細胞内寄生菌に対する指向性DNAワクチンの開発

文献情報

文献番号
199700858A
報告書区分
総括
研究課題名
細胞内寄生菌に対する指向性DNAワクチンの開発
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
小出 幸夫(浜松医科大学)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 新興・再興感染症研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
平成10(1998)年度
研究費
1,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
発現ベクターを直接接種することにより、免疫を成立させるDNAワクチンが新世代のワクチン技術として最近注目を浴びている。細胞内寄生体に対する防御には細胞性免疫が重要な役割を果たすが、この細胞性免疫の誘導には生ワクチンが必須であり、死菌(不活化)ワクチンおよび成分ワクチンでは効果をあげることができない。この点において、DNAワクチンはCTLおよび1型ヘルパーT(Th1)細胞などの細胞性免疫を強力に誘導できるという有利な特徴を持っている。そこで、多くの細胞内寄生体に対するDNAワクチンの研究が行われているが、これらは主にウイルスに対するものであり、細胞内寄生菌に対するものは少ない。
このため、我々は細胞内寄生菌のモデルとしてL. monocytogenesを用い、これに対するCTL誘導型のDNAワクチンの研究を行った。L. monocytogenesの防ラスI分子(H-2d)結合性CTLエピトープであることが既に判明している。そこで、我々はLLO91-99ペプチドを発現するプラスミドを構築した。この際、マウス細胞での転写効率を高めるため、コドンをマウス遺伝子で最も頻繁に使われているものに適合させたプラスミドも作成し、これらの1)免疫効率、2)マウス細胞での転写効率の比較を行った。
研究方法
1)マウス:日本SLC社(浜松)より入手したBALB/c(H-2d)マウスを浜松医科大学動物実験施設で、SPF下にて繁殖維持した。実験には6-12週齢のものを用いた。
2)プラスミドの構築:p91wtおよびp91mam:LLO91-99をコードするDNAを2種類合成した。一つは野生型のDNA配列を示すものであり、もう一つはコドンをマウスで最も頻繁に使用されているものに適合させたDNAである。これらを翻訳開始コドンであるATGと終始コドンであるTAGではさみ、各々発現ベクターであるpCI(Promega社)のCMV immediate-early enhancer/promoterの下流に挿入した。挿入断片のDNA配列はキャピラリーDNAシークエンサー(ABI PRISM 310 Genetic Analyzer; Applied Biosystems, CA, USA)で確認した。野生型DNA配列を発現するp91wtとコドンを適合させたp91mamのDNA配列は以下の通りである。
p91wt: ATG GGT TAC AAA GAT GGA AAT GAA TAT ATT TAG
p91mam: ATG GGC TAC AAG GAC GGC AAC GAG TAC ATC TAG
p91wt-Lucおよびp91mam-Luc:p91wtとp91mamの転写効率を検討するため、それぞれのLLO91-99をコードするDNAの下流にルシフェラーゼcDNAをMetコドンを外して挿入し、LLO91-99/ルシフェラーゼ融合蛋白を発現するp91wt-Lucおよびp91mam-Lucを作成した。
3)DNAワクチンによる免疫
BALB/cマウスの大腿四頭筋と前脛骨筋に0.25%bupivacaine(Sigma)を50micro l注射することにより、前処置した。その2日後にp91wtまたはp91mamを50micro g/ 50micro l注射することにより免疫した。この操作を2週間隔で3回行い、最終免疫から2週後に脾臓を摘出した。
4)CTL解析
免疫したマウスの脾細胞を12穴プレートに2X107/wellとなるように撒き、あらかじめ10mMのLLO91-99ペプチド(GYKDGNEYI)と100mg/mlのマイトマイシンCで37℃、2時間処理した同系マウスの脾細胞2X107/wellと共に、IL-2(10 U/ml)存在下で5日間培養することにより再刺激した。細胞傷害試験は51Cr遊離試験によって行った。標的細胞としては10mMのLLO91-99ペプチドで、37℃、1.5時間パルスし、51Cr標識したJ774細胞(H-2d) 1X104 個を用いた。これに対して、様々な比率でエフェクター細胞を加え、37℃、5時間培養し、遊離した51Crを計測し、% cytotoxicityを算出した。
5)判定量的RT-PCR
既に我々が報告した方法に従った。IFN-gamma, IL-4 およびコントロールとして使ったβーアクチンのプライマーも既に報告したものを用いた。
6)ELISA
IFN-gammaのELISAによる定量法は既に報告した。
7)read-through解析
p91wt-Luc、p91mam-LucおよびpCIの0.5mgをSuperFect transfection reagent(Qiagen)を用いて、マウスBALB/3T3細胞およびサルCOS7細胞に導入した。4時間後に細胞を回収し、凍結/融解法にて細胞抽出液を得た。ルシフェラーゼの測定はPicaGene ルシフェラーゼ解析システム(東京インク)を用いて、OPTOCOMP II ルミノメーター(MGM Instrument, CT)で測定した。ルシフェラーゼ活性は同時に細胞に導入したpCMVbのβーガラクトシダーゼ活性により補正した。
結果と考察
1)CTLの誘導
p91wtの免疫ではLLO91-99ペプチドをパルスした標的細胞J774(H-2d)に対するCTLを誘導することはできなかった。一方、p91mamを同じ方法で免疫した場合には、LLO91-99特異的H-2d拘束性のCTLを誘導することができた。単クローン抗体を用いた実験により、このエフェクター細胞はCD8+細胞であることが判明した。
2)サイトカイン
CTLと同様、p91mamで免疫したマウスの脾細胞はLLO91-99ペプチドによる試験管内再刺激で、IFN-gおよびIL-4mRNAを発現することがRT-PCRにより証明された。この場合、IL-4mRNAの量はIFN-gmRNAと比べるとはるかに少なく、この免疫ではTc1細胞が誘導されるものと推察された。IFN-g蛋白量は無刺激では11±34 pg/mlであったのに対し、LLO91-99ペプチドで5日間刺激すると415±52 pg/ml産生した。一方、p91wtで免疫したマウスの脾細胞にはこのような活性が認められなかった。
3)p91wtとp91mamの翻訳効率
p91wtとp91mamの転写効率を検討するため、p91wt-Lucとp91mam-Lucをマウス線維芽細胞株BALB/3T3およびサル腎細胞株COS7に導入し、ルシフェラーゼ活性を測定した。その結果、p91mamはp91wtに比し、BALB/3T3細胞では67.8倍、COS7細胞では18.6倍のルシフェラーゼ活性を示した。これらの発現プラスミドでは、プロモーターおよびルシフェラーゼcDNAは全く同じであるので、このルシフェラーゼ活性の違いは、ルシフェラーゼcDNAの上流にある91wtとp91mamの翻訳効率の違いによると考えられる。
以上の結果より、LLO91-99特異的、MHCクラスI拘束性T細胞を誘導するDNAワクチンの作成には、コドンをマウスに適合させ、翻訳効率を高める必要があることが判明した。コドンを宿主細胞種に最適化することにより、より多くの蛋白が得られることは既に報告されている。
結論
今回の結果は、非ウイルス性の病原体に対するDNAワクチンの作成にはcodon-usageに対する配慮が必要であることを示している。

公開日・更新日

公開日
-
更新日
-

研究報告書(紙媒体)