う蝕細菌の血清疫学と唾液診断技術の開発

文献情報

文献番号
199700865A
報告書区分
総括
研究課題名
う蝕細菌の血清疫学と唾液診断技術の開発
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
花田 信弘(国立感染症研究所)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 新興・再興感染症研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
-
研究費
1,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
う蝕細菌(S. mutans とS. sobrinus) の感染が原因で発症する小児う蝕は罹患率が高い。そのため歯科疾患はがん疾患を上回る巨額の国民医療費を消費している。これまでの研究で、う蝕は母親の唾液を媒介とする母子感染症であることが示された。さらに最近では老人の根面う蝕が多発し注目されている。そこで、様々なう蝕ワクチンの開発研究が世界中で実施されている。当研究部では、う蝕ワクチンの標的としてS. mutans, S. sobrinusの菌体表層蛋白質抗原に着目し、ペプチドワクチン開発を行っている。このワクチンの実用化に先だって、臨床効果を判定するう蝕細菌の検査技術の確立が求められている。本研究では血清疫学によりう蝕細菌感染の基礎データを得るとともに、唾液中のS. mutans, S. sobrinus の検出量の多寡とIgG、唾液中の分泌型IgAの関係について検討し、う蝕細菌の感染と発症の予防を計ることを試みた。
研究方法
う蝕細菌(S. mutans, S. sobrinus)の病原因子(グルコシルトランスフェラーゼ、菌体表層蛋白質抗原)の遺伝子クローニング、塩基配列の決定、B細胞エピトープ、T細胞エピトープの解析を行った。その後、う蝕抑制に有効な抗体を誘導できる最小単位のペプチドを特定した。また、80歳(大正6年生まれ)の老人666名から血液、唾液を採取した。これらの検査結果と血液、唾液の採取時に行った歯科検診結果に基づき喪失歯数と細菌数、抗体価などの関連を解析した。
結果と考察
80歳老人666名の平均血清値は以下のとおりであった。総タンパク質 7.262(正常範囲6.5-8.2)、アルブミン 4.205(正常範囲3.7-5.5)、クレアチニン 0.99(正常範囲0.6-1.3)、血糖 128(正常範囲70-110)、GOT 26.5(正常範囲10-40), GTP 19.3(正常範囲5-45),g-GTP 16.6(正常範囲60以下)、総コレステロール 193(正常範囲150-219)、中性脂肪 115(正常範囲50-149)、カルシウム 4.6(正常範囲4.1-5.0)、リン 3.3(正常範囲2.5-4.5)、IgG 1545(正常範囲1000-1900), IgA 330(正常範囲96-430), IgM 150(正常範囲48-350)、リウマチ因子 13.6(正常範囲15以下)。80歳老人のIgGとIgAの値と歯の残存数に関連がみられた。唾液は項目により血清と同じ条件で測定可能なものと試薬の性質上測定不可能なものに分かれた。
唾液成分の総タンパク質は0.172、以下、アルブミン 0.04、クレアチニン 0.027、血糖4.059、GOT 2.796, GTP 0.723, g-GTP0.334、総コレステロール0.364、中性脂肪 0.398、カルシウム 5.186であった。免疫グロブリン(IgG, IgA , IgM ) は今回の方法では測定することができなかった。
血清疫学は、ヒトがどのような微生物の侵襲を受けたかを調べる感染症疫学の一つであるが、う蝕細菌に関する血清疫学情報が欠けていた。う蝕は乳幼児期におけるう蝕細菌(Streptococcus mutans とStreptococcus sobrinus )の母子感染で発症する小児の疾患であったが、高齢化にともない、老人の根面う蝕という新しいタイプのう蝕が出現した。高齢化社会でう蝕ワクチンの実用化を推進するには、う蝕細菌に関する血清疫学の研究は急務であった。当研究部では、S. mutans, S. sobrinusの菌体表層蛋白質抗原のペプチドワクチン開発を行っている。このワクチンの実用化に先だって、う蝕細菌に対する抗体の臨床効果を判定する検査技術の確立が求められている。う蝕細菌の防除には血中のIgGと唾液中の分泌型IgAの効果が期待される。
結論
80歳老人のIgGとIgAの値と歯の残存数に関連がみられた。唾液は項目により血清と同様に測定可能なものと不可能なものに分かれた。

公開日・更新日

公開日
-
更新日
-

研究報告書(紙媒体)