細菌感染に続発する川崎病様症状の発症機構についての研究

文献情報

文献番号
199700855A
報告書区分
総括
研究課題名
細菌感染に続発する川崎病様症状の発症機構についての研究
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
阿部 淳(国立小児病院小児医療研究センタ-)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 新興・再興感染症研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
-
研究費
1,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
川崎病は4才未満の乳幼児に好発する原因不明の急性熱性疾患である。日本では毎年約5千例が発症し、全患者の約15%に発生する冠動脈瘤などの心後遺症の予防が未解決の課題である。川崎病の病原因子の一つとして、Staphylococcus aureus などの産生するスーパー抗原毒素が疑われている。実際に、Staphylococcus aureus による毒素性ショック症候群やYersinia 感染症の急性期には川崎病類似の症状を呈する患者があり、Yersinia 感染症での心曩液貯留・冠動脈瘤などの心合併症の頻度も約10%である。本研究では、川崎病の発症に関与する可能性のある環境因子として細菌性スーパー抗原毒素に着目し、スーパー抗原産生菌を急性期の川崎病患者から従来よりも感度の高い方法で検出し疫学的に検討することを目的とした。
研究方法
S. aureus の臨床分離株の中で、ラテックス凝集反応では既知のスーパー抗原毒素(SEA, SEB, SEC, SED, TSST-1)が検出されなかった株から、PCRを用いた5' RACE法により新たに腸内毒素関連スーパー抗原遺伝子(sei)をクローニングした。sei 遺伝子を含めて S. aureus 由来の8種類のスーパー抗原遺伝子(SEA, SEB, SEC, SED, SEE, SEH, TSST-1, SEI)およびYersinia 菌由来スーパー抗原遺伝子(YPM)に特異的なプライマーを作製して、PCR法によるスーパー抗原遺伝子の検出を17例の川崎病患者からの咽頭・直腸拭い液および79例の健常対照者からの咽頭拭い液を材料として試みた。
結果と考察
新しい腸内毒素関連スーパー抗原SEIは、25アミノ酸からなるシグナル配列をもつ分泌型蛋白で、分泌される蛋白の推定分子量は26,985、アミノ酸数は233である。リコンビナントSEIとマルトース結合蛋白(MBP)との融合蛋白は、抗原レセプターb鎖(TCR-Vb)にVb 3, 12, 13.1, 13.2, 14, 15, 17をもつT細胞を選択的に増殖させた。また、sei遺伝子は S. aureus の臨床分離株31株中17株(55%)に保持されていた。
川崎病患者17例からの(SEA, SEB, SEC, SED, SEE, SEH, TSST-1, SEI, YPM)各遺伝子の検出率は、順に、(0%, 12%, 35%, 0%, 0%, 0%, 47%, 47%, 0%)だった。これに対して、健常対照者79例からの検出率は、(0%, 0%, 25%, 1%, 0%, 0%, 29%, 34%, 0%)だった。健常対照者について年齢層別にS. aureus 関連スーパー抗原遺伝子の検出頻度を比較したところ、2歳未満で56%、2歳以上で21%だった。さらに分離株中のTSST-1産生株の頻度も、2歳未満では88%と川崎病患者と同程度だったのに対し、2歳以上では14%であり、際立った年齢による差異がみられた。
これまでにS. aureus が産生するスーパー抗原毒素を同定する方法としては、逆受身ラテックス凝集反応を用いたキットがあった。しかしS. aureus の臨床分離株を用いたわれわれの検討では、このキットで同定可能なスーパー抗原毒素を産生する菌は約50%に過ぎず、残りの50%は培養上清中には強力なマイトジェン活性を有するにもかかわらず凝集反応は陰性であることから、未知のスーパー抗原毒素を産生する可能性が考えられた。今回遺伝子クローニングしたSEI は臨床分離株の55%に保持されており、既知の7種類のスーパー抗原毒素と合わせてそれぞれに特異的なプライマーを作製してPCRを行うことにより、90%以上のS.aureus 分離株で、産生されるスーパー抗原を同定することができるようになった。Toxic shock症候群、新生児TSS様発疹症などのS.aureus 由来スーパー抗原毒素に起因する諸疾患の早期診断に応用できる可能性がある。また、リコンビナントSEI 蛋白を用いて逆受身ラテックス凝集キットを作製することも、PCR法よりも簡便な診断法として有用と考えられる。
本研究では、PCR法を用いて川崎病患者および健常対照者からのS. aureus 由来スーパー抗原遺伝子の検出率について検討した。その結果、 S. aureus 関連のスーパー抗原遺伝子が59%の川崎病患者から検出された。これまでに報告された川崎病患者からのS. aureus の分離頻度(20 - 30%)と比べて高い比率である。さらに遺伝子レベルで同定されたスーパー抗原の種類としては、TSST-1が分離菌の80%を占め最も高率だった。健常対照者79例について同様の検討を行ったところ、S. aureus 関連のスーパー抗原遺伝子の検出頻度は、2歳未満で56%、2歳以上で21%と年齢層による差がみられた。さらに分離株中のTSST-1産生株の頻度も、2歳未満では88%と川崎病患児と同程度だったのに対し、2歳以上では14%であり、際立った年齢層による差がみられた。川崎病の好発年齢層である2歳未満の乳幼児でTSST-1を産生するS.aureus が高頻度に分離されたことは、1993年にLancet誌に報告されたTSST-1原因説と合わせて興味深い結果である。さらに疫学的、病態論的に検討をすすめたい。
結論
新たにクローニングした腸内毒素関連遺伝子(SEI)を含めて、S.aureus の臨床分離株の90%以上で、スーパー抗原毒素の遺伝子を同定できる方法を開発した。この方法により、59%の川崎病患者からS. aureus 関連のスーパー抗原遺伝子が検出された。同定されたスーパー抗原としてはTSST-1が分離菌の80%を占め最も高く、同年齢層の健常対照乳児からもTSST-1の分離頻度が最も高かったことと合わせて、この毒素と川崎病の臨床症状の発現との関連についてさらに検討することが必要と考えられる。

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