Leishmania属原虫の種同定法への分子生物学的手法の導入

文献情報

文献番号
199700849A
報告書区分
総括
研究課題名
Leishmania属原虫の種同定法への分子生物学的手法の導入
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
村主 節雄(香川医科大学)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 新興・再興感染症研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
-
研究費
1,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
PCR法(ポリメラ-ゼ増殖法)を利用し、Leishmania属原虫体の在否および種同定を確実に行う方法を開発する事である。少量の検体よりの診断を可能にするため、PCR法を用いて各種動物の種間比較に頻用されているミトコンドリア中のシトクロ-ムCオキシダ-ゼサブユニットI(CO1)遺伝子領域の増殖を行い、その産物をクローニングした後、個々の種においてこの領域の塩基配列の決定を行う。さらにそれらの種間における比較を行ない、その相違によるPCR法を応用したLeishmania 属原虫類の種同定法を確立する。
研究方法
(a)虫体の確保:現在入手可能な9種の株について材料を入手した。(b)核酸の抽出:プロテネーゼK及びフェノール/クロロフォルム法にて抽出する。(c)ポリメラーゼ増殖法の実施:プラナリアの CO1遺伝子領域用に設計されたプライマ-によりPCRを行い、その産物をアガロ-ス電気泳動し、増幅領域を取り出す。(d) CO1領域のクロ-ニング:上記精製産物をpT7BlueT-Vectorに 組み込み、コンピテント細胞にリン酸カルシュウム法にて形質転換を行ない、LB Plateにて培養後、増殖したコンピテント細胞よりプラスミドをWizard Minipreps法にて抽出する。(e)シ-クエンシングの実施:-21M13 およびT7Dye Primerを用いて Cycle Sequence反応を行い、オ-トシ-クエンサ-にてこの領域の塩基配列を決定する。(f) CO1領域の塩基配列の比較および解明:核酸解析用ソフトGENETYXによりそれぞれのCO1領域の塩基配列を比較し、解明する。(g)簡便法の開発:クローニング法における上記(d) 、(e)の過程を可能な種についてはより操作の簡単なDirect Sequence法で行う。
結果と考察
今回入手出来た12種のリーシュマニアすなわち Leishmania panamensis、L. braziliensis, L. guyanensis, L. major, L. major-like, L. mexicana, L. equatrensis, L. amazonensis, L. shawi , L. garanhami, L. aristidesi, L. chagasi について検討したところ、L. major-like を除くLeishmania panamensis、L. braziliensis, L. guyanensis, L. major, L. mexicana, L. equatrensis, L. amazonensis, L. shawi , L. garanhami, L. aristidesi, L. chagasi の11種について塩基配列の解読に成功した。その結果、現在の段階ではPCR反応に用いたPrimerのすぐ内側からの全塩基配列を判読できたものが L. braziliensis-1 の434塩基であり、最も短かったのが L. major の191塩基であった。この短かった種についてはPCR 法およびSequence反応の最適条件の改良をさらに試みる。特に今回PCR法で増殖出来なかったL. major-like については数種のPrimer の新設計を行う。また、L. braziliensis およびL. guyanensis においては2種の、そしてL. amazonensis では3種の塩基配列が存在しており、それぞれの塩基配列の相違を比較して見ると、L. braziliensis-1 とL. braziliensis-2 においては1箇所であり、 L. guyanensis-1 と L. guyanensis-2では8箇所、またL. amazonensis-1とL. amazonensis-2 では4箇所であった。これらについてはいわゆる種内変異かStrainによる違いかさらに解明して行く予定である。さらに、種間における塩基配列の相違を最も似ている配列と比較してみると、L. braziliensis-1 と L. guyanensis-1 では8箇所の、L. panamensis とL. guyanensis-1 とは5箇所の、L. shawi とL. amazonensis-3 とは6箇所の、 L. equatrensis とL. amazonensis-3 とは6箇所の、L. chagasi とL. aristidesi とは25箇所の、L. major とL. amazonensis-3 とは5箇所の、そしてL. mexicana と L. garanhami とは8箇所のそれぞれの相違が見られた。さらに、今回のこれらの塩基配列に最も近いものをGeneBank nucleic acid sequence databaseの中で検索した所L
eishmania tarentole のキネトプラスト中のものと最も近く、そのPoisson Probability はそれぞれLeishmania braziliensis とは 1.7e-114, L. panamensis とは 1.1e-113, L. guyanensis とは 7.0e-112, そしてL. major とは 2.2e-103であった。 さらに二番目に近い配列はTrypanosoma brucei のmitochondrial maxicircle DNAのものであった。同じくそのPoisson Probabilities はそれぞれLeishmania braziliensisとは2.8e-103, L. panamensisとは5.3e-102,L. guyanensisとは 9.8e-99、L. majorとは4.5e-91であった。これらの事実より今回の判読した塩基配列はミトコンドリア中のシトクロ-ムCオキシダ-ゼサブユニットI(CO1)遺伝子領域のものであることが証明されている。しかし、塩基配列の種内および種間での相違は相当複雑であり、リーシュマニア属における種の複雑さを示していると思われ、病原性、地理的分布との関連においてもさらなる研究が必要である。
結論
Leishmania panamensis、L. braziliensis, L. guyanensis, L. major, L. major-like, L. mexicana, L. equatrensis, L. amazonensis, L. shawi , L. garanhami, L. aristidesi, L. chagasi の12種のリーシュマニアついてミトコンドリア中のシトクロ-ムCオキシダ-ゼサブユニットI遺伝子領域の塩基配列について本来プラナリアの CO1遺伝子領域用に設計された多用されているプライマ-により検討したところL. major-like を除くLeishmania panamensis、L. braziliensis, L. guyanensis, L. major, L. mexicana, L. equatrensis, L. amazonensis, L. shawi , L. garanhami, L. aristidesi, L. chagasi の11種について塩基配列の解読に一応成功した。しかし、塩基配列の種内および種間での相違は相当複雑であり、今後さらなる研究の続行を行う予定である。

公開日・更新日

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