水痘ウイルス分離株と生ワクチン株との鑑別法の開発に関する研究

文献情報

文献番号
199700851A
報告書区分
総括
研究課題名
水痘ウイルス分離株と生ワクチン株との鑑別法の開発に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
高山 道子(国立感染症研究所)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 新興・再興感染症研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
-
研究費
1,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
水痘は小児では通常軽症であるが、近年増加している成人水痘は重症になる傾向があり、社会経済的損失を招いている。水痘の原因ウイルスである水痘・帯状疱疹ウイルス(VZV)は水痘治癒後も脊髄神経節に潜伏感染し、後年再活性化して帯状疱疹を引き起こすが、その発生機序はまだ解明されていない。 水痘予防のために現在、弱毒生水痘ワクチンOka株が日本、欧米、アジア諸国で接種されており、その安全性と有効性は世界的にも評価されている。しかし、ワクチン接種後に野生株による水痘を発症する可能性があることが指摘されている。また水痘ワクチン株が被接種者に帯状疱疹を起こすか否かも未解決である。これらの問題の解明には、水痘ウイルス分離株相互の識別と、Okaワクチン株と野生株との鑑別を行う必要がある。 一方、VZVは細胞親和性が強いために大量のゲノムDNAの調製が難しく、しかも株間で遺伝学的変異が少ないので分離株間のゲノム構造の多様性を調べることが困難であった。しかし、long PCR産物の制限酵素切断像を比較するRFLP分析が有効であることを我々は報告した。今回はその方法を用いて日本以外の国の分離株についても分子疫学的な解析を行い、日本の分離株と比較して地域による分布の違いが存在するか否かを調べる。それらの結果に基づいて確実かつ簡便な遺伝子マーカーによる鑑別法を開発することを研究目的とした。
研究方法
VZVゲノムの全領域(125kbp)を増幅するために、それぞれ約10kbpを増幅目標とする12組のプライマー(A-L)を構築した。水痘または帯状疱疹患者の水疱液から分離したVZVをHEL細胞に感染させ、感染細胞から抽出したウイルスDNAを鋳型としてlong PCRを行った。増幅できたlong PCR産物を5-10種類の制限酵素を用いてRFLP解析を行い、全塩基配列が決定しているDumas株と比較しながら、45株の日本の分離株間で切断点変異がある部位を検索した。分離株間で切断点変異がある領域を選び、日本国外のVZV DNA(オランダ11株、台湾13株)についてもlong PCRーRFLP解析を行って、国によりゲノム型に違いがあるかどうかを検討した。Okaワクチン株についても同様の解析を行い、多数の日本株および国外の株の結果と比較してワクチン株に特有の切断点変異部を検索した。
結果と考察
日本で分離されたVZV株DNAを鋳型とし、ゲノムのほぼ全領域についてlong PCRを行った。反復配列部(R1-5)を含む領域は増幅しにくい(R2を含むB領域)か全く増幅されなかった(R4を含むK領域)が、R5を含むJ領域は良く増幅された。増幅された各領域のDNAを5-10種類の制限酵素で消化しその切断像で株間の変異を調べた。その中から増幅し易く、株間で切断点変異を示した5つの領域(B、C、F、H、J)をRFLP解析の目標部として選んだ。これは合計43kbpとなり、VZVゲノムの34%に相当する。この5つの領域について約70株の各国分離株のRFLP解析を行った。その結果、Okaワクチン株と区別する上で最も有効な切断点は、B領域のBanIII、H領域のPstI、J領域のBglI切断点であった。国外の株はOkaワクチン株のPstI切断点(H領域)の欠失、BglI切断点(J領域)の獲得をマーカーとして容易に鑑別することができた。しかし日本の分離株の約4分の1はOka株と同様にPstI切断点を欠失していた。また全株Oka株と同様にBglI切断点を保有していた。故にこの2箇所の変異部を調べるだけでは日本の株はワクチン株と確実に鑑別することができない。国外の株についても調べた株数が少ないので、ワクチン株と同じ切断像を示す株の存在を否定できない。ワクチン株と確実に鑑別するには弱毒のマーカーを明確にすることが必要である。
結論
VZV野生株とOkaワクチン株の鑑別法の開発にlong PCR-RFLP解析が有効であることが証明された。今回、VZV
ゲノムDNAの34%に相当する領域を分析したところ、国外の株とワクチン株の鑑別は容易にできた。しかし、国内の株の5分の1はまだ完全に鑑別するのは困難であることが分かった。変異部として期待されるIRS、TRS部、株間で反復回数の差があると報告されている反復配列部が増幅できなかったのはRFLP解析をするうえで情報不足であり、これらの領域を確実に増幅する方法についてさらにPCRの条件検討が必要である。日本の野生株とワクチン株を明確に区別するにはワクチン株に特有の変異領域を引き続き検索する必要がある。

公開日・更新日

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更新日
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