肝炎の予防および治療対策に関する費用対効果分析

文献情報

文献番号
201030041A
報告書区分
総括
研究課題名
肝炎の予防および治療対策に関する費用対効果分析
課題番号
H20-肝炎・若手-013
研究年度
平成22(2010)年度
研究代表者(所属機関)
井出 博生(東京大学 医学部附属病院)
研究分担者(所属機関)
  • 新 秀直(東京大学 医学部附属病院)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 肝炎等克服緊急対策研究
研究開始年度
平成20(2008)年度
研究終了予定年度
平成22(2010)年度
研究費
4,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究では、マルコフモデルおよびマイクロシミュレーションを用い、特定のコホートおよび長期的な人口全体に対するワクチン接種政策の影響を評価することを目的とした。
研究方法
マルコフモデルにおける検討では、現状の接種政策、0歳時および12歳時の全員接種政策を取り上げた。一世代100万人の出生児コホートについて75年間のシミュレーションを行った。さらにマルコフモデルと同様の構造を持つマイクロシミュレーションのモデルを構築し、計算機の能力を前提として、おおよそ最近の出生人口の1/100の人口スケールとし、75年間、80コホートにわたって同じ接種政策が適用されるという設定でシミュレーションを行った。
結果と考察
0歳時の全員接種政策に転換することによって、新規感染者は累積で約1/3に低減し(58,769人と23,165人)、12歳時の全員接種政策との間にはそれほど大きな違いはなく、肝がんなどの罹患者数も同様に減少することがわかった。費用対効果分析では、割引率が0%の時に現状の費用は9,252円、0歳時の全員接種政策で16,251円、12歳時の全員接種政策で14,168円であり、質的調整年はそれぞれ72.0909QALYs(Quality Adjusted Life Years)、72.1053QALYs、72.1047QALYsであった。したがって、増分費用対効果比は現状から0歳時の全員接種で486,042円、現状から12歳時の全員接種で356,232円であった。さらに、割引率が3-5%までの範囲であれば、全員接種政策への転換は是認される場合が多いことを示していた。マイクロシミュレーションによる人口全体の分析は、現状の政策から全員接種政策に移行することにより、ワクチンを接種した世代の感染者数等をおおよそ1/4-1/5に減少させることができることを示していた。また、全員接種は、新規感染者が相当程度減少するまでに要する期間を数十年単位で短縮させた。3つの接種政策を比較すると、全員接種政策はわずかに質的調整年を伸長させることがわかった。
結論
費用対効果分析の結果は、割引率が3-5%までの範囲であれば、全員接種政策が是認される場合が多いことを示していた。また、全員接種政策は感染者数を減少させるのは当然のこととして、新規感染者数を低位に導くのに必要な期間を早める効果もある。今後のワクチン接種政策の検討に際しては、12歳時の全員接種導入も選択の対象となると考えられる。

公開日・更新日

公開日
2011-06-06
更新日
-

文献情報

文献番号
201030041B
報告書区分
総合
研究課題名
肝炎の予防および治療対策に関する費用対効果分析
課題番号
H20-肝炎・若手-013
研究年度
平成22(2010)年度
研究代表者(所属機関)
井出 博生(東京大学 医学部附属病院)
研究分担者(所属機関)
  • 新 秀直(東京大学 医学部附属病院)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 肝炎等克服緊急対策研究
研究開始年度
平成20(2008)年度
研究終了予定年度
平成22(2010)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
わが国にはB型、C型を合わせて250万人のキャリアがいると推計されている。現在、B型の母子感染の防止、輸血・血液製剤による感染の防止については考えうる対策がとられるようになっているので、今後の問題は感染の予防(B型)、治療とその予後である。本研究では、感染の予防等に関する費用対効果分析を行う。
研究方法
費用対効果分析を行うにあたり、シミュレーションモデルの基本構造、費用対効果分析の技術的な面を整理し、モデルを構築した。マルコフモデルを用いて感染者数等と費用対効果分析を行い、マイクロシミュレーションを用いて長期的な人口全体に対するワクチン接種政策の影響を評価した。
結果と考察
先行研究では主に意思決定樹解析およびマルコフモデルのコホート・シミュレーションが用いられていた。しかしながら、全人口に対する効果をシミュレーションするために、マイクロシミュレーションも取り入れる必要があると考えられた。マルコフモデルの結果では、0歳時の全員接種政策に転換することによって、新規感染者は累積で約1/3に低減したが、12歳時の全員接種政策との間にはそれほど大きな違いはないことがわかった。費用対効果分析では、割引率が0%の時に増分費用対効果比は現状から0歳時の全員接種で486,042円、現状から12歳時の全員接種で356,232円であった。さらに、割引率が3-5%までの範囲であれば、全員接種政策への転換は是認される場合が多いことを示していた。マイクロシミュレーションによる人口全体の分析は、現状の政策から全員接種政策に移行することにより、ワクチンを接種した世代の感染者数等をおおよそ1/4-1/5に減少させることができることを示していた。また、全員接種は、新規感染者が相当程度減少するまでに要する期間を数十年単位で短縮させた。
結論
本研究が先行研究と比べて優れている点は、マイクロシミュレーションを取り入れ、特定のコホートに対するワクチン接種政策が全人口に対して与える影響を評価したことにある。費用対効果分析の結果は、割引率が3-5%までの範囲であれば、全員接種政策が是認される場合が多いことを示しており、今後のワクチン接種政策の検討に際しては、12歳時の全員接種導入も選択の対象となると考えられた。

公開日・更新日

公開日
2011-06-06
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201030041C

成果

専門的・学術的観点からの成果
本研究が先行研究と比べて優れている点は、マイクロシミュレーションを取り入れ、特定のコホートに対するワクチン接種政策が全人口に対して与える影響を評価したことにある。このような手法を用いてワクチン接種政策などについて検討した研究は、諸外国を含めてごくわずかしか存在しない。このような手法を用いることで、一般の費用対効果分析よりも精緻に諸々の保健医療政策の評価が可能になると考えられる。
臨床的観点からの成果
本研究の結果が直接的に臨床に反映されることはないと思われるが、今後のワクチン接種政策を検討する上では有用である。費用対効果分析の結果は、割引率が3-5%までの範囲であれば、B型肝炎ウイルスワクチンの全員接種政策が是認される場合が多いことを示しており、12歳時の全員接種導入も今後のワクチン接種政策の検討に際しては選択の対象となると考えられた。また、全員接種政策の導入は、新規感染者を減少させることは当然のことながら、減少の速度を相当程度速めることがわかった。
ガイドライン等の開発
特になし
その他行政的観点からの成果
これまでのところなし
その他のインパクト
特になし

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
0件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
1件
学会発表(国際学会等)
0件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Ide H, Koike S, Yasunaga H et al.
Long-term Career Transition in the Surgical Workforce of Japan: A Retrospective Cohort Study Using the Nationwide Survey of Physicians Data from 1972 to 2006
World Journal of Surgery , 34 , 1748-1755  (2010)
原著論文2
Koike S, Ide H, Yasunaga H et al.
Postgraduate training and career choices: an analysis of the National Physicians Survey in Japan
Medical Education , 44 , 289-297  (2010)
原著論文3
Koike S, Kodama T, Matsumoto S et al.
Retention rate of physicians in public health administration agencies and their career paths in Japan
BMC Health Services Research , 10 , 101-  (2010)
原著論文4
Koike S, Matsumoto S, Kodama T
Estimation of physician supply by specialty and the distribution impact of increasing female physicians in Japan
BMC Health Services Research , 9 , 180-  (2009)
原著論文5
Ide H, Koike S, Kodama T et al.
The distribution and transitions of physicians in Japan: a 1974-2004 retrospective cohort study
Human Resources for Health , 7 , 73-  (2009)
原著論文6
Koike S, Yasunaga H, Matsumoto S et al.
A future estimate of physician distribution in hospitals and clinics in Japan
Health Policy , 92 , 244-249  (2009)
原著論文7
Ide H, Yasunaga H, Kodama T
The Dynamics of Obstetricians and Gynaecologists in Japan: A Retrospective Cohort Model using the Nationwide Survey of Physicians data
Journal of Obstetrics and Gynaecology Research , 35 (4) , 761-766  (2009)
原著論文8
Ide H, Yasunaga Y, Koike S et al.
Shortage of Pediatricians in Japan: a Longitudinal Analysis Using Physicians' Survey Data
Pediatrics International , 51 , 645-649  (2009)
原著論文9
井出博生,赤羽学,白阪琢磨他
HIV診療に係る原価の実態調査
日本エイズ学会誌 , 12 (1) , 49-55  (2010)

公開日・更新日

公開日
2013-06-04
更新日
-

収支報告書

文献番号
201030041Z