提案する。成人および高齢者に対しては、症状出現後48時間以内に
内服を開始し、インフルエンザの流行後1ー2週間内服を持続する。服用量は14ー64歳では200mg/day、
65歳以上では100mgー200mg/dayが望ましい。また、予防内服も同様の量で、老人ホーム、老人病院
入院患者等を対象とする。小児に対しては、同様に8歳以下では5ー9mg/kg、最高で200mg/day、9歳
から成人まで100ー200mg/day,、最高200mgであり、この場合迅速診断によりA型インフルエンザと
診断された場合にのみ投与される。5) 新型インフルエンザ対策に関する政策的研究:新型インフルエン
ザ対策には、以下4項目が重要である。1)インフルエンザの感染免疫についての研究、2)重症合併症例の
収集と分析、3)アマンタジンの投与方法の周知徹底、4)ワクチンの研究。
結論
新型Aインフルエンザの流行に対して、幅広い研究を行ったが、弱毒化されたワクチン株の確立、
検査キットの開発も可能となりつつある。治療としては、塩酸アマンタジンのガイドライン(案)を示
した。とくに、小児や高齢者にについては、とくに高齢者ではワクチンやアマンタジンによる予防およ
びアマンタジンによる治療の必要性を強調した。
流行に際しての情報収集の方法、情報の提供の方法についても指摘した。
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