マイコプラズマ肺炎発症機序に関する研究

文献情報

文献番号
199700861A
報告書区分
総括
研究課題名
マイコプラズマ肺炎発症機序に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
佐々木 次雄(国立感染症研究所)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 新興・再興感染症研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
-
研究費
1,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
ヒトからよく分離されるマイコプラズマは7 種あるが、このうち病原性が明らかなのは、 M. pneumoniaeのみであり上気道炎、気管支炎、肺炎などの呼吸器感染症を起こす。 肺炎は M. pneumoniae感染者の約3 ~5%に起こり、細菌性感染の場合に見られる膿性の咳痰は伴わず、症状がかなり遷延して頑固な乾性咳嗽が続く特徴がある。 近年、細菌性肺炎が激減した中で肺炎全体に占めるマイコプラズマ肺炎の比率は高まっており、小児科の患者では発生頻度の高い感染症の一つに数えられる。 M. pneumoniaeが気管上皮細胞に付着した後の肺炎発症に至る機序については未だ解明されてない点が多い。 そこで本研究事業においては、1)日本において患者より分離される M. pneumoniaeの菌型、2) M. pneumoniae患者及び培養細胞系における炎症性サイトカインの動態及び誘導能、3) M. pneumoniae感染患者における好酸球特異顆粒蛋白 ECPの動態について調べることにした。
研究方法
研究目的に沿って、以下の手法をとった。
1)日本において患者より分離される M. pneumoniaeの菌型:日本におけるマイコプラズマ肺炎の流行は、実験室診断による疫学調査がなされた1968年以降1988年まで4 年毎に流行を繰り返してきた。 1992 年以降この流行周期が崩れ、1991年以降は晩秋から早春にかけて規則正しく小さなピークが認められるだけである。 我々は過去20年間に日本で分離された M. pneumoniaeを細胞付着蛋白 (P1) をコードしている遺伝子の違いによって分類したところ、・型と・型菌が周期性をもって流行を繰り返していることを見つけた (Sasaki et al, J. Clin. Microbiol., 34: 447-449, 1996) 。 そこで、日本を3 ブロック (北海道、九州、首都圏) に分け、各ブロックの医療機関、地方衛生研究所の協力のもとマイコプラズマ感染症の疑わしい患者の咽頭スワブを送っていただき、解析を行った。
2) M. pneumoniae患者及び培養細胞系における炎症性サイトカインの動態及び誘導能: M. pneumoniae感染患者の気管支肺胞細胞における炎症性サイトカインの発現を調べるために、首都圏の臨床医に検体 (BAL)採取を頼んでいたが、患者数が例年に比べ著しく少なかったことと、患者からBAL 採取の同意が得られなかったことより、1 例も集まらなかった。 培養細胞系での炎症性サイトカインの誘導能については、正常ヒト気道上皮細胞 (NHBE) 及び正常ヒト肺繊維芽細胞 (NHDF) を M. pneumoniaeで刺激し、IL-2, IL-6, IL-8, IFN-γ, TNF, MCPに対する mRNA の発現を調べた。
3) M. pneumoniae感染患者における好酸球特異顆粒蛋白 ECPの動態について: M. pneumoniae患者は喘息患者に似た激しい咳嗽を呈することがある。 喘息患者における激しい咳嗽にはECP が関与していると言われているので、これまで当室で保存していた M. pneumoniae患者血清中におけるECP 濃度をラジオイムノアッセイ法で測定した。 
結果と考察
本研究事業において以下の研究結果が得られた。 1) 平成9 年度中に北海道、九州、首都圏の各共同研究機関から送られてきた咽頭スワブ38検体中、 M. pneumoniaeが検出されたのは7 検体 (18%)であった。 検出された M. pneumoniaeを M. pneumoniae-P1 遺伝子を指標にしてPCR-RFLP法で型別したところ、全て・型であった。 過去20年間の分離菌を見ると、1976年の分離株は・型菌が多くを占めていたが、1979~1980年頃には・型が多くなっている。 80 年代には・型菌の分離が増加し、1985年以降数年間の分離はほとんど・型菌となっている。 しかし、90年代になると再び・型菌が増加し、現在は・型菌ばかりが分離されるようになっている。 ・型、・型菌が交互に出現してくるメカニズムについては不明であるが、今後、 M. pneumoniaeの型変化と宿種側の・型菌及び・型菌に対する免疫能の違い等について注意深く観察していく必要性を感じている。 2) M. pneumoniae感染において炎症組織である気道上皮及び肺由来正常細胞を用いて M. pneumoniae刺激による各種炎症サイトカイン (IL-2, IL-6, IL-8, IFN-γ, TNF, MCP) のmRNA発現を調べた。 特に注目したIL-8, TNF, MCPのうち気道上皮細胞においてはIL-8、肺繊維芽細胞においてはTNF, MCPが自然誘導されており、 M. pneumoniae刺激によるものと区別することが困難であった。 しかし、肺繊維芽細胞における M. pneumoniae刺激によるIL-8 mRNA の発現には有意なものがあり、今後更なる研究を続けたい。 3) M. pneumoniae感染患者における好酸球特異顆粒蛋白 ECPを当室で保存している M. pneumoniae患者血清56例、細菌性患者肺炎36例、及び医療機関から分与していただいた同年齢層の喘息患者及び健常者について測定した。 その結果、喘息患者における血清中ECP 濃度は、23 (36-11)μg/L 、 M. pneumoniae患者においては 18.5 (31.4-6.6)μg/L で何れも健常者の5μg/L 以下より有意に高い値を示した (p<0.001)。 マイコプラズマ肺炎患児のECP 濃度と年齢の関係には特に違いは無かったが、病日との関係においては罹患10-15 日頃に高い値を示す傾向があった。 M. pneumoniae感染患者における頑固な咳嗽にはECP が関与していることを十分伺わせる結果であった。 
結論
単年度の研究事業としてはそれなりの研究成果も得られたが、この種の研究テーマは医療機関との密接な協力のもと、長期にわたって行う必要がある。 今後とも疫学調査による M. pneumoniaeの型別を続ける必要があるし、科学技術の進歩に伴い、新しい手法を用いてマイコプラズマ肺炎の発症機序に迫る必要性も感じている。 最後に、本研究事業に協力して下さった医療機関の各位に感謝したい。

公開日・更新日

公開日
-
更新日
-

研究報告書(紙媒体)