職業性石綿ばく露による肺・胸膜病変の経過観察と肺がん・中皮腫発生に関する研究

文献情報

文献番号
201032004A
報告書区分
総括
研究課題名
職業性石綿ばく露による肺・胸膜病変の経過観察と肺がん・中皮腫発生に関する研究
課題番号
H20-労働・一般-004
研究年度
平成22(2010)年度
研究代表者(所属機関)
岸本 卓巳(独立行政法人労働者健康福祉機構岡山労災病院 アスベスト関連疾患研究センター)
研究分担者(所属機関)
  • 坂谷 光則(独立行政法人国立病院機構近畿中央胸部疾患センター)
  • 井内 康輝(広島大学大学院医歯薬学総合研究科 病態情報医科学講座病理学研究室)
  • 由佐 俊和(独立行政法人労働者健康福祉機構千葉労災病院)
  • 三上 春夫(千葉県がんセンター 研究局がん予防センター)
  • 水橋 啓一(独立行政法人労働者健康福祉機構富山労災病院 アスベスト疾患センター)
  • 荒川 浩明(獨協医科大学病院 放射線科)
  • 玄馬 顕一(独立行政法人労働者健康福祉機構岡山労災病院 呼吸器内科)
  • 芦澤 和人(長崎大学病院 がん診療センター)
  • 青江 啓介(独立行政法人国立病院機構山口宇部医療センター 第二腫瘍内科)
  • 加藤 勝也(岡山大学病院 放射線科)
  • 伊藤 秀美(愛知県がんセンター研究所 疫学・予防部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 労働安全衛生総合研究
研究開始年度
平成20(2008)年度
研究終了予定年度
平成22(2010)年度
研究費
11,250,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
石綿ばく露者における肺がん及び中皮腫の早期診断の方法とともに過去の中皮腫診断精度および職業性石綿ばく露との関連について検討する。また、診断困難な石綿肺については職業上の石綿ばく露状況、画像(特にHRCT)および病理学的な総合診断を行うことにより、画像診断の要点について検討する。
研究方法
全国労災病院等における石綿健康管理手帳健診受診者あるいは現役労働者1,240例を対象として低線量腹臥位CTを行った。また、平成20年度に全国で中皮腫で死亡した1,170例を対象として、臨床データ、画像、病理組織標本を収集して、その診断精度と職業性石綿ばく露との関連を調査した。また、剖検あるいは手術を行い、病理組織標本を得ることができた石綿肺42例について画像、病理および肺内石綿小体数について検討した。
結果と考察
【結果】
1)胸部CT検診において15例の肺がんと2例の中皮腫症例を診断するきっかけとなった。
2)平成20年の中皮腫死亡例のうち、画像や臨床データが送付された134例中124例(92.5%)が中皮腫で、そのうち94例(75.8%)に職業性石綿ばく露があった。また、病理学的にも再検討ができた86例中、12例(14%)は中皮腫以外の疾患であった。
3)石綿肺42例のうち、画像および病理学的に石綿肺であると診断された症例は10例で、非石綿肺は23例、その中間型と分類される症例が9例あった。
【考察】
石綿ばく露者では、従来より一般人と比較して肺がんの発生頻度が高いことが報告されており、胸部CTでの検診は有用ではないかと思われる。また、中皮腫の診断については平成20年においても誤診率が14%と高く、中皮腫の正しい診断方法について一般医、あるいは呼吸器科医に周知する必要があると思われた。石綿肺については慢性間質性肺炎との鑑別が難しい症例が多数あることが判った。

結論
今後増加することが予想されている石綿関連疾患のうち、肺がんの早期診断として胸部CTが有用である可能性が示唆された。また、中皮腫の正しい診断方法についてはさらなる診断技術の検討と呼吸器科医のみならず病理医への周知も必要であると思われる。一方、石綿肺の診断に職業性石綿ばく露の詳細は必須であるが、胸部画像上では慢性間質性肺炎との鑑別には新たな指標が必要であると思われる。

公開日・更新日

公開日
2011-09-06
更新日
-

文献情報

文献番号
201032004B
報告書区分
総合
研究課題名
職業性石綿ばく露による肺・胸膜病変の経過観察と肺がん・中皮腫発生に関する研究
課題番号
H20-労働・一般-004
研究年度
平成22(2010)年度
研究代表者(所属機関)
岸本 卓巳(独立行政法人労働者健康福祉機構岡山労災病院 アスベスト関連疾患研究センター)
研究分担者(所属機関)
  • 坂谷 光則(独立行政法人国立病院機構近畿中央胸部疾患センター)
  • 井内 康輝(広島大学大学院医歯薬学総合研究科 病態情報医科学講座病理学研究室)
  • 由佐 俊和(独立行政法人労働者健康福祉機構千葉労災病院)
  • 三上 春夫(千葉県がんセンター 研究局がん予防センター)
  • 水橋 啓一(独立行政法人労働者健康福祉機構富山労災病院 アスベスト疾患センター)
  • 荒川 浩明(獨協医科大学病院 放射線科)
  • 玄馬 顕一(独立行政法人労働者健康福祉機構岡山労災病院 呼吸器内科)
  • 芦澤 和人(長崎大学病院 がん診療センター)
  • 青江 啓介(独立行政法人国立病院機構山口宇部医療センター 第二腫瘍内科)
  • 加藤 勝也(岡山大学病院 放射線科)
  • 伊藤 秀美(愛知県がんセンター研究所 疫学・予防部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 労働安全衛生総合研究
研究開始年度
平成20(2008)年度
研究終了予定年度
平成22(2010)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
肺がん、中皮腫の発生頻度が高いことが報告されている石綿ばく露労働者に対するこれら悪性腫瘍の早期発見に胸部CT、血清検査としてERCメソテリン等がが有用であるかどうか検討するとともに、中皮腫発生に関わる職業性石綿ばく露の関与と中皮腫の正診率について平成15年から20年までの6年間に死亡した症例について年次検討を行う。石綿肺の画像所見の特徴を検討するため、剖検あるいは手術肺における病理組織学的な所見および肺内石綿小体数定量結果との比較検討を行う。
研究方法
全国労災病院等において実施されている石綿健康管理手帳検診等において、低線量腹臥位CT検診を行い、その肺がん、中皮腫の発見率を検討する。一方、平成15年から20年までに全国で中皮腫で死亡した症例について、遺族および死亡診断書作成病院の同意を得て、臨床データ、画像、病理組織等を岡山労災病院に取り寄せ、専門家で再検討を行い、その正診率とともに職業性石綿ばく露との関連について検討する。また、中皮腫の今後の発生予測を推計学的に検討する。
結果と考察
1)対象症例は1,240例であり、そのうち肺がん発生頻度は15例、中皮腫は2例であった。対象症例のうち、胸膜プラークの有所見率は92.3%であり、一般人対象CT検診に比較して明らかに肺がんの検出率が高かった。
2)平成15年から20年までの中皮腫調査症例824例中607例(73.7%)では職業性石綿ばく露によって発生していることが明らかとなった。また、正診率は平成15年から17年では71.2%であったが、平成18年から20年には83.3%と向上していることが判明した。また、今後の中皮腫の発生予測では、2020年までは増加するが、その後稽留することが予想された。
結論
石綿ばく露者に対する胸部CTは低線量であれば放射線被ばくも少なく、肺がんの発見に有用ではないかと思われた。日本における職業性石綿ばく露による中皮腫発生率はおおむね欧米なみの70%以上であることが判明し、今後2020年までは漸増するがそれ以降は稽留すると思われる。労災補償あるいは救済法の対象疾病である中皮腫の正診率は平成18から20年には83.3%まで向上しているものの一方では、16.4%では誤診されていることも問題となる。

公開日・更新日

公開日
2011-09-06
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201032004C

成果

専門的・学術的観点からの成果
石綿ばく露者の肺がんあるいは中皮腫の早期診断方法として低線量CT検診を行うことが有用である可能性が示唆されたが、その統計学的な意義および予後効果を評価するためにはさらなる症例数が必要である。中皮腫については平成20年でも誤診率が10%以上あり、正しい診断のための周知徹底が必要であると思われた。
臨床的観点からの成果
日本の中皮腫発生要因として職業性石綿ばく露が70%以上を占めるとともにその他の石綿ばく露(家庭内ばく露や近隣ばく露)を含めると80%程度に達し、欧米とほぼ同様であることが判明した。石綿肺の画像診断では胸膜プラーク等胸膜病変のみならず、線維化病変として慢性間質性肺炎との鑑別可能な新たな病変の検討が必要であると思われた。
ガイドライン等の開発
中皮腫の病理組織学的な診断を行う上で免疫染色の有用性が明らかとなり、陽性マーカー(カルレチニン、D2-40、WT-1)と陰性マーカー(CEA、TTF-1)が必須であることが判った。また、石綿肺の診断においては胸膜下線状影、点状影が有用であるとともに肺内石綿小体数の算定も参考になることが判明したため、石綿肺診断のためのガイドライン等が作成できる可能性も示唆された。
その他行政的観点からの成果
石綿ばく露による肺、胸膜病変については低線量腹臥位CTにおいても十分詳細な観察が可能であり、肺がんの発見頻度が高いことが判った。症例数をさらに増加して、予後効果等が有意に得られるなら、法的に年1回の胸部CT検診撮影を行うように諮問できる可能性もある。中皮腫の今後の発生は2020までは漸増するが、それ以降は稽留することが判った。
その他のインパクト
中皮腫の正しい診断を行うために、胸腔鏡下生検による病理学的な診断が必要であることが山陽新聞に取り上げられた(2010年12月6日)。そして、胸膜中皮腫早期例では胸膜肺全摘出術とともに化学療法の併用が有用である自験例が紹介された。また、石綿健康診断においてCT撮影が肺がんや中皮腫の早期病変の検出に有用ではないかということを講演会で述べた(第51回日本肺癌学会, 広島. 2010)。

発表件数

原著論文(和文)
7件
原著論文(英文等)
13件
その他論文(和文)
23件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
72件
学会発表(国際学会等)
18件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
河端美則、山本暁、岸本卓巳他
石綿肺の肉眼亜型と石綿曝露量とは関連するのではないか-剖検肺による2亜型の病理学的比較検討- 
日呼吸会誌 , 46 (2) , 77-84  (2008)
原著論文2
Maeda M, Miura Y, Kishimoto T et al.
Immunological changes in mesothelioma patients and their experimental detection
Clin Med Circulatory, Respiratory and Pulmonary Medicine , 2 , 11-17  (2008)
原著論文3
Miura Y, Nishimura Y, Kishimoto T et al.
Immunological alterations found in mesothelioma patients and supporting experimental evidence
Environ Health Prev Med , 13 (2) , 55-59  (2008)
原著論文4
岸本卓巳、玄馬顕一、西 英行他
胸膜中皮腫の診断と治療
肺癌 , 48 (3) , 165-170  (2008)
原著論文5
田端りか、岸本卓巳、星島百合他
岡山労災病院における石綿健康管理手帳健診の結果検討
日職災害会誌 , 56 (4) , 159-164  (2008)
原著論文6
Kimura K, Toyooka S ,Kishimoto T et al.
The aberrant promoter methylation of BMP3b and BMP6 in malignant pleural mesotheliomas
Oncol Rep , 20 (5) , 1265-1268  (2008)
原著論文7
宇佐美郁治、岸本卓巳、木村清延他
我が国における中皮腫、石綿肺がんの臨床像
日職災医誌 , 57 , 190-195  (2009)
原著論文8
Fujimoto N, Genba K, Kishimoto T et al.
Malignant Pericardial Mesothelioma with Response to Chemotherapy
Journal of Thoracic Oncology , 4 (11) , 1440-1441  (2009)
原著論文9
Takeshima Y, Kouki I, Kishimoto T et al.
Accuracy of pathological diagnosis of mesothelioma cases in Japan : Clinicopathological analysis of 382 cases
Lung Cancer , 66 (2) , 191-197  (2009)
原著論文10
Fujimoto N, Gemba K, Kishimoto T et al.
Soluble mesothelin-related protein in pleural effusion from patients with malignant pleural mesothelioma
Experimental and Therapeutic Medicine , 1 , 313-317  (2010)
原著論文11
Kishimoto T, Gemba K, Fujimoto N et al.
Clinical study of asbestos-related lung cancer in Japan with special reference to occupational history
Cancer Sci , 101 (5) , 1194-1198  (2010)
原著論文12
Goto Y, Shinjo K, Kishimoto T et al.
Epigenetic profiles distinguish malignant plural mesothelioma from lung adenocarcinoma
Cancer Research , 69 (23) , 9073-9082  (2010)
原著論文13
Yamada N, Oizumi S, Kishimoto T et al.
CD8+ tumor-infiltrating lymphocytes predict favorable prognosis in malignant pleural mesothelioma after resection
Cancer Immunol Immunother , 59 (10) , 1543-1549  (2010)
原著論文14
Kishimoto T, Gemba K, Fujimoto N et al.
Clinical study on mesothelioma in japan :Relevance to occupational asbestos exposure
Am J Ind Med , 53 (11) , 1081-1087  (2010)
原著論文15
Fujimoto N, Aoe K, Kishimoto T et al.
Clinical investigation of malignant mesothelioma in Japan
J Cancer Res Clin Oncol , 136 (11) , 1755-1759  (2010)
原著論文16
西英行、藤本伸一、岸本卓巳他
胸膜中皮腫に対する外科療法
日職災医誌 , 58 , 228-233  (2010)
原著論文17
西英行、鷲尾一浩、河合央他
悪性腹膜中皮腫の検討
日消外会誌 , 43 (11) , 1098-1105  (2010)
原著論文18
Nojiri S, Gemba K, Kishimoto T et al.
Survival and Prognostic Factors in Malignant Pleural Mesothelioma: A Retrospective Study of 314 patients in the West Part of Japan
Jpn J Clin Oncol , 41 (1) , 32-39  (2010)
原著論文19
Kishimoto T, Kato K, Arakawa H et al.
Clinical, Radiological, and Pathological Investigation of Asbestosis
Int. J. Environ. Res. Public Health , 8 (3) , 899-912  (2011)
原著論文20
岸本卓巳
胸膜中皮腫の早期診断と治療のためのストラテジー
医療 , 65 (1) , 6-9  (2011)

公開日・更新日

公開日
2015-07-14
更新日
-

収支報告書

文献番号
201032004Z