新型ヘルペスウイルス感染症の病態に関する研究

文献情報

文献番号
199700864A
報告書区分
総括
研究課題名
新型ヘルペスウイルス感染症の病態に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
安川 正貴(愛媛大学医学部)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 新興・再興感染症研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
-
研究費
1,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
最近10年間で、新たに3種のヒトヘルペスウイルス、すなわちヒトヘルペスウイルス6型(HHV-6)、HHV-7およびカポジ肉腫関連ヘルペスウイルス(KSHV)(またはHHV-8)が発見された。その後の研究によって、HHV-6は乳児の突発性発疹の原因ウイルスであり、成人においても再活性化によって種々の病態を呈することが明らかにされた。HHV-7については、最近一部の突発性発疹の原因ウイルスであることが判明したが、成人における疾患との関連性については不明である。また、KSHVはカポジ肉腫のみならず、primary body cavity lymphoma やmulticentric Castleman's diseaseなどのリンパ系疾患との関連性も指摘されている。HHV-6とHHV-7は主としてT細胞に対して感染性を有し、KSHVはB細胞に感染可能であることが明らかにされ、続発性免疫不全やエイズ発症のcofactorとしての意義も注目されている。ウイルス感染における病態の解明には、ウイルスに対する免疫応答機構ならびにウイルス感染によって惹起される細胞側の生物学的変化を明らかにすることが必要であるが、現在までの新型ヘルペスウイルスに関する研究は、ウイルスの構造解析と疾患との関連の疫学的解析が中心であった。本研究では、新型ヘルペスウイルス感染と細胞との相互作用を、特にリンパ球に焦点を当て分子レベルで解明し、これらのウイルス感染によってもたらされる病態との関連を論じることを目的とした。
研究方法
1)ウイルスは、HHV-6A U1102株、HHV-6B Z29株、HHV-7 RK株を用いた。2)HHV-6感染によるCD4陽性T細胞のアポトーシス誘導:HHV-6接種CD4陽性T細胞JJHAN株のアポトーシスのメカニズムを、2カラーフローサイトメトリー、DNAアガロースゲル電気泳動、電子顕微鏡などで検討した。3)HHV-6およびHHV-7感染による細胞表面分子の発現異常:T細胞機能に重要な分子とHIV-1のcoreceptorであるCD3,CD4,CXCR4,CCR5などに焦点を当て、フローサイトメトリー、Western blotting、免疫沈降、Northern blottingなどでウイルス感染による影響を検討した。また、HHV-6およびHHV-7感染細胞におけるHIV-1増殖を培養上清中のp24を指標に測定した。4)HHV-6およびHHV-7との新たな疾患関連性を調べる目的で、種々の疾患患者の末梢血リンパ球におけるウイルスゲノムの存在をPCR法で検討した。5)悪性リンパ腫発症におけるKSHV(HHV-8)の関与を調べる目的で、生検リンパ組織におけるKSHVゲノムの存在をPCR法にて検討した。
結果と考察
本研究では、HHV-6、HHV-7およびKSHV(HHV-8)などの新型ヘルペスウイルス感染による病態を、 in vitro における感染実験系と臨床材料を用いたウイルスゲノムのPCRで検討し、下記のことを明らかにした。
1)HHV-6感染によってCD4陽性T細胞はTNF-αや抗Fas 抗体によるアポトーシス感受性が上昇する。このアポトーシス感受性亢進は直接ウイルス感染は必要なく、主にウイルス非感染 bystander cells において認められる。2)HHV-6およびHHV-7感染によってそれぞれ細胞表面CD3とCD4の発現が著明に抑制され、さらにどちらのウイルス感染によっても HIV-1 の coreceptor である細胞表面CXCR4発現が著しく低下することが明らかとなった。これらの分子発現低下は、遺伝子の転写以降における障害によるものであることが判明した。また、あらかじめHHV-6またはHHV-7を接種したCD4陽性T細胞においては HIV-1 増殖が抑制されることも明らかとなった。3)Pityriasis rosea 患者の急性期末梢血単核球から高頻度にHHV-6ゲノムが検出された。また、Mycosis fungoides 患者リンパ節からHHV-7を分離し、HHV-6およびHHV-7とこれらの疾患との関連性が示唆された。4)日本人リンパ腫におけるKSHV(HHV-8)の関与をPCRによって検討したところ、頻度は低いものの一部のリンパ腫細胞においてゲノムの存在が確認され、KSHVとリンパ腫との関連性が示唆された。
結論
今回の検討で、リンパ球は新型ヘルペスウイルス感染によって多様な機能的変化をきたすことが明らかとなった。また、新たな疾患との関連性も示唆された。現在さらに、
in vitro における感染実験系と臨床検体を用いた解析を進行している。

公開日・更新日

公開日
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更新日
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