感染症対策の見直しに向けての緊急研究

文献情報

文献番号
199700869A
報告書区分
総括
研究課題名
感染症対策の見直しに向けての緊急研究
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
近藤 健文(慶応義塾大学)
研究分担者(所属機関)
  • 矢野周作(関西空港検疫所)
  • 井上栄(国立感染症研究所)
  • 倉田毅(国立感染症研究所)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 新興・再興感染症研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
-
研究費
50,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
我が国の感染症対策は、明治30年に制定された伝染病予防法に基づいて実施されているが、制定当時と比較して、数々の新興感染症や結核をはじめとする再興感染症の出現、公衆衛生水準の向上、人権に関する取り組み等、前提としての状況が大幅に変化しており、今般、感染症対策の抜本的な見直しのための最終報告書が公衆衛生審議会伝染病予防部会基本問題小委員会においてまとめられ、新法による抜本的見直しが予定されている。
他方、世界保健機関(WHO)においても、感染症対策の基礎となる国際保健規則(IHR)の見直しをすすめている。
「感染症対策の見直しに向けての緊急研究」においては、前述の報告書に謳われた理念等を尊重しながら、感染症医療施設のあり方、発生動向調査のあり方、WHOがすすめている改正IHRの日本の適用等、今後の我が国の感染症対策を現実的に実質的に運営していく上で必要な事項に関する研究をおこなうものであり、新しい体制づくりに寄与することを目的とする。
研究方法
「感染症対策の見直しに向けての緊急研究」は、我が国の感染症対策の抜本的な見直しに必要な新しい時代の感染症対策を構築するための4分野の先端的研究を行う。?国際保健規則改正案の我が国への適用に関する研究では、コレラ等の汚染地域からの入国者に対して検疫質問票を配布し、症候群に基づく報告システムのフィールドテストを実施し、有症者に対する診察、検査、さらに自治体の協力を得て入国後の発病等の調査を行う。?感染症サーベイランスの見直しのための研究では、医療機関、保健所、地方衛生研究所等における精度管理のあり方、対象疾患の見直し、定点の配置の見直しの研究を行う。また、海外の情報を迅速に把握し、国内の情報システムとの連携等についても検討を行う。?新しい感染症体制の構築及びガイドライン作成のための研究では、感染症病棟に関する設計、設備、人員等について、想定しうる感染症別に検討を行う。また、機能分類された各種感染症病棟の運用について研究し、効率的な感染症マネージメントシステム構築を目指す。?4号感染症の国内発生における対策マニュアル作成に関する研究では、4号感染症患者が発生した場合の取り扱いについて、医療機関の連携、収容機関の設備及び運用、4号感染症診断体制の整備、国と地方の対応、医療従事者の研修等についてマニュアルを作成するための研究を行う。
結果と考察
「感染症対策の見直しに向けての緊急研究」は、日本での感染症対策の抜本的見直し、またWHOの国際保健規則の改正という時期に、医学的、体制的に世界の最新の知見を踏まえた感染症対策について論じた、独自色の強い研究であった。?国際保健規則改正案の我が国への適用に関する研究では、成田及び関西両国際空港への入国者約135万人に調査票を配布し、内89%から回答を得た。4739名が何らかの症状を有していた。入国時症状が悪化したものが41名報告された。しかしいずれも臨床診断及び病原体診断が比較的速やかに実施可能であった。国際保健規則改正案の最も重要な事項である症候群に基づく報告システムは、未知の疾病の把握を行う上で有効である。我が国では修正が必要であると考えられた。?感染症サーベイランスの見直しのための研究では、定点の設定、報告の内容、報告のシステム等に関する現行のサーベイランスの問題点を明らかにするとともに今後のサーベイランスのあり方について検討を行っている。その結果全国値を推計するのに必要な定点数の設定の必要性、積極的サーベイランスの必要性などが明らかになった。?新しい感染症体制の構築及びガイドライン作成のための研究では、全国の感染症病床を有する機関に対して質問票を送付し、感染症に関する医療体制の実態を明らかにし、また内外の施設の設計等に関する情報を収集分析を行い、検査室の有無や前室の必要性、陰圧制御等感染症疾病に必要な基準について明らかにした。また、感染症の発生がポワソン分布にしたがうと仮定し全国に必要な病床数について試算を行った。その結果全国に必要な感染症の病床数は約1800程度とされた。?4号感染症の国内発生における対策マニュアル作成に関する研究では、日本の医療技術と医療機関の現状を踏まえた研究はないことから、WHOの天然痘撲滅計画、CDCのラッサ熱研究チームに参加したりするなど外国の諸機関と連携をはかり、感染症対策についての重要な情報を蓄積した。
結論
?国際保健規則改正案の我が国への適用に関する研究では、症候群による方式について更に調査が必要である。?感染症サーベイランスの見直しのための研究では、オンラインによる報告システムの迅速化、積極的サーベイランスの導入、定点の見直しが必要である。?新しい感染症体制の構築及びガイドライン作成のた
めの研究では、対象感染症によって適切な設備を有した施設を設けることが必要であること、医療機関と地域保健所等の効率的な連携を前提に全国に約1700~2000床の病床数が必要とし、感染症類型に対応するガイドライン等に関する研究を実施した。?CDC等が有しているマニュアルを参考に日本の状況に適したガイドラインを作成することが必要である。

公開日・更新日

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