う蝕ワクチン用マルチアグレトープ型 T 細胞エピトープ内存型ペプチド抗原の構築

文献情報

文献番号
199700856A
報告書区分
総括
研究課題名
う蝕ワクチン用マルチアグレトープ型 T 細胞エピトープ内存型ペプチド抗原の構築
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
西沢 俊樹(国立感染症研究所口腔科学部)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 新興・再興感染症研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
-
研究費
1,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究事業の目的は、う蝕ワクチン用として特定したユニットペプチドを基本とし、 そのアミノ酸配列に意図的に手を加えることにより、ワクチン効果を存続させたまま、 複数種の アグレトープを 抗原分子内に 重複 およびシフトで共存さた 『マルチ アグレトープ型 T 細胞エピトープ 内存型 ペプチド抗原』を構築し、ペプチドワクチンの最大の弱点である 『免疫応答に対するMHC遺伝子の拘束性に起因するペプチド抗原のヒトによる免疫原性の強弱』が回避できるか否かを検討することである。
研究方法
1. 阻害抗体誘導能を持つマルチアグレトープ型ペプチド抗原の最小単位の構築(マウス)
う蝕ワクチン用ペプチド抗原として特定した阻害抗体誘導能を持つ最少単位のユニットペプチド( T Y E A A L K Q Y E A D L )を、一連の B10 コンジェニックマウスに免疫し、その抗体誘導能の検討から、ユニットペプチド応答マウスを特定した。次いで、ユニットペプチド抗原のアミノ酸残基を順次バリン( V )に置き換えたV置換ペプチドを合成し、それらを前述のユニット抗原応答マウスに免疫することにより、抗体誘導に不可欠のアミノ酸残基を推定した。さらに、推定アグレトープに関与する全てのアミノ酸を V で同時 に 置換した位置限定 V 置換ペプチドをそれぞれ合成し、免疫による抗体誘導能の検討から、それぞれの遺伝子型におけるユニットペプチド抗原のアグレトープを決定した。
2. ヒト用マルチアグレトープ型ペプチド抗原の最小単位の設計:アグレトープモチーフの解析
PCR 法により DR 遺伝子の遺伝子型が(8、8)ホモ、および、(14、15)と同定された被験者の末梢血リンパ細胞(PBLC)を EB ウイルスで不死化させ、B-LCL 株を樹立した。B-LCL 株の培養細胞からDR 抗原分子をそれぞれ可溶化し、抗 HLA-DR単クローン 抗体(L243)をコートしたELISAプレート、ビオチン標識19残基オーバーラップペプ チド、ビオチン標識ペプチド検出用アルカリフォスファターゼ標識アビジン、を用いた試験管内 ペ プチド - DR 抗原 結合試験により結合ペプチドを選択した。 結合ペプチドのG 置換ペプチドを合成し、その結合能からそれぞれのアグレトープのモチーフを解析した。
結果と考察
1. 阻害抗体誘導能を持つマルチアグレトープ型ペプチド抗原の最小単位の構築(マウス)
本研究事業の結果から、一連の B10. コンジェニック マウス、 B10.『 A(H-2 の遺伝子型は a)、D2(d)、M(f)、 BR(k)、Y(Pa)、G(q)、RIII(r)、S(s)、SM(v)』 の内、ユニットペプチドは B10.A 、B10.D2 、B10.BR の3系のマウスで PAc に交叉反応性の抗体を誘導できることが明かになった。また、そのアグレトープとして、B10.D2 に対しては6番目の L と613番目の L が、B10.A に対しては1番目の T と2番目の Y および8番目の Q が、B10.BR に対しては5番目の A と8番目の Q が、それぞれ必須アミノ酸残基と推定された。 現在、ユニットペプチドの交叉反応性エピトープ ( -Y--- L-- Y----)および H - 2 の遺伝子型a,d, k のアグレトープに関与するアミノ酸残基を固定し、それ以外のアミノ酸残基を他の19種のアミノ酸残基とランダムに置換することにより『部位限定ペプチドライブラリー』を、作製中である。
以上、ユニットペプチドに対する MHC 拘束性の解析から、MHC 拘束の解除方法のモデルとして、重複型のマルチアグレトープ型 T 細胞エピトープの構築が可能であること、また、複数の T 細胞エピトープを直列に持つクラスター型 T 細胞エピトープの構築も可能であることが示唆された。
2. ヒト用マルチアグレトープ型ペプチド抗原の最小単位の設計:アグレトープモチーフの解析
ペプチドワクチンのヒトでの実用を考えたとき、ヒト用のマルチアグレトープ型 T 細胞 エピトープの 構築 が不可欠となる。そのためには、HLAクラスII 遺伝子の各遺伝子型におけるアグレトープのアミノ酸配列モチーフの解析がまず必要となる。今のところモチーフが同定されている遺伝子型は、DR 1, 3, 4, 7, 11 の五つである。
そこで本研究事業では、未定の遺伝子型のうち DR 8 および DR11,15 のモチーフにつき解析を試みた。
PCR 法により DR 遺伝子の遺伝子型が(8,8)ホモ、および、(14,15)と同定された被験者の末梢血単核細胞( PBMC )を用いた試験管内 T 細胞増殖実験の結果から、PAc(316-334)ペプチドが DR 8 に拘束されるペプチドとして特定できた。さらに、上記被験者の末梢血から樹立した培養 B-LCL 細胞から可溶化
した DR 分子とELISA プレートを使用した試験管内 ペプチド - DR 分子 結合試験において、上記 PAc(316-334)ペプチドに加えPAc(369-387)ペプチドが新たにDR 8 および DR14,15 拘束ペプチドとして特定できた。すなわち、PAc 分子の301ー394領域においては、DR 8 および DR 14,15 に対するアグレトープは(316-334)、(369-387)部位に存在すると推定された。そこでその部位の部分ペプチドを合成し、試験管内結合試験を行った結果、(316-334)部位では316ー330部分が、(369-387)部位では373ー386部分が結合能を持つための最少単位と同定され、その両者の共通アミノ酸配列、- Y - - - L A - V - K A N A - - 、の中にそれぞれ のアグレトープが存在すると推定された。さらに、同ペプチドのアミノ酸残基1個のみを順番にグリシン(G)と置き換えた G 置換ペプチドを合成し、DR 分子への結合能を検討した結果、 DR 8 のアグレトープのモチーフは - - - - L - - V - K - -DR 14,15 のそれは - - - L - R V - K- - A と推定
された。
現在、これまでの結果や知見を基に、ヒト用のう蝕ワクチン用『マルチアグレトープ型 T 細胞エピトープ内存型ペプチド抗原』のデザインを検討しており、 その原型が、L K V Y W E L L A K Y L A D L V Q Y E 、である。 ちなみに、このペプチドは、アグレトープシフトにより 、交叉反応性エピトープに加え、ヒト M H C ( H L A ) のDR1, DR3, DR4, DR7, DR11 に対するそれぞれのアグレトープを 同時に共存させるよう デザインしてある。
結論
う蝕ワクチン用として開発したう蝕病原細菌の歯面定着関与因(PAc)の生物活性 阻害抗体を誘導できる最少単位のペプチド抗原(ユニットペプチド:TYEAALKQYEADL)を基本とし、そのペプチド抗原の交叉反応性エピトープ(- Y - - - L - - Y - - - )はそのままに、 それ以外のアミノ酸残基の 意図的な置換により、ワクチン効果を存続させたまま、 複数種のアグレトープを抗原分子内に重複 およびシフトで 共存させる 『マルチ アグレトープ型 T 細胞エピトープ 内存型 ペプチド抗原』の構築が可能であることを、マウスにおいてではあるが、実証した。
人為的デザイン による この方法で 、『MHC 遺伝子の拘束性に起因するペプチド抗原のヒトによる免疫原性の強弱』を 回避することにより、 ヒトMHC(HLA)の 種々の遺伝子型に同時に対応できるう蝕ワクチン用ペプチド抗原の開発が可能と考えられる。

公開日・更新日

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