エイズ感染細胞での配列特異的遺伝子組換えによる効率的なHIV遺伝子除去法の開発

文献情報

文献番号
201029038A
報告書区分
総括
研究課題名
エイズ感染細胞での配列特異的遺伝子組換えによる効率的なHIV遺伝子除去法の開発
課題番号
H20-エイズ・若手-016
研究年度
平成22(2010)年度
研究代表者(所属機関)
野村 渉(東京医科歯科大学 生体材料工学研究所)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 エイズ対策研究
研究開始年度
平成20(2008)年度
研究終了予定年度
平成22(2010)年度
研究費
3,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
現在のHIV感染患者における治療は、多剤併用療法が主流であり成果を挙げている。しかし、副作用や高額な医療費、エスケープミュータントの発生などが問題となっている。本研究では、特定の遺伝子配列に対して働くDNA組換え酵素を用いて感染細胞のゲノム中に組み込まれたHIV-1プロウイルス遺伝子を除去するという新規な治療法の開発を行う。
研究方法
保存度の高いgag-pol遺伝子配列を標的とした。DNA結合活性が確認されたジンクフィンガータンパク質(ZFP)に組換え酵素ドメインTn3を融合させ、酵素活性の確認を行う。哺乳類細胞内での酵素活性評価は、標的となるgag遺伝子配列を両端に置いた蛍光タンパク質遺伝子をレポーターとして用いた。このプラスミド遺伝子をCHO-K1細胞に導入して安定的にレポーターを発現する細胞株を樹立する。ZFP融合型DNA組み換え酵素(RecZF)の哺乳類細胞への導入はアデノウイルスベクターを用いることで高い効率での遺伝子導入に関して検討を行う。細胞内へのRecZFの導入についてはウェスタンブロッティングによって発現確認によって行った。
結果と考察
RecZFのZFPドメイン、酵素ドメイン間をつなぐリンカー配列に関してさまざまな変異体を構築して大腸菌内で組み換え反応効率を定量した結果、最適なリンカー長を決定できた。また、長さのみではなくアミノ酸の種類も重要であることが明らかになった。感染細胞における組み換え反応は細胞への導入効率を向上させるためにウイルスベクターを用いる方法を採用し、ウイルス力価の最適化が行えた。標的遺伝子のモデル配列を安定的に導入したレポーター細胞を用いて4種類の異なる配列を認識するRecZFの酵素活性をFACSによって定量した結果、24%程度の組み換え効率が得られた。各融合酵素の発現はウェスタンブロッティングによって確認された。
結論
細胞内における酵素の反応効率について標的モデル配列を用いた反応系ではアデノウイルスベクターによる遺伝子導入を用いることで24%程度という値が得られた。さらに高い活性を得るために酵素活性ドメインの最適化が必要である。また、標的配列周辺のクロマチン構造がDNA結合の障壁となる可能性があるため、ChIPアッセイでの確認に取り組んでいる。今後は分子進化法によってアミノ酸配列を最適化した高い活性を持つ酵素ドメインを見出すことが重要になると考えられる。RecZFはジンクフィンガードメインによって多様な標的配列に適用できると期待されている。そのため、標的配列に対する反応効率の最適化に関する知見は今後重要になると考えられる。

公開日・更新日

公開日
2014-05-26
更新日
-

文献情報

文献番号
201029038B
報告書区分
総合
研究課題名
エイズ感染細胞での配列特異的遺伝子組換えによる効率的なHIV遺伝子除去法の開発
課題番号
H20-エイズ・若手-016
研究年度
平成22(2010)年度
研究代表者(所属機関)
野村 渉(東京医科歯科大学 生体材料工学研究所)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 エイズ対策研究
研究開始年度
平成20(2008)年度
研究終了予定年度
平成22(2010)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
現在のHIV感染患者における治療は、多剤併用療法が主流であり成果を挙げているが、副作用や高額な医療費、またエスケープミュータントの発生などが問題点となっている。長期にわたる投薬も患者のQOL面から望ましくない。本研究では、特定の遺伝子配列に対して働くDNA組換え酵素を用いて感染細胞のゲノム中に組み込まれたHIV-1プロウイルス遺伝子を除去するという新規な治療法の開発を行う。本方法では根本的にウイルス産生を抑制できるため、画期的な治療法の一つとなると考えられる。
研究方法
保存度の高いgag-pol遺伝子配列に対して特異的に結合するZFP遺伝子を構築する。DNA結合活性が確認されたZFPに組換え酵素ドメインTn3を融合させ、大腸菌内で発現、酵素活性の確認を行う。哺乳類細胞内での酵素活性評価は、標的となるgag遺伝子配列を両端に置いた蛍光タンパク質遺伝子を有するプラスミドをレポーターとして用いた。このプラスミド遺伝子をCHO-K1細胞に導入して安定的にレポーターを発現する細胞株を樹立する。標的配列に特異的なDNA組換え反応が進行した場合、蛍光タンパク質の遺伝子が欠損するため、FACSで検出できる。感染細胞からの遺伝子切除の定量的評価は、ウイルス産生細胞に対して4種類のZFP融合型組換え酵素を導入し、4~10週後にウイルス粒子産生数の変化をp24抗体によるELISA法で追跡する。
結果と考察
構築したZFPは10~400nMという強いDNA結合活性を有することが明かになった。ZFP組換え酵素融合体を作成して大腸菌内で発現させたところ、50%以上の酵素活性が確認できた。レポーター細胞に4種類のZFP融合Tn3をトランスフェクションで導入して、FACSによって反応効率を確認した結果、10%程度であることが明らかになった。各融合酵素の発現はウェスタンブロットによって確認された。感染細胞における組み換え反応は細胞への導入効率を向上させるためにウイルスベクターを用いる方法を採用し、ウイルス力価の最適化を行い、良好な結果が得られた。
結論
モデルとした細胞内における酵素の反応効率についてRecZFの発現を最適化することで24%という値を得ることができた。今後はさらに高い活性を得るために酵素活性ドメインの最適化や標的配列周辺のクロマチン構造のDNA結合への影響を明らかにする必要がある。また、血球細胞へのRecZF遺伝子のデリバリー方法に関しても最適化を行う必要がある。

公開日・更新日

公開日
2014-05-26
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201029038C

成果

専門的・学術的観点からの成果
感染細胞に挿入されたプロウイルス遺伝子をDNA組み換えによって切除するという新規概念に基づくHIV感染治療の基礎的研究において遺伝子のデリバリー方法やDNA組み換え酵素の発現最適化によって24%という組み換え効率を得ることができた。また、配列特異的なDNA組み換えを行うために酵素の構造に関して最適化を行うことができた。
臨床的観点からの成果
基礎的研究であるため臨床への応用は不明な部分が多い。しかし、DNA組み換えによって遺伝子のマニピュレーションを行うことができることに基づき、さまざまな遺伝子関連疾患における応用という面では将来的な期待が寄せられる。
ガイドライン等の開発
該当事項なし
その他行政的観点からの成果
該当事項なし
その他のインパクト
エイズ関連研究内容が2010年6月21日付の薬事日報に掲載された。
第37回国際核酸化学シンポジウムで学生講演賞を受賞した。
第58回日本ウイルス学会学術集会において本研究内容に関して招待講演を行った。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
19件
その他論文(和文)
1件
その他論文(英文等)
11件
学会発表(国内学会)
77件
学会発表(国際学会等)
9件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計3件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

公開日・更新日

公開日
2014-05-26
更新日
-

収支報告書

文献番号
201029038Z