病原菌感染機序の解明-宿主線溶系の活性化による組織侵入の新たな機構の研究

文献情報

文献番号
199700862A
報告書区分
総括
研究課題名
病原菌感染機序の解明-宿主線溶系の活性化による組織侵入の新たな機構の研究
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
蓮見 惠司(東京農工大学農学部)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 新興・再興感染症研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
-
研究費
1,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
最近、宿主の線溶系を利用する病原性細菌の組織侵入が、感染の成立に重要な役割を果たすことが報告され注目されている。生理的線溶は、プラスミノゲンアクチベーターとそれらの阻害タンパク質の産生調節の絶妙なバランスの下に成立している。申請者らは、線溶系を活性化する低分子微生物代謝物を探索し、プラクチンと命名した新規環状ペンタペプチドを発見した。プラクチンは、未知の血漿蛋白質と結合し、不活性なウロキナーゼを介した線溶を活性化する。本研究は、プラクチン依存プロウロキナーゼ活性化蛋白質の精製、作用の解明を行うとともに、病原菌からその活性を促進する物質を探査し宿主機能利用の分子機構を解明することにより、これら病原菌感染の予防対策に資することを目的とする。
研究方法
1.プラクチン依存プロウロキナーゼ活性化蛋白質の精製: ヒト血漿をCohnの方法に従ってエタノール分画した。得られた活性画分(フラクション?-1)を硫安分画し、活性を有する50%飽和沈殿画分を透析した。これを、イオン交換HPLCにて精製し、得られた活性画分をsize-exclusion HPLCでさらに精製した。得られた活性画分を、SDS-PAGEにより分画後、electroblotによりPVDF膜に転写した。68 kDのバンドをPVDF膜から切り出し、ペプチドシークエンサーでN末端アミノ酸配列を決定した。2.病原微生物からの線溶促進物質の探索と単離: 約60株の病原微生物の培養抽出液の線溶促進活性を評価した。その中で、顕著な活性を示したAspergillus niger(アスペルギルス症病原菌)から活性物質の精製を試みた。溶媒抽出、カラムクロマトグラフィー、HPLCなどにより活性物質を単離した。NMR、質量分析、アミノ酸分析などの方法を組み合わせて活性物質の構造を決定した。
結果と考察
本研究者らは線溶系の機能低下・調節異常によりもたらされる疾病(血栓症、動脈硬化など)の予防・治療薬の開発を目的として、線溶系を活性化する微生物由来の低分子代謝産物の探索と作用の解明を行ってきた。その過程において、いくつかのユニークな活性をもった新規化合物を発見した。それらの作用の分子機序は以下の2つに大別された。(A)プラスミノゲンと結合してその立体構造を変化させ、アクチベーターによる活性化とフィブリンや細胞への結合を促進する。(B)細胞表面のプロウロキナーゼ型プラスミノゲンアクチベーター(pro-uPA)を活性化する。(C)プラスミノゲンアクチベーターインヒビター(PAI)を阻害する。(B)に属する環状ペンタペプチド プラクチンは、ユニークな血漿蛋白質(本研究においてPDPAと命名)を介し、pro-uPAを活性化する。ヒト血漿からPDPAを精製し、そのアミノ末端部分配列を決定した。組織のウロキナーゼの大部分(90-95%)は不活性な前駆体プロウロキナーゼとして存在する。PDPAはプラクチン存在下に細胞表面プロウロキナーゼの活性化(一本鎖型から二本鎖型への変換)を強く促進することを見いだした。不活性な前駆体型ウロキナーゼの活性化は菌周辺組織の線溶の活性化をもたらし、菌の組織侵入に関与することが示唆される。この発見は、病原菌の組織侵入と感染の成立の機序解明のための新たな実験モデルを提供する。そこで、病原及び非病原微生物から線溶活性を促進する物質を探索した。その結果、多くの病原性真菌が活性物質を生産することを見いだした。活性物質を作用ごとに分類し、有望な菌株Aspergillus niger(アスペルギルス症病原菌)から活性物質の精製を試みた。溶媒抽出、カラムクロマトグラフィー、HPLCなどにより活性物質を単離した。NMR、質量分析、アミノ酸分析などの結果、本物質をmalformin Aと同定した。Malformin Aはプラクチン同様環状ペンタペプチド構造をもつが、その構成ア
ミノ酸に2分子のシステインを含む点でアルギニンを含むプラクチンと性質を異にしている。作用の点においても両者は異なり、プラクチンはPDPAを介する経路で細胞表面の線溶系を促進するのに対し、malformin Aはそれを介さない経路で活性を発現した。以上の成績は、微生物由来の低分子物質が、宿主のもつ潜在的線溶活性を促進することを示し、この機構が病原菌の組織侵入に関与することが示唆される。また、それに関わる分子にはいくつかの種類があり、それらの作用の解析から、PDPAのような生理的線溶活性化調節分子を発見・同定できることを示す。
結論
本研究の成績は、微生物由来の低分子物質が、宿主のもつ潜在的線溶活性を促進することを示し、この機構が病原菌の組織侵入に関与することが示唆される。また、それに関わる分子にはいくつかの種類があり、それらの作用の解析から、PDPAのような生理的線溶活性化調節分子を発見・同定できることを示す。

公開日・更新日

公開日
-
更新日
-

研究報告書(紙媒体)